行政調査新聞社 社主:松本州弘 埼玉県川越市

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富士見消防署・消防訓練施設新築工事
落札金額5億6175万円!
なぜ他市業者を指名するのか?発注者の意識を再度問う!

五億六千万円を超える大規模工事

 埼玉県入間東部地域の「二市二町」。埼玉県の南西部に位置する富士見市、上福岡市、大井町、三芳町である。

 平成12年度の「新市将来構想」策定計画以降、この二市二町には合併計画が持ち上がっている。本年8月8日、合併協議会(会長=浦野清・富士見市長)は、10月に行われる合併の是非を問う住民投票に先駆け、合併後に生まれる新市の名称を「ふじみ野市」とすることを決定した。

 合併計画が具体性をもって浮上するほど、行政面における二市二町の結びつきは深い。それは消防業務においても同様である。「入間東部地区消防組合」は、この二市二町の広域消防業務や防災訓練の計画、実施を行う主体なのである。

 入間東部地区消防組合には「消防本部中央消防署」(大井町苗間1-13-28)、「中央消防署三芳分署」(入間郡三芳町藤久保965-9)、「富士見消防署」(富士見市山室1-1324-1)、そして富士見消防署みずほ台分署(富士見市東みずほ台2-16-15)などが存在している。

 この消防組合では、二市二町のうち「トップ」を担当する市を二年ごとの輪番制で決めており、現時点では上福岡市がその役割を担っている。

 本年7月11日、入間東部地区消防組合は建築工事一式の公募型指名競争入札を公告した。「富士見消防署及び消防訓練施設新築工事」……富士見市大字鶴馬字山室前1850-1他18筆、9,931.78uの広大な敷地に消防庁舎をはじめアスファルト舗装した消防訓練場、そして鉄筋コンクリート造りの消防訓練塔3塔を新築するという、設計金額にして5億8千6百万以上の大規模な工事である。工事期間は、落札業者との契約締結日より平成16年(04年)12月10日と、二箇年が予定されている。

 この入札公告に基づき、入間東部地区消防組合消防本部会議室にて入札が行われたのは、8月12日午前10時であった。


またしても「さいたま市業者」が!
地場業者-県土整備事務所管内業者を優先せよ

 この工事に際し、発注者である入間東部地区消防組合が定めた入札参加条件を簡単にまとめると、

* 三社を構成員とするJV(特定建設工事共同企業体)であること

* 特定企業体の運営形態は共同施工方式とし、一構成員に対する出資比率は20%

* 特定企業体の代表者はの総合評点(P)が951点以上

以上の三点である。

 入札記録をご覧いただきたい。三社構成による六つのJVが応札している。

 落札したのは「ユーディーケー・島田・富士特定建設工事共同事業体」だ。

 各JVのうち、最も左側に記載されている業者が「代表構成員」(代表者)、残る二社が「構成員」である。予算配分は代表構成員が全体の50%、残る構成員二社が50%を3対2の比率となっている。入札記録中にある各JV三社のうち、左の業者(代表構成員)が50%、真ん中の業者が30%、右の業者が20%という具合である。

 六つのJVのうち、純粋に「地場業者」から構成されているのは「近藤・矢島・宮建特定建設工事共同事業体」だ。近藤建設株式会社、宮建工業株式会社ともに本社を有するのは上福岡市内であり、また入間郡三芳町に本社を構えるのは株式会社矢島工務店である。この「近藤・矢島・宮建JV」以外は、代表構成員だけを調べても東武谷内田建設株式会社(東京都墨田区)、株式会社谷口工務店(さいたま市桜区)、斉藤建設工業株式会社(さいたま市見沼区)、株式会社ユーディケー(さいたま市浦和区)、伊田テクノス株式会社(東松山市松本町)と、さいたま市業者が全体の半数を占めている。

 さいたま市業者!本紙は過去号において、さいたま市の業者が川越市など他市の公共事業を侵食している事実を挙論してきた。自治体恫喝業者として悪名高い三ツ和総合建設業協同組合をはじめ、さいたま市に本社を有する業者に仕事を奪われる他市地場業者の現実は深刻だ。

 大きな問題の一つは、公共工事入札をめぐって他市業者に対する、さいたま市の極めて排他的な姿勢にある。「本告示の告示日において本市内に本店を有すること」……。これがさいたま市発注の一般競争入札における、いわば決まり文句である。過去、本紙の取材に対しさいたま市側は「過去に指名実績のある業者に関しては、ひきつづき指名を行っている」と回答した。だがこれは、「過去に指名実績のある業者」が、現実には経審点数で最低でも1200点をマークする、大手上場企業クラスに限られていることだ。他市業者のほとんどにとって、遠く及ばない話なのである。

