行政調査新聞社 社主:松本州弘 埼玉県川越市

行政調査新聞

ご挨拶

地方行政を読む

国内展望

海外展望

社会の片隅

噂の怪奇情報

特集

資料室

 

 

【読者投稿】
「東アジア共同体」の青写真 −中国とアメリカをどう考えるべきか−

(文・佐藤鴻全氏)

先月末のビエンチャンでのASEANプラス3首脳会議の合意を切っ掛けとして東アジア共同体が本格的な注目を浴びつつある。

<参照>

■東アジア首脳会議初開催へ 来年クアラルンプールで■
 【ビエンチャン29日共同】東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国は29日、ビエンチャンで開いた首脳会議で、来年中にクアラルンプールで初めての「東アジア首脳会議」を開催することで合意した。ASEANと日中韓の13カ国を軸とした自由貿易地域創設を含む将来の「東アジア共同体」創設に向けた大きな一歩となる。ASEANに日中韓を加えたプラス3首脳会議も同日開かれ、東アジア首脳会議開催について協議した。プラス3首脳会議の議長声明案は、域内の関税を原則撤廃する東アジア自由貿易地域創設について「可能性を調査する専門家グループの設置を歓迎する」として、前向きな検討を表明。東アジア共同体創設を長期的目標として確認した。日本は東アジア首脳会議の共同議長国となることを提案している。開催時期や会議の在り方など詳細は、来年初めにフィリピンで行われるASEAN非公式外相会議などを通じ調整する。(2004年11月29日(月) 共同通信)http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/kokusai/20041129/20041129a3340.html

米国からは、早くも東アジアサミット開催が決まった翌日に、「米国外しではないか」(米国務省のリース政策企画局長)と不快感が表明された。これらの動きを念頭に、以下に「東アジア共同体」について我が国の取るべきスタンスと戦略について考察してみたい。


取り巻く情況

「東アジア共同体」を取り巻く情況を整理すると、概ね以下のようになる。

(1) EU、NAFTA等の先進自由貿易協定(FTA)が世界的に拡大している。FTAは、2国間や特定域内での物品の関税その他の制限的通商規則やサービス貿易の障壁等の撤廃、進んでは人的交流や通関や知的所有権の手続き、投資環境の整備等の幅広い分野を内容とするものである。既に欧米では、特定域内自由化のEUやNAFTA等が推進され、国際的大競争時代に備える態勢となっている。日本は2国間FTAでも中国に大きく遅れを取っているが、今後の自由貿易体制の徹底により大きな利益が見込まれ、自ら積極的に推進していくべき情況にある。

一方で、人的交流の活発化に伴う移民問題、経済統合、通貨統合に伴い各国の経済政策の自由度が制約される等のマイナス面も指摘されている。

(2) そもそも「東アジア共同体」が必要なのかという疑問と米国の懸念経済的な枠組みについては、米州やオセアニアを包括したAPEC(アジア太平洋経済協力会議)という枠組みが既にあり、新たに「東アジア共同体」を作ろうという動きに対し、米国側に前述した「米国外しではないか」との懸念がある。

「東アジア共同体」という言葉は、90年にマレーシアのマハティール首相(当時)が提唱した経済圏構想が出発点とされる。この構想は米国の強い反対で発展しなかった。また、97年のアジア金融危機のさなか、影響を受けた諸国の復興を助けることを意図して、日本が提唱したアジア通貨基金構想もIMF(実際には米国)の反対で潰えた。米国は代りにAPECを強化することで、東アジアへの関与強化の装置としたという経緯がある。なお、安全保障についても、ロシアや北朝鮮を含めたARF(ASEAN地域フォーラム)という枠組みがある。

(3) 「東アジア共同体」の範囲前項と関連して、東アジア共同体といっても、地図上の明確な範囲があるわけではなく、EUのような文化的、言語的、宗教的、人種的同一性の低いこの地域の特性からその範囲は思い描く者により大きく異なる。概ね、ASEAN加盟国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの10カ国)に日本、韓国、中国を加えた「ASEAN+3」が「東アジア共同体」のコア部分として語られるが、台湾や香港を加えた「10+3+2」やインドを加えた「10+3+1」といったアイデアもある。

