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arrow没落する米国、存在感の増す中国
チベット問題、四川省大地震……
未曾有の危機に、中国はどう対処するのか

 北京オリンピックを間近に控えての四川省大地震――。この歴史的大事件をめぐる背景と余波にはさまざまな見解がある。地震と前後して噴出する現代の中国が抱えるさまざまな問題、そして中国そのものの国際的スタンスに対する見方もまた多様にならざるを得ない。単に「中国共産党政権批判」に帰着する紋切り型の分析とは、わが国の一部に充満するシノフォビア(中国嫌い)という情緒の溜飲を下げることはあっても、米中という超大国とわが国の関係を真剣に考える上に供するところは少ない。

 前回の「流動化する少数民族チベット、ウイグルの動向に揺れる中華人民共和国の躓きの歴史的背景」では、中国の少数民族問題について触れ、中国共産党が擁する宿痾、すなわち「民族自決権」の矛盾についてコメントした。今回はあらためて四川省大地震に立ち戻り、世界のなかの中国――ことに米中関係とわが国のあり方について述べてみたい。


yellowbox 四川省大地震

5月12日午後に中国四川省を襲った大地震は、甚大な被害をもたらした。15日には国営の新華社通信が、最終的には死者数が5万人を越えるだろうとの予測を公表している。とくに被害が大きかったのは震源地付近のアバ・チベット族チャン族自治省で、この地域の現状は17日現在、明確にわかってはいない。地震発生後直ちに被災地入りした温家宝首相が陣頭指揮をとって救済に努めているが、死者・行方不明者は今後も増大すると思われる。この地震が、北京五輪を直前に控える中国にとって、チベット騒乱に続く大打撃となったことは間違いない。

今回起きた大地震の原因は、中国大陸の主部分を占めるユーラシア・プレートと、インド・オーストラリア・プレートがぶつかりあっているエネルギーが噴出したとの見方が一般的だ。だが、三峡ダムの建設が地震を誘発しているとの分析もある。三峡ダムにより水没した広大な地域には、地表から確認できなかった洞窟や鍾乳洞などが無数にあり、そこに膨大量の水が貯水され、思わぬ圧力がかかったのではないかとの分析だ。現実に過去2年間、三峡ダム周辺では地崩れ、崖崩れが頻発していたし、体感地震の回数も百回近くになっていたともされる。さらに、崩壊した学校や工場の様子を見る限り、手抜き工事が行われたことは歴然で、中国国内から人災だとの声が上がるのも当然かもしれない。

地震の真因は今後の調査によってある程度は分析されるだろうが、一部には真剣に地震兵器(ハープ兵器)説を唱える者まで現れている。いくら何でもそんなことはないだろうが、こうした怪説が出る背景として、このところの中国経済の堅調ぶりを妬む欧米勢力の焦りが生半可なものではないことが考えられる。

四川省大地震の翌日13日、中国の上海株式市場は株価指数が一時は前日比3%安まで売り込まれたが、最終的には1.8%安に落ち着いている。今後の被害によっては、なお予断は許さないが、復興関連銘柄が強気で推移していることもあり、四川大地震が世界経済に与える影響は、それほど重大ではないようだ。


yellowbox 世界景気の概要

国際金融市場は昨年以降ずっと、サブプライム・ローン問題から抜け出せず、景気後退に歯止めがかかりそうにない。とくに悲惨な状況にあるのが米国なのだが、米国への輸出に頼ってきたアジア諸国のなかにも、その不幸な波に飲み込まれるところが目立つ。これに対し、資源大国であるロシアやブラジルの経済は活況を呈している。また注意して分析すると、同じ先進国の中でも、日本とドイツだけは景気の落ち込みが酷くはない。概して言うなら、投資資金が集まる金融関連株価は値下がりを続けているが、健全な工業株価は、米国のなかにあってもキャタピラーに見られるように、値を下げていない。金融資本主義市場、極言すれば貨幣資本主義市場は没落しているが、実体経済主義世界は堅調だと言えるだろう。

そうしたなかで、とくに存在感を強調しているのが中国である。先月(4月)中旬には、世界の政財界指導者が集まる「ボアオ・アジア・フォーラム」が南支那海のボアオで開催された。今年8回目となるこの会議は、「アジア版ダボス会議」とも呼ばれているが、その開会式で中国の胡錦涛主席が、「中国は今後も改革開放路線を堅持し、国際社会での責任を果たしていく」と基調演説を行い、中国主導によるアジア地域の連帯がますます勢いづいている実情を見事なまでに演出している。これまで世界を支配してきた英米アングロ系勢力が没落していく最中に、中国がそれに代わって国際社会の主役として登場するという意気込みを見せたとも表現できるだろう。


yellowbox 中国の台頭を懸念するロシア

米ブッシュ政権が「テロとの戦い」を掲げてイラク戦に踏み切った時点で、中国とロシアは急接近し、長年の懸案だった領土問題まで一気に解決させ、蜜月関係を誇示したものだった。ところがここにきて、中露関係が微妙に破綻を見せ始めている。とくにロシアから中国への武器輸出が減り、今春には最大時の62%にまで落ち込んでしまった。しかも武器輸出に関しては新規契約がゼロという状態なのだ。中露の貿易額は、これまで最大だったのが昨年の400億ドル。両国は2010年にはこれを倍増させる目標で合意していた。ところが現在、その貿易バランスが崩れ、ロシアの一方的な輸入超過になっているのだ。

院政を敷いたプーチンが、中国に対する警戒感を露にしている背景には、米国の衰退化が激しい状況と同時に、中国が多方面の分野で国際社会での存在感を強めていることを真に恐れているからに他ならない。

