
品確法へ向けて動き出した川越市
ひとまず評価すべき「入札制度等研究部会」
川越市は国・県へ「右ならえ」ではなく、独自の入札改革を!
予定価格と最低制限価格の事前公表によるダンピング入札の招来、ISOの有無等の業者努力を評価しない姿勢はもとより、他市の悪質営業所業者に対して指名の大盤振る舞い、CORINS(工事実績情報サービス)導入をかたくなに拒否し専任技術者違反を野放し……。これまでの川越市は「ダンピングを奨励し不良不適格業者に甘く、真面目な業者の努力を評価しない」姿勢、一言で言えば地場産業の育成を一顧だにしないとしか思えない姿勢を貫いてきた。「地場業者いじめ」とも受け取れる市のやり方に対し、多くの良識ある地場業者や市民の力を得、本紙が市の「入札改革」を主張し続けてきたのは読者諸氏もご存じのとおりだろう。
だが、品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律。昨年4月施行)をめぐり、川越市の「平成17年度」は公共工事発注者として、大いなる変革の時となったようだ。
昨年7月、本紙は川越市が当時施行していた「工事請負業者選定要領」に重大な欠陥があることを指摘。2度にわたる市への公開質問書にて問題点の是正を求めた。同要領第3条は川越市自らが受注調整を行う(官製談合)を示唆しており、品確法はもちろん「建設業法」等にも抵触し、公正取引委員会の勧告対象となり得る欠陥例規であることが明白だったからだ。
本紙の指摘に対し、市はウェブサイトから同要領をはじめとする2つの例規を予告なく抹消するなど対応に大きな問題も見られたが、8月には同要領を全面改定し、新たな「川越市工事請負業者指名選定基準」を実施することになった。
本紙は同要領の問題点にあわせて、品確法への市の取り組み姿勢をも問うた。「価格と品質に優れた調達」の必要性を謳う品確法の精神とは価格競争ではなく、技術競争にこそある。「業者の技術をきちんと評価しない」と悪評紛々だった川越市に対し、本紙が提出した2通の公開質問書には、それぞれ助役以下、部課長クラスの上級職員33名の連名による回答が寄せられた。そして市はついに昨年10月の回答で「公共工事発注制度について検討する常設機関を組織する」との意思を示したのである。
回答書には「入札制度の改革につきましては、かねてより取り組んできたところでございますが、この度の『公共工事の品質確保の促進に関する法律』に関する基本方針が示されましたので、それを踏まえた上で組織を設置し、更に調査・研究し、充実をしてまいりたいと考えております」と記されていたことは本紙既報の通り。なおここでいう「基本方針」とは、昨年8月26日の閣議決定である。回答書の「調査・研究」という言葉に具体性はなく、常設機関のメンバー構成や設立時期に関しても明記されてはいなかったものの、川越市が入札制度改革に本格的に乗り出した第一歩としての意義は十分に認められるものだった。
公共工事における大きな柱は「入札」と「工事検査」である。今年に入って川越市工事検査課は新「工事検査成績評定要領」の平成18年度施行を発表した。これに先立ちさる3月後半には一週間をかけて職員らに対し新「要領」の最後のデモを実施。
仮想工事に対する検査(点数付け)シミュレーションで職員への周知徹底を確認し「品確法時代」に万全の構えを見せている。工事検査課のこうした成績評定を業者審査に適切に生かすことができるのか。市が明言した「発注検討常設機関」への動きを追ってみた。
大きく変わった「川越市建設工事標準請負契約約款」
前払金限度額見直しと、談合業者への違約金請求
「昨年10月にまず『川越市入札制度等研究部会』を立ち上げました。品確法対策のみならず川越市の入札制度そのもの、業者の登録方法などを全般にわたり検討するため『入札制度等』という名称にしました」
検討常設機関の設立について質した本紙に対し、川越市契約課は開口一番こう答えた。部会長、総務部長をトップに据え、おもに工事関係課長を会員とするこの「部会」はすでに数回にわたり会議を開催し、昨年度中にさまざまな決定を行った。
