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「地域の子どもを守れ!」市民が結集し週5日の巡回活動
防犯ボランティア団体・霞ヶ関セーフティパトロールクラブKSPC
「子どもたちの声に励まされて、活動を続けているんですよ」

地域の子どもたちを守る安全弁
トレードマークは「緑のベストに青の帽子」!

 霞ヶ関東の入間川流域から伊勢原町にまで至る広い地域では週に3回、通学路にあふれた子どもたちにつきそい、元気な下校姿をほほえましく見守りながら、一人一人を家へと送り届ける「おじちゃん・おばちゃん」たちがいる。緑のベストには「防犯パトロール」、そして鮮やかな青の帽子には「KSPC」の黄色い文字が誇らしげだ。

 KSPC……彼らの名は「霞ヶ関セーフティパトロールクラブ」だ。現在43名を擁するKSPCのメンバーの平均年齢は65歳。中核をなすのは定年退職組だが、子育てに追われる主婦も参加している。

 彼らの活動は昼夜を問わない。週3回の下校時パトロールのほかに週2回、午後7時より霞ヶ関駅南口付近から伊勢原方面にかけての巡回をも行っている。危険な箇所等の改善を要望する市民の声を受け、近隣の交番や川越警察署への橋渡し役もつとめる。特に児童を狙う悪質な犯罪を未然に防ぎ、地域の安全弁となるべく粉骨砕身するKSPCメンバーたち……。本紙は、いまや霞ヶ関エリアには欠かせないものとなりつつあるKSPCにインタビューした。会長の水村圭吾氏、同代表の原田晋一氏をはじめとするKSPCメンバーとの取材で、彼らの知られざる姿やエピソードから、防犯ボランティアが急増する現代社会の問題点を探ってみた。

 警察庁が発表した昨年(05年)1月から11月までの、子どもの犯罪被害件数は「12歳以下の略取・誘拐の被害件数」が91人、「未就学児の犯罪被害件数」が577人、「12歳以下の犯罪被害件数」は……何と23226人である。1ヶ月に約2111人、1日平均で約65人の子どもが何らかの犯罪のターゲットとなっている計算になる。これはあくまで警察庁が認知した件数であり、実際に発生した件数はさらに多いであろうと考えられる。

 そうしたなか、地域の子どもたちを守るべく立ち上がった、霞ヶ関に住む市民たちがいた。

KSPCの誕生である。昨年7月22日、霞ヶ関公民館で行われた発会式(自主防犯説明会)には、川越市役所の市民活動支援課防犯担当主査も参席した。自治会の非役員ら、わずか13名からのスタートだった。

 川越市自治会連合会傘下には22の支会がある。その一つである霞ヶ関北支会には「青少年を育てる霞ヶ関北地区会議」がある。地域14自治会の会長、および小・中学校の学校長、PTA会長、3つの老人会の会長を交えた一つの組織だ。

 この「霞ヶ関北地区会議」が7年にわたり取り組んできた事業の一つに「子ども110番の家」事業がある。

「子ども110番の家事業」とは、子どものためのいわば「駆け込み寺」となる場所を、おもに通学路付近に用意するボランティア運動。この運動は現在、幼児・児童を対象とした誘拐事件、殺傷事件が連続して発生したことを契機として全国的な広がりをみせている。

 自治体や警察、PTAなどが主体となり、子どもたちが下校時や児童公園、広場等で不審者に襲われたり、声かけ・痴漢・付きまとい行為の被害を受けたときに、こどもが安心して避難できる場所を増やしていくのである。

 不審者(犯人)から逃れるために駆け込んできた子どもたちの安全を確保すると同時に、110番通報、学校や家庭への連絡などの対応を行う「こども110番」は、おもにこの運動に協力する一般家庭ないしは商店、事業所が対象であった。だが最近では鉄道事業者による「こども110番の駅」の全国的取り組みをはじめ、「動くこども110番」としてタクシー、バス、運送業者車両、郵便局配達車両、新聞配達車両、農業協同組合、東京ガス株式会社、市公用車・清掃車等にも、この運動は急速に波及している。

