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【短期集中連載】
いま明かされる、県住川越笠幡団地をめぐる「約9億円の錬金術」!

第4回:傀儡たちの舞台


  本連載もクライマックスを迎えた。

「第3回」冒頭で明らかにしたとおり、笠幡の森にある「謎の空き地」とは、神田市議を地権者代表とする5筆からなる、8,423.23uの土地であり、川越市大字笠幡字中新町の市街化調整区域にある。地権者は神田壽雄現川越市議が地番1678-1(2095u)、1678-2(1652u)の2筆、S氏が1671-1(2016u)の1筆、I氏が1672(2295u)の1筆、そして神田氏の親戚が1679-3(376u)の1筆である。

これら5筆の土地は1989年(平成元)2月13日に、まとめて県に売却されている。売却したのは郷土開発株式会社(埼玉県坂戸市日の出町3−15。以下「郷土開発」)。埼玉県住宅建物取引業協会会長である細谷金作氏が社長を務める不動産業者である。

あらかじめお断りしておくが、「郷土開発が5筆の土地をまとめて89年2月13日、すべてを県に売却した」のは、動かしがたい事実なのだ。


 「母が勝手にやったこと」

本紙がこれまで神田壽雄氏に数回の質問状を送り、氏が図表を用いた丁寧な書式の回答をその都度寄せてきたことは「第2回」で記したとおりである。一連の質問状と回答書とは、本紙と神田氏間のいわゆる「対話記録」というべきものだ。

  本紙との一連のやりとりの中で、神田氏は自分が所有する土地2筆について

  • 地番1678-1については「89年(平1)2月13日、神田壽雄から埼玉県に直接売却」
  • 地番1678-2については「87年(昭62)5月23日、神田壽雄から小沼土建(株)に売却」

したと述べてきた。

  本紙は当初、神田氏による土地2筆の売却経緯を調べるにあたり、「1678-2」……すなわち氏が小沼土建株式会社(以下、小沼土建。川越市下広谷505番地)に売却したという土地の平米単価を尋ねた。ところが神田氏は昨年10月11日付けで、先行する本紙の質問に対しこう回答して来たのである。

<お尋ねの平米単価につきましては、関係書類が無いことからご回答できません。
と申しますのは、確かに、土地の名義は私となっていました。それは、私の父親が昭和十九年に戦死したことから、長男である私が七歳の時から自動的に相続人となっていたものです。
しかし、実質的には、私の母親が管理していました。昨年、母は八十九歳で亡くなりましたが、お尋ねのことについては、約二十年前のことでもありますので、関係書類が見あたらないため、ご回答できません。>

さらに6日後の同月17日付け回答書にて、神田氏はこう述べている。

<1678番-2の土地1,652uは、昭和62年7月15日に小沼土建有限会社に売買しております。
  この売買の仲介は、川越市大字笠幡1662番地で不動産取引業を営む有限会社神田商事であります。代表である神田徹氏によりますと、同氏と小沼土建有限会社代表の小沼氏とは、同じ高等学校の出身という縁から、つき合いをしている間柄とのことです。私と小沼氏とは、過去に挨拶をした程度のことはありますが、当該土地の取引に関して接触したことは全くありません。なお、この土地取引については、当方側としては、私の母親が単独で行っていたものです。>

氏が11月27日に本紙に寄せた回答書の5ページ中、回答項目4番には、こうある。

<4 県営住宅の計画地(笠幡1678-1番の土地2095u、及び笠幡1678-2番の土地1652u)に係る所有権移転について
笠幡1678-2番の土地1652uは、昭和62年7月15日に、川越市大字笠幡1662番地で不動産取引業を営む有限会社神田商事を仲介として、小沼土建有限会社に売買しております。平成17年10月11日付け及び10月17日付けにて回答したとおり、当該土地取引については、当方側としては、私の母親が単独で行っていたものです。確かに、土地の名義は私となっていましたが、実質的には、私の母親が管理していたためです。>

 賢明なる読者諸氏は如何お感じになるであろう。本紙ですら、まさかこのような回答が得られるとは想像だにしなかった。

神田壽雄氏は昭和12年生まれ。「一人前の社会人」であることは言うに及ばず、土地売買当時は川越市経済部次長という市の幹部職員、ベテラン行政マンであった。その神田氏が亡き老母に、実印も登記証も預けっぱなしで「川越市にある市街化調整区域内の、自己名義の土地」の売買を関知しなかった、というのである。

  あまりの馬鹿馬鹿しさに開いた口がふさがらないのは本紙だけだろうか。「いくら何でも神田市議たるものが『ママがやったことだよ。ボク知らなかったんだもん』はないだろう。本当に神田市議はそう回答したのか?」と疑念をお持ちの方のために、回答書原文から該当部分を示そう。「ママのせい」と言い張る回答書のすべてをここで披露するのも無駄なので、昨年11月27日付けの回答書(5ページ目)を一例として公開する。

<11月27日付けの神田氏からの回答書、第5ページ。赤線および矢印は本紙による>

  この5ページ目を公開するのは、もう一つの理由がある。神田氏はこの中で自らパソコンを駆使し、丁寧な「土地図面」を描いて見せているのだが、そこには明らかに虚偽と思われる記述があるのだ。つまりこの「5ページ目」一枚に目を走らせるだけで、神田氏の稚拙に過ぎる言い訳と明確な「嘘」とを、同時に看て取ることができるのである。


 「公文書不開示決定通知書」

 もう一度繰り返すが、「郷土開発が5筆の土地をまとめて89年2月13日、すべてを県に売却した」のは、動かしがたい事実である。

 その決定的証拠となる書類については後述しつつ公開するとして、まずは先に掲げた「11月27日付けの神田氏からの回答書第5ページ」下部をご覧いただきたい。矢印で示してある部分だ。

 この回答書によれば、笠幡1678-1の土地については

「神田壽雄から埼玉県に平成元年2月13日付け所有権移転」

 とある。神田氏が直接、埼玉県に売却した、というのである。

 これが事実ならば埼玉県には、上記の日付で神田氏と土地売買を行った記録、すなわち売買契約書が存在するはずだ。本紙は埼玉県に対しこの売買契約書の開示を求めた。
するとどうだろう。埼玉県から送られてきたのは「公文書不開示決定通知書」。開示しない理由として「川越市笠幡1678-1の土地について、該当する人物との売買契約は行っておらず、契約書は存在しないため」と記されているではないか。