以下に「部会」がこれまでに進めてきた改革について4点ほど列挙してみよう。大きく改正されたのは最終改正日平成18年3月1日付けの「川越市建設工事標準請負契約約款」である。
1:前払金の限度額見直し
公共工事(請負金額500万円以上)を契約した際に材料費、労務費、機械器具の賃貸料、機械購入費等について、受注者から請求があれば発注者は限度額の範囲内で前払金を支払う。
川越市ではこれまで前払金の上限値が請負金額の30%以下、かつ2000万円以下であった。この上限値を30%かつ5000万円以下に変更し、またこれまで切り捨てられていた端数を100万円未満から10万円未満に変更するよう「川越市建設工事請負契約約款」を改正したのが、「部会」による第一の改革だ。
改正された限度額が市の公共工事を円滑に推進するために十分な金額なのかどうかは疑問の余地もある。なにしろ前払金に関してはすでに平成11年、旧建設省が「中小建設業者等の経営改善のための措置について」にて、
「前払金支払率の引上げについては、これまでも要請を行い、支払率を法令上の上限値である40%に設定している地方公共団体も増えてきているところであるが、いまだその上限を40%としていない地方公共団体や、工事の規模に応じて支払率の制限や支払限度額の設定を行っている地方公共団体については、その改善を図ること」を指示しているほどだ。
「30%」はともあれ、これまでの「2000万円以下」は、あまりに低すぎる金額だったのではないか。
ちなみに県下他市を見れば、さいたま市は40%以下かつ2億円以下 ふじみ野市は30%以下かつ1億円以下、鶴ヶ島市は前払金制度導入時より現在までずっと30%以下、かつ5000万円以下である。
また都道府県レベルでいえば、前払金に限度額があるのは全国47都道府県のうち1都2府5県の8自治体のみ。このうち3自治体では、大型工事などで限度額をなくせるようになっている。また、前払率は、38の自治体が一律40%を採用している。
2:談合等による損害に対し損害金を請求
「遅延利率」を年3.4%に改正した。この「遅延」とは受注者による前払金超過額の返還が遅れた場合、工事が工期内に完工しなかった場合、または発注者の請負代金支払いが遅れた場合等を指す。いずれの場合も発生した損害金を算出する際、遅延利息を年率3.4%で計算するよう「川越市工事請負契約約款」は明記している。
「国の要綱改正を受けての、国に合わせた変更です」(契約課)。
だが「川越市建設工事標準請負契約約款」で大きく変わったのは、談合などの不正行為によって生じた損害、あるいは公正取引委員会から排除勧告等が命じられた場合に対し、発注者側が受注者に対し賠償を請求できるようになったことだ。これは従来までの同約款には記載されていなかったものであり、その意味では画期的な決定といえるだろう。
談合等によってどれぐらいの損害が生じたのかを算定することは非常に困難である。だが川越市は違約金を請負代金額の10%に一律決定することで、この条文を新たに盛り込んだというわけである。
もっとも川越市の違約金10%は、国土交通省が平成15年(03年)6月に導入した違約金特約条項に基づいていると思われる。国に合わせた形とはなっているものの、もともと違約金特約条項の端緒といえば、地方自治体が市民団体から住民代位訴訟として損害賠償請求されたことによる。平成12年(00年)3月の鳥取地裁判決は、自治体が損害賠償請求権を行使しないことを違法と指摘。翌年2月には日弁連が、談合防止策として国、自治体の公共工事契約にあらかじめ違約金条項を盛り込むよう求めた。
こうした訴訟が全国の地方自治体に広がり、対応に苦慮した自治体が契約違約として設け、それを受けて国も契約約款に特約条項を設けて追随したのが「違約金特約条項」である。
建設産業史の専門家である沢木太郎氏は社団法人日本土木工業協会が発行する「CE建設業界」誌で、「本来、双務契約であるべき公共工事での契約事項で、あらかじめ業界の意見が封殺されて、契約金額の一律10%として違約金特約条項が導入された」とし、その問題を指摘している。
