行政調査新聞社 社主:松本州弘 埼玉県川越市

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【読者投稿】宮崎県延岡市の
「無駄で危険な大規模盛土・宅地造成事業」
( 松下潤治良様のご投稿)                                   

宮崎県・延岡市は、ここ数年間、実質赤字の財政状況が続き、人口の減少も著しい過疎市である。経産省の予測によれば、市の人口は、2000年から30年間で20%も減少する。

その延岡市で、大規模に宅地造成する二つの区画整理事業が、今頃になって、相次いで実施される。一つ目は、隣接する山々を切り崩し、その土砂で五ヶ瀬川流域の田園地帯を、大規模に盛土し、宅地造成する「岡富・古川区画整理事業」であり、二つ目は、切り崩した山地跡を宅地造成する「多々良区画整理事業」である。162億円の税金を使い、50ha(1240戸)の広大な住宅団地が造成される。

この二つの事業は、無駄であるばかりでなく、特に「岡富・古川区画整理事業」は、極めて深刻な問題を抱えている。大規模盛土による地盤の軟弱化問題、ならびに、流域の市街化による水害悪化の問題である。以下、延岡市・区画整理事業の問題点を記述する。

1.無駄な事業である

これらの事業が企画されたのはバブル期の平成元年ごろであった。それから約20年、市の人口は激減しており、最近5年間の減少幅は、県内都市の中でも、ダントツのワースト1である。財政窮乏の中で、二つの地域を宅地造成する必要性は全くない。新規の増分需要は望めず、あるとすれば、転宅需要であり、中心市街地の衰退を加速するだけである。

2.盛土により地震災害が拡大する

(1)地盤・滑動崩落の問題

阪神および中越地震では、盛土全体が変動、または塑性変形する滑動崩落現象が各地で発生し、甚大な被害をもたらしたことが明らかになった。
こうした事態を受けて、国は、「宅地造成等規正法改正(盛土規制強化)」など、地震対策を進めている。昨年8月には、自治体に対し、危険な盛土宅地の特定を要請している。

滑動崩落とは、盛土地盤が元の地盤の上を滑る現象であり、両地盤の境界に地下水が、存在することで容易に発生する(当地は河川に近く、地下水は多い)。加えて、この境界面は、経年と共に地下水流で洗掘され地震で滑り易くなると言われる。従って、固締めなどの地盤対策は勿論、水抜きや擁壁などの対策も、設備の老朽化もあり、万全ではない。

滑動崩落は、盛土面積が広いほど発生しやすく、その目安は、0.3ha以上とされているが、「岡富・古川区画整理事業」では、その100倍の30haが盛り土される。

国を挙げて地震防災対策が進められる中、日向灘地震の震源に近く、東南海・南海地震の「地震対策推進地域」にも指定されている延岡市が、地盤強固とは言えない流域地帯を大々的に盛り土する。住民の安全を考えれば、無謀で、無責任なことである。

(2)深刻な液状化の問題

液状化による災害発生の問題もある。岡富・古川の流域地帯は、市内で最も低地で水が集まりやすい。この上に盛土(高さ4〜6m)するのだが、その盛土も水分を含みやすい。 区画整理後の水分の多い軟弱地盤が、液状化しやすいのは当然のことである。

延岡市は、「宮崎県地方都市計画審議会」で、液状化について、強い指摘を受けている。

(3)家屋・不同沈下の問題

軟弱地盤では、長期間で家屋の重量側が沈むが、このほかに、当地特有の問題がある。
この事業では、凹凸がある居住地域を埋め立てる。従って、盛土高も凸凹になる。盛土が高い場所ほど軟弱であり、その方向へ家屋が沈み込むことになる。