  県が嘘をついているのか、神田市議が嘘をついているのか……そんな問答は無用だろう。神田氏は、明らかに本紙に対し「虚偽」を述べたのだ。

  さて。ここまでの話を整理しよう。

  • 実際には、神田氏が所有する土地2筆は郷土開発が、他の3筆とともに89年2月13日に県に売却。
  • だが約20年後の現在、本紙に対して神田氏は「1筆は自分が直接県に売却」と虚偽の説明。

 一体何のために神田氏は、こうした虚偽を本紙に述べたのか。理由は2つある。

  まずは「1678-1」に関する登記簿。所有権移転を示す最後の記録を見ると

「平成元年弐月壱参日受付
第六弐〇九号
原因 平成元年弐月壱参日
売 買
所有者 埼玉県」

 と記されている。神田氏はこの登記簿を根拠として「私が売った」と述べていると考えられる。

 だが、ここに一つの陥穽がある。不動産における登記簿には「公信力」がないのだ。

 「不動産登記簿に公信力なし」を逆手に取れば……

 公信力とは、正規の手続きを踏んで売買契約を結び、支払いも完了している場合、何らかの不都合なことが生じた場合でも、訴訟により自分の正当な所有権を勝ち取ることができる力を意味する。

 動産においては、所有権は明確にその力を認められており(占有)、公信力がある(民法192条)。ところが不動産の場合、日本の登記には公信力がないのだ。その理由は簡単に言えば登記の恣意性にある。「登記はしてもいいし、しなくてもいい」からだ。通常は登記をするものだが、「忘れてしまった」という事例も現実にある。

  これは不動産取引におけるいわば常識にあたる。当然ながら不動産業者なら誰でも知っているはずの基礎知識だ。当然、郷土開発社長の細谷金作氏が知らないはずはない。

  登記簿上では、所有権が神田壽雄氏から埼玉県に直接移転している。だが事実は、郷土開発が埼玉県に売却している……となれば、郷土開発は神田氏から「1678-1」の所有権を移転され埼玉県に売却するまでの間「この土地を登記しなかった」ことに他ならないではないか。

実際、郷土開発は自社の名前を地番「1678-1」の登記簿に載せるわけにはいかなかった、載せてはならなかった。換言すれば、「神田氏が直接、県に売却した」ことにしなければならなかった。だから「わざと登記しなかった」……と思われるのだ。

  この点に関しては、本連載最後に詳述する。

 透明人間、現る!
なぜ神田氏は、今頃になって「郷土」の存在を隠したがるのか?

 もう一つの理由を示そう。「実際の場合」、つまり約20年前、彼は川越市経済部次長であった。本連載第3回で述べたとおり、川越市内の市街化調整区域を県に売却するにあたって「表に出てはならない立場」にあった。いわば「透明人間」でなければならなかった。

「土地コロガシ」を始めるにあたって、神田氏の所有する「1678-2」およびI氏が所有する「1672」が、短期価格上昇レースの先行走者として選ばれたのは、第3回に先述したとおりである。この2筆の土地が価格上昇の牽引役を果たせば、残る3筆はこの2筆に合わせて自動的に決まり、5筆は事実上の「最高価格」にまで達することになる。この過程にあって神田氏は、登場してはならない人物だったのだ。

  だから、神田氏は1筆を県に直接売却ではなく、郷土開発に売却し、郷土開発が最終的に5筆をまとめたのである。

  だが約20年後の今日、本紙の問いに対して神田氏は「姿を現した」。「1678-1は私が県に売ったのです」と釈明しているのである。当時、神田氏は市の要職に就いていた。「良識の府」に在職し、総有的自然林など売ってはならない立場にあったことは、何度繰り返しても足りない。その事実の重みは、たとえ20年前であろうと現在であろうと変わらないはずだ。

  だが神田氏は今日、本紙はおろか市民から「市の幹部職員が市街化調整区域を高値で売ったのか!」と非難されるリスクをあえて承知の上で、「私が売りました」と……しかも虚偽を証言しているのである。

 神田氏は「郷土開発が5筆まとめて売却した」という事実を隠したいのである。いっぽう先述の通り、郷土開発は自社の名を「1678-1」の登記簿に載せないよう、あえてこの土地を取得後も登記しなかったと思われる。

 両者の「思惑」は一致していたはずなのだ。

 そのため、神田氏は本紙に「わたしが県に直接売った」と虚偽を述べた。「市街化調整区域を市幹部職員が県に売った」という嘘をつき、それを元に非難されたほうが、「郷土」の存在が露わになるよりよりまだマシだ、というわけである……そう考えるのは、決して根拠なき揣摩憶測ではない。

  では、なぜ神田氏は今日になって「郷土開発が5筆をまとめ売りした」事実を、必死になって隠蔽しようとしているのか。

「謎の空き地」の総面積は8,423.23u。神田氏の嘘の理由のひとつは、この数字に隠されている。

 土地コロガシで地価が上がるのは「買う人間がいるから」

「土地コロガシ」……。バブル時代の流行語は「地上げ」である。80年代半ば頃から、ニュース等では「地上げ屋」と呼ばれる悪質な不動産業者らの暗躍が報じられるようになった。借家人や借地人をときには暴力的に追い出すそのやり方は、大阪など関西地方から始まり東京に波及してきたといわれている。この地上げ屋が、折からの地価高騰でますます活躍の場を拡げていった。

「資産の価値が上がって怒る国民はいない」と地価高騰を肯定的に捉えていた政府も、昭和60年代になると、さすがに放ってはおけなくなってきた。地価が2年間で3倍に上がる社会は、どうかんがえても健全ではない。早急な対応が政府に迫られた。

  地価は、不動産業者が高値を付けるから上昇する。バブル期には土地が転々ところがされ、その都度不動産業者が高値で買い、転売を繰り返した。不動産業者は「買ったばかりの土地を転売するだけで、労せずして何億円もの利益を上げた」のである。