国の違約金については、これまで2つの観点から問題点が浮上する。1つは違約金が発注者の裁量となっている部分であり、さらには業者へのペナルティーに変質している点である。先の防衛施設庁官製談合では、7社に約17億円の損害賠償請求があった。東京地検特捜部は明らかに官製談合と判断し、官側に限定して司法告発し、民間は罰金による略式起訴に止めた。だが、その主因とされた官から損害賠償相当として、7社に違約金が請求されたのである。
沢木氏は「違約金が最も問題なのは、その10%という定率性である。国土交通省が10%に設定する前の損害賠償判例は、棄却が多く、仮に認めても5%(奈良地裁)、7%(津地裁)とまちまちである。転機になったと言われる2002年9月4日の徳島地裁判決では15から20%を利益率と見なした判断が出ているが、今年2月の仙台地裁では宮城県村田町発注工事で15%の損害賠償請求に対し、5%相当という判決を示している。つまり個別ケースで大きく判例が異なり、いまだ流動的なのだ。個別できちんと検証すべきことが、契約違約という曖昧な表現で10%が既得権化しているのだ。地方自治体ではその率もバラバラであり、10%が多いが、対応も異なっている」と述べ、「違約金が既成の裁量になっているから、一方の当事者である請負側は『違反しなければいい』ということで排除されてしまうのである。こうしたことがまかり通るならば、10%を20%にするのも、さらに30%にするのも『発注者の裁量』であり、いやなら契約するな、ということになってしまうのだ」とその問題性を指摘する。
川越市が今回改正した約款は、この「損害賠償既得権益」の流れに追従したものではなかったのだろうか。
川越市、ついにCORINS導入を決定!
インターネットの活用で積極的な情報公開
川越市のウェブサイトの「電子市役所」にある「入札の広場」から「入札参加資格」のページを見れば「指名停止措置状況公表」が設けられていることがわかる。ここには本文執筆時の最新版として今年5月27日現在における「川越市競争入札参加資格者指名停止措置業者一覧表」が公開されている。ITを利用した情報公開の動きもまた「部会」の成果の一つである。
だがインターネットを利用した川越市の「入札改革」で最も大きな動きは、何と言ってもCORINS(工事実績情報サービス)の導入が正式に決定したことだろう。
工事実績情報サービスCORINS(コリンズ)。財団法人日本建設情報総合センター(JACIC)が運営する工事実績情報(工事金額や技術特性)のデータベースである。平成5年(93年)12月に行われた中央建設業審議会(建設大臣の諮問機関)の「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」の建議が契機となり、平成6年(94年)からスタートしたCORINSは現在、請負金額500万円以上の公共工事に関する竣工、受注、変更登録に関する情報を各発注機関に提供している。公共工事の入札・契約における手続きの透明性、競争性の向上に寄与することが期待されているシステムだ。CORINS一般検索で「技術者指定」を設定すれば、ある技術者の工事履歴が発注機関コード順に一覧表示される。また「工事カルテ表示」では、各工事の主任・管理技術者、現場管理人の氏名一覧を得ることができる。
川越市にこれでもかと蔓延していた「専任技術者違反業者」を洗い出すのに最も合理的で効果的な手段……それがCORINSの導入だ。
だが、これまで川越市は執拗にCORINS導入を拒否してきた。一昨年、本紙が川越市契約課に対しCORINS導入の可否を問い合わせた際、
「川越市ではCORINSを導入していませんし、今後もする予定はありません」と、導入の意志など微塵もないかのような回答であった。高額な契約料がその理由。だが川越市は政令都市(人口100万人以上。埼玉県の政令都市はさいたま市)ではないため、CORINSのデータ利用料金対象は一般市長区村に該当し、当時の年間使用料は4万円だった。中核市川越市の入札制度改革に際し、決して高額とは言えない投資だ。
