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砂漠の戦争

 数年前のことだが、カメラ好きの知人がサウジアラビアを旅行して砂嵐に遭遇したときの話を聞かせてくれた。想像を絶するものだという。全自動のカメラがアッと言う間に動かなくなる。パウダー状の細かい細かい砂がカメラの中に入り込んでしまうためだ。日本に持ち帰っても修理不能……。砂嵐を撮ろうとしたカメラだけではなく、バッグにしまっていた別のカメラまでもダメになったという。

 砂嵐だけではない。ナムシールと呼ばれる熱風も吹き荒れる。北アフリカのサハラ砂漠から中東全域に吹き寄せてくるこの熱風も、日本人には想像もつかないものだそうだ。熱風に直撃された自動車が燃え上がることがしばしば起こる。路上で火を吹いている車は、だいたい旅行者のものらしいが。それどころか、時にはこの熱風の直撃を食らって焼け死んでしまうこともあるという。

 こんな状況のなかで米英軍はイラク攻撃戦を行っている。ネバタ砂漠で訓練を積んだとはいえ、中東の自然の猛威の前では流石の精鋭も苦戦を強いられる。一般メディアは報道していないが、三月二十日の戦闘開始以前にも訓練飛行で米軍ヘリが何機か墜落しているが、これも砂嵐のためだ。猛烈な砂嵐のなかを操縦するにあたりパイロットは色付きのゴーグルをして砂塵の中に突入する。だがゴーグルの視界は通常とは異なり、突然生まれた砂山に突っ込んでしまうのだ。

 大東亜戦争のときに「日本軍は作戦を重視し、米軍は兵站を重視する」といわれた。日本軍が作戦を重視したという言葉には些か疑念を感じるが、米軍が兵站重視だったことは間違いない。その伝統は今も生きている。しかしクウェートからバグダッドに延びる砂漠を縦走する四〇〇キロを越える長大な補給路の確保は並大抵ではない。

 地上戦の主力は戦車と歩兵である。米英地上軍はハリアー戦闘機やアパッチ、コブラといった戦闘ヘリに先導される形でM1エイブラムズ戦車、M2ブラッドレー戦闘車等々が続く。この戦車一車両をとってみても、燃料補給だけでたいへんな話なのだ。米軍戦車の燃料は超上質の軽油、すなわちジェット戦闘機の燃料と同じもので、互換性もある。戦車一両には主タンクに八〇〇リットル、予備タンクに四〇〇リットルの燃料が入るが、満タンにして十数時間しか動かない。ちなみに戦車の燃費というものは「運転時間」だけが問題であって走行距離は関係ない。ふつうの乗用車だと停止中(アイドリング中)はあまり燃料を食わないが、戦車は高速走行中も停車中もほぼ同程度の燃料を消費する。搭載しているコンピュータや精密機器、レーダー、さらにはそれらを守るための冷却装置がたえずフル稼働しているためだ。

 軍事評論家の意見は一致している。今回の米英軍によるイラク攻撃は戦略的、戦術的にいくつもの間違いを犯していると。その第一は国連決議を得られなかったこと。第二は地上軍のトルコ領土内の通過を断られたこと。第三は開戦時期を大幅にずらしたこと。第四はイラク地上軍に対する分析が正確でなかったこと……。

 国連決議を経て昨年末くらいに開戦したらアッと言う間に終わったかもしれない戦いだった。米英軍対イラクの戦力差は一〇〇〇対一と言われるほどだったのだ。それが数々のミスで五〇〇対五〇まで狭まったと言われる。それでも米英軍の圧倒的優勢に変わりはない。すでにバグダッドに入った米英軍は、間もなく暫定新政府を樹立してイラク掌握に乗り出すことと思われる。

イラク攻撃への道程

 今回の攻撃には、イラクが「大量破壊兵器を隠蔽」と「テロ支援国家である」といった表向きの理由があった。さらに「じつは石油利権のため」という隠された理由が一般には語られている。だが、これらは真実でも何でもない。石油利権など、二の次、三の次の問題である。欧州を中心とした反戦デモのプラカードを良く読めばわかるが、欧州人たちは「NO!イスラエル」と叫んでいるのだ。わが国メディアが米英によるイラク攻撃とイスラエル・パレスチナ問題を決して結び付けようとしないのは、意図的なのだろうか。

 イラクには膨大量の埋蔵石油がある。石油の最大埋蔵量を誇るサウジアラビアに匹敵するとも、サウジを越えるとも言われる膨大量の石油だ。この石油を得るためにかつて旧ソ連はイラクに密着し、南部の石油採掘の権利を得た。だが1980年(昭和55年)に始まったイラン・イラク戦争では、ソ連はイランを支援することになり、この利権は一旦ソ連の手を離れた。