  こうした異常な状況に対し、日本政府が対応策として1987年(昭62)に導入したのが「超短期(2年以内の)土地譲渡に対する重課税」である。

超短期土地売買に対しては、通常の税金のほかに譲渡益の30%を法人税として別途課税した。課税を割り増しにすれば、土地コロガシはいなくなる、という算段だ。

  それまでも取得後5年以内の土地に対する転売利益に対しては、短期土地譲渡として20%の割り増し課税が実施されていた。その上でさらに、取得後2年以内の土地の……超短期転売による利益に対して、30%の別途徴収が加わったのである。地方税と合わせると、超短期土地譲渡に対する税額はほとんど100%近くになる。

 超短期土地譲渡に対する重課税には、「土地の転売で儲けることは悪であり、超短期土地譲渡に対する課税は、転売に対する罰金である」という骨子がしっかりと組み込まれているのだ。

 だがここで考えていただきたい。土地は「転がせば自然に価格が上昇する」わけではない。当たり前のことだが、高値で買う人間がいて初めて上昇する。

  不動産業者Aが所有する1億の土地を業者Bが買うとする。Bは「1億出してAから買っても儲かる」から買うわけである。Bには「土地価格がまだまだ上昇する」ことがわかっている。だから、Bがこの土地に3億の値を付けても、客は確実にいることも知っている。だからAから買うのである。

  BはAから買った土地に3億の値を付ける。そして次の業者Cがこれを買うとする。それはCが「Bに3億払っても、自分は5億で売れば儲かる」こと、そして「必ず売れる」ことを知っているからである。

  買い手がいるから転売する。だから、地価はどんどん上がるのだ。転売するから地価が上がるのではない。

  そして転売の果てにあるのは、最終的な地価を決定する者=「その価格でも買い取る最終ユーザー」の存在である。

  いってみれば当然のことなのだが、この点をいま一度、とっぷりと胃の腑に落とし込んでいただきたい。合わせて、取得2年以内の「超短期土地譲渡」に対する重課税が導入されたのが、1987年(昭62)だったこともご記憶願いたい。

「謎の空き地」の場合、「最終ユーザー」とは埼玉県だ。そして超短期土地譲渡に対する重課税への対抗策こそが、「開発し更地にすること」だったのだ。

 神田氏よ、「ご指摘のような事実は無い」のなら、
これは偶然の産物か?

 ここで、第3回連載「マスタープラン」で明らかにした、この「謎の空き地」をめぐる全体像を時系列に沿って描いた簡略図をご覧いただきたい。

「時系列表」 ここをクリックしてください。別ウインドウが開きます

 神田氏所有うちの1筆「1678-2」と、I氏が所有する「1672」が土地コロガシの牽引役を担ったことは先述の通りである。どちらも1987年(昭62)の5月後半から9月末までの、約4ヶ月半の間に転売されている。「超」が3つぐらいつく「超短期土地譲渡」だ。

  I氏の土地所有権はこう推移した。

1986年(昭61)
5月28日:山陽興産(株)に所有権移転。極度額8,700万円

1987年(昭62)
5月23日:山陽興産→小沼土建(有)に所有権移転。極度額1億1千万円
7月31日:小沼土建→七福商事(株)に所有権移転。極度額2億6,160万円
9月30日:七福商事→郷土開発(株)に所有権移転。極度額2億8千万円

 いっぽう神田氏の土地(1678-2)の経緯は、

1987年(昭62)
7月15日:神田氏→小沼土建(有)に所有権移転。
7月31日:小沼土建→七福商事株に所有権移転。極度額2億6,160万円
9月30日:七福商事→郷土開発(株)に所有権移転。極度額2億8千万円

となっている。

(なお「極度額」とは根抵当権の目的物により担保される債権の限度額で、金融機関融資の裏付けと考えることができる。不動産を担保に入れる場合、担保評価が必要となるのだが、金融機関は不動産の評価額に担保掛目を乗じて抵当権を設定する。貸倒れて抵当権を実行(競売)してもなかなか債権額全額は回収できないのだが、それでも担保価値を把握するために鑑定評価額は一応の目安とされている。こうした山林に多額な極度額を付けた銀行も一役買っていることになる。背後に県が「最終ユーザー」であることを匂わせられての極度額である)

 図を見ながらお読みいただくとよりはっきりするのだが、この土地コロガシは小沼土建→七福商事→郷土開発という道筋で一致していること、さらに小沼土建から七福商事へ売買された日付(7月31日)と、七福商事から郷土開発へ売買された日付(9月30日)は、同じなのだ。

 さらには両者の極度額も一円違わずピタリと一致する。単純に面積だけで比較すれば、I氏の土地(1672)と神田氏の土地(1678-2)の面積には、約650uの差があるにもかかわらず、である。

 なお、小沼土建とは……本連載第2回で詳述した「市道8113号線拡幅工事」の請負業者だ。

  本紙が神田氏に宛てた諸々の質問に対し、「なお、ご指摘のような事実は無いことを申し添えます」「貴社が説明するような数々の事柄は、時系的にお考えいただければ、私の為し得ないことであることとご理解いただけるものと思います」を繰り返していた神田氏。だが、たとえ「謎の空き地」をめぐる全貌でなくてもいい、87年(昭62)の夏の間だけに限定して見ていただいてかまわない。この短期間での、これら2筆の土地の動きは偶然の産物だ、とでもいうのだろうか。


 不動産業者は県住計画を知っていた!
公務員の守秘義務違反

 絶対に違う。「マスタープラン」に忠実に行われた土地コロガシだ。

  先に「その価格でも買い取る(採算が維持できる)最終ユーザー」の存在が最終的な地価を決定する、と述べた。こう書くと、まるで最終ユーザーが価格決定権を持っているかのように聞こえるが、実際はそうではない。事実バブル期においては、最終ユーザー(住居用にマンションや自宅を購入する人々)には、もはや不動産価格は「採算が維持できる限度をはるかに超えた」といわれた。最終ユーザーはもはや不在……したがってマイホーム購入をあきらめる人々が続出し、通常ならば住居が購入できるはずの資金を別のものに消費するケースも多かった。木造アパートに住みながらフェラーリに乗る、尋常では考えられない消費傾向さえ生みだしたことは記憶に新しい。

「謎の空き地」の場合、最終ユーザーは埼玉県である。「県が土地を買い取る」というマスタープランがあったからこそ、はじめてあの市街化調整区域の山林を、複数の業者は転がして値を上げることができた。もし「マスタープラン」がなかったならば、小沼土建は神田氏からこの土地を何の理由で買う必要があったのか。

