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【読者投稿】
米「新帝国主義」と文明の衝突の帰趨
(文・佐藤鴻全氏

イラク戦争開戦から2週間余りが経った。現時点では今後の戦局は不透明だが、短期的な視点を離れこの戦争の意味、そのもたらすものを多少鳥瞰的視点で以下の各点から考察して見た。

1:戦争目的は、大量破壊兵器の排除か、イラクの民主化か、石油利権か。
2:この戦争と「新帝国主義」による中東民主化は、正義なのか。
3:アメリカは、国連による世界秩序の枠内に戻るのか。
4:西欧文明とイスラム文明の衝突なのか。
5:歴史は、何処に向かうのか。

先ず、アメリカのこの戦争目的は、当初語られていたイラクとアルカイダの関係からシフトし、現在公式には大量破壊兵器の排除、サダム・フセイン政権の転覆、イラクの民主化、引き続くテロの温床を無くすためのドミノ効果による中東全体の民主化がブッシュ政権から語られている。

この他に戦争目的として巷間語られている主なものとしては、来年秋の大統領選での再選、父ブッシュの復讐、軍需とイラク復興による景気刺激、中東の石油支配及びこれによるアメリカによる世界支配の完成、イスラエルの中東での基盤強化、ファミリーと自陣営の石油利権、石油決済のドルからユーロへの移行阻止等の目的があるとされている。

これらは、それぞれ大統領以下ブッシュ政権の各員と利害関係者が分有または共有しており、それらが重なり合い渾然一体となって、開戦の意志決定がなされたと見るのが妥当だろう。

だが、アメリカ国民がこの戦争を支持する理由としては、9.11同時多発テロによる恐怖が根底となった大量破壊兵器とサダム・フセインの排除、漠然とした中東民主化の必要性が主なものと見られる。ブッシュ政権の成員と利害関係者の思惑は別として、民主主義国家である以上、たとえマスコミを使った世論誘導があったとしても、アメリカの国家意志の中心は、やはりそこにあると観るべきだろう。

次に、この戦争と引き続く強制的手段による中東民主化は、正義なのだろうか。先ず、武力行使は容認されていないという国際世論に反して国連安保理の武力容認新決議を経ずに、アメリカが始めた予防戦争は国連憲章違反である。また、政権転覆の内政干渉等は、国際法違反である。

この強行は、戦後理念として国際社会を形作り冷戦後現実的になりつつあった国連による秩序を破壊するものであり、少なくとも従来的な意味での正義ではなく、世界の多くの人々に受け入れられるものではない。

これは、言わばアメリカによる「新帝国主義」の出現であり、一国支配による新しい世界秩序建設の企てである。それは、国際社会の同意を得ない非民主的な単独の意志決定により、他国に対する戦争を開始し、進んでは強制的に民主化するという矛盾を孕む。

とはいえ、アメリカは今後も「新帝国主義」を貫く明確な覚悟は出来ていない。イラクが大量破壊兵器の査察に応じなければ「重大な結果を招く」とした安保理決議第1441を、武力行使を容認したものと言いつつ、元々第1441も不要であると言ったりその発言は理論的一貫性が低い。また、戦後復興は国連の力を借りると言う一方、暫定統治はアメリカだけでやりたいと言って、イギリスを含めたEU諸国等との間で新たな火種となっている。

さらに、戦後復興には復興資金拠出と復興利権の側面があるが、日本を初めとした各国から資金を拠出させたいが、利権はアメリカの企業で独占したいというのが本音である。

これらが、アメリカを国連による世界秩序の枠に回帰させる引力と反発力となっている。今後アメリカは、戦争が長期化し自軍の兵士とイラク市民に死傷者が増え、アメリカ非難の国際世論、国内世論が高まり戦後の統治にも苦労すればする程、国連頼りになり、その逆なら国連離れになると見るべきだろう。

ところで、今回の戦争は西欧文明とイスラム文明の衝突の発端になるのか。この戦争は、単にイラクの大量破壊兵器とサダム・フセインの排除だけでなく、中東全体の民主化を目的としている。

西欧文明の背骨をなすキリスト教は、16世紀からの宗教改革を経て個人の独立、資本主義、民主主義を生み出した。

一方のイスラム文明は、キリスト教のようなドラスティックな宗教改革を経ておらず、競争原理による社会の進歩よりも、アラーの前の平等が強調される傾向があり、社会主義的要素が強く資本主義、民主主義が社会にしっかりとは根付いていない。それが一部の産油国の支配層を除き貧困から抜け出せない一因となっている。

社会を存立させる原理が異なった文明があり、一方(の最強国)が他方に自分達の原理を受容れる事を強いる。これは、その価値判断は別として、やはり「文明の衝突」と呼ぶのが相応しいだろう。

さて、今後、歴史は何処に向かうのか。先ず、どこにも向かわないという考えがある。「述べて作らず、信じて古を好む。」とした中国思想や、輪廻思想を自然や歴史に応用して考える傾向やアニミズムの影響が残るアジアではこの考えが強い。筆者も東洋人として、感覚的にはこの方がしっくりする。

一方、キリスト教、特にプロテスタント、その中でもピューリタンは、社会が常に進歩して行くべきと考える。それを、哲学の立場から理論化してみせたのが、19世紀に現れたヘーゲルの思想である。ヘーゲルは、世界史の本質を、自由を目的とした世界精神の自己展開と規定した。これを解釈すれば、歴史の向かうべき方向は、「個々人の認識力の拡大とそれを可能にならしめる国家社会の建設」となる。

今回のイラク戦争とそれに続く中東民主化を、ヘーゲルが捉えるとすると、弁証法的に仮にイスラム文明を「正」とすると、西欧文明を「反」、止揚して「合」となすとしながら、個人の独立、資本主義と民主主義の中により多くの精神の自由があるとしたと考えられる。

この観点から筆者も、歴史を俯瞰すれば、やはり中東全体が自由化し民主化して行くのは大きな流れであると考える。

ただ、それがどういう過程を経てなされるかは、不明である。中東諸国とイスラム世界に起こる反米感情の一層の燃え上がりが民族ナショナリズムの急激な勃興に繋がり、それにより結果的に近代化、民主化が実現されるというのが現時点では一番有り得そうなシナリオではある。

だが、今後もアメリカが、現ブッシュ政権の中枢にいるネオコン(新保守主義者)による新帝国主義に基いて、強引な手段を用いると共に、石油利権や復興利権の独占等の恣意的な挙動を続けるなら、反米テロの世界各地での横行は収拾のつかない規模になりかねない。これらにより、やがてイスラエルを巻き込んだ第5次中東戦争や第3次世界大戦の勃発も有り得るかもしれず、どの位の血が流れるかは予測できない。

今後、日本を含む国際社会は、アメリカの新帝国主義を掣肘し国連に引き戻し国連の中で飼い慣らすと共に、主導権をアメリカから奪い返し、中東民主化策とパレスチナ問題解決を含む地域安定化政策を具体的に推進する努力と工夫が必要とされるだろう。



 

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