また、これらに豪州を加えようという動きとそれに真っ向から反対するマレーシアのマハティール前首相を筆頭とした「豪州人はアジア人になりえない」の意見や、国際政治学者フランシス・フクヤマ氏のように、「東アジア共同体」のかわりに北朝鮮核問題への対処を論じる六カ国協議から北朝鮮を除いての五カ国の協議をアジアの地域安全保障の恒常的な制度にすべきとの提案もある。

(4) 「東アジア共同体」の内容その内容として、単に自由貿易協定(FTA)を結んで自由貿易圏にするという経済的なものだけでなく、前項フクヤマ氏の提案とも部分的に重なるが、安全保障も考えた政治的な枠組みを目指すべきだという見方もある。

(5) 中国の影響力の強まりへのASEAN諸国の警戒報道によれば、初の東アジア首脳会議についてマレーシアで来年開く方向でまとまりかけたが、ビエンチャンで行われたASEAN外相会議で妥協点を見い出せず、中国の影響力の強まりを警戒するインドネシアやベトナムなどが「時期尚早」と反対し、暗礁に乗り上げていた。その結果、開催時期や会議の在り方など詳細は、来年2月か3月にフィリピンで行われるASEAN非公式外相会議などを通じ調整するとして先送りになった。また、当然ながら日本、米国にも中国がアジア地域での経済的、政治的な影響力をさらに強めることに対し警戒感がある。


我が国の取るべきスタンスと戦略

これらを踏まえ、筆者の考える「東アジア共同体」への我が国の取るべき基本的なスタンスと戦略を以下に列記してみたい。

◆域内の関税を原則撤廃する東アジア自由貿易地域創設等については、我が国の利益に適い積極的に推進すべきである。また、どこまで有効なものとなるかは別として、地域紛争の緩和、テロ対策、核兵器配備の縮小、その他突発的事態の防止のためにも、信頼醸成と安全保障の枠組作りにも取り組むべきである。

◆外国人労働力の受け入れや移民は、単純労働者は避け、高度な知識・技能保有者に限定すべきである。単純労働者の受け入れは、ドイツのトルコ移民の例が端的に示すように、国内労働人口減少の中でも社会的な摩擦を避けられず、たとえ企業コストの削減になっても、社会的コストは増大する。

◆EUのような経済的、政治的に1つの国のようになるのを目指すべきではない。当面は、所得格差、政治体制が違い過ぎ元々不可能な事であるが、遠い将来的な画としても、EUの壮大な実験の成否を見極めてから考えるべき問題である。

◆ 中国の影響力増大の道具とさせる事無く、牽制の道具とすべきである。中国封じ込めと言っては言葉が過ぎるが、中国囲い込みを図るべきである。そのためには、台湾や香港、インド等加盟国は多いほど良く、決定事項は全会一致方式を取るのが望ましい。また、米国の代理人として豪州を正式加盟させるか、もしくはより直接的に米国を顧問格として関与させて、「米国はずし」の懸念に対処しつつ中国を牽制させるべきである。米国は、石油の出る中東では非理性的とも言える恣意的行動様式が目立つが、東アジアでは少なくとも安全保障面では今後も比較的現実的な対応を取ると予想される。

◆通貨統合は不要だが、何らかの形での「アジア通貨基金」は必要である。前述したように、97年のアジア金融危機のさなか、影響を受けた諸国の復興を助けることを意図して、日本が提唱したアジア通貨基金構想はIMF(実際には米国)の反対で潰えた。しかし、ヘッジファンドの冒険心やアジア金融危機の再来、中国のバブル崩壊等を防ぐ意味でも、通貨バスケット・ペッグ制を使う等の何らかの通貨安定策は必要であり、ドルの機軸通貨からの退位を何よりも恐れる米国の懸念を説得と調整により解消させつつ、粘り強くこの実現を図るべきである。

◆共同体の共通理念、共通価値は、自由と民主主義にアジア的調和が加味されたものとすべきである。東アジアは、EU等と違い、文化的、言語的、宗教的、人種的同一性が低く、共同体形成のための求心力が低い。ここに、何らかの共通理念、共通価値を見出すとすれば、世界史的流れとしての「自由と民主主義」を掲げるのが適当である。これにより、長期的に中国等の民主化を促し、安全保障上の脅威を削減するべきである。また、それだけでは他の地域との差別化を図れず、ノッペラボウのようになってしまう。この地域に特徴的な共通項としては、比較的温暖で多雨な気候や仏教、儒教により醸成されたアジア的調和と言う事になろう。


