「住民訴訟は不法行為」 | 行政調査新聞

「住民訴訟は不法行為」

前代未聞!市民4名を訴えた原告川合善明市長裁判
審 理 終 結

 2021年10月21日午前11時。市に対する住民訴訟原告に名を連ねたことが「不法行為」であるとして、なんの罪もない川越市民4名を川越市長・川合善明氏が訴えた前代未聞の裁判が結審した。
 訴えられた4人の市民は、すでにさいたま地裁の判決で市民らの訴えが棄却された 川越市不正市道認定裁判(記事リンク)の原告だ。行政を追及する住民訴訟を「不法行為」だと、私人として訴訟を起こしたことだけでも川合氏の異常さが際立つが、さらに問題なのは、この住民訴訟原告は川合氏に訴えられた「4人だけではなかった」という点である。

 件の住民訴訟原告団は22名いた。
 しかし川合氏は、その中から特定の4人だけを標的にして「不法行為」だと訴えたのである。狂気の域に達しているとしか言いようがない、川合氏が特定の4人だけを訴えた理由は、この4人が川合氏の仇敵である元埼玉県議・渋谷実氏と近しいからというものである。
 つまり他の原告市民と違って4人の市民は、川合氏への個人攻撃を目的とした渋谷氏からの要請で、住民訴訟に名を連ねたから「不法行為」だと言うのが、川合氏の主張なのである。そもそも住民訴訟で行政の疑惑を追及された市長は、公人として記者会見または声明を発表するなどの説明責任を果たすことが当然であり、それが職責である。
 ところが川合氏は、市長としての自らを「私人一個人」の問題にすり替え、自分が憎む人間と親しいからという異常極まる動機から、4人の市民だけを吊るし上げるためにスラップ(嫌がらせ)訴訟を起こしたのだ。
 全国各地で住民訴訟が起こされているが、市長が個人の立場で住民訴訟の原告を訴えるというのは前例がないだろう。その前代未聞の裁判がこの日(10月21日)終結し、後は判決を待つばかりとなった。異常市長を原告とした異常裁判で、さいたま地裁川越支部はどのような判断を示すのか? 原告市民の行政訴訟が不法行為だと市長個人が訴えた本事件の判決は、日本の民主主義の根幹にかかわる重大な問題となるだろう。

誰もいない裁判官席に一礼?

 この日の裁判には、先だって原告川合氏の名誉毀損裁判で一部敗訴となった小林薫川越市議も傍聴に駆け付けた。傍聴席には4名。柵の中は裁判官(齋藤憲次裁判長と2名の陪席判事)、原告(川合氏と代理人・坂本慎二弁護士)、被告代理人・清水勉・出口かおり両弁護士が勢ぞろいした。
 前回、齋藤裁判長は、原告川合氏の証人尋問申請を「関連性がないものと考えられます」と却下した。執拗に食い下がるかのような川合氏の主張に、裁判長は「反論があれば準備書面を提出するように」と、川合氏に告げて閉廷となっていた。それを受けて今回は、原告川合氏の最終的な反論が準備書面と証拠書類として提出された。
 齋藤裁判長は「主張・立証は、以上でよろしいですね」と原告・被告双方に尋ね、両方に異議がないことを確認すると「では、終結をします」と結審を告げた。本事件最後の法廷は1分を切る約40秒という最短記録。判決は12月23日午後1時10分となった。

 ここで本紙記者は川合氏の奇抜な行動を目撃した。閉廷後、川合氏は、すでに裁判官らが退廷し無人となった裁判官席の方を向き、一礼をしてから退廷したのである。川合氏の、今まで見たことのない一種異様さを覚える光景だ。しかし穿ってみれば、これは川合氏の齋藤憲次裁判長に対する期待と祈りの表現だったのだろう。
 同裁判長は、本年12月5日で定年退官するらしく、12月23日の判決言渡し日に同裁判長はいない。判決文は齋藤裁判長の名義で書かれるが、新たな裁判長が代読することになる。原告川合氏の裁判としては、おそらく本事件が最後の「齋藤判決」となるはずだ。裁判官生活に句読点を打つ齋藤憲次裁判長最後の審判に大いに注目したい。

最後まで「当たらない証拠」で主張を強弁した川合善明氏

 裁判終了後、4人の市民の代理人である清水・出口両弁護士に話を聞いた。法律家としての矜持からだろう両弁護士の控えめな表現ではあるが、本件裁判は「住民訴訟を起こしたことが不法行為という極めて異例な裁判」であるという。本紙のような市井の声を代弁するフリージャーナリズムの感覚でいえば、前述の通り「狂気の域に達した裁判」であるとしか言いようがないほど異常なのであるが、このような裁判の短くない期間を弁論に費やした、さいたま地裁川越支部(齋藤憲次裁判長)の感覚も一般市民には理解しがたいことだろう。
 被告市民側は、争点となった住民訴訟に不当提訴、濫訴(らんそ)の余地はないと主張した。これに対して、原告川合氏はその余地はあると反論を続け、審理終結となった今回の裁判では、住民訴訟が問題になったこともあるという裁判例を証拠として提出してきた。

 出口弁護士によれば、その判決は結論として住民訴訟を濫訴(らんそ)とは言っていない判例だという。川合氏が証拠として提出した裁判例は、本事件には当たらない証拠ということになる。
 結局のところ、原告川合氏は「住民訴訟を起こしたことは不法行為だ」という主張を繰り返しただけのことだが、だからこそ代理人弁護士で十分に事足りる裁判で、被告市民ら4人を法廷に呼んで尋問したいとの川合氏の申請を裁判長が却下したのも同じ理由だろう。市長室を留守にしてまで欠かさず出廷してきた川合氏に、異常な執念を見て取るのは本紙だけではあるまい。常識で考えれば、住民訴訟を提訴した市民らではなく、川合氏こそ濫訴(らんそ)だと言われるべき事件である。

被告市民側が敗訴すれば「炎上」間違いなし

 繰り返すようにこの裁判は、地味に見えながら民主主義社会の根幹を揺るがす重大な懸念を孕んだ事件である。万一、市民が住民訴訟を起こしたことが不法行為と判断された場合、民主主義社会を担保するこの制度は存在価値を失うからである。被告市民4人を敗訴とする判決が言い渡されたなら、日本はおろか世界的に「炎上」間違いなしの一大ニュースとなるはずだ。

 これまで本紙が言及してきた通り、「川合善明市長」は 「コレクト行政!名誉毀損事件」(記事リンク) で勝訴して以来、自らの権力に酔いしれるかのように「トンデモ提訴」の暴走を始めた。僅かこの2年ほどの短期間で、本件住民訴訟4人を訴えただけでなく、市民女性A氏を訴え、その代理人となった清水・出口両弁護士まで訴え、小林市議も訴えた。
 これだけも市長として異常である。
 中でも結審したこの裁判の判決は、非常に重要な意味を持つ判決になる。住民訴訟は常に全国で起こされている。武装や司法権を持たない国民が、権力の暴走に対して行使できる力のひとつが住民訴訟である。本事件では判決そのものは勿論、「おれに逆らうやつはこうなる」とばかりに、自分の気に入らない市民を選んで訴えるという「トンデモ市長」川合善明氏の存在そのものが広く議論されるチャンスにもなるだろう。

 清水弁護士は「もし市民が負けるようなことになれば、齋藤裁判長の判決はおかしいと日本全国に激震が走るだろう」と語る。奇しくもコロナ収束も見えてきた楽しいクリスマス直前の12月23日、市民たちに勝訴という名のプレゼントは届けられるのか、本紙も法廷で結果を見届けたい。

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