 そして七福商事は小沼土建からあの二束三文の土地を買っただろうか。つづいて郷土開発は、七福商事から「一段と値を上げ高くなった」山林を買っただろうか。「市街化調整区域の山林であっても、高値で買ってくれる確実な保証」がなければ、誰が転売などするものか。

  彼らは県である「最終ユーザー」に値上げした終値を持ち込むために、一蓮托生となった仲間で、二束三文の土地、しかし自然保護の観点から見つめれば大切な土地を、キャッチボールしたということだ。そして、神田氏を代表とする当該市街化調整区域の地権者らも、同様の一蓮托生の手合いなのだ。

 2筆の「牽引役の土地」は所有者を転々とした。そして転売の最終地点には郷土開発がいた。いうまでもなく郷土開発にとって、複数の不動産業者の転売を経て至った価格でこれらの土地を購入しても「充分に採算がとれる」のだ。それはつまり「県の買い上げ」という極秘マスタープランの存在とその確実性を、中間で転売に荷担した不動産業者(小沼土建、七福商事)も、郷土開発社長の細谷金作氏も、神田氏から「県住を舞台にしたカラクリ」を聞かされ、十二分に承知していたことを示す何よりの証左である。

 県の買い上げ→県住建設という「マスタープラン」は、それがいかにダークなものとはいえ、公共事業に属する。だが中間不動産業者はマスタープランを知っていた。だから土地の転売ができたのだ。これはすなわち神田氏が小沼、七福、郷土の3社に、公務員の義務として守秘すべき事柄を漏洩したことを意味する。4者はここで「グル」になったのだ。

  郷土開発は2筆の土地を同日(9月30日)、七福商事から取得。この段階で2筆の土地価格は事実上の最高値を迎え、他の3筆の価格もこの2筆の地価に自動的に追従する。そして県がこの土地を買い付けるその日を、待ったのである。

 翌年、88年(昭63年)に何が起きたのかを「時系列表」で確認していただきたい。

 地元の4自治会長を使って川越市に「要望書」を提出させた市道8113号線拡幅事業……。3月30日に市は用地を取得し補償を完了した。すなわち神田氏は、拡幅事業が間違いなく行われることをここで確認することができた。

 s11月16日には、県が「川越笠幡団地配置図」を作成している。これらの動きでマスタープランは確固たる実現への動きを着実に見せるのだが、もう一つ重要なことがあった。
神田氏の「相棒」である細谷金作氏、すなわち郷土開発の動きである。


 「開発」で超短期譲渡の高税率を切り抜けよ!

 先にも述べたとおり、政府は当時の異常な地価高騰の原因に土地コロガシがあるとし、87年(昭62)から超短期土地譲渡に対する重課税を導入した。取得後5年以内の短期土地譲渡に20%の割り増し課税が、さらに超短期(取得後2年以内)には別途で30%の法人税が課税されることになったのである。地方税と合わせれば、超短期土地譲渡に対する税額はほぼ100%となり、つまりは「ほとんどが税金で持って行かれ」てしまうのだ。神田氏および細谷金作氏が2筆を転がしていたのは、そんな状況の最中にあった。

 本連載の第1回「謎の空き地を追え!」の冒頭部分で、本紙はこう書いたのを覚えていらっしゃるだろうか。

<長い間、ここは空き地のままだった。若い世代に、この空き地がどうして生まれたのかを知るものは少ない。いや、年配の方にとっても同様であろう。この空き地は、1988年(昭和63年)の秋深まる頃、何の前触れもなく「突如として」出現したからである。近隣の住民に何らの説明もないまま突然、宅建業者(付近住民が業者名を問うと「郷土開発」と名乗った)がやって来て、いきなり森林の伐採を始めたのである。わずかな期間にダンプカー100余台が騒々しく出入りした。そして何かの図面に基づいたかのように森を直線で切り取り、美しい山林の一角から、あらゆる自然の営みを消し去ったのだ>

 もう一度「時系列表」をご覧いただきたい。1988年(昭和63年)の、おそらくは秋深まる頃……すなわち県が「川越笠幡団地配置図」を作成したときから、翌年2月13日の「5筆まとめ売却」にいたるまでの時期に、郷土開発の細谷金作氏は5筆に相当する山林を伐採し、「謎の空き地」を作ったのである。

  それは単に「見栄えを良くしてから県に買い取らせる」だけが目的ではなかった。

  先に述べたとおり、短期土地譲渡の税率は非常に高い。「超短期」なら、売買収益のほとんど100%近くが税金として持って行かれる。そのためにあえて「開発行為」を、県の買い上げに先んじて行ったのである。

  樹木が茂る山林のままで売買したのでは、いくらで買い、いくらで売ったのか、要した諸経費はいくらだったか、譲渡益はいくらになったのか、は簡単に明らかになる。

  ところが木々を伐開(伐木・伐根)し更地にする=開発するとなれば話は別だ。伐採にかかる費用、また伐根についての費用が発生する。伐開現場から出る伐根、剪定枝、伐採木等は産業廃棄物であるため、「根」のついた部分に対する処理費も発生する。ダンプカー100台が騒々しく出入りするこうした「開発」に係る費用を計上し調整すれば、諸経費の名目で利益を「税逃れ」させることができるのだ。

 県への売却前に開発……それは細谷金作氏が行った、いわば節税対策という意味を持っていたはずだ。だがこの一見いいアイディアに見える節税行為のため、細谷金作氏は埼玉県宅建業協会会長として絶対にしてはならない違反を行ったと主張するのが、細谷金作氏と同業者である、ある不動産業者の指摘だ。


 郷土開発細谷金作氏の「違反行為」

 この人物の指摘と本紙の取材結果をまとめると、以下の通りになる。少々長いのだが重要なことなので列挙する。

【国土利用計画法の届出義務違反】

 市街化調整区域かつ地目が山林の場合、開発行為を行うには許可が必要。
 川越市を経由して埼玉県知事に届出(かならず川越市を経由しなければならない)。
 だが「謎の空き地」には届出が出ていない(市職員は「届出が出ていないのは不思議だ」と回答)
 国土利用計画法は「一定の面積要件を満たす有償の土地取引」に対し規制を設けている。市街化区域の場合は2,000u以上、市街化調整区域の場合は5,000u以上が、この面積要件となっている。したがって5,000u以上の山林を取引する場合は、届出をしなければならない。
 開発行為は届出を行い「許可通知書」が送られてきて、はじめて法的に可能となる。(国土利用計画法29条4項)