 イラン・イラク戦争でイラク軍を支援したのは米国である。この戦争では米ソの通常兵器合戦(試験戦)が繰り広げられ、米軍はイラクに大量破壊兵器や生化学兵器の製造工場を作った。このときのイラク支援の責任者こそ、現米国国防長官のラムズフェルドなのだ。

 イラン・イラク戦争の後、米国の中東石油利権獲得戦が展開された。
 
 まず米国は、イラクとクウェートの対立という構図を作る。イラクは1989年(平成元年)頃から、「クウェートが自国の石油利権を侵害している」と主張しはじめるが、これも米国の後押しによるものだ。その後イラクはこの問題解決をOPEC(石油輸出国機構)に依頼するが、米国の介入により仲介すら成功しない。ついにイラクはクウェートに対し「交渉の場につくこと」を求め最後通告まで行うが、クウェートはこれを無視。しかも当時の米国は、イラクに対し10億ドルの援助をするいっぽう、「米国はイラクが自国の石油利権保護のためにクウェートに侵入してもこれを黙認する」とまで通告する。こうしてイラクによるクウェート侵攻が始まった。これを待っていたかのように、さまざまなメディアを使って米国はサダム・フセインを悪魔のように仕立て、米国ブッシュ大統領(父)は「正義の騎士」として湾岸戦争を開始する。

 湾岸戦争の結果、米国はクウェートの石油を100%完全に米国のコントロール下に置くことに成功した。また中東最大の産油国サウジに米軍基地を持つことに成功し、さらにイラクを経済制裁下に置くことによって、廉価な石油を入手することが可能になったのだ。

 ところが湾岸戦争後、フランス、ロシア、中国は米国がイラクに対して課した制裁を徐々に解除していく。この結果、仏・露・中はイラク領内の各所に広大な石油採掘権を保証されるようになったのだ。このまま進めば、米英はイラクの石油には手が出せなくなる……。そうした危機感が米英に存在したことは間違いのない事実だ。

 今回の米英軍によるイラク攻撃は泥沼化の様相を呈している。4月中旬までに完勝の形に持っていけない場合、ベトナム戦争のようなゲリラ戦化する可能性もある。

 もちろん、首都バグダッドまで奪られてしまったフセイン政権側が、今後米英軍を完全に撥ね返すなどということはない。最短だと4月中旬には米英軍圧勝ということも考えられないわけではない。しかし現況では、ある程度の長期化、泥沼化は避けられない可能性が高い。

 恐らくは近日中に米英軍によるイラク占領体制が構築される。

 米英軍は60年近く前にGHQ体制で日本を占領し、国家体制を彼らの願望通りの形に根底から変革することに成功した。すでに新聞報道等に見られる通り、今回のイラク占領に関してもこの形を採る予定である。しかもイスラム原理主義者ゲリラが潜在する状態での占領になるから、その期間は最低でも2年間は続く。その間、イラクの原油は廉価で売られることになり、サウジを初めとするOPEC産油国は大打撃を受けるだろう。

 イラク攻撃を認めるか否かの論争のなかで、すでに中東各国の国家体制(王政)は崩壊に近づいている。イラク占領政策は周辺各国への民主化圧力となり、当然ながら対米、対イスラエルテロが活発化する。当然ながらテロの背後には米国やイスラエルが関与するはずだ。

 中東全域の不安定化、テロの活発化を理由にイスラエル拡大政策が採られ、最悪の場合には中東大戦争(ハルマゲドン)が勃発する。それこそがイスラエルの狙いだと言って良いだろう。

大変換を果たした日本

 小泉純一郎は米英軍によるイラク攻撃が開始されると、「フセイン政権に武装解除の意思がないと断定された以上、武力行使を支持するのが妥当ではないか」と米英軍の軍事行動支持の形を説明。また、日本独自に平和的解決に向け努力してきたことを強調したうえで「日米関係の信頼性を損なうことは国家利益に反する」と述べ「国連」よりも「日米同盟」を重視するとの立場を明確にした。これに対し麻生太郎(政調会長)は、「きちんとした記者会見をやるべき」と不満をもらしたと報道されている。

 この辺りの動向、状況については、読者諸氏はじゅうぶんご理解されていることと思うが、それを承知で本誌は訴えたい。「わが国は政策の大転換をした」という認識を明確に認識する必要があるのだ。……いや、この程度の言葉で語ることはできない。戦後58年、日本という国家は今、まったく新しい主義を導入したのだ。