 したがってさいたま市の場合、市発注の公共工事に対する市外業者の参入ぶりは非常にアンバランスな様相を呈している。極端な例が川越市との釣り合いである。平成14年度における、さいたま市が市外業者に発注した割合は同市公共工事全体の18.8%であるのに対し、川越市は54.0%と半数を超えている。川越市が発注する市外業者のうち、さいたま市業者が占める割合は決して少なくないのである。

 にもかかわらず舟橋川越市長が相川さいたま市長に対し、このアンバランスを是正するよう提案した、という話は聞こえてこない。さいたま市業者の進出に甘んじる他市の姿勢は、そのまま地場産業保護という意識の希薄さを表している。

 本工事の入札記録を指差しながら溜息をつくのは、埼玉西部地区の業界筋だ。

「荒川対岸地域の業者さんというのは、ちょっと強引なところが目立ちますね。何らかの政治的な背景があるのかどうかについてはわかりませんが」

 そして入札公告に眼を通しながら、ある記述を指差し訝った。

「変ですね。ここに『現場説明会は開催しない』とあります。5億6千万の物件ですよ。現場説明会はあってしかるべきではないでしょうかね」


「利益は出ない。だが逃げるわけには行かない」
地場業者の苦悩と思い入れ

 そもそも、本工事のJVを構成する業者は誰が選んだのか。

 本紙の取材に対し、中央消防署はこう答える。

「本工事は『公募型指名競争入札』です。業者の選定については、二市二町のうち現在のトップである上福岡市が推薦した業者から選んでいます。どの業者とどの業者がJVを構成するか、という点については応札される業者の任意としていますが、『代表構成員』に関しては丸A(○のなかにA)業者のみを指定しております。

ところが、丸Aの業者さんは地場には一社、つまり近藤建設しかないのです。それでは競争になりませんので、必然的に他市の丸A業者が代表構成員となり、このような入札状況が形成されたのです」

 発注者として、二市二町の地場業者を優先するという視点に立っているのか、との質問に対しては、

「もちろんです。そのため、代表者以外の構成員にはなるべく地場業者が入るよう配慮しているつもりです」

 代表構成員に対する出資比率は先にも記したとおり50%である。他市業者が代表を務めるJVが落札すれば、それだけで予算の半分が他市に奪われることになる。

 無論、二市二町に本社を置く業者こそが、純然たる地場業者である。だが二市二町のうち、代表構成員たる「丸A(○のなかにA)」業者は近藤建設一社しかない。

 地場に施工能力を有する複数の業者が存し得ない場合、発注者側が次に意識すべきは「地場に隣接する、準地場業者」であるはずだ。当該二市二町の公共建設工事を管轄しているのは、埼玉県川越県土整備事務所である。同事務所の管内に属するのは川越市、所沢市、狭山市、富士見市、上福岡市、大井町、三芳町。この五市二町に本社を有する建設業者が地場に準ずる業者であり、純粋地場業者に次いで候補に挙げられるべきである。

 川越県土整備事務所管内には川越市三社、所沢市二社、狭山市一社、上福岡市一社の「丸A(○のなかにA)」業者がある。何も、結果的にさいたま市業者が半数を占める組み合わせにする必要はないのだ。

 さらに、別の建設業界関係者はこう明言する。

「消防署と消防訓練施設だろう。何も特殊な工事ではあるまいし、代表構成員が丸A(○のなかにA)業者である必要はどこにもないはずだ」

 入札への一連の流れはどのように決定されたのだろうか。

「まずこの工事の予定価格ですが、設計を担当したハカマ建築設計事務所(富士見市東みずほ台)が積算した価格に基づいて、上福岡市が決定したものです」(中央消防署)。

 つまりこういうことである。入間東部地区消防組合を構成する二市二町にはそれぞれ管理者が存在する。そのうち、輪番でトップとなった市(現在は上福岡市)の管理者が、積算価格に基づき予定価格を決定する。本工事については、上福岡市の管理者である武藤博氏が単独でこれを決定し、他一市二町の三人の「副管理者」に、いわば事後承諾として通知するという経緯をたどる。

 本紙は取材の過程で、ある噂を耳にした。消防組合は設計業者が算出した設計額をそのまま予定価格とすることはない。つまり「最低でも一回は値切る」。設計価格どおりならば、業者が得るべき適正な利益も計上されている。だが発注者である消防組合は、その業者利益分に相当する金額をカットしてしまうのが、半ば「慣例化」しているというのである。

 そのため、「消防組合の仕事など、本当ならば請けたくないというのが本音」という。

 業界関係者の解説だ。

「地場業者というのはやはり、その土地に対して貢献するという意識が強い。災害など有事の際に率先して協力するのはもちろんのこと、公共の施設、まして消防に関わる施設ともなれば、たとえ赤字になろうとも指名されれば努力する。もちろん『公共工事を請けているんだ』という実績は一種の『看板』になる。メリットも当然ある。だがいくら赤字になろうと逃げるわけにはいかない、という事実もある。『地元消防署の工事から逃げた業者』なんて、言われるわけにはいかないだろう?『本当はやりたくない赤字の公共工事』でさえ己を奮い立たせて落札、受注しているのが実情だ。

