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日朝首脳会談の真実
小泉訪朝
去る九月十七日、小泉純一郎は日本の首相として初めて北朝鮮を訪れ、平壌で金正日総書記と会談を行った。
表面的な形としては、日本の首相が平壌に出向くという、いわば朝貢外交のように見える。だが国際的には、追い詰められた金正日が小泉首相を使って何とか北朝鮮の延命を計ったと考えられた。米国ブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と規定し、最終的には空爆まであり得るといった圧力をかけ、ロシアのプーチン大統領を通してその意思を明確に伝えたと推測されていた。さらには困窮し破綻に向かっている北朝鮮の国内状況もある。
カネも欲しい、食糧援助も欲しい、米国の空爆から逃れたい。しかも頼りとしている韓国・金大中は肉体的にも政権的にも限界に来ている――。追い詰められた金正日が小泉に縋って来たと、世界のほとんどが考えていた。
そうしたなか、訪朝を公表した小泉政権は、わが国にとって最大の懸案事項である拉致問題について決着をつけたいと明言した。「拉致問題の解決なくして国交正常化交渉はあり得ない」――小泉純一郎はそう語っていた。これに対し北朝鮮は日本赤十字社への回答という形で、日本政府が認定した八件十一人を含む拉致被害者の安否を伝えた。
横田めぐみさんら八人が死亡、生存者は五人という残酷な結果である。
小泉訪朝を前にわが国マスコミは一斉にその危険性を指摘した。本紙は小泉訪朝の背景に森前首相が企図した利権問題があると暴露したが、本紙とは違った形で同様の危惧を述べた週刊誌マスコミも存在した。また本紙を初めいくつかが「小泉・金正日の一対一会談」が行われてはならないと警鐘を鳴らし、さらには「笑顔を見せるな」など細かな指示を行ったマスコミもあった。
金正日が「予想外の演出」を行うだろうとした観測も述べた。じっさい、金日成にしても金正日にしても、登場の仕方から発言内容まで、ときに衝撃的な演出を行い、相手を自分のペースに引き込むといった手法を採ることが多い。いったい平壌で何が飛び出して来るのか――。その不安は驚愕の残忍性で的中してしまった。その瞬間、「頭が真っ白になった」と小泉自身が語っているが、ここで勝負は決してしまったと言えるだろう。
この無残な結果を誰が予測したであろう。
残念なことに本紙を含めあらゆるマスコミがこうした事態を予測できなかった。マスコミだけではない。政府内部も諜報関係者もまったく予測していない事態だった。北朝鮮問題に詳しい慶応大学の小此木政夫氏すらこの発表に衝撃を受けただろうし、公安調査庁の坂井隆(調査第二部統括調査官=北朝鮮問題の第一人者)もまったく考えていなかった筋書きだったと思われる。
大東亜戦争時には、真実か否かは別として抗日パルチザンとして活躍した金日成を建国の父と崇め、その後には米軍が支援する韓国と激烈な朝鮮戦争を戦い抜いた北朝鮮。以来ずっと韓国との緊張状態を保ち、そうしたなかにラングーン事件や大韓航空機事件を引き起し、不審船事件や海軍交戦事件を経験し、今また米国から「悪の枢軸」として攻撃される危機に瀕している北朝鮮。――国家・民族の滅亡の危機を前に死力を尽くしての戦争状態にある国と、米国の庇護のもと微温湯に浸って外交ごっこしか体験していない日本との真剣勝負は、戦う前から結果が見えていたのかもしれない。
誰に「謝罪」したのか
北朝鮮が国際的に追い詰められ、また経済的に破綻状況にあることは間違いない。しかしこの国に予想を遙かに越える強かさを持っている。老獪で悪辣な強かさである。
北朝鮮は「日本人拉致問題は避けて通れない」と判断し、国家の最高ポストにいる金正日の口を通してこれを公式に認め謝罪するといった戦法を選択した。じつはこの手法はかつて金日成が対韓国戦略に用いたことがある。