【都市計画法違反】

 市街化調整区域は、都市計画法第7条第3項の規定により市街化を抑制すべきものとして指定されている区域であり、従って開発行為は原則として認められない。したがって「宅地造成目的」(開発行為)そのものが違反。
 山林の売買自体は違反ではなく、伐採も違反行為ではない。だが伐根(根を抜く)して宅地造成を行うのは明白な違反である。
 市街化調整区域の開発行為において、特例的に認められているものは、

- 市街化区域内においては立地困難なもの
- 市街化調整区域にあっても最小限必要と認められるもの

  等がある。この特例は同法34条に該当する場合に限られており、その条件は1号〜10号までに大別され、それぞれ農業用倉庫や火薬貯蔵庫、老人保護施設等が具体的にあげられているのだが、基本的には「市街化を促進するおそれがないもの」といえる。

【宅地建物取引主任者の重要事項説明違反】

宅地建物取引主任者の資格で行わねばならない業務は3点ある。

- 契約締結の前に行う重要事項の説明
- 重要事項説明書の署名・捺印
- 契約書の署名・捺印

宅地建物の取引を行う上で、宅地建物取引主任者は主任者証を提示しつつ、取引相手に対して必ず、「重要事項説明書」という書類によって、その物件の重要事項を説明しなければならない義務がある。
(宅地建物取引主任者以外の者が重要事項説明を行うことはできない)。
重要事項の説明内容は必ず書面にして取引相手に渡さねばならない。重要事項は複雑でわかりにくいことであるため、口頭による説明だけでは不足だからである。この書面の交付も、宅地建物取引主任者本人が行わねばらならない。
またこのとき、重要事項説明書には宅地建物取引主任者の記名と押印が必要となる。説明内容の責任者を明確にするためである。


 「聞いてはならぬ説明」……
「郷土開発」の存在を隠したがった、神田氏の真の理由とは?

 土地売買は「母が勝手にやったこと」であり、県住建設計画など「まったく知らなかった」と神田氏が主張するには、どのような条件が揃っていればよいのか。神田氏の立場を想像してみよう。

 宅地建物取引主任者(免許業者)が山林を買う。その際には重要事項として、取得した土地の使用目的を説明しなければならない。ここで主任者は「開発行為」に言及しなければならないのである。

 もう一度<時系列表>をご覧いただきたい。郷土開発に直接、土地を売却した地権者はS氏と神田氏の2名である。I氏は86年(昭61)5月28日、すでに山陽興産に売却している。このときはまだ「マスタープラン」は発動前であると考えられる。したがって山陽興産がI氏に対し説明した「取得目的」は、ダークな匂いのない、山林売買で一般的な理由であったと想像される。

 神田氏が小沼土建に売却した地番「1678-2」……。小沼土建はこの土地を2週間後、七福商事に売却している。小沼土建の登記簿には、目的欄に「不動産の売買及び斡旋、賃貸」が明記されている。ならば同社には宅地建物取引主任者が存在するはずである。

 小沼土建が神田氏から土地を購入した際に「取得目的」を説明した際には、おそらく転売等の「資産運用に関する理由」を述べたと思われるが、本紙には想像の域を出ず、また知る由もないことである。

 また、免許業者から免許業者への売買については、「重要事項の説明」義務はない。
各地権者と郷土開発との関係において、「重要事項の説明」を中心に並べてみれば、次のようになる(なお「重要事項」には土地の取得目的等が含まれることはいうまでもない)

* 七福商事→郷土開発に関しては(免許業者から免許業者に対しての売買であるため)重要事項説明は不要。

* 神田氏→小沼土建→七福商事→郷土開発については、小沼土建が神田氏に対し重要事項を説明する義務がある

* S氏→郷土開発については、郷土開発がS氏に対し重要事項を説明する義務がある。

* 神田氏→郷土開発については、郷土開発が神田氏に対し重要事項を説明する義務がある。

 郷土開発の宅地建物取引主任者が「重要事項」を説明しなければならない売り手は、S氏と神田氏なのである。

 ここで、両者が所有する土地の面積を見てみよう。S氏が郷土開発に売却した土地、地番「1671-1」の面積は2,016u。また神田氏が郷土開発に売却した土地、「1678-1」の面積は2,095u。これら2筆の土地を合わせると、4,111uである。

 一見「個々の取引面積のみならず、合計したって5千平米に満たないではないか。ならば届出は必要ないのでは……」と思われるかもしれない。

  だが郷土開発は「謎の空き地」に属する土地5筆をまとめて、「開発目的」に購入しているのである。したがってすでに郷土開発が所有しているI氏の1筆、神田氏の他の土地を自社保有分として合算し、一括した面積をはじき出さねばならない。すなわち、総面積は8,434uとなる。5千平米など、優に超えるのだ。

  したがって「謎の空き地」の場合……一括面積が5千平米を超える「開発目的」での山林売買の際、免許業者である郷土開発は、S氏と神田氏に対し、確実に(たとえ当人らが遠慮したとしても)「重要事項」……山林の購入目的を説明しなければならず、その上でS氏と郷土開発、神田氏と郷土開発が、それぞれ個別に国土利用計画法に基づく届出を、所轄である川越市役所に行わねばならないのである。

 ここが重要だ。つまり郷土開発と神田氏との間に直接売買契約が取り交わされたとなれば、神田は「知っていた」ことになる。行政の要職にいる立場の人間が、「市街化調整区域の開発を知っていた」ことになってしまうのだ。

 神田氏の立場なら当然、「あそこは市街化調整区域です。何のために開発するのですか。宅地造成目的なら、不可能ですよ」と郷土開発に注意しなければならない。あるいは土地取得後の郷土開発の行為について注視し、違法であることを知り得た場合には必ず告発しなければならない。これは公務員の義務である。

 だが、神田氏はしなかった。川越市にも届出は提出されていなかった。すべては「マスタープラン」の筋書き通りだったからとしか、考えられないではないか。

 神田氏にとって、郷土開発から、同社の土地取得目的が開発行為であることを「聞かされる立場」にいては、絶対にまずいのである。同様に郷土開発にも、神田氏に重要事項を説明しなければならない「局面」があってはまずいのだ。互いに、直接売買という接点があってはならないのである。