さらに2年前とは異なり、いまではCORINSはインターネットからの利用も可能になっている。初期のように専用端末を必要としなくなったため、現在の利用料金はひとつのIDにつき年間10,500円へと大幅ダウン。
「実は、昨年から試験的に導入していたのです」……。川越市契約課はCORINSが昨年より「試用サービス期間」の提供を開始したのを機に試験的に導入し、6ヶ月間のサービス期間で試験運用した経験を踏まえ、今年度より正式に導入を決定した。
現在は川越市庁舎のなかで契約課が独自にCORINSを契約。また上下水道局でも今年から導入したという。
契約課のCORINS契約は1IDであり、インターネットに接続した同課内のパソコン1台のみで使用できる。したがって市庁舎内の他の部課がCORINSで工事情報を検索しようとするなら、契約課にやってきて検索を依頼する方法になる。
「また業者から提出された技術者の届出については、契約課長が決済しています。その際、違反の可否についてはCORINSで調べることができます」
まだまだ山積する今後の課題
川越市の従来の入札制度をめぐり、本紙がこれまで再三にわたり主張してきた問題点が今回の入札改革で積極的に取り上げられている点については評価すべきであろう。
今後の課題について、川越市契約課はどのように考えているのか。
「今年度より、工事検査課から業者の評点が公開されます。公開されたならば、われわれはそれを生かさなければなりません。公表された評点を指名にどのように反映していくか、というのがいまの大きな課題です。
表彰制度で生かしていくのか、はたしてそれができるかどうか……。業者への励みとなり、地場産業の活性化に繋がるような方向を模索していかなければならないと思っています。
また品確法については、業者の方々以上に市の技術者が勉強していかなければなりません。業者がどれほど良い技術を導入しようとも、自治体側がそれを評価できなければなりませんからね。その際、外部の有識者に協力していただくという方法もあるかもしれませんが、ではそういった有識者をどのように選ぶのか……今後やるべき問題は山積しています」
経営状況などに加え、ISO認証取得や地域貢献活動の実績などを点数化した「新客観点数」が一定点数以上であることを入札参加要件とする自治体が増えている。そうした方向も川越市は考えているという。インタビューに応じた契約課職員は、個人的な考えと断った上で、
「埼玉県やさいたま市がやっているように、工事成績を点数に換算し加算することで『成績何点以上』という条件付きの一般競争入札などがいいのではないか、とも思います」と付け加えた。
過去数年にわたり川越市の入札制度を調査研究してきた本紙は、川越市の偽りなき「惨状」……入札業者のダンピング行為で「予算が浮いた」などと、嬉々として出血価格入札を奨励するかのごとき経済オンチの舟橋市長をはじめ、他市の不良不適格業者を放任し地場業者に冷酷な川越市の姿勢を熟知している。そうした眼から見れば、たとえ前払金の限度額見直しが甘くとも、違約金条項に問題点があろうとも……はっきり言えば国の方針に「右ならえ」という安易な手段であろうとも、川越市が着実に「地場業者を育み、技術をきちんと評価できる発注者」となるべく、自ら改革の波を泳ごうとしている姿は評価する。品確法というきっかけで、市内建設業界にもわずかながら光が差し込んできたようだ。
むろん、市の入札改革は万全とは言い難い。なにより「他市の悪質営業所業者」排除の努力は依然として皆無と言っても過言ではなかろう。
違法営業所業者の調査に関して、これまで川越市側は「営業所の許可は県が与えるもので、本来的には県が調査すべきもの」とし、人員不足を理由に市独自の調査を「一年に一回程度」としてきた。危機感のなさここに極まれり、というべきか。営業所開設の許可主体が県であるというのなら、川越市はそうした業者を「指名しない」という方法で、きちんと防御を図るべきではないのか。
品確法に際し「国や県に右へならえ」ではない、川越市独自の入札改革を期待してやまない。■
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