3.水害が悪化する

(1) 流域の宅地化がもたらす水害問題

流域の宅地化(市街化)が水害を悪化させるのは、紛れもない事実である。 流域地帯の開発は、新規需要が旺盛な高度成長期には仕方なかったが、人口減少の現在では、財政悪化と都市型水害という負の側面だけを残すことになる。百害あって一利もない。
そもそも、市は国の「安全基本方針」に倣い、流域地帯の都市化を規制する立場にある。

(2)土地構造の変化(中途半端な嵩上げ)で悪化する水害問題

岡富・古川地区の嵩上げは、堤防(国道218)より約1m低い基本高水(河川)の高さしかない。市は「激特事業を実施するので、河川水位はこれ以上にならない」と言うが、その保証はない。基本高水に達すると、排水ポンプは停止される。区画整理で、宅地より低い位置の遊水地(田畑)を失い、代わりにその役割を負わされる低地の宅地から冠水する。

4.住民に情報が公開されない

 最大の問題は、住民の生命と財産を守るべき行政が、住民に対して、この事業が抱える安全問題への対策は勿論、問題の存在すら知らせないまま、工事を実施することである。

 当事者である住民をそのままに、市長は、3月議会で、「岡富・古川区画整理は『災害に強い街づくり』事業である」と黒を白と言い繕うような奇妙な答弁書を読み上げられた。 

行政は、「不都合な真実」も情報公開すべきである。都合のよい情報や主張に偏るならば、情報公開に名を借りた行政による宣伝行為であり、本来の目的に著しく逆行する。

5.延岡市は、まず住民・市民への説明責任を果たすべきである

  • (ア)人口減少、財政窮乏の中で、広大な宅地を造成する必要性。
  • (イ)大規模盛土の問題点と対策。および、流域宅地化の問題点と対策。

「情報公開」「公民協働」を掲げる延岡市の誠意ある対応が求められている。
 

以上

参考までに

1.なぜ、延岡市は「岡富・古川地区」と「多々良地域」を区画整理するのか

玉野コンサルによるこの区画整理事業の真の理由は、これらの両地域を通過する都市計画道路の存在にある。

都市計画道路の周辺を一体的に区画整理すれば、@道路補助金 A用地買収の省略など、行政側に都合のよい状況が生まれるからである。そのために、まず、市街化区域である岡富・古川地区を都市基盤整備の名の下に区画整理を決定する。それを受けて隣接する無人の山林(多々良地域)を市街化区域に編入し、区画整理を決定するという手順を踏む。

 市当局は「都市計画道路が決定されており、道路、公園などと一体的に整備する区画整理事業の導入が求められていた」と新聞発表するが、求めているのは住民や市民ではない。

求めているのは、都市計画道路の事業主である宮崎県・土木部であり、延岡市・都市建設部であり、そして、土地値上がりに利を見出す一部住民とこれに与する地元議員である。

2.なぜ岡富・古川地区を「盛土」するのか

盛土する真の理由は、道路一体型区画整理の要件を満たすためである。当地域を通過し、山地側へ上る「都市計画道路」は、遥かに高く盛土される。その道路に、地区内道路をスムーズに接続するには、地区全体を盛土せざるを得ないのである。本来は、都市計画道路は高架式にすべきだが、それでは、道路一体型の区画整理ができない。

3.住民不在で推進された「岡富・古川区画整理事業」

延岡市は、自治会役員等からなる「区画整理推進委員会」を結成する。委員長には、山林や田畑を所有する区長が就任し、地元議員が委員会に名を連ね、反対住民の説得にあたる。 

市当局は、私的利益のため、必死に協力する委員長と事を進める。 一般住民には全く情報を与えず、形式的な事業説明の後、都市計画審議会に持ち込む。 情報不足の住民は、「区画整理では多額の金が支払われる」との流言を信じ、成り行きに従う。この事業決定は行政手続きを踏んでいるが、住民不在。決して、民主的手続きは踏まれていない。