「子ども110番」協力世帯に対しては、各事業主体が掲出用のマークを作成し配布する。霞ヶ関北地区会議ではこれまで「こども110番ボード」を毎年数多く作成し、協力家庭に配布してきた。

「協力世帯はあくまで通学路周辺をベースにしています。ところが7年もつづけていると、だんだん張るところがなくなってきたんです。こども110番ボードが張り出されている数は正確にはわかりませんが、商業施設も含めるとかなりの枚数です」(水村会長)

 川越市市民部青少年課は「子ども110番の家事業」に対して年間で5万円を上限とする助成金を支給している。ボード等の作成費用に充てられる助成金なのだが、新たにボードを張る家屋・商業施設数が徐々に少なくなれば当然、ボード製作費はかからなくなり、助成金はプールされることになる。

 このプール金だけが現在、43名のメンバーが週に5回の巡回を行う団体、KSPCを支えているのである。

「下校誘導時に着用する緑のベストや腕章は川越警察署から、また霞ヶ関北支会からは誘導灯などの援助を受けて活動しています」(水村会長)

 炎天下の夏ともなれば、KSPCメンバーとて麦茶の一杯も欲しくなるだろう。だが行動費のすべては「手弁当」なのだ。

 KSPCの「K」は「霞ヶ関」の略。「霞ヶ関北」ではない。完全ボランティアグループとして活動するKSPCがカバーする地域は広く、3つの学校区を超えてまたがるため、あえて「北」をつけずに「霞ヶ関」としているのだという。

変質者多発、不良少年のたまり場
巡回活動には危険がいっぱい!

「霞ヶ関セーフティパトロールクラブ月報(05年8月〜12月分)」をめくると、同年7月に正式立ち上げしたKSPCが、パトロールの時間や巡回コースの組み合わせ等について試行錯誤しながら、入念に練り上げていくさまがうかがえる。

 10月28日の欄を見ると、こんな生々しい記述が目を射る。

10月28日(金):霞ヶ関北小・下校時パトロール
参加人員:4名
特記事項:午後3時、大学前集合。北小下校路警戒パトロール。西自治管内に刃物を持った暴漢、下校時の北小学童に斬りかかる。要注意!

 子どもにつけ狙う犯罪者から児童を守るのである。危険に遭遇することもある。KSPCが遭遇するうちで多いものは、やはり変質者的な行為が子どもたちへの脅威となっているケースだという。

「北小の歩道橋の下で、あれは中高生ぐらいだったと思いますが、少年たちが歩道橋の上を通る女の子たちをのぞき込んでいたことがあります。公民館ではビデオを持った男がやはり女の子に接近し『パンツを撮らせて』と迫ってきた、ということもありました」

 前者を百歩譲って少年たちの好奇心と見なせても、後者は完全に犯罪だ。もし子どもたちの近くにKSPCメンバーがいなければ、犯罪者は目的を達していたのである。
  KSPCメンバーは犯罪者あるいは不審者に対し、直接的な注意または警告を行うのだろうか。

「いや、直接的に注意する、ということはあまりしません。警察の方から『声をかけたり手を出したりは、極力しないでください』と要請されていますし。一緒に巡回しているメンバーはたいてい携帯電話を持っていますから、すぐに110番するようにしています」

 そして実際に110番通報をしたケースも、この1年間に何回もあるという。原田代表は最近起きた、ある事例を語った。

「最近では、北小と複合施設となっている西図書館で『捕物』があったのです。小さな女の子……5歳ぐらいの女の子が図書館で本を読んでいたのですが、その子が書架のあちこちを動くと、一人の不審な若い男が、気配を潜めて尾行するかのように着いていくのです。職員がその不審者に気づいて110番通報したところ、パトカーが2台も駆けつけてきました。警察官の姿を目にした男は態度を豹変させ、図書館内で暴れ出したのです。結局、男は逮捕されました。しかしこうした事件があってからは図書館長からも『こちらも巡回してほしい』と依頼され、いまでは図書館内も巡回コースの一部になっています」