 郷土開発が「1678-1」を取得後、登記をしないまま埼玉県に売却したことには、こうした理由があった。

 そして神田氏が執拗に「『1678-1』はわたしが県に直接売ったのです」と、自らの当時の経歴(川越市経済部次長)が非難の俎上に乗せられることを覚悟しつつ、本紙に虚偽回答してきたのも、同じ理由だったのだ。売買当時に市の幹部職員だったといえ、「母がやったことで自分は関知していない」という言い訳で押し切り、「県住建設計画など、まったく知らなかった」と言い張れるからだ。


 マスタープランの「完了証」

 ではそろそろ、「5筆の土地は郷土開発がまとめて県に売却した」事実に対する証拠をお見せしよう。

<平成元年2月13日に埼玉県が発行した「土地買収明細書」。乙欄には郷土開発(株)代表取締役である細谷金作氏の「署名および捺印」がはっきり見える。>
(各画像をクリックすると拡大します)

 おわかりだろうか。5筆の土地すべての所有者は郷土開発株式会社、土地の地目は「山林」である。売却金額は876,015,920円。これが「マスタープラン」の、いわば完了証である。

「謎の空き地」を購入する際、県は必ず、必ずあの土地の現場を訪れ、職員らが直に土地の状態を目にしているはずなのだ。「謎の空き地」の、いったいどこが山林なのだ?紛う方なき更地ではないか。

  県はあの土地の地価が超短期譲渡の繰り返しによって高騰し、さらに100台分のダンプで更地にしたことを知りながら、地目「山林」として郷土開発から買ったのである。宅地として買ったのではない。

  山林は宅地よりずっと安いはずである。しかし何度も言う。県は宅地の価格で、山林を買ったのである。業者が宅地にしたものを、県は改めて「山林」として買ったのだ。

 通常の土地取引であれば、疑問が噴出するはずだ。

  そもそも本来、国や県が土地を買収する際は地権者との直接契約が基本だ。しかし現実には、郷土開発は第三者の土地をまとめて県に売却した。埼玉県住宅建設課が郷土開発に土地買収の依頼など、するはずがないのである。

  その郷土開発は山林を更地にした。ならば県は、郷土開発から「謎の空き地」を購入する際、郷土開発は国土利用計画法に基づく届出を行っていたか、開発許可違反はないか……等をチェックしなければならない。県が「知らないで買った」では通用しない。「なぜあなたが5筆をまとめたのか。開発許可等の届出はきちんと出しているのか」と、郷土開発に問いただすのは当然のことだからだ。

  だが、「マスタープラン」の側からみれば、郷土開発とは計画の一員として守るべき存在である。開発許可の有無はおろか、なぜ郷土開発がとりまとめたのかも、聞く必要がない……いや「追及してはならない」のだ。


 逃げまどう細谷金作氏の姿勢に
会長をかばう宅建業者らの感情は怒りに変わった!

 本紙は再三にわたり、細谷金作氏に取材を申し込んだ。われわれが何より聞きたいのは「謎の空き地」をめぐる、細谷氏の主張だ。氏を断罪することではない。だが、細谷氏は逃げ回るばかりなのだ。

 それは何気ない会話から始まった。

 本紙記者が、知人と立ち話をしていたときである。この人物を、仮にA氏としておこう。A氏もまた埼玉県で不動産会社を営む宅建業者であり、埼玉県宅地建物取引業協会の会員である。

 会話の中でふと細谷金作氏の名が出てきたのをきっかけに、本紙記者は細谷金作氏に対し「ある疑念」を抱いている旨を述べた。するとA氏は「うちの会長に何かあったのか」と問いかけてきたのだ。

 本紙はA氏に「謎の空き地」をめぐる一連の疑惑について語り、その中で細谷金作氏がどのような役割を果たし、いかなる行動をとったのかを説明した。するとA氏の顔はみるみる赤らみ、本紙に対し強い口調でこう言ったのだ。

「冗談じゃない。うちの会長がそんなことをするはずがないではないか。細谷氏は埼玉県宅地建物取引業協会の会長、われわれの代表だよ。そんなことを新聞に書かれたら、不動産業界そのものが胡散臭い眼で見られるじゃないか」

  A氏は曲がったことを嫌う、プライドの高い人物である。埼玉県下で不動産業を営む彼には、地域に貢献する業者としての大きな誇りがあったのだ。

  だが、本紙がこれまで行った調査の結果はすべて、細谷金作氏が神田氏といわば「グル」であったことを、歴然と指し示していた。本紙はA氏に対し、細谷氏がなぜ疑惑の人物であるかをつまびらかに話し、「土地買収明細書」のコピーを手渡した。

「それが本当なら大問題だが、やはり考えられないことだ。ならば私が会長に会って、直接聞いてみようじゃないか」。A氏は半信半疑の様子だった。

  後日、A氏は親しい同業者B氏を伴い、細谷氏を訪れた。A氏と細谷氏2人だけの会話では、後でA氏が本紙に報告するとき、聞き漏らしや誤解が生じることを懸念したのだろう。B氏をいわば証人として同行したのである。

  B氏もまた同じ宅建業者として、協会会長である細谷氏に大いなる信頼を寄せていた人物だ。

  A氏は細谷氏と会見し、本紙から聞いた話を縷々説明し「土地買収明細書」のコピーを見せた。すると細谷氏はよどみなくこう回答したという。

「この署名だが、これは俺の字じゃないね。誰かが俺の名前を使って勝手に書いたものだ。それにうち(郷土開発)はゴム印を使う。手書きなんかで書類にサインはしない。神田市議?彼とは別の件で1回ぐらいは会ったことがあると記憶するが、実際のところほとんど知らない。第一、笠幡の土地なんか、いじくったこともないし、まして県に売った覚えなど全くない……」

  A氏もB氏も、内心ほっとしたという。同業者の代表たる細谷氏が、本紙が指摘するような行為に及んでいた場合、埼玉県下の不動産業界全体に大きなダメージを受ける。だが何のてらいもなく言下に否定する細谷氏を見て、A氏もB氏も「やはりこんな事実はなかったのだ」と安心したという。

