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日朝交渉・米国の憂鬱

 「日本経済新聞」というメジャー紙がある。バブル時代にはサラリーマン必読の新聞と呼ばれたものだが、最近では「日経を読むとハズレる」と揶揄されるまでに落ち込んでしまった。今でも「米国の意思を伝達する新聞の日本語版」といわれるほどで、米国の意向に沿った政治、経済、人物の論評を掲げている。民族派からは絶えず毛嫌いされてきた新聞でもある。この「日経新聞」が九月三日の囲み記事のなかで、米国一辺倒と思われてきた小泉純一郎が米国の頭越しに訪朝を決めたと不快感を露にしていた。
 
 八月末に日本を訪問していたアーミテージ(米国務副長官)は、小泉・金正日会談の報せに驚きを隠せなかった。事実、日朝会談が発表された直後の東京・虎の門の米大使館は慌ただしい雰囲気に包まれ、夜になってアジア政策担当者が急遽招集されたほどだ。
 
 この数日後、米中枢テロ一周年にあたる九月十一日、ブッシュ大統領は「ニューヨークタイムズ」紙に『反テロ戦への決意』を表明した文章を寄稿している(米大統領が一般紙に寄稿する例は希有)。ここでブッシュは反テロ戦の協力国として英国などの欧州勢を置いて真先に日本の名を挙げている。「悪の枢軸」と規定した北朝鮮との会談を前にした小泉首相に、ブッシュの意思を表明したと思われる。
 
 そして九月十七日の日朝=小泉×金正日会談の直後、米下院のハイド外交委員長は「日本人拉致事件の徹底解明を支持する」という、わが国政府宛の書簡を駐米大使に送付している。その内容は、米議会の中枢が「拉致事件の解明を日本政府と共有する」という力強い連帯の声明である。そしてここで、「拉致のような犯罪に関与する国は、ブッシュ大統領が『悪の枢軸』と規定したのに相応しい国だ」と北朝鮮・金正日王朝を厳しく非難している。
 
 こうして見ると、米政府や米議会が日朝会談を評価しているように感じられるが、内実はそうでもない。米国の一部勢力は意図的に日朝会談を後押ししたようだが、大多数の米国中枢からは日朝会談に対する異論が噴出しているのだ。

 九月末には米下院の「移民・国境警備小委員会」が奇妙な法案を審議する公聴会を開いている。……第二次大戦中に日本軍に捕らわれた米軍捕虜が強制労働させられたことに対する補償や謝罪の要求に関する公聴会なのだ。この公聴会に証人として出廷したローラーバッカー議員は、こう語っている。
 
 「日本の偽善性は、先週、日本政府が独裁国家の北朝鮮に数十億ドルもの援助や補償を支払うことを申し出たことで、またもや暴かれた」……。
 
 彼は言う。サンフランシスコ講和条約で日米政府は戦時賠償は決済済みとしているが、日本政府は米軍捕虜に対する僅かな額の賠償を拒み、その一方で「悪の枢軸」北朝鮮には数十億ドルの援助を支払うと言っているのは「偽善である」と。
 
 米国のある勢力は、間違いなく日朝会談を好ましく思っていない。
 
 もし小泉が北朝鮮に莫大なカネを投入するなら、米国ももっと莫大なカネを取るぞ、と脅しているのだ。

 九月中旬に刊行された『ファースタン・エコノミック・レビュー』誌(発行元は米大手マスコミのダウ・ジョーンズ)では「小泉訪朝は米国の対イラク予防ドクトリンの足を掬った」という特集を組んでいる。そこでは今回の小泉訪朝について、凡そ以下のような論評を行っている。

 ・日本が北朝鮮に対して行う援助資金は、北朝鮮のミサイル開発に投入され、食糧援助は軍隊にのみ配られる。

 ・日本は同盟諸国が戦争に備えている現状で逆方向に動き、小泉は訪朝しただけですでにブッシュ政権に被害をもたらした。

 そして結論として、日本の外交指導層(日本政府・官僚)は、緊急時には米国の頼りにはならず足を引っ張る存在になり得るというのだ。

 さらにその直後の九月二三日の「ニューヨークタイムズ」紙は、小泉が訪朝にあたって金大中(韓国大統領)やブッシュ(米大統領)の事前同意を得ずに勝手に訪朝したと決めつけ、これを「対米自立の危険な予兆」としている。「第二次大戦後、日本は米国に追従してきた。従って米国と日本の外交目標はたえず一致してきた」。「小泉訪朝は日本の突然としての独自外交への模索なのだろうか?」(H・フレンチNYタイムズ紙東京支局記者)……。
 
 さらにこの記者は、「小泉はなぜ安保論議を軽んじて拉致問題ばかりに焦点をあてたのか?」、「日本を射程に入れているミサイルに関して深刻な論議を展開しないのは、なぜか?」と今回の日朝会談を激しく批判している。日本人にはまったく同調できない論理なのだが、ここには「米国に従うのが当然の日本」という彼らの常識が存在しているのだ。その日本が、米国の意思を確認せずに勝手に動き出すなど、言語道断である。記者の論調は続く。

「過去十年間、バブル経済が弾けた日本では世代交代が加速し、ついに彼ら(日本人)は『米国への全面協力は不適切であり、われわれは米国の単なる付録ではない』と考える政治家の台頭を許すようになった。それが日本を代表する雑誌『文芸春秋』の特集『アメリカへの不信』となって表れてきた」と、ほとんど感情的とも思われる日本非難になっている。

 こうして見る限り、米国のかなりが今回の日朝会談を歓迎していないように思える。だが実は、米国の深奥部には小泉・金正日会談を歓迎し、これを演出してきた勢力も間違いなく存在している。

 日本人はその国民性として、代表例で全体を判断してしまう。その結果として、「あいつは、こういう人物だ」、とか「あれは悪だ」と単純に決めつける。「支那北京政府とはこんなものだ」、「米国とは、こうだ」……。
 
 しかし現実の世界は実に入り組み、複雑怪奇な様相を見せている。すべての人間にウラと表があり、上と下があるように、米国にもそして全世界にも、ウラがあり表があり、圧倒的多数があり強力な少数がある。とくに今回の日朝会談を巡る世界情勢に関しては、ウラ表、上下、全体像に目を配らない限り真実は見えてきそうにない。

 

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