
安岡正篤 記念館・(財)郷学研修所をめぐる疑惑【その2】
財団は約2年間、成人研修所内を飛散する
「アスベスト」を隠蔽していた!
本紙は昨年12月号にて、埼玉県比企郡嵐山町の国指定史跡「菅谷館跡」を、長年にわたり不法占拠している「謎の石柱」について報じた。鎌倉時代前期の豪族、畠山重忠氏の館だった「菅谷館跡」に、まるでふさわしくない御影石の大きな重量建造物が、わがもの顔で居座っているのである。
誰が、何の目的で建てたものなのか……。近隣住民さえ知らないその「正体」とは、「財団法人郷学研修所」関係者の私物。郷学研修所とは、わが国を代表する陽明学者・東洋思想家であった故・安岡正篤 氏の「安岡正篤 記念館」や「成人研修会館」、また同氏ゆかりの「日本農士学校」などの蔵書を公開する「恩賜文庫」を擁する団体である。「倫理道徳を説き、人材育成を看板に掲げ」ているこの団体はまた、財団法人(公益法人)としても数々の税制上の優遇措置を与えられている。
本紙が郷学研修所に問うと財団側は、明らかに文化財保護法を犯しているこの「石柱」を、「『日本農士学校』卒業生らの同窓会『川薪会』が建立し維持してきたもの」と明言。郷学研修所職員の多くが川薪会会員でもあることから、事実上は郷学研修所とその関係者の私物である。彼らは石柱を「本丸」と称し、また石柱の場所を「霊所」と定め、長年にわたり「菅谷館跡」とは何の関係もない宗教行事に活用。ときには石柱の前で記念撮影まで行っている。
つまり倫理道徳を説く公益法人が、文化財保護法を犯し国指定史跡に不法建造物を建て、長年にわたり維持し、宗教行事の場として利用している異常な状況が「菅谷館跡」で展開されているのである。もちろん財団側に「菅谷館跡」の土地使用権などあろうはずもない。同財団副理事長の荒井桂氏は、土地使用権や文化財保護法違反の認識に対する本紙の質問に対し「県が文化財保護法により何らかの有権的解釈を示してくれば、その指示に従わざるを得ない」と、あえて「有権的解釈」(社会における最終的判断権者――最高裁や所管官庁等がとる解釈)などという言葉を用いて自らの考えを述べたのは、既報の通りである。また財団側が県教育行政側トップと密約し、石柱を「行政側の預かり物」という形で結末づけ、文化財保護法違反を隠蔽しようと画策していることをもあわせて報じた。
この石柱=文化財保護法違反問題に端を発し、本紙は関係者をはじめ複数の情報源から、同財団に関する地を這うような取材活動を開始。「石柱」につぐ2点目の疑惑として、同財団の「成人研修会館」来訪者の健康に甚大な影響が懸念される「アスベスト問題」が浮上してきたのである。
「成人研修会館」を舞い続けた 「静かなる時限爆弾」
財団は約2年前から知りながら、有料で建物の貸し出しを行っていた!
平成17年のある日……。郷学研修所内の「成人研修会館」で照明器具の修理をしていた工事関係者らは、天井近くのエアコンの通風口から、空調の風とともに何か白っぽい、綿状の塵がふわふわと舞っているのに気づいた。
工事関係者はただちに梯子を降り、郷学研修所事務局長に尋ねた。
「この建物の建材は、吹き付けアスベストではないですか?天井や壁だけではなく、床材もアスベスト混入材のPタイルだと思われるのですが」
成人研修会館とは昭和47年に完工した建物。アスベストの危険を広く世に知らしめた広瀬弘忠氏の著書「静かなる時限爆弾」が契機となり、わが国でアスベスト禁止の動きが表面化する10年も前の建設物である。いうまでもなく当時の建設ではアスベストの使用は一般的であった。
財団事務局長は建材の一部をサンプルとして公的検査機関に調査を依頼。その結果、明らかにアスベスト建材であることがこのとき、つまり約2年前に判定されていた……。
アスベストの恐怖については今さら書く必要もないだろう。アスベスト(石綿)とは、髪の毛の5000分の1レベルの細かい鉱物繊維だ。その小ささゆえに粉塵などと一緒に空気中を浮遊するのだが、このアスベストを含んだ粉塵を吸い込むと、石綿が肺などの器官に深くささり胸膜などを侵すのである。いったん体内に入ったアスベストを除去する方法はない。吸い込んでからすぐに何らかの症状が出るのではなく、吸引から10〜30年を過ぎた後に悪性中皮腫、肺癌、石綿肺、胸水、瀰漫性胸膜肥厚、胸膜プラーク、塵肺などを誘発する、まさに体内に仕掛けられた静かなる時限爆弾だ。いったいいつ、どこで吸い込んだのかさえ思い当たる記憶がはるか彼方へ消え去った後、突如として中皮腫と診断されたケースも数多く知られている。
成人研修会館には、多くの一般来訪者が訪れる。子供会、婦人会、企業研修等の人々……。ざっと見積もっても年間のべ500人前後が利用する。驚いたことに、会館利用者はアスベストの事実を何も知らされておらず、また郷学研修所側も利用者から平然と利用代金を徴収し、アスベストだらけの建物を利用させ収益を得ていた、というのである。また郷学研修所自身が主催する定期研修会や毎月開催される月例講座の参加者、親子勉強会の参加者らにもアスベストの事実を隠蔽、継続的にアスベストだらけの建物の中に立入らせていたのである。
本紙の取材に応じた複数の財団関係者らはこう証言した。