世界第二位の生産量を誇るロシアの石油だが、その生産量は頭打ちになっている。新規油田を開発するには、資金も技術も自国だけでは賄うことが出来そうにない。こうした未来予測のうえにプーチン院政が成立している。プーチンが院政に固執しているのは、単なる権力欲ではなく、ロシアを大国として存続させる舵取りが非常に難しくなっていることを理解しているためなのだ。

石油を初めとするエネルギー開発を巡って、ロシアは中国と微妙な駆け引きを展開している。中国が新規油田開発に資金参画することは了解しながらも、特殊権益の取得を断固として認めていないところなどに、その一端が見てとれる。このため、ロシアのエネルギー開発事業に対し、中国は資金協力にも二の足を踏んでいる状態なのだ。

このような状況のなか、ロシアは日本の資金力と技術力に目を付け、対日攻勢を積極化してきている。日本と中国を競合させ、旨い汁を吸おうという作戦だ。胡錦涛訪日の日程が遅れた途端に、その間隙を縫うようにして福田首相を訪ロさせたところなど、その外交手法は実に見事なものだった。こうした事情を日本の政治家たちがどこまで理解しているだろうか。


yellowbox 民族主義高揚の中国

1989年に天安門事件が起きたとき、これを非難する米欧各国は中国に対し経済制裁を発動した。このときの中国最高指導者・ケ小平は「24字箴言」という方針で国家を導いた。すなわち、「米欧に挑発されても反撃することなく、頭を下げて耐えろ。米欧の謀略に引っ掛からずに、無事に経済成長を遂げ、米欧を凌ぐ世界大国になってから反撃をすれば良い」。

このケ小平の言葉に従って、北京政府は国民が反米欧感情を露にすることがないよう、細心の注意を払って世論を誘導してきたものだった。ときに経済格差等の問題が噴出するような場合には、その矛先は米欧ではなく日本に向けられるようにも仕組んだものだった。ケ小平のこの言葉は、中国共産党幹部だけではなく、中国をリードする層の胸にしっかりと刻まれ続けていた。

そして、それから20年近い年月が経った。真実の背景などがあまり語られることもなく、今年3月以降、チベット自治区などで騒乱が起き、4月に入ると、その影響がヨーロッパなどで、聖火リレー妨害などという奇妙な形で噴出するようになった。

だがその直後には、武漢でフランス製品不買運動が起き、フランス系スーパー・カルフールを標的とした抗議デモが発生。この動きは西安、ハルビン、済南など中国各地に飛び火したのだ。これまで米欧に対する抗議行動を行ったことのない中国のこうした動きが、ケ小平の24字箴言を受けてのものだということは、理解できるだろう。フランスはこれを受けて急遽ラファラン元首相を特使として北京に派遣。さらにカルフール社が北京五輪支持を表明するなど、サルコジ大統領は沈静化に躍起になっている。

中国国内のフランス製品不買運動だけが目立ったものではなかった。その後、世界中で抗議デモが展開されたり、聖火リレー支援活動が繰り広げられた。4月は総体として、世界を舞台に、中国の民族主義の高揚が目を引いた一か月でもあった。


yellowbox 中米正面激突を回避するために

米国の電機・金融大手として知られるGEは、最近、大幅減益を発表すると同時に、業績回復のために中国市場へ大規模な進出を行うと表明した。また、不況感が濃厚になっている米国は、株価下落を防ぐために、中国人の個人投資家が米国株を購入できる制度を導入することになった。没落する米国と、日の出の勢いの中国が見て取れる現象である。

経済分野だけではない。軍事分野でも米国の衰退と中国の隆盛が顕著になり始めている。最近になって、米国軍事筋から奇妙な情報が漏れ始めている。在日米軍再編の目玉の一つとして、沖縄駐留の海兵隊がグアムに移転することが決まっているが、これに対して、海兵隊の一部機能をハワイに分散移転させるという案が浮上しているというものだ。

この情報漏洩は、明らかに意図的なもので、米軍が中国の軍事力を認めていることを暗示している。中国は「太平洋海洋覇権分割構想」を提案しているが、米軍がこの構想を真剣に考慮すべきものと判断していると考えて良いだろう。そしてそれは、米国の極東アジア戦略に大きな変化がもたらされる可能性を意味している。

こうした状況のなかで、中国内陸を揺さぶる四川大地震が勃発したのだ。15日には中国政府は日本の支援を受け入れることを表明。16日には胡錦涛主席自らが被災地入りした。その直後から中国のメディアは盛んに「日本ありがとう」といった表現を多用し、ネット上でも日本の復興支援行動に感謝の意を示す書き込みが見られるようになり、それがまたメディアを通して紹介されるようになってきている。米欧に対する強気の態度と親日的な表現は、従前の中国政府の在り方とは異なっている。

この理由は、中国の体制がこれまでとは大きく変わったところに起因している部分もある。胡錦涛体制は、毛沢東、ケ小平といった権力完全掌握者体制とは異なる。また江沢民時代とは百八十度異なった、いわばグループ指導体制であり、反日から親日へと大転換しようとする途上にあると考えられる。

日本は明治維新以降「脱亜入欧」を掲げ、アジア諸国のなかにあって唯一、欧米文化を吸収しようと躍起になった時代があった。そして大東亜戦争敗北後は、長期にわたり米国の属国となってその文化を押し付けられてきた。中国が勢いをつけ、アジアから世界の舞台に駆け昇ろうとしているいま、このまま行けば欧亜激突、米中激突という不幸な未来が出現することを、中国政府本人が理解しているのである。

欧亜激突の緩衝役となることができるのは、欧米の文化を吸収、消化することが出来た日本だけなのだ。つまり日本は、米欧露中の大国の挟間で、自らの精神を存分に発揮出来る好位置に着いているということになる。その自覚がすべての日本人の胆に落とされることを切望したい。■


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