 わずか一年あまりの活動で、KSPCは地域から頼られる存在になっているのである。

「こちらから注意することはほとんどありません」というKSPCだが、水村会長の話はこうだ。

「霞ヶ関東町でのことなのですが、団地の中で高校生が中学生を待ち伏せし、恐喝を行っていたのです。ちょうど自分たちの後輩にあたる中学生が下校するのを狙って、金品などを巻き上げていたわけです。わたしはその事実を知ってからというもの、彼らを見つければ何度も注意しました。しかしあるとき、わたしが再び注意しようとすると、複数の高校生がわたしを取り巻きました。こちらと違って相手は体力の有り余る高校生です。幸いなことに近所の方が、わたしの状況を目撃して心配し、110番してくれました。その方はわたし……つまり防犯ボランティアグループの会長であるわたしの顔を、憶えていてくれたのです。『あ、あそこで不良高校生に取り囲まれているのは、会長じゃないのか』とね。すぐにパトカーが来ましたよ。それ以来、不良高校生たちも見かけなくなりました」

 暴走族や不良少年になまじ注意したばかり、逆に殺される哀れな老人の話さえ珍しくないご時世である。KSPCは地域に貢献し、地域もまた彼らの活動に感謝し、応援する……。こうした地域ぐるみの協力体制は、いま確実に生まれつつある。地域に醸成されるこうした雰囲気こそが児童を守り、青少年の健全な育成を促進し、犯罪の減少をもたらすことは間違いない。

「子どもたちの声に励まされて、活動を続けています」

 小学生にとっての「魔の時間帯」は午後3時〜6時ごろという。統計資料によれば、子どもたちが誘拐や声かけなどの事件に遭遇することが圧倒的に多いのは、下校途中の通学路。近年に発生した痛ましい事件の犠牲になったのも、この時間帯に一人で帰宅した子どもが多い。

 これまでは始業時間に間に合うため登校こそほぼ決まった時間内であったが、ひとたび学校が終われば、そのまま家路に向かう子、放課後に少し学校に残って遊ぶ子、居残りする子がいたりと、帰宅はばらばらになるのが普通だった。

 だが昨今では「子どもを一人で帰らせない」「暗くなる前に家に着く」ために集団登下校方式を取り入れている小学校が全国レベルで増えている。かつて公園では、学校帰りの子どもたちがランドセルを放り投げ、友達と缶蹴り遊びに夢中になっていた……現代はもはや、そんな時代ではないのか。

 KSPCの主要な活動の一つが、子どもの下校の付き添いである。同じ方向へ帰る子どもたちを班ごとにわけ、学校に近い家から順に家庭へ送り届ける。

「今年の春休みのことです。風の強い日でしたね。学校に行くいつもの時期なら、私たちが最後に送り届けていた、一番遠いところに住んでいた男の子でした……」

 女性メンバーが沈痛な面持ちで語った。

「4年生になる新学期を目前にした4月3日、その男の子は交通事故で亡くなってしまったのです。的場たぬき山公園付近の路上で、建設業者の奥さんが運転する車にはねられて……。一番遠方のお子さんでしたから、ふだんの下校の時には一番長く接していたんです。いまでも、あの子の顔を思い出すと、いたたまれない気持ちになります」

 この悲劇が教訓となり、KSPCメンバーには「学校が休みの期間でも、子どもには充分に目を配っていこう」という気持ちがいっそう強くなったという。

「休みの日ですとやはり、子どもは子ども同士で遊びます。でもときには……ある種のいじめのようなものでしょうか、『置いてきぼり』にされる子どもがいるのです。この前も、路上で大声を出して泣いている子どもがいました。『どうしたの。誰かにいじめられたの』と声をかけると『違うの。みんなわたしを置いて帰っちゃった。お家がどっちなのかわからなくなっちゃったの』というのです。小学校一年生でしたね。