 大変換した日本。

 すべての日本国民は、小泉首相が下したこの認識を背負う義務を負ってしまった。

 昭和20年の敗戦時。そしてその刻からずっと、わが日本は「国連主導」という体制の中で生きてきた。好むと好まざるとに関わらず、わが日本は国連の下で、国連の主導で生き延びてきた。小泉純一郎はこの体制を変えた。「国連よりも日米同盟を重視する」と言って退けた。

 北朝鮮の脅威という現実を眼前に置いている日本という国が、国連主導ではなく米国べったりなのだと、国際的に公言したのだ。

 たしかに今回のイラク攻撃にあたり、米英は国連を無視したかのような行動を採った。このことが国連軽視、国連無視と騒がれたりもした。しかし米英軍は結果としてイラク占領体制を敷くことになり、そうなると仏・露・中も当然ながら石油利権分配交渉に乗らざるを得ない。つまり国連の機能は復元されるのだ。ところが、国連主導から米国主導へと鞍替えした日本は、再度国連主導の状態に戻ることはできない。

 この状況を北朝鮮はどう受け取るだろうか。

 昨年9月17日の小泉・金正日会談が行われる以前に、米国は北朝鮮が核開発能力を所有していることをわが国政府に伝えた。北朝鮮がパキスタンから遠心分離機を購入したことを知った米国は、9月17日の会談時に金正日に対し核開発断念を迫るよう小泉首相に入れ知恵した。ところが小泉首相は「拉致問題」での北朝鮮側の回答に度肝を抜かれ、核開発に触れることもできなかった。――結果、米ブッシュ政権はここで小泉を見限り、ケリーを北朝鮮に派遣して核開発の現状を明らかにさせ、北朝鮮も核開発を公式に認めたのだ。

米中による金正日王朝破壊工作

 北朝鮮の核開発は米国には許しがたい暴挙である。そして同時に、支那北京政府もまた北朝鮮が核を所有することを絶対に許さない。ここで米中の思惑は一致した。

 米中が互いを尊敬し互いを信頼しあっているわけではない。言ってみれば懐に銃を忍ばせ、機会あれば引き金を引く覚悟で、目下の共通の認識として北朝鮮に核を破棄させようと考えたのだ。

 米中が結託して共通の敵に対処したことは何度もある。かつて大東亜戦争の折りに共に対日戦争を戦った仲なのだから当然なのかもしれない。最近では、旧ソ連軍によるアフガン侵攻(1978年=昭和53年)時に米中の情報当局は緊密な連携を取って対ソ連作戦を行った実績がある。このときには米CIAのケイシー長官(当時)が東京経由で支那に入り、北京で中国中央軍事委員会と数回に渡り密談を重ねたことが判明している。この時以来、米中の情報当局は親密な関係をずっと継続させてきた。……親密ではあるが、もちろん信頼しているわけではない。

 この関係が再び、北朝鮮の核開発阻止への連動として稼働しはじめた。そしてそれは当然ながら金正日王朝を崩壊させる動きになっている。

 米国による対北朝鮮工作は3つの方向から進められている。すなわち、
 
 1、軍事圧力
 2、外交交渉
 3、内部工作

 軍事圧力については詳細を語るまでもない。3月から4月初旬にかけて派手な米韓合同演習を行い、ここで新兵器まで披露している。また同時期、短期間ではあるが、日米の空・海・陸の合同演習も行っている。外交交渉については、米国は「(米朝)2国間交渉は行わない」と公言しているが、じつは水面下では頻繁に接触を図り、北朝鮮に核開発断念を迫っているのだ。内部工作も凄まじいほど行っている。一般的に知られているのは、「自由アジア放送」と呼ばれるラジオ放送。これで北朝鮮大衆に現政権の矛盾を指摘している。そのなかには「共産主義国家でありながら元首が世襲であることはおかしい」と言った問題提起もなされているし、金正日の後継者問題を表面化させ、その対立を煽るといった手法も採られている。

 これだけではない。
 
 支那東北部(旧満州地域)には脱北者とよばれる北朝鮮からの亡命者がいるが、支那情報組織の一部がこれを支援し、脱北者のなかから優れた若者等を内モンゴル地域に送って武闘訓練を行っているという情報もある。北朝鮮から逃れて来る者の中には、愛する身内を殺され自らも迫害を受け、金正日体制を心底から憎み恨んでいる者が多い。こうした人々のなかから義勇軍を募り、二万人の義勇軍を構築するといった構想で、米CIAがその指導にあたるなど、具体的な態勢作りが着々と構築されているようだ。