 そして、特にこれまで消防組合が発注した工事というのは、みな安値、利益なんか見込めるはずもない工事だったんだ。

 この工事のように、予算額が5億6千万なんて仕事が消防組合からでることはめったにない。ようやく利益が見込める工事の落札チャンスがめぐってきたと思いきや、その半分を他市業者にさらわれる。この『近藤・矢島・宮建JV』の落胆ぶりが眼に浮かぶよ。ましてこの応札メンバーなら、地場業者で固まっているのはこのJVだけなんだから、なおさらだね」

 設計価格を最低一回は値切るのが慣例とはどういうことか。中央消防署は「そういうことはありません」と言下に否定する。だが本工事の入札記録を見ても、確かに設計額より約1千750万円下回る金額が予定価格として公開されている(最低制限価格は公開していない)。

 設計事務所が算出した設計価格は何を根拠に「訂正」されているのか。設計事務所の算出価格が適正でない(1千750万円もの差がでているのだ)と判断するほどの積算能力が、消防組合側にはあるのか。

 本紙の質問に対し、中央消防署は「こちら(発注者側)には、建築に詳しい専門家はいません」と回答するのみであった。

 本工事における設計業者は誰が決めたのか。

「富士見市です。まず同市内から5社、上福岡市から1社の設計業者を選定し、このなかから富士見市が判断したのです。あくまで地元業者を大切にしよう、という考えからです」(中央消防署)

 では何故、5億6千万の大規模工事でありながら現場説明会を行わなかったのか。

 中央消防署は説明する。

「工事の仕様書や図面など書類一式は、すべてこちらの総務課職員が一社ずつ、個別に手渡しています。現場説明会という形態を採らなかったのは、ひとえに『談合防止』のためです。応札業者が同じ場所、同じ時間に集結し、交流の機会となる状況を設けることを、発注者側としては好ましく思っていないからです」

 富士見消防署・消防訓練施設新築工事……本紙は発注者である入間東部地区消防組合が「地元業者優先」と「談合防止」について配慮している姿を確認した。

 だがその配慮は十分だったといえるのか。応札業者が「疑心暗鬼」にならざるを得ない状況やその心理というものを、過酷きわまりない「競争社会」に身を置いていない公共工事発注者側が、本当に理解しているのだろうか。

 何といっても荒川対岸地域の業者に泣かされるのは、いつも埼玉西部地区の地場業者なのだ。

  *  *  *

 取材の過程で、たまたま「週刊ダイヤモンド」誌2003年8月号の特集「地方公務員の税金天国」が眼に留まった。同誌のアンケートに答えた地方公務員の回答が興味深い。「公務員の仕事はサラリーマンと同じぐらい忙しい」と回答したのが63.9%、「公務員をやめても民間企業に転職する自信がある」との回答も半数以上だ。

 民間のホンネを言わせていただけば、「冗談じゃない」。「サラリーマンと同じぐらい忙しい」のは、単に運動量、カロリー消費量に換算できる類の忙しさであろう。「転職する自信がある」のは結構だが、「通用する」かどうかは別問題だ。

 競争に負ければ、家族が、社員が路頭に迷う……こうした切実な危機感を抱かずとも十分に生きられる公務員世界。その住民たちの「忙しさ」や「自信」と、民間の仕事意識との乖離は、天と地ほどの差があると言っても過言ではない。

「節税」という言葉一つにしても、一方が「すすめるべき美徳」であるなら、もう一方では死活問題に直結する。ダンピングをめぐる問題……ダンピング入札による節税効果を確信犯的に期待するお気楽な行政側と、出血価格で入札せざるを得ない業者の意識は、まったく違う。

 生存競争の厳しさなき発注者側が、過酷極まりない競争社会に生きる建設業者に、公共工事を采配するのである。

 不条理である。これを何とも感じない鈍感さが「お上意識」の悪弊を生み、汚泥となり社会を蝕む淵源なのだ。

 本紙がこれまで再三にわたり主張してきたことだが、言うまでもなく公共工事の原資は市民の血税である。公共工事において発注者側は地場業者を優先し、地場に利益を還元するよう努めねばならない。落札しても所得税しか地場に還元しない、いわゆる「営業所業者」は、最も後回しにするのは当然だ。

 公正な入札とは、地場業者と他市の「営業所業者」を同等に扱うことでは断じてない。真の公正さとは、どの地方自治体も「地場業者を優先し、健全な地場産業の育成と、健全な市場競争を実現するよう努める」ことから始まる。

 

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