【読者投稿】
「中曽根憲法改正試案の問題点 −対米追従の回避−」
(文・佐藤鴻全氏)
自民党の新憲法起草委員会は、4月の取りまとめに向け新憲法草案試案作りの作業を進めている。
一方、前文に関する小委員会の委員長でもある中曽根元首相の率いる世界平和研究所は、1月に憲法改正試案を発表した。中曽根試案は、我が国と国際社会の在り方について全般的な関心を深く持ち続けてきた政治家のものとして、特に「前文」「天皇」「国民主権」等については傾聴に値するものである。
まだ流動的ではあるが、報道された自民党草案の「骨格」を見ると、「安全保障」「国際協力」等に関しては中曽根試案に近い物になっている。筆者は、我が国を取り巻く国際情勢の変化に合わせる意味でも、憲法改正を積極的に進めて行くべきとの立場だが、この項目に関しては少なからぬ異論がある。以下に中曽根試案の該当項目を見て行く。
中曽根改憲試案
「 第三章 安全保障及び国際協力
(戦争放棄、安全保障、防衛軍、国際平和等の活動への参加、文民統制)
第十一条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に認めない。
2 日本国は、自らの平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、防衛軍をもつ。
3 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国際機関及び国際協調の枠組みの下での活動に、防衛軍を参加させることができる。
4 防衛軍の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。防衛軍に武力の行使を伴う活動を命ずる場合には、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を得なければならない。」
このように中曽根試案では、集団的自衛権が明記されておらず、安全保障と国際協力が同一の条文に書かれている所に最大の特徴がある。
現在、日本は、イラク戦争への支持をいち早く表明し、戦後は復興支援のため自衛隊を派遣している。イラク戦争支持は、小泉政権が政権維持の後ろ盾としてブッシュ政権と密着し、歴代政権中最も親米路線を取っている特殊事情を差っ引いても、日本が防衛を米国に大きく依存している事が背景にある事は否めない。
この日本の現状を考えれば、現在辛うじて内閣法制局による集団的自衛権を行使出来ないとする現憲法の解釈によって戦闘行為を行わない事になっているが、中曽根試案では「国際協調」の名の下と、条文に書かれていない集団的自衛権の自在の解釈によって、今後中東や東アジアでの無条件で徹底した対米協力に道を開きかねない。
イラク戦争を定義付ければ、米国が大量破壊兵器拡散への恐怖心を煽り米国民の支持を取り付け、中東民主化を旗印に、石油ドル決済体制を揺るがすサダムフセイン退治と石油、軍事、復興利権獲得のために始めた戦争である。このように、イラク戦争の性格は中東民主化の大義と米国の恣意性が表裏一体で綯い交ぜになったものであり、現時点では第2期ブッシュ政権が国際協調へ進むのか単独行動へ進むのか明確で無く、その帰趨と歴史的功罪が定まっていない。
集団的自衛権の明記
集団的自衛権の行使は、端的に言えば我が国が国際的大義と国益に適うと判断すれば行い、そうでないなら行わなければよい問題である。しかし、前述した日米関係の現状を考えれば、筆者は新憲法の中に明記し、その条件を定義付けて置く必要があると考える。
具体的には、条文の中に集団的自衛権について次の項目を書き加える。「日本国は、個別的自衛権と並んで集団的自衛権を保持する。集団的自衛権は、日本国の同盟国に武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を取るまでの間、かつ喫緊の必要性がある場合に限り行使する事を妨げない。具体的には、別途法律で定める。」
中曾根改憲案と自民党案では、集団的自衛権について憲法に織り込まず、憲法解釈によって行使可能とし、新たに定める「安全保障基本法(仮称)」によって具体的な適用の要件や範囲、内容を定める考えのようであるが、憲法の条文にその大枠を示さないと、自在の解釈、恣意的な運用に道を開きかねない。
拙案では、国連憲章第51条の条文を基にして、それに「喫緊の必要性がある場合に限り」という条件を加えた。米国はイラク戦争を自衛戦争としているが、このような条件を加えて集団的自衛権行使を制限しないと、同じような情況が起きた場合、日本が武力行使を伴う参戦を拒む事は難しくなる。
国際協力の独立記述
また、国際協力は、安全保障とは別の条文で記述すべきである。実際の各国の行動では、国際協力による武力行使と集団的自衛権の行使は、必ずしも明確に区分されているとは言えないが、国連憲章を見ても元々別概念であり、筆者は今後の複雑化する国際情勢を考えれば明確に区分して置く必要があると考える。
具体的には、第十二条として独立させ、「第十二条 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国際機関及び国際協調の枠組みの下での活動に積極的に協力する。2 国際社会の全般的な合意が得られる場合に限り、前項の活動に防衛軍を参加させることを妨げない。3
防衛軍の指揮監督権等については、前条の定める所に準ずる。」
拙案では、「国際社会の全般的な合意が得られる場合に限り」という制限を加えた上で、「防衛軍を参加させることを妨げない。」と抑制的表現を使った。
以上述べてきたように、筆者は改憲を機に日本がより米国に従属し、新憲法が米国の戦争に無条件で付き合う「自動参戦装置」となる事についての強い懸念から、歯止め策を憲法に織り込む事を主張する。
筆者は、自由経済と民主主義という価値観を共有し、これと異なる中国等を牽制する米国とは同盟関係を維持強化して行くべきとの基本的立場を取る。しかし、同時に自主防衛を進め、過度の米国依存から脱却し、外交に主体性を持つべきと考える。
筆者は、次の理由から第2次ブッシュ政権は、今後国際協調路線をとらず、なりふり構わない単独行動で中東制圧に向かう可能性が相当程度あると思える。
1.米国経済は、EU、中国、ロシア、インド、ブラジル等が勃興することにより、相対的に衰退する事は避け難い。
2.米国民には、現在の生活水準を落とす事は受け入れ難い。これを維持するためには、財政赤字と経常赤字をファイナンスするドル基軸通貨体制維持が不可欠である。
3.ドル基軸通貨体制維持のためには、石油ドル決済体制維持が必要であり、圧倒的優位を保つ軍事力を利用し中東制圧を図る誘惑が米国に強く働く。
4.中東の石油を押さえれば、石油を輸入に頼る中国の増長を戦わずして制する事が出来、一石二鳥である。
中曽根氏は、米国にバランス感覚が働き、行き過ぎた単独行動から国際協調へ回帰する事を想定しているようであるが、上記のような理由から筆者にはそれは楽観的過ぎる様に思える。
いずれにしても、我が国がより主体性を持ち、正気堂々と真に国際的な大義を体現して行動する事こそが、長期的な国益に適う事である。憲法改正には、この視点が不可欠だろう。
|