「成人研修所に大量のアスベストが使用されていた事実は、この照明工事のときにわかっていたはずだ。検査で確定したのだからね。しかし同財団の荒井副理事長はアスベスト除去の予算を惜しんだのか『しばらく様子を見よう』とばかりに放置していた」
(このとき本紙記者は、荒井副理事長本人が財団関係者に「(アスベストの問題は)2年前から知っていた」と述べている録音をも聞かせてもらった)
そのいっぽう、有料施設貸し出し受付責任者である田中事務局長は財団職員らに「自分が責任を持つ」と不見識な見解を示しては、アスベスト問題を事実上隠蔽。エアコンでアスベストが飛びまわる室内や食堂で、約2年も飲食を許し続けていた……というのだ。
財団側がアスベスト除去工事に重い腰を上げたのは、昨年(平成19年)8月末に至ってのことだった。本紙がこの「アスベスト放置疑惑」について問いただすと、荒井副理事長は、
「研修所内のアスベストに関してはわれわれも重大問題と認識し、まずは室内をつぶさに観察することからはじめた。だがアスベストが飛散している状況は一切確認できなかった。同時にわれわれ自身がアスベスト問題について勉強を重ねた。そうしてわかったことは、飛散の可能性が最も高い……つまりアスベスト除去作業レベル1(厳重な対応が必要)に相当するのは吹きつけアスベスト(白石綿/クリソタイル)であり、アスベスト含有建材(非飛散性成形材)は飛散の可能性が低い、ということだった。また、アスベスト除去工事には膨大な予算がかかり対応しきれない。いろいろ考えた結果、現実的対処として飛散性が高い吹きつけ部分を除去工事した。
また床材(Pタイル)の劣化部分からも飛散の可能性がある。Pタイルそのものはレベル3(低発塵性)なのだが、これについても工事の対象とした。現在は吹きつけ天井に関しては全面取り替えし、Pタイル(床部分)に関しては飛散防止工事を施し、完全に処置を終えた状態だ」

<郷学研修所成人研修所見取り図およびアスベスト飛散防止工事箇所>
(クリックで別ウィンドウに拡大表示します)
入所証明書の発行を拒否
郷学研修所は、公益法人認定取り消しに相当する「公共に害を振りまく団体」
だが問題は「石柱」「アスベスト」だけではなかった……
「完全に処置を終えた」と明言する財団側。だが問題は発覚から飛散工事完工までの約2年間、施設を有料で貸し出し、利用者にアスベスト害の事実を知らせないどころか、石綿繊維の飛散する室内で飲食させてきたことにある。
事実を伝えられずに立入らされた子どもを含む人々に、アスベストの事実を告知し早期に健康診断を薦めることは、「知りつつ使わせていた」公益法人にとって最低限の倫理ではなかろうか。先に述べたとおりアスベストの被害は即座に発症するものではない。吸引した石綿繊維は肺に突き刺さり、20年から30年という長い時間をかけて胸膜を侵すのである。20〜30年後、障害が発症した場合の責任範囲を明確に形に残すことは重要であるはずだ。
この「死に神の舞う2年間」をめぐり財団内部からも、アスベストの事実が告知されないまま成人研修所を利用した人々に対し、入所日を明記した「入所証明書」の発行を行うべきである、との声が上がった。だが今日に至るまで、財団法人郷学研修所は「入所証明書」の発行を拒否し続けている。
教育機関に準じる活動を旨とし、公益法人の資格を取得した財団法人郷学研修所は、石綿アスベストの恐ろしさ、アスベストが将来において人体に重大な危害を及ぼす原因であることは十分に承知している。
基本的な彼らの姿勢とは、国指定史跡「菅谷館跡」を不法占拠し続けている「石柱」と同様に思える。「発覚しなければいい。(やってしまえば)事実が優先する」とやり過す姿勢……。石柱は「建ててしまえば事実が優先する」のであり、アスベスト隠蔽疑惑は「とりあえず飛散防止処置を行えば、その事実が優先する」というわけである。
公益法人の趣旨とは異なり、財団法人郷学研修所の実態とは「公共に寄与する」どころか「公共に害を振りまく団体」である。石柱問題ひとつをとりあげても、文化財保護法違反はもとより、公益財団法人認定等に関する法律(公益認定の取消し)第29条にも抵触するもの。財団法人郷学研修所は、課税措置等で特権を与えられた公益法人の資格を著しく問われるべき存在であることは、あまりに明白である。
だが、本紙がこの財団について調査した結果、浮上したのは「石柱」「アスベスト隠蔽疑惑」だけではなかった。現在進行形で行われている「ある重大犯罪」で、財団は近年、1億円に近い収益をあげていた可能性があるのだ。さらに言えば、その収益の過半数が財団に還元されないまま、財団の理事長である安岡正泰氏の懐に流れ込んでいるとおぼしき事実が、本紙の地を這うような取材で続々と浮上しつつある。次回はその衝撃の事実について、図解入りで詳細にお伝えする。「安岡正篤ブーム」の舞台裏、「公益法人」という法人格の意義が根底から瓦解するショッキング・レポートにご期待いただきたい。
「元木は残すな」……。取材の過程で出会ったある人物は、生前の安岡正篤 氏にそう言われたという。郷学研修所理事長(安岡正泰氏)・副理事長(荒井桂氏)らの行為こそは、昭和の碩学・安岡正篤 氏が最も忌み嫌ったことだったはずなのだ。■
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