昭和四七年(一九七二年)五月に金日成が用いた手法がそれである。それより四年前の一九六八年一月に起きた武装スパイ浸透事件(青瓦台襲撃事件)に関して金日成は「非常に遺憾なことだ。左翼妄動主義者らの仕業であって私や党の意思ではなかった」と、当時の韓国情報部長・李厚洛に語っている。また金正日も、今年五月に北朝鮮を訪れた朴槿恵(故・朴正熈大統領の娘)に対してこの事件に関して父親の言葉を再度引用して謝罪したうえに、母親が犠牲となった文世光事件(一九七四年)に関しても北朝鮮の関与を認めて謝罪している。ただしその場合にも「部下が勝手にやったことで私は知らなかった」と常套句を用いている。
韓国・金大中の「太陽政策」以降、韓国大衆は北朝鮮との統合を待ち望んでいる。さらには、かつて日本軍と戦い米軍とも戦い抜いた正統的な民族主義国家である北朝鮮に対する負い目が韓国側にある。こうした心理的弱点を見抜いた上で、北朝鮮は「太陽政策」に融和するような雰囲気を見せつつ、過去の事件を通り一遍の謝罪で片付けてしまった。そして事実、韓国では過去のテロ工作を問題視することなく、むしろ風化させて南北友好関係構築を優先させる国民気運が高められている。
これとまったく同じ手法が、今回の小泉訪朝時に採られたのである。
戦前の日本による半島支配。そして戦後の国交断絶。それらが日本側に負い目となっているとの「読み」が北朝鮮側に存在している。それを存在せしめているのは間違いなくわが国の贖罪マスコミであろう。さらにはわが国政府、政治家が持ち続けてきた利権漁りの体質が、こうした手法を罷り通させてしまった。
拉致問題に対する「謝罪」は、北朝鮮側の人員がいないところで金正日の口から語られたものであり、共同宣言では拉致を公式に認めることも謝罪することもしていない。しかも金正日の口から出た「謝罪」は、日本人を拉致して対南(対韓国)工作を行おうとしたことに関しての謝罪であり、受け取り方によっては「拉致に対する謝罪」ではなく「対南工作をしたこと(しようとしたこと)に対する謝罪」ともとれる。
ミサイル発射凍結延長や十月中の国交正常化交渉再開を盛り込んだ「日朝平壌宣言」の署名に対して、同行した安倍官房副長官が反対を提言したのは「拉致問題が宣言文に一言も書かれていない」ことに対する不満、疑念だった。
この時点で小泉首相は席を蹴り、共同宣言を拒否すべきであった。
自ら「最大の懸案事項」としていた拉致問題が悲惨な回答によって結論づけられ、その内容が一切共同宣言に記されていないからには、たとえ「頭が真っ白」になろうとも断固として共同宣言の署名を拒否すべきであった。正直に言えばこの時点で小泉は腹を切るべきだったのだ。
――比喩や精神論で言っているのではない。真実ここで自らの生命を絶つ行動が必要だった。国家・民族の存亡を賭けて必死の戦略を繰り出す金正日に正対するには、決死の覚悟が必要であり、この場で小泉が自決を果たせばわが国は再度自立国家への道を歩めたであろう。
安倍副長官に対しても同じことが言える。対北朝鮮強硬派として小泉に同行し、最終局面で共同宣言署名拒否を首相に提言した安倍副長官の姿勢は正しい。だがなぜそこで、必死の拒否行動を採れなかったのか。
――「首相、今この場で私は腹を切ります。一切の責任を私に負わせて、署名はしないでください」と安倍が生命を絶てば、わが国と北朝鮮は五分五分の対峙状況に立つことができたろう。
だが小泉は共同宣言に署名してしまった。
一年以上をかけて事前交渉にあたった外務官僚、とくに次官昇進を賭けてこの交渉を進めてきた田中均アジア局長のお膳立てを拒否できなかったためである。また自らの利権も存在する。さらに言えば今回の日朝交渉の筋書きは、先に本紙が述べた「小泉の独断」とは異なり、米国の一部(穏健派または利権派)の思惑によって計画されたことが明らかになってくる。
正常化交渉を急ぐな!
