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金王朝の遠大な計画
金正日訪ロの国際背景
六月中旬から七月にかけて、北朝鮮の軍に対し、兵力移動や会合など特別
な活動を禁止する命令が出された。このことから、金正日が長期間にわたり国内不在となるのではないかとの憶測が流れていた。金正日はこれまでに2度、支那北京政府を訪問して首脳会談を行っているが、その事実は事後発表にも近い形でしか発表されていない。今回もまた、同様ではないかと考えられていた矢先、『朝鮮中央通
信』は七月二六日に「金正日同志が近いうちにロシアを公式訪問する」という発表を行った。
ご存じの通り、じつは金正日はすでに七月二五日に平壌を出発し、二六日午前八時には国境である露朝親善橋を通
過、翌二七日にはハバロフスクに到着している。朝鮮中央日報は国境を越えた時点で「近いうちにロシアを公式訪問」と流したわけだ。
金正日の乗る列車がロシアに入ってから、ロシア側報道は詳細にその動向を伝えたが、北朝鮮側はそれを問題にせず、むしろその宣伝効果
に期待している感すらあった。金正日としてみれば、北朝鮮の一党独裁政権は、最高指導者が長期にわたって不在でも磐石であるということを世界に知らしめたかったのかもしれない。
実際、ロシアからの報道の多くは、金正日の思い通りのものであったし、また金正日が冗談好きで人なつこい性格である等といった内容の報道もあった。
しかし一方では、すでに一部雑誌やインターネット情報に流された通
り、金正日の乗る列車に対して2回(あるいはそれ以上)の投石事件が起きたり、爆弾騒動(モスクワで予告電話等)が3度にわたって起きたことも事実である。また否定はされているものの、列車に狙撃銃(カラシニコフ)の弾痕跡があったり、枕木を並べて転覆を図った事件もあったようだ。
北朝鮮の国際政治舞台における位置というものを解説するには、膨大な紙幅を必要とする。だが、大雑把に掴めば以下のようになる。
東西冷戦終息後の極東アジアにあって、北朝鮮はまず米国に擦り寄った。この擦り寄りは一時成功するとも思われたが、所詮は共産主義金王朝独裁国家である。結局これに失敗し、支那北京政府に近づく。だがかつて金正日は、支那北京政府の社会主義市場経済導入に反対し、思想上の原則を巡って中共指導部と対立したことがある。このとき中朝関係は一気に冷却したが、北朝鮮が米国との対峙における「楯」となり得ることで、一応はその体制維持の保証を取り付けることに成功した。しかしながら、支那北京政府は、決して北朝鮮を「重要な戦略的パートナーシップ」と扱ってはいない。
金正日は過去に2度にわたって、公式に約束した訪ロを直前にキャンセルし、クレムリンに恥をかかせている。その金正日が今回、あえて二四日にわたる長期の列車旅行を計画し、仰々しいまでのキャンペーンを行ったウラには、明らかに支那北京政府に対する思惑がある。いや、それだけではない。クリントンから代わった米国ブッシュ政権が、半年にわたる「北朝鮮政策の見直し期間」を終えて、米朝直接接触を開始しようとしはじめたことに対する金正日の対応と捉えて良いだろう。
金正日訪ロの真の目的
さて、では今回の金正日訪ロの真の目的は何か? 8月4日に露朝首脳会談が行われた直後、北朝鮮のメディアは一斉に「全人民が恋しさを募らせている」と金正日の1日も早い帰国を切願するキャンペーンを展開。帰国後にはロシアでの歓迎ぶりを大宣伝してその指導力を誇示し、国民のさらなる忠誠心の確保を狙った金正日の思惑は成功したと言って良いだろう。また9月3日から平壌を訪問した北京政府・江沢民に対する圧力という面
でも評価に値するものだった。
しかし、金正日の訪ロの真の目的は、このような成熟した国際政治にあっただけではない。明らかにもっと即効的な目的があったはずだ。わが国の新聞マスコミもそうした点を見逃してはいない。以下に八月六日「産経新聞」の記事の一部を引用してみる。
『金総書記訪露 実利は軍事・技術に偏重 民主化の実情には無関心』 北朝鮮の金正日総書記のロシア訪問は五日、モスクワ滞在を終えヤマを越した。(中略)今回の訪問で、金総書記はロシア資本主義や民主化の実情には関心はなかった。旅程を見れば、父・金日成の抗日武装闘争の根拠地ハバロフスクからサンクトペテルブルグまで、いわば革命史跡巡りで「過去」への関心が目立った。これは、金総書記がこれまで内外に表明してきた「社会主義固守」を改めて確認したものとみていい。
しかし一方では対外関係改善によって実利確保を目指す金総書記は、オムスクの戦車工場やモスクワでの宇宙ロケット開発施設視察に象徴されるように、軍事と宇宙科学に強い関心を示した。この二つはロシアが世界的に誇る分野であり、学ぶに値するというわけだ。