幸い胸にネームプレートが着いており、家族の携帯電話番号が記載されていたので、すぐに連絡することができました」

 先にも記したとおり、KSPCの活動範囲は3つの学校区(霞ヶ関東小学校、霞ヶ関北小学校、霞ヶ関東中学校)、15自治会のエリアをまたがって網羅している。下校時のみならず夜間巡回も同じ範囲だ。夜間は4名以上で行動。全エリアを巡回するのに、1時間から1時間半を要するという。これほど広域に活動している防犯団体は、市内にはKSPCしかない。だが、15の自治体それぞれが運営する防犯団体と一緒に行動したことはこれまで一度もない、という。

 本紙が彼らに取材した日は、奇しくも川越市・川越警察署・防犯協会等が主催する「第19回防犯並びに暴力排除推進大会」の開催日であった。彼らは防犯大会の会場から、本紙のインタビューに駆けつけ応じてくれたわけである。

 この日の大会にて防犯功労団体として表彰されたのは、3つの企業団体(武州ガス、ライオンズクラブ、東京電力)。そして21の自治会に感謝状が贈られた。

「しかし、警察署からわたしたちには、表彰はおろか『防犯大会を行う』という連絡さえこないんですよ」と水村会長は笑う。唖然とする本紙に、会長はその理由を説明した。

「おそらくは連絡網の問題なのでしょう。警察署が連絡する先は各自治会あてで、具体的には自治会長です。しかしKSPCは自治会の非役員からなる組織です。ここには、自治会長はいないのです。さすがにわたしも『連絡ぐらい寄越してほしい』と言いましたが、『自治会長から聞いてください』という返答しかないです。でもいいんですよ。子どもたちの笑顔が私たちを励ましてくれますから」とほほえんだ。

 本紙は思わず俯いてしまった。

治安を嘆くだけなら誰にでもできる
彼らの行為の重さ……感謝せずにはいられない

 子どもを狙ったむごい事件の続発……。「いやな時代になった」「日本も安全でなくなった」と嘆くことは誰にでもできる。だが、KSPCは嘆くかわりに行動する。彼らを突き動かすものは、何なのか。

 最後に本紙は念のため、彼らにひとつの質問を投げかけた。彼らの防犯ボランティア活動の、その情熱の背景には、たとえば票集めのための政治的意味合いとか、あるいは何らかの宗教団体の意向が関与しているのではないか、と。

「そういうことはまったくありません」。

 水村会長も原田代表も言下に否定した。

「愛情の反対は憎悪ではなく無関心である」というマザー・テレサの有名な言葉がある。もちろん、KSPCに参加しない市民が「地域の子どもに無関心」というわけではない。仕事の形態によっては、参加したくても不可能な家庭もたくさんあるはずだ。

 だが、穿った見方しかできない人間も存在するだろう。KSPCの活動に対し「どこかの政党や組織の方針ではないのか」などと勝手な理由で懐疑するか、「暇だからできるんだ」と揶揄するような視線を向け、自分がボランティアに参加しないことを正当化する心ない市民がいるとすれば、残念なことである。

 安閑とした老後、家事に追われる束の間の休息をも果敢になげうち、無償で、率先して地域の子どもを守る……そして日々守りつづけようとする行為の、なんと重いことだろう。

いったん始めたら「疲れたから」などと、やめるわけにはいかないのである。子どもに対する愛情以外の何が彼らを毎日、街頭に向かわせるというのだ? 彼らの思想信条や生活水準を云々することに、いったい何の意味があるというのか?

 本紙の取材に応じてくれた一人一人の表情が湛えていたのはなにより、地域の子どもに対する深い愛情のまなざしである。
KSPC の43人のメンバーは、子どもたちに無関心では、決していられないのだ!■

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