|
動きを止めた支那北京政府
――アジアの巨大国は何を見ているのか――
支那北京政府(中国)の動きが怪しい。
とくに7月に入ってからの動きは謎だらけと言っても良い。
7月5日には、党大会代表者名簿や党最高幹部に昇格する予定者名簿が、江沢民以下7名の政治局委員会に提出されるはずだったのだが、それは今に至るまで出されていない。
秋に開催される党大会に向けて北京政府の要人たちが集う北戴河の会合も大幅に遅れた。この会合は毎年恒例となっている避暑を兼ねた非公式最高幹部会議なのだが、会合予定だった19日には何も催されず、2週間ほど過ぎての開催となった。
この北戴河会議遅延の前、17日には、今秋9月に開催される予定の第16回共産党大会が2カ月近く遅れると発表される。
20日には共産党軍の全将官四分の一が解雇され、軍の最長老である張万年副首席までもが蟄居謹慎の身に置かれたと伝えられる。
いったい北京政府の内情はどうなっているのだろうか?
混乱の支那
支那政府の混乱がさまざまな形で漏れ出ている。秋に開かれる予定だった党大会の延期も、一般的には「支那共産党政府内部の権力争い」と分析されている。確かにそうした面は否定できないが、単純に権力争いだけで終わるものではない。
支那大陸全土で、共産党北京政府の権威が失墜し、社会秩序が乱れていることは紛れもない事実だ。ご存じ「法輪功」が何度かTVジャックを行い、その現実が世界中に流されている。それどころか、農民暴動や労働争議が頻発しており、匪賊や流賊(馬賊)の跋扈も伝えられる。さらに軍隊や軍警同士が武力衝突したといった不祥事までもが、香港や台湾のメディアを通して世界中に報道されている現状なのだ。
さらに、報道されていないが、じつは三峡ダムの破損事故が重大な被害をもたらしている。恐らくは手抜き工事が原因だったのだろう。巨大ダムの一部が破損し支那南部一帯を巨大な水害が襲った。被災者は1億人規模と推定されているが、世銀などからその建設に対して疑問が出されていただけに、今後の北京政府の対応が注目されるところだ。
トウ小平による「社会主義市場経済」導入がこの国を変貌させ、共産党による一党独裁体制が破綻を見せ始めている――。ひと言で分析すればそう片付けられるのかもしれない。だが同時に、支那北京政府の存在を何とか誇示できる二つの共産党国家――ベトナムと北朝鮮の動きも、支那北京政府を苛立たせているように思える。
7月16日になって、ハノイ(ベトナム)の外交筋は今年5月に中越国境で中国軍(支那共産党軍)と越南(ベトナム)正規軍との間に交戦が起き、双方に計6人の死者が出たことを明らかにした。支那・雲南省の武装警官が麻薬犯罪グループを追跡中、国境を越えてしまったためベトナム側と交戦になったと説明された。
真相は異なる。支那人の作家で『北京の春』という本を著した反共知識人の王という男が亡命を企てベトナムに逃げ込んだ。これを追った武警が国境を遙かに越えてベトナム軍と交戦したのが真実なのだ。ちなみに王の亡命は成功したと伝えられる。この一事から見ても、支那とベトナムの関係が悪化していることが理解できる。
江沢民留任か
8月1日と言えば支那共産党軍(人民解放軍)の建軍記念日である。しかも今年は建軍75周年の節目の年でもあった。
一昨年、昨年の建軍記念日には、江沢民首席が閲兵し、壮大な軍事パレードが内外に映像として紹介された。今年はそれ以上の祭典が催されるか、あるいはその場で世代交代の象徴的な何かがあると世界中が注目していたが、なぜか今年はTVもビデオも含め映像が表に出されることはなかった。報道したのは新華社1社で、数人の軍人を前に閲兵を行っているように見える江沢民の写真を掲載し、「磐石の地位を確立した江沢民首席」とのコメントが付けられているだけだった。
支那軍(人民解放軍)には1000名に及ぶ将官が在籍すると言われる。7月20日にはその25%が解任され、軍最高長老の一人、張万年(副首席)までもが解任(一説には蟄居謹慎処分)されている。
かつてトウ小平は定年を迎えたときに国家首席の座を江沢民に譲り、自分は死ぬまで中央軍事委員会首席として国政に睨みを効かせていた。これに倣って江沢民も国家首席から軍事委員会首席の座を狙うのではないかとの憶測もあり、今回の軍幹部人事異動の真相は、江沢民支持派を軍部に送り込んだものとの観測もある。
事実、香港系情報筋の話によると、江沢民は国家首席の座を退くことを条件付きで認める発言をしたという。その条件とは、江沢民が主張する300人規模の人材を党幹部・軍幹部に抜擢するというものだ。三峡ダムの決壊事件に対して、建設責任者である李鵬の責任問題追及を行っていないのも、こうした流れを読めば理解できる。