「ならば、こんな嫌疑をかけられること自体が不名誉です。この際一度、行政調査新聞に会ってご自分の主張を説明したほうがいいのではないですか」と問いかけるA氏に対し、細谷氏はこのとき、

「いいですよ。会いましょう。ただしこのところ忙しいので、○○日の午前中、30分ぐらいなら時間がとれます。そのとき会いましょう」

 と、明快に約束したのである。A氏が本紙に「取材の約束がとれた」ことを報告してきたのは言うまでもない。

  翌日A氏は確認の意味をかねて再び細谷氏を訪れた。A氏にとって、本紙の話はそれだけ衝撃的だったのだ。確認ミスをさけるため昨日、B氏を同伴した際と同じ内容の問いかけを、もう一度細谷氏に質したという。

  細谷氏の回答はやはり同じだった。書類にある署名は細谷氏の字ではなく、そもそも手書きではなくゴム印を使用すること、そして「謎の空き地」など、知りもしなければ県に売った覚えもない……。要するに埼玉県が発行した「土地買収明細書」の、全否定だったのである。

  A氏の話を聞いた本紙は、細谷氏に取材できるその日を待った。

  だが本紙が細谷氏に取材する機会は、ついに訪れなかった。細谷氏からA氏に対し「○○日の午前中は時間の都合がつかないため会えない」とのFAXや手紙が、一方的に送られてきたのだ。

  ほとんどドタキャンに近い「都合により会えない」だけを送り、代替日時を指定してこなかった。

「土地買収明細書」を「俺が書いたものじゃない」と言下に否定する細谷氏の表情に一時は安堵したA氏だったが、行政調査新聞の取材に対する、代替日時なしの一方的な断りの通知に対して、A氏の脳裏には一抹の疑念がよぎったという。

 細谷会長があれほど言下に否定するならば、なぜ会長は行政調査新聞と会おうとしないのか。そもそもこの「土地買収明細書」が偽物であるならば、自社名、細谷氏の名を騙った有印公文書偽造の犯罪行為である。にもかかわらず細谷氏は、こちらが訪ね「土地買収明細書」を見せて初めて「俺が書いたものじゃない」と強硬に否定するだけで、それ以上のアクションをなにも起こさないのだ。勝手に名前を使われた、というのなら、行政調査新聞なり他のメディアなりに、堂々と主張すればいいのではないか。

 A氏は数日考えた。細谷氏は何かを「隠している」のではなかろうか。おかしい。会長はなぜ黙したまま、自らにかけられた疑いに何も反論しようとしないのか。行政調査新聞が主張するとおり、それが本当ならば大問題だ。業界全体がうけるダメージは計り知れない。もういちど細谷氏を訪ねても、同じ会話の繰り返しになることを予想したA氏は、細谷氏に内容証明郵便を出したのである。

  実はA氏の懸念は、業界全体が蒙るかもしれないダメージだけではなかった。市街化調整区域をダンプ100台分で開発した際、郷土開発が現場の作業を委託した先が、A氏と深い関わりのある業者だったからだ。

  A氏は本紙の話を元に、自らに生じた疑問点を箇条書きにし、細谷氏に内容証明郵便として送ったのである。それは細谷会長を信じようとしたA氏の「最後の頼み」だった。

  だが、細谷氏はA氏の内容証明郵便を、握りつぶしたのである。A氏は本紙にも当初、ほとんど激高にちかい表情で細谷氏をかばった。業界のイメージダウンになるような話を、みだりに書かれては困る……A氏は不動産業界に誇りを持っていると同時に、細谷会長を信頼しきっていたのである。

  細谷氏との2度の会見の後も、A氏は会長を信じようとした。だから内容証明郵便を送ったのである。しかしA氏のそんな気持ちにさえ、もはや細谷氏は答えなくなってしまった。

「協会会長」を信じていたのに。何だあなたの態度は。それでは会長ではないではないか……。A氏の気持ちは、怒りに変わった。初回の訪問時に同伴したB氏にもことの経過を告げると、B氏も同様に怒りを隠さなかった。

  本紙にも、依然として細谷氏からの連絡はなかった。つまり取材を「拒否された」のだ。
A氏は考えた。会長が取材を拒否したということは、これまでの嫌疑……すなわち公務員と民間不動産業者とのグルにより、約9億円の公金が略取された疑いが事実であったことを認めたのと、同義ではないのか。

  ならば業界団体の会長である細谷金作氏は、会員に対して嘘をついたことになる。埼玉県が発行した公文書が「偽物である」と、会員の目の前で嘘をついたことになるのだ。

  埼玉県宅地建物取引業協会会長の細谷金作氏は、自らに向けられた嫌疑に対する「逃げの姿勢」で、他ならぬ会員の怒りを呼んだのである。

  A氏、B氏の行為は、業界のいわば自浄作用だ。不動産という業種を通じて地域に貢献する、彼らのようなプライドを持つ業者……こうした健全な業者の存在、業者が業者を糺してゆくその真剣な姿と願いこそが、業界内部の自浄作用として機能し、業界全体を救済するのである

  なお行政調査新聞社の取材申し込みに対して、細谷金作氏からの連絡はついに来なかった……。


 今回のまとめ

 今回連載分は非常に長く、内容も複雑である。ここで読者諸氏への閲覧と、よりいっそうの理解に供すべく、本文を簡単にまとめておく。

 「謎の空き地」の構成

- 川越市大字笠幡字中新町(市街化調整区域)に存在し、総面積は8,423.23u。
- 地目は「山林」
- 土地構成および地権者は以下の通り
   地番1678-1(2095u):神田壽雄氏
地番1678-2(1652u):神田壽雄氏
   地番1671-1(2016u):S氏
   地番1672(2295u):I氏
   地番1679-3(376u):神田氏の親戚
5筆のうち2筆を所有する神田氏は、地権者のいわば代表格にあたる。

マスタープラン

本紙が「マスタープラン」と呼ぶのは、神田壽雄氏が自ら所有する2筆の山林を処分するにあたり、氏の相談に乗った「県の有力者」が、神田氏の意をくみ上げて実行した計画。具体的には5筆の土地に「仮称・県住川越笠幡団地」を建設する計画である。

