郵貯、簡保の金はどうすべきか
−組織の民営化、サービスの公共性維持を−
文・佐藤鴻全氏
民営化議論
参院選の敗北を受け、小泉首相は持論の郵政民営化を2007年4月からのスタートに向け加速する事で、内閣支持率の回復と党内求心力維持を図ることを決めた。
政府は先月28日、郵政事業の民営化の大枠の形態として、現在、日本郵政公社が一体運営している郵便、郵便貯金、簡易保険の3事業を分社化するが、持ち株会社方式を採用する方針を固めた。
しかしながら、民営化の具体的な内容はこれから議論して決める事になる。郵政3事業のうち、郵便については一応は全国遍く集配を行うユニバーサル(全国一律)サービス義務を課する方向に落ち着きそうであるが、郵便貯金・簡易保険をどうするかは方向性が見えて来ていない。
経済財政諮問会議が、郵政民営化について8月上旬に集中審議を行い、与党、内閣府は8月中に郵政民営化に関するタウンミーティングを開催する方向で、郵政民営化準備室としては9月には法案作業に取りかかりたいとの意向だ。
メリットとデメリット
そもそも、郵政民営化のメリットの主なものとしては、(1)官から民への移行による効率化、(2)税負担の免除や優遇金利等の「見えない国民負担」が最小化される事、(3)約350兆円の郵貯・簡保資金の大半が、財投債(国債の一種)等に回って日本道路公団等の特殊法人が無駄な公共事業をしかねない現状を変える事等が政府から挙げられている。
この中で最も重点を置くべきは、(1)官から民への移行による効率化であろう。(2)「見えない国民負担」の最小化は、付随的な効果であり、(3)無駄な公共事業の件は、出口で厳しく精査すべき問題で、必要なら現在特別会計の扱いであるが一般会計並みに監視体制を強化すべきである。
一方、デメリットの主なものとしては、(1)郵政3事業の全国一律のユニバーサルサービスを維持し難いとともに、元利等の政府保証のナショナル・ミニマム(国家が保障すべき必要最低限の生活水準)が低下する事、(2)民営化により財投債等の引き受け手がいなくなり、国債の暴落を招きかねない事、(3)郵便貯金・簡易保険の金を民営化された新会社が果して運用する能力があるのか等の問題が考えられる。
(1)ユニバーサルサービスと元利保証の維持は、レベルをどう設定するかの問題であり、(2)国債の暴落を招きかねない件は、財投債引き受け義務をしばらく課す緩和措置で対処可能である。最も考慮すべきは、(3)民営化された新会社の運用能力の問題である。どう考えても、分割し外部から人材を登用するにせよ巨額の新会社の資金を前身が役所だった組織が自主運用出来るとは思えず、信託銀行等に丸ごと運用を委託するか、もし無理に自主運用すれば、破綻 → 国有化 → ハゲタカファンドの餌食となるのはほぼ規定路線と観るのは、筆者だけだろうか。
組織の民営化、サービスの公共性維持を
結論として筆者は、上記の諸事項を勘案して、基本的に郵政事業は組織の民営化を図ると共に、サービスの公共性を維持すべきと考える。
郵便事業は、現状通り新会社にユニバーサルサービス義務を課し、他の民営会社の参入条件も同様とする。しかし、一定重量以上の郵便物には、ユニバーサルサービス義務を緩め競争原理導入を促進する。
郵貯・簡保自体は、必ずしもユニバーサルサービス義務を課す必要はないが、元利等の政府保証のナショナルミニマムを残すために公営を維持すると共に、自主運用の失敗を防ぐため運用は国債等のみに制限する。また、民業圧迫を緩和するため、新会社と一般の銀行等が同一条件で、郵貯・簡保の各金融・保険商品の公営主体からの受託販売を行える事とする。金利、預入限度額等は別途政府が定め、国債引き受け等の必要性が低下すれば、条件を悪くし規模を縮小させる。
その他、窓口ネットワーク機能を生かした自治体業務等の代行の促進を図る。
郵政事業改革の具体的な方向について筆者の一案を示すと上記の様になるが、郵政は3事業に加えて窓口ネットワークを含む上、資金の入り口と出口の問題があり、これらが3次元的に絡み合い複雑なテーマではある。
小泉政権の登場以来、「郵政民営化」の言葉は踊れど、今まで具体的な議論が殆どされて来なかったため、先ず各方面での活発率直な議論の下に問題点の整理と国民への明示が必要である。また、影響度は大きいが内政だけ取っても、年金改革等と較べ少なくとも喫緊の課題ではない。
郵政民営化を推進する竹中大臣等に特別な企図はないとは信じたいが、国益を損ね兼ねないような拙速な結論は出すべきでない。野口雨情の童謡「赤い靴」ではないが、国民の巨額の資産が 「今では 青い目になつちやつて 異人さんのお国に ゐるんだらう」 となってしまってからでは後の祭である。
国民が心底から納得するような十二分な論理と審議と説明が必要とされよう。
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