7月31日には中央軍事委員会のもう一人の副首席、遅浩田が演説を行った。その内容は概略以下のようなものである。――江沢民国家首席が提唱されている『三つの代表論』の指導の下、全軍が一致団結すべきである――。『三つの代表論』に批判的だった張万年を解任した後の話である。ここにも支那北京政府の権力争いの一端が見え隠れしている。
こうした状況下、台湾の陳水扁総統が「一辺一国(支那と台湾が各々別個の国家)」発言を行い、「住民投票への準備が必要」と語ったことで、中台関係が険悪な雰囲気に包まれた。だが陳水扁の発言は、世界の状況を冷徹に見据えての発言であり、支那北京政府もその深奥を理解している。遅浩田は江沢民国家首席への忠誠を誓った7月31日の演説のなかで台湾問題にも触れている。――台湾に対し武力使用という政策を放棄するものではないが、平和的手段を求めるものである――。実際、「住民投票への準備が必要」との陳発言後、世界の目は台湾海峡へと集まったが、支那軍が台湾海峡に向かって軍事力を増大させている事実はまったく存在していない。
英米系を中心とするメディアが、支那側の発言として「武力行使を辞さない」といった強硬論中心であると報道するのは、必ずしも事実ではない。支那北京政府も、また台湾の陳水扁総統も、現在の世界状況を正確に把握しているからこそ、こうした発言が行われ、また対応がなされているのだ。
対中警戒報告書
7月12日、米国防省は、北京政府が秘かに画策している軍事力増強の実態についての報告書を議会に提出した。
この報告書は、支那北京政府が顕著な拡張を続けていると指摘する。今年度(2002年度)の軍事費は公表約200億ドルだが、実際にはそれを遙かに上回る650億ドルであり、さらに8年後の2010年には現在の4倍に膨れ上がるとしている。しかも米中軍事交流のなかで支那軍は精鋭部隊を秘匿し、支那軍の基本戦略である奇襲戦を練り上げているとしている。また、弾道ミサイル配備その他戦力を細部にわたり分析し、とくに南京軍管区のミサイル増強の実態と軍事費増大の事実を指摘する。
支那軍は瞬時に台湾を制圧し、米軍基地のある沖縄を完全に射程に捕らえている。さらに米国が日米同盟強化を目指し、また日本自身にも軍国主義の復活気運が溢れているという事実を北京政府が憂慮していることを述べている。このために北京政府は日米同盟強化を防止し、日本の軍国主義復活を抑止する諜報・軍事活動の増強を行っているという。
また北京側は、日本・台湾・米国のコンピュータ・ネットワークを攪乱させ、麻痺させる電子戦技術を強化する一方、宇宙配備レーザー兵器を既に入手した可能性にも言及している。
この報告書は、ブッシュ政権下で初めて提出されたもので、支那北京政府の今後20年間についての政治、軍事、戦力から極東のあらゆる情報を精密に分析したもので、米国対中国の不透明な「非対象戦」に備える戦略の必要性を説いたものと注目される。
これを受けて、米議会が超党派で組織した「米中安全保障調査委員会」(リチャード・ダマト委員長)は「米中の経済関係が米国の安全保障にどう影響するか」について纏めた報告書を発表した。この議会報告書では、「米国の対中直接投資が北京政府の軍事力増大に寄与する危険がある」と警告。ブッシュ政権に対して、民間レベルでの対中投資の内容を厳しくチェックすることを勧告している。
支那北京政府にとって、アジア地域での米国の影響力拡大は害毒であり、価値観の違いも敵対関係にある。アジアでの影響力増大を図る支那にとって、米国は最終的に最も嫌悪すべき存在となる。いっぽう、支那北京政府は、経済力の増大をそのまま軍事に直結させることが可能だが、米国は経済と軍事関係では政策が不統一である。――米議会はおおよそこうした分析を行っているのだ。
突きつけられた「ハル・ノート」
「米中安全保障調査委員会」の議会報告書はまた、北京政府が過去20年以上にわたって、イラク、北朝鮮など米国政府から「テロ支援国家」と指定された国々に対して、大量破壊兵器やその技術を輸出してきたと指摘する。そして、米政府が積極介入してこの拡散を抑える必要があると説く。
9・11米中枢同時テロ以降、ブッシュ政権は対テロ戦争を開始した。
そのテロ戦争は当初はアフガンのタリバーン政権に対して行われたものだったが、やがてそれは「悪の枢軸」を叩く全世界規模の対テロ戦となり、「悪の枢軸」の元締めとしての最終戦略目標を支那北京政府に置いたのだ。米議会もまた、このブッシュの認識に同調したわけである。
かつて冷戦時代の末期、米レーガン政権は当時のソ連を「悪の帝国」と規定し、やがて冷戦対決の総決算に勝利した。そして今、支那北京政府との全面対峙を行いつつ、冷戦の残滓を一掃し世界統一(ワン・ワールド)に向けての最終調整を行おうとしている。