  - この計画は2006年現在、いまだに継続事業である。にもかかわらず、県にはこの事業に関する資料が事実上、皆無である。5筆を購入した経緯等の資料も存在しない。郷土開発から購入したことを示す「土地買収明細書」のみが、土地購入に関する唯一の資料である。


地番1678-2の土地について神田氏が本紙に述べた虚偽

神田氏は本紙に対し、「1678-2」の土地は氏の母親が昭和62年7月に小沼土建に売却したものであり、自分は関知しなかったと説明した。

- 神田氏の母親は平成16年に89歳で逝去している。逆算すれば72歳の時点で、地権者名義人である神田壽雄氏に知らせることなく、「1678-2」の土地を小沼土建に売ったことになる。年齢、売却目的等を勘案すると、あまりにも不自然である。
- 神田氏は当時川越市経済部次長。市街化調整区域の売買を厳しく監視する立場にあった。だから「母親は神田氏に知らせることなく、土地を処分した」とし、まるで暗に母親を罪人扱いしている。氏の母親が気の毒である。

この虚偽の目的は、神田氏が小沼土建から

-市街化調整区域の宅地開発という「土地取得目的」を含む重要事項説明を聞いていないことを主張する

ためと思われる。


地番1678-1をめぐる経緯〜郷土開発の未登記について

神田氏の述べた土地売買の経緯は、埼玉県が発行した「公文書不開示決定通知書」および「土地買収明細書」の両文書により虚偽であることが判明した。神田氏と県との直接売買の経緯は存在しない。

地番「1678-1」は、神田氏から郷土開発に所有権が移転した
(「土地買収明細書」がこれを証明)

郷土開発は「1678-1」に対し、未登記状態のまま、最終的に他5筆とまとめて売却した
(「1678-1」の土地登記簿謄本がこれを証明。同謄本には郷土開発が所有者として登場しない)

上記の2公文書が示すのは、県は当該地を含め5筆の土地をすべて郷土開発から購入した事実である。

神田氏は「1678-1」の土地売買に関し、氏自身と郷土開発との売買経緯を隠蔽するため、虚偽を述べている。

この虚偽の目的は、神田氏が郷土開発から

-市街化調整区域の宅地開発という「土地取得目的」を含む重要事項説明を聞いていないことを主張する

ためと思われる。

土地コロガシと公務員の守秘義務違反

埼玉県による買い上げが保証されていた。

- 短期土地譲渡による利益追求は、「より高値で買う」買い手がいて初めて機能する。
- 「より高値で買う」のは、購入金額を上回る売買価格で確実に転売できることが事実として、買い手に認識されているからである。
- 5筆の当該地は市街化調整区域の山林であり、不動産売買の対象としての価値はないに等しい。
- にもかかわらず不動産業者間で、5筆のうち2筆の土地が、どちらも1987年(昭62)の5月後半から9月末までの、約4ヶ月半の間に転売を繰り返され、転売における最終所有者として郷土開発が5筆を所有した。
- 「確実に売れる」ことを明確に知り得て初めて、郷土開発は5筆を所有できる。

# なお転売の際、当該地の1筆に対し2億8千万円もの極度額が設定されている。金融機関が「山林」の一角にこれほどの鑑定評価額を設定するのは、最終的に県が買い上げることを知っていたためと思われる。

これらの短期土地譲渡は、参画した不動産業者すべてが「マスタープラン」の存在を知らなければ、なしえないことである。県住建設計画を特定の業者にのみ漏洩した、神田壽雄氏(当時川越市経済部次長)の守秘義務違反の疑いがある。


無届けの開発行為と節税・郷土開発の違反

郷土開発は、取得した5筆の土地を無届けのまま宅地造成した。

- 昭和62年から、超短期土地譲渡に対する重課税が導入された。これにより取得2年以内の土地転売に対しては、約100%が課税されることとなった。
- そのため郷土開発は取得した5筆の山林を、無届けのまま宅地造成した。伐採・伐根、盛り土等の開発費用を経費として計上し、自らの利益に転じる目的があったと思われる。
- 同時に、更地で売却する方が、山林のまま売却するよりも値をつり上げられる、との目的もあったと思われる。

だが郷土開発の宅地造成は無届けで行われた。すなわち

- 国土利用計画法の届出義務違反
- 都市計画法違反
- 宅地建物取引主任者の重要事項説明違反

である疑いが極めて濃厚である。

県は、山林を「宅地並みの価格」で購入したのである。


細谷金作氏の取材拒否

  本紙に対し、細谷金作氏は取材を拒否し今日に至っている。

県住建設計画は、継続事業である

 なお、「仮称・県住川越笠幡団地」計画は現在も継続中の案件である。

 最後に、本紙が行った埼玉県への質問(7項目)と、県側の回答を再掲する。

本紙の質問

1:埼玉県が川越市大字笠幡字中新町に建設を予定している県営住宅について、事業計画の正式名称を知りたい。

2:上記事業は、具体的に何年の何月頃から計画が起案され、当該予定地の地権者に対して何年の何月何日に県側の買収意図が伝達されたのか。

3:この事業計画に関連して、こうした用地を県が買収する場合、用地の適否等について地元自治体関係者などに照合するのが通常だと前回の取材でご教示戴いたが、当該事業については川越市側との調整はどのように行われたのか。

4:本紙調査では、当該予定地のうち二筆の買収地(大字笠幡字中新町1672、同1678)について県が買収する以前に不自然な売買が同じ業者によって繰り返されたが、そのことを県は買収以前に調査していなかったのか。

5:行政機関等が公用地として取得を希望する土地については、事業の手続きの中で現状を固定するため、転売や利用様態を変更したり過分に価値を附加するような開発行為・築造が禁止、制限される。大字笠幡中新町の当該地については、何年何月何日付をもってこうした制限をかけたのか。

6:当該事業が進捗する前後、県川越土木事務所長、県住宅都市部長を歴任した村上貞夫氏が川越市助役に就任している。当該事業と同氏の関わりについて、ご教示願いたい。

7:いまだ当該事業は完成を見ていないが、今後の進捗見通しについてご教示願いたい(事業は今日も継続中なのか、今後中断して違う計画に変更する可能性があるのか、その他)。

県の回答

質問1の回答は、仮称「県住川越笠幡団地」です。
質問7への回答は、「現在は凍結中ということで、継続事業となっております」
質問2〜6に対しては、資料の不備等で「わかりません」

(つづく)

 

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