年初の上海訪問では中国が誇る急成長の市場経済とIT(情報技術)などハイテク産業の現状に見入った。金総書記は国家目標としている「強盛大国建設」の内容を「軍事大国」「技術大国」「経済大国」といっており、この間の中国、ロシアへの学習訪問は明らかにその線に沿っている。
金総書記は「強盛大国」に向け「先軍(軍事優先)思想」を強調してきた。今回、ロシアとの共同宣言では軍事協力問題は意図的(?)に触れられていないが、実利としてロシアから先端的な軍事技術獲得を目指したことはまず間違いない。北朝鮮の対外関係改善、拡大による実利が依然、「軍事」に偏重していることを物語るものだ。(産経新聞八月六日朝刊)
今回の金正日訪ロには金永春(総参謀長・国防委員・序列十一位
)が同行していた。ここがポイントなのである。公式発表された「モスクワ宣言」よりも何よりも、じつはこの背後に金正日の遠大な計画が隠されていたのだ。8月1日のトランシュマス戦車工場見学や8月5日の宇宙科学センター訪問、航空宇宙管制センター訪問にその実像を垣間見ることができる。
モスクワにいた超重要人物
8月3日にモスクワ入りしロシア首脳と会談した金正日一行。翌4日にはプーチン大統領と形通
りの会見を行い、午後には「モスクワ宣言」に署名しシャンパンで乾杯している。こうした公的行事のほとんどは全世界に報道されたが、3日の会談については詳細が明らかにされていなかった。
こうしたなか、8月末になって信頼できる複数のロシア情報がもたらされている。これらの情報を整理すると、3日の会談が極秘であり重要であったことが見えてくる。
その最大重要事項とは、北朝鮮がロシアから大量の兵器を購入したことである。
軍事評論家の言を待つまでもなく、北朝鮮の兵器はかなり古いもので、実戦には使用できるものではない。戦車、戦闘機から重火器に至るすべてが寿命だとされる。だが北朝鮮の困窮のなか、これをすべて新品に代えることは無理があると考えられるのだが、何と今回、北朝鮮は20億ドル(2400億円)の現金を支払って、兵器を購入したというのだ。そしてこの兵器購入の現場でロシア側に現金を渡した人物が、あの金正男だったというのである。
東京ディズニーランドを見物に来たといって成田空港で大騒ぎを起こしたあの金正男がモスクワに出現した!
この情報は非常に信頼できる筋からのもので、100%真実と考えて良い。
そう考えると、金正男が各国を回って武器代金を集めたという情報も真実味を帯びてくる。さらに金正日の後継者として、正男が認められたという事実も浮上してくる。
だが、武器売却だけでは20億ドルという巨額が生まれるわけがない。ここにいくつかの謎が存在する。その謎を辿っていくと、金正日、あるいは北朝鮮・金王朝の遠大な計画が見えてくる。
かつて慮泰愚大統領の時代(1988年2月〜1993年2月)に、韓国は北朝鮮に対して30億ドルの借款を貸与している。このうち10億ドルはすでに返済を終えているが、20億ドルが未返済なのだ。この未返済金20億ドルが、今回の武器購入の原資となっている。もちろん慮泰愚の20億ドルがそっくり今まで残されていたというわけではない。数字の流れの話である。
8月3日の会談ではまた、ロシア=北朝鮮間の鉄路再開も話題となったが、併せてここに、凍結されていた朝露国境付近の発電所建設計画が再浮上した模様である。しかもこの資金は、太陽政策により北との融和を図る韓国が負担するというのだ。そのウラには、京義線復活があり、さらにモスクワと朝鮮半島が1本の鉄路で繋がるという構想がある。
これとは別に奇妙な話もある。9月初旬に平壌を公式訪問した北京政府・江沢民は「延辺自治区にIT関係の大施設を作る」と明言したが、その施設は「韓国のカネで作る」計画なのだという。延辺自治区とは吉林省朝鮮族自治区のことで、露・中・朝3国の国境地帯に位
置しており、国連(UNDP=国連開発計画)が進める豆満江開発計画の中心部である。これらの話は、すべてが繋がっており、しかもすべてが北朝鮮を押し上げるものだ。
最近、北朝鮮に英国が急接近している現状もまた、金正日の巧みな世界戦略の一環と考えてもよい。ここに断言しておくが、金正日という人物は、日本人的に考えれば非常識人だろうが、頭脳明晰で先を見通
す能力には非常に長けているということだ。この男をバカ扱いすればとんでもない目に遭う。父・金日成と子・金正日は、遠大な極東アジア制覇戦略を立て、これを着々と実行している。民族の遠い未来を見据える政治家という意味では、およそわが国の政治家には考えられない巨人なのかもしれない。
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