議会報告書を受けて、ブッシュ政権は、イランやイラクが進めている生化学兵器開発の技術移転を行った11の法人・個人に制裁を準備していることを発表した。今後、議会に対して報告を行った後に、この制裁が発動されるという。今のところ制裁が行われる法人・個人についての発表はないが、噂されるところによると11のうち10までが支那系企業や個人であるという。まさに「非対象戦」である米中対峙に対して、本格的戦略が発動される状態にある。
米政府、議会のこうした動きは、かつて大東亜戦争(日米戦争)を引き起こすために日本を追い詰めた戦略と酷似している。窮鼠猫を噛むといった状況に日本を追い詰めた「ハル・ノート」の現代版が、いま北京に向けて提出されたのだ。
北京政府外務省の孔泉報道官は7月中旬、米議会の報告書に関し、新華社を通して以下のようなコメントを発表している。
「この報告書は冷戦思考に基づき、支那大陸への通商、技術移転の封鎖を宣言したものであり、極めて悪辣である」。
対中警戒報告書や、それを受けた議会報告書――。支那北京政府は米国のこうした一連の動きが、米国による中国(支那北京政府)恫喝であり、かつて日本に突きつけた「ハル・ノート」と同質であることを重々承知している。
動かぬ支那政府
こうした動きのなかで、支那北京政府は党大会を2カ月近く遅らせ、北戴河会議も延期し、軍上級将官の大人事異動を行った。だがこれらの動きはほとんど知らされることはなく、世界は支那北京政府が動きを止め、内部権力争闘を繰り返していると見ている。
今秋9月末にも開催される予定だった第16回党大会が1カ月以上遅れる見通しとなったことに対し、支那北京政府は公式的には「江沢民(首席)の訪米が10月上旬に予定されているためと説明している。また米BBCは江沢民が全職を辞任し引退する覚悟であるらしいとの観測を発表した。
なぜ支那北京政府は、江沢民は、これほどまでに動かないのか。なぜ国内外の政治について遅滞した動きしか採らないのか?
その理由は、確かに政権内部の権力争いからくる遅滞もあるだろう。また国家全体に見られる秩序崩壊もあるだろう。だが江沢民・北京政府が極めて正確に、冷徹に、世界の現状と来るべき近未来の混乱を見据えていることが最大の理由だと考えられるのだ。
現在、米国ではブッシュ大統領が発表した「国家安全保障戦略」について議論が続けられている。ホワイトハウスは今回の戦略は「米国史上初」の快挙であり、ブッシュ大統領は米国史に残る偉業に挑戦していると説明する。
しかしこの戦略を有効に発動させるためにブッシュが提唱した「国家安全保障省の設立」に関しては、すでに7月11日の公聴会以降、政府原案に異議を唱える声が続出している。反対派はブッシュ叩きのために、株価下落やブッシュのインサイダー取引疑惑など、あの手この手を繰り出しているが、ブッシュはすべてを黙殺し「国家安全保障省」の設立に賭けている。
ブッシュが提案している「国家安全保障戦略」、そして「国家安全保障省の設立」は、実は現在の世界体制を劇的に変化させる内容を含んでいる。誤解を承知で明確に語れば、これは米国を英国から完全独立させると同時に、シオニスト右派勢力との決別を意味している。
1897年の第1回シオニスト会議での宣言(バーゼル綱領)以降、米欧世界は100年以上にわたってアングロサクソンとユダヤによる支配を体験してきた。いやそれは、歴史創出の原動力として、米欧だけではなくアジア・アフリカを含む全世界を巻き込んできたと言える。
ブッシュ大統領の「国家安全保障戦略」は、これまで100年以上にわたり世界を動かしてきたこの構図を、力づくで改革させるということなのだ。
この、米欧社会、白人社会の精神的争闘、いわば「文明内戦状態への突入」を冷静に観察し、事の成り行きを見守ろうとしているのが、支那北京政府であり江沢民国家首席なのである。
江沢民が訪米する10月上旬までに、米上下院が「国家安全保障省の設立」について結論を出すかどうかは微妙なところだ。だがその後に行われる支那の共産党第16回党大会には結果が出ているだろう。
米、英、ユダヤの力の構図が変わるかもしれない。そして支那北京政府もそれに対応して変化する。――つまり世界は今秋、人類史上最大の転換期を迎える可能性があるのだ。それをわが国政府はどこまで理解しているのだろうか。
ブッシュ大統領の「国家安全保障戦略」の概要。そして英国やシオニスト右派、さらにはユダヤ正統派、超正統派の動き。――国際政治の動向を把握するための最新情報は今週中に「行政調査新聞インターネット版」に発表される予定です。ご期待ください。
|