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ミサイル迎撃


 7月14日(日本時間15日昼)夜に米国が行ったほぼ1年ぶりのミサイル防衛システムの迎撃実験が成功したことで、ブッシュ大統領が描く米軍新構想がさらに強固なものとなった。

 ブッシュ政権のMD(ミサイル防衛)構想は基本的には、地上、海上、空中に迎撃ミサイルの楯を張りめぐらせる計画である。敵ミサイルを撃ち落とす段階も、弾道ミサイルが発射された直後、宇宙空間、大気圏再突入後の三段階に分かれる。従って実験も重層的で、さまざまな形が同時進行して行われる。今回の実験は最も基本的なもので、今後実験は隔月に行われる予定であると、ケイディシュ弾道ミサイル防衛局長が発表している。

 ここで重要なことは、どの段階での迎撃が最も効果的かという問題だ。防衛システムとしては、当然ながらすべての面 で完璧を要求されるが、効果的迎撃としては「ミサイル発射直後」が圧倒的であることは、専門家の言を待つまでもない。宇宙空間や大気圏再突入時は、超高速で飛ぶミサイルを撃ち落とすわけで、これは簡単にいえばピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもの。非常に困難である。

 ところが、発射直後のミサイル上昇速度は非常に遅い。簡単にいえば子供がパチンコで狙っても当たるようなスピードである。しかも、弾道ミサイルは発射地点を把握しやすい。

 固定式のミサイルの場所はすべて知られており、ここに液体燃料が注入されればミサイル発射が直近に迫っていることが理解できる。移動式固形燃料のミサイルの場合は、宇宙衛星からの監視で把握できる。ミサイル発射の時期が迫っていることが把握できれば、その地点に向けて迎撃ミサイルを準備することは簡単で、しかも発射直後のゆっくり上昇するミサイルは恰好の餌食となる。

 米国のMD構想の基本が、発射直後のミサイル迎撃にあることは、同時にイージス艦がその中心的役割を果 たすことにも繋がる。

 ブッシュ政権誕生直後に発表された報告書『米国と日本――成熟したパートナーシップに向けた前進』(通 称アーミテージ・レポート)は、日本に対し集団的自衛権の行使を求めている。このレポートに準拠する方向でわが国を引っ張る小泉政権もまた、米国との安保体制維持のためには、自衛隊が米軍MD構想に参加することを目指すことになる。

 海上自衛隊のイージス艦が、発射された直後のミサイルを撃ち落とす――。これこそ日米両軍が目指す集団自衛権の行使である。そして近い将来、わが自衛隊はこのMDの枠組みのなかで活躍できるだけの戦力を整えるだろう。

 だが、ここに問題がある。

 仮の話だが、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したとしよう。発射後ただちに、わが国のイージス艦から発射された迎撃ミサイルがこれを撃ち落としたとする。

 だが、発射直後のミサイルがどこを目標にしていたかは、北朝鮮当局者にしかわからない。北朝鮮側が「あれはロシアに向けて撃ったミサイルだった」と強弁したら、どうなるのか?

 つまり、いかに言葉遊び、言葉逃れをしようが、現行憲法下ではわが国がMD構想に参加することは不可能なのである。


二正面作戦の放棄

 6月20日のワシントン・タイムズ紙に以下の記事が掲載された。

 「米『二正面戦略』放棄へ 国防総省高官の発言として、米国が冷戦終結後の1990年代以降採用してきた2つの大規模地域紛争ないし戦争に同時に対処するというこれまでの『二正面 戦略』の放棄を、国防総省が決断したと報じた。ラムズフェルド国防長官が急ピッチで進めている戦略見直しと『四年ごとの国防計画見直し』(QDR)の柱となる基本方針だけに、事実とすれば、ブッシュ政権による重大な戦略転換となる。

 同紙によれば、国防総省高官は『二正面戦略は死んだ』と述べ、さらに『真の問題は“一正面 ”に何を加えるかだ』と語ったという」(産経新聞6月21日朝刊より)

 だが翌日には、一見、これを否定するかのような記事が掲載されている。

「米軍二正面作戦 放棄『最終決定でない』国防長官上院委証言 反発に配慮し慎重
【ワシントン21日=前田徹】
ラムズフェルド米国防長官は二十一日午前の米上院軍事委員会での証言で、米軍改革案を今年夏から秋にかけてブッシュ米大統領に提出する予定であり、二正面 作戦についても見直し中であることを明らかにした。新国防戦略には通 常軍の大幅削減や宇宙戦略など大胆な内容が盛り込まれると伝えられてきたが、米軍制服組や議会の一部から強い反発を招いており、この日の証言では慎重な対応が目立った。


 米軍の新戦略構想はブッシュ大統領が就任直後、『将来の国防を探る』としてラムズフェルド国防長官に検討を指示していたもので、最大の目玉 になるのが米世界戦略の基本だった二正面作戦の放棄にともなう通 常兵力の縮小とハイテク化だった。

 同長官は問題の二正面作戦について『私は慎重な男だ。放棄を最終決定したわけではない』とし、4年ごとの国防計画見直し(QDR)に盛り込むための案として『二正面 作戦に代わる優れた作戦があればそれを採用するが、それまでは同作戦を維持する』と、見直しを認めながらも慎重な証言に終始した」。

 新聞報道の深奥を見抜く技を磨けば、誰にでも簡単にこの真意が理解できる。米議会にも当然ながら軍事産業の意を汲んだ議員たちがおり、彼らによる抵抗が凄まじいものであることは容易に想像がつく。そうした背景のなかで、ブッシュ政権は「二正面 作戦」の放棄を決定したということなのだ。これは決定であって、見直し中のものでも何でもない。

 では、二正面作戦の放棄とは何を意味するのか。

 一正面作戦しか採らないという、明確な意思表示である。

 具体的には、仮に中東で戦闘が開始された場合、米軍は中東一正面 作戦に参加し、同時期に他地域で戦乱が起こった場合、そちらは無視するということである。

 風雲急を告げるパレスチナ。イスラエルが本格中東戦争に乗り出すのは、早ければ今秋10月ではないかと推測される。そうなれば米軍は全戦力を中東に振り向ける。そして、もしその時に朝鮮半島に異常事態が起きた場合――。米軍は極東に対し一切の支援活動を行うことがない。米国は日本に対し、集団自衛権の行使を求めてくるのだ。

 これは、憲法の解釈の域を超えた問題である。

 アーミテージ・レポートの中に明記こそされてはいないが、ブッシュ政権がわが国に対して憲法改正を求めていることは、世界中の新聞論調を見ても理解できることなのだ。そして同時に、田中真紀子外相による「日米安保見直し論」の根源は、じつにここに存在していたのである。

 

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