4.民間企業では、中止される「岡富・古川区画整理事業」

市長は、行政運営の方針として、民間の「経営感覚の導入」を掲げておられる。
企業経営で、まず排除すべきは、有害事業であり、無駄事業である。経営トップが、その決断をせず、成り行きに従うなら、いかなる経営改革(社員の意識改革、顧客協働の商品開発、財務体質の強化など)を進めようとも、企業は倒産する。

「岡富・古川区画整理事業」を安全向上事業に位置づけ、事業を正当化する市長の行政運営は、最も経営感覚を欠いている。これでは、いかなる市政改革(職員の意識改革や、市民協働の街づくり、そして、財政強化など)を進めようとも、その実態は改善しない。

5.この区画整理事業の被害者たち

第1の被害者は住民である。350戸の地域住民は、水害が悪化し、そして、地震災害が拡大する軟弱地盤へ強制換地させられる。子孫も、その災いを永久に引き継ぐ。
減歩や、仮住まい、2回の引越しは、特に高齢者世帯には辛い。「この場所、この家で終わりたい」との気持が強く「自殺したい」と呟きも聞く。「高齢者いじめ問題」である。
嘆きは高齢者だけではない。「角地でなくなった」「家の向きが変わり、南向きでなくなった」「余分な付け保留地を買わされる」など、不満が渦巻くが、声なき声のまま終わる。マスコミに取り上げることもなく、公式には「全員、事業に同意」との扱いを受ける。

第2の被害者は、財政悪化の影響を受ける延岡市民である。財源が減り、市民が望む公共事業や福祉などに金が回らなくなる。 当然、その影響は合併前の旧三町にも及ぶ。

頼みの「まちづくり交付金」も、「岡富・古川区画整理」には50億円が充てられるが、交流拠点地域たるべき駅前中心市街は壊死状態のまま放置されている。

第3の被害者は、逆説的に聞こえるが、担当している職員達である。「岡富・古川区画整理はやるべきではない」とのOB幹部の声もある中、「禄を食む身分」であれば、本意でない事業を、住民に対しても本意でないやり方で、遂行せざるを得ない。 

6.本事業の見直し責任は、現在の市長および幹部職員にあるのだが・・

この事業が企画された約20年前には、市の人口がここまで落ち込むことや、流域の市街化に伴う都市型水害の問題や、盛土がもたらす深刻な弊害も明らかではなかった。
  だが、今では、前提が変わり、「岡富・古川区画整理」が、有害無益な事業であることは明らかになってきている。前提が変わったこの事業を抜本的に見直す責務は、現在の市長と市幹部に課せられている。その責務から逃げることは不作為の罪に相当する。

しかし、市長以下執行部は、監視機関である議会や報道機関の取り込みに腐心しており、無駄事業への真剣な対応を避けているように思われる。

延岡市のHP、5/18の「市長の一日」の中に「18時、市幹部・市議会・報道機関との懇親会(大乃家)」との記述が見られる。三者の懇親は、執行部にとって都合の良い「なれあい」や「しがらみ」へ至る。無駄事業や不作為が追及されず、それらが隠蔽されやすい状況を生むことになる。議会もマスコミも行政都合の説明を信じることになり、結果的には、行政有利の広報に加担することになる。

7.決定された事業、着工された事業でも、止めるべきである

一旦決定された無駄事業が、廃止されることはない。だからこそ、行政が、一般の市民や住民を蚊帳の外において、私的利益を求める一部の人たちと既成事実を積み上げ、事業決定に持ち込む手法が跋扈する。こうして、各地で巨額の無駄事業が行われることになる。

滋賀県栗東市では、新幹線の新駅が、着工後にも係わらず、中止状態になっている。
昨年就任した女性知事の信念と勇気によるものである。
事業の是非は、公共事業評価委員の審議を待つまでもなく、首長や議会の判断によって、止めるべきは止めるべきである。

栗東市の事業は無駄だけだが、延岡市の場合は、無駄に加え、住環境を劣化させる有害事業である。延岡市長には嘉田知事以上の勇気と決断を求めたい。

 

 

 

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