 もともと北朝鮮の軍隊(朝鮮人民解放軍)の主体は陸軍にあった。そして陸軍は支那の人民解放軍の指揮下に入るほど密着した関係だった。ところが北朝鮮が第四次中東戦争時にエジプト支援に回り、イスラエル空軍と戦い、この見返しとしてエジプトからスカッド・ミサイルを手に入れた頃から、北朝鮮軍は空軍中心に変化していった。ちなみに、当時入手したスカッド・ミサイルの進化発展形として、ノドン、デポドンといったミサイルが誕生したと考えられる。こうして空軍主体となった北朝鮮軍は徐々に支那人民解放軍との関係が疎遠、希薄になっていく。米中が結託して北朝鮮・金正日王朝打倒に向かう背景はこんなところにも存在している。

金正日はサダム・フセインの道を歩むのか

 日本時間の3月20日に行われたイラクの首都バグダッドに対する空爆は、その後に行われた戦術爆撃とは異質のもので、サダム・フセイン本人を直撃しようとするものだった。

 この爆撃の前、米英の庇護下にある西側メディアのいくつかが、イラクのアジズ副首相が亡命を図ったと報道した。当初この「意図的な誤報」は、フセイン政権下の重要人物が亡命したとなればイラク政府全体が揺らぎ、兵士たちも動揺するとの思惑から流されたものと考えられた。アジズ副首相はイラク政権のなかで唯一キリスト教徒という異色の人物だけに、あり得る話に聞こえるからだ。ところが、アジズ副首相は亡命する気など持ち合わせていない。彼はこの誤報を打ち消すために自らフセイン大統領の邸宅を訪れ事情説明を行う必要に迫られた。

……これこそが米CIAの狙いだったのだ。(アジズ副首相がフセインに電話をした。米当局がこれを盗聴。フセインの居所を突き止めたという説は、CIAがイラク政府間の電話連絡網使用を困難にさせようと意図的に流した誤情報。)

 アジズが訪れた場所にサダム・フセインがいる!
 
 こう確信して、米軍によるピンポイント爆撃が行われたのだが、じつはイラク政府側はアジズ副首相亡命情報が流された時点で米側の動きを察知していたようだ。開戦当初、米英側は「フセイン大統領は死亡もしくは重体」といった情報を流したが、この時点ではサダム・フセインは無事だったのだ。

 独裁者本人を倒せば、問題は解決する……。米情報当局にはそうした思いがある。そしてこの思いは、北朝鮮・金正日政権に対しても向けられている。すでに平壌には、金正日暗殺指令を受けた百名単位のモサド(イスラエル諜報機関)員が潜入しているとされる。

 北朝鮮に対して日本の多くの人々がいくつかの誤解をしている。北朝鮮が鎖国状態にあると考えている人々も多いようだが、平壌に限って言えばそんなことはない。ごく最近、平壌から帰国した人物から聞いた話だが、とくに最近はヨーロッパ系の人間(仏・独が中心)が目立つという。外貨も今ではドルよりユーロのほうが流通しているという。

 さらに余談になるが、朝鮮半島の人々には優秀な人材も多い。かつて日本が半島を支配下に置いていた時代、義務教育の小学校には日本人も朝鮮人も同じ教室で学んだ。多くの小学校で、成績の学年1位2位3位といった上位は、朝鮮人に占められていたのが現実であった。こうした現実についても日本人は誤解している部分がかなりあると思われる。

 話を元に戻そう。イスラエル情報機関が金正日暗殺に動いているという情報の確度はかなり高いものだが、暗殺が失敗した場合でも、米中連合は間違いなく正面から金正日王朝打倒を目指してくる。そして金正日を倒して、韓国に亡命中の黄ジョンヨプをトップに据えるという構図を描いていると考えられる。

 イラク攻撃では米英はサダム・フセイン政権打倒を目指した。そして今回のイラク攻撃の成功によって、フセイン政権打倒は成功したわけだ。やがて米英はイラク新政権に反フセイン勢力を据え、大衆から歓迎されるという構図を描いている。……だが、「大衆から歓迎される」という構図は大失敗するはずだ。

 金正日に関しても同様な事態が想像できる。

 金正日を倒すことはできるだろう。それは暗殺という非常手段によるか、米中という大国の圧力によるものか、政治的駆け引きになるか武力行使になるかは不明だが、金正日を倒すことには成功する可能性が高い。だが、「反金王朝」というだけで、亡命した黄ジョンヨプを据えても、大衆は絶対に納得しない。

 米欧系の人々が考える「民主化」と、アジア人が考える正義とは、異なっているのだ。

 

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