西洋思想と東洋思想

アジア的調和に言及したので、ここで西洋思想と東洋思想について述べて見たい。両者にはそれぞれの特徴と、これに由来するメリットとデメリットがある。難しく細分化された思想研究は他に譲るとして、筆者の考える概略を示すと以下のようになる。

まず、西洋思想は、ギリシャ哲学、キリスト教、ヘーゲル、マルクスのように、演繹性、または実証性、弁証法的理論展開、直線史観等を特徴とする。これらは、社会を動的に改革し科学を発展させる一方、植民地主義、ナチズムの様な自己中心的なものも生み出す。

一方、東洋思想は、仏教の八正道、儒教の仁義礼智信の様に、事象を多面的に捉えた上でこれらを並列し、包括的に把握する所や循環的史観に特徴がある。これらは、社会の調和安定を指向する一方、停滞、腐敗を生み出す。

なお、日本の思想的特徴は、赤き清き心、穢れと祓い、恨みと鎮め、神州不滅、平和主義、集団主義のように単一価値観、単線的思考にある。これらは、短期間の富国強兵や戦後復興等をもたらす一方、戦前の拡張主義の破綻、バブル崩壊と今日の停滞等を生み出している。

筆者は、アジア的調和を共通価値とすべきと考えるが、それを思想の見取り図の中に位置付けてメリットとデメリットを踏まえて置く事で、初めて地に足が着き現実的な政策に演繹出来るツールとなると考える。


今後の展望

話を元に戻して、そもそも「東アジア共同体」のような地域共同体は、域内の共存共栄を図ると共に、理念としては戦前のブロック経済のような閉じられたものでなく、世界の貿易の自由化促進のために開かれたもので無ければならない。

実際にEUやNAFTAが今後どう展開して行くかは予断を許さないが、そういった理念、大義を掲げて「東アジア共同体」を進展させて行くことは、 EUやNAFTA陣営との交渉材料ともなり得る。

また、我が国が域内で中国を牽制してASEAN諸国等を味方に付けるには、「大東亜共栄圏」での功罪、即ち欧米の植民地からのアジア解放、日本自らによる植民地支配と敗北、その後戻ってきた旧宗主国とのアジア諸国の独立戦争と勝利等について、単なる表面的な反省に止めず、近代世界史の大きな鳥瞰図の中に位置付け総括された歴史観を持ち表明するべきだろう。筆者は、それが日本が東アジアのリーダーシップを握るために必須と考える。

前述したように、APEC やASEAN地域フォーラムが現存する中で、「東アジア共同体」不要論がある。しかし、もう日本政府と中国を含めた各国はその実現のために走り始めている。もし不要なら、「共同体」と呼ぶかどうかは別として、単に緩く弱いものとして作っておけば良いだけの事である。問題なのは、日本国民が無関心でいて、限定された関心と狭窄した視野しか持たない官僚及び族議員とそれに乗っているだけの現政府に任せて置く間に、中国等各国の思うままにデザインされた「東アジア共同体」が作り上げられてしまう事である。

筆者はその懸念の下に、乏しい知識と能力を搾って拙案を示した。たとえ1つ1つは当たり前で掘り下げの浅いものでも、集めて並べて見なければ戦略にはなり得ない。まだ、ビエンチャンの首脳会議から日が経っておらず、それを受けての「東アジア共同体」についての我が国のスタンスと戦略についての全体的な画を示した言説は現れていない。

筆者の見るところ現在の日本でその見識を持つ政治家、言論人は数少ないが、各方面から今後積極的な発言が必要である。戦略とシナリオなしに今後の世界に臨む程、我が国にとって危険な事はないだろう。


行政調査新聞社 社主:松本州弘 埼玉県川越市
著作権は行政調査新聞社またはその情報提供者に属します。
Copyright 2001-2007: Gyousei Chosa Shimbun.
All Right Reserved.
 本紙へのメールはこちらをクリックしてください。