老獪で強かで悪辣ではあっても、北朝鮮・金正日王朝が追い詰められていることは間違いない。
北朝鮮を「悪の枢軸」と規定した米国ブッシュ政権は、北朝鮮の全面解体を求めているわけではない。金正日個人の排除をまず求めているのだ。それは見方によっては、金一族のなかから米国に従順な指導者を出して金王朝を存続させる手段を容認しているように思われる。
朝鮮半島はその長大な歴史において王朝転覆の事実がない。飢えに苦しんだ農民大衆が反乱を起こした歴史は山ほどあるが、体制変革や宮廷革命は外国(主に支那)の影響によるものばかりだ。この歴史に立って、金正日は不満・反乱分子を徹底弾圧で乗り切ろうと考えている。
だが、配給制度を維持できなくなるほどの困窮のなか、米国による攻撃の圧力が高まり、体制の建て直しが緊急の課題となったのである。経済と安全保障――この二つの重要課題変革の突破口は日本との関係改善しか存在しない。
「経済」建て直しのためには、日本による過去の被支配に対する補償として莫大な経済協力資金を巻き上げられるとの思惑がある。「安全保障」面では、日本を取り込むことによって米国ブッシュ政権の北朝鮮制裁を停止させ、あわよくば金正日王朝存続ですら認めさせることができる。金大中による「太陽政策」以降、日本と北朝鮮が接近することに韓国は異論を唱えることができない。
歴史的に見ても地理・地政学的に見ても日本と朝鮮半島の関係は深い。
東アジアの安定という意味からも、わが国が北朝鮮と正常な国交を回復することは重要である。
今や、北朝鮮の命運を握っているのはわが国であり、ソウルや平壌ではない。そのことを肝に命じて日朝国交正常化交渉を行うべきであり、わが国としてはこれを急ぐ必要などまったく存在しない。じっさい、日本テレビが行った最近の世論調査では「国交正常化交渉を急ぐな」との意見が九三%を越えている。北朝鮮に最も近いとされる朝日新聞の世論調査ですら四三%が「国交正常化交渉に反対」というから、わが国庶民大衆の意識がいかに正常であるかが理解できる。
十月下旬にも再開される本番の国交正常化交渉においては、北朝鮮側は日本の朝鮮統治を「植民地支配だ」と非難してくる可能性が高い。だがそんな非難には一切耳を貸す必要はない。
――戦後教育の影響で自虐史観に囚われた浅墓な政治家が、拉致問題のハードルをいかに下げてしまったことか――。
贖罪マスコミによる「過去の罪」といった、実態のない、意味不明の修飾語に踊らされているような政治家は、この場には不要だ。歴史を真に理解した者のみが真剣勝負に参加できる。
わが国は朝鮮半島に「貸し」はあっても「借り」はない。
最近、韓国人が著した『親日派の弁明』が話題になっているが、ここには明快にその事実を解きあかしている。
捏造された贖罪意識によって不透明な形で資金援助を行うようなことがあれば、それは北朝鮮の軍事力の増強に役立つだけである。今回の小泉訪朝を計画した米国の一部勢力もそれを懸念しており、これが今回のケリー(米国務次官補)訪朝に繋がっている。ケリー次官補は金永南(最高人民会議常任委員長)など北側の要人と会談したが、その様子を同行した米国務省関係者はこう語っている。
「平壌での協議の行方を知りたかったら歌舞伎を思い浮かべればよい。目をつり上げた警戒心たっぷりの両者が、大きな身振りを交えて牽制しあった」。 再度繰り返す。北朝鮮の命運を握っているのはわが国であり、ソウルや平壌ではない。わが国が国交正常化交渉を急ぐ必要はない。
今、なにより必要なことは、わが国国民総体が朝鮮半島統治についての正確な歴史を理解し、もしそこに贖罪意識のようなものがあるなら、これを徹底的に自分自身で解明すべきである。こうした贖罪意識が払拭されれば、仮に政府が弱腰になった場合に世論を爆発させることができるのだ。
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