高齢化社会の職場(1) | 行政調査新聞

高齢化社会の職場(1)

行政調査新聞社様いつも記事を拝見いたしております。                 
この度は私が体験し、理不尽に感じた事柄を投稿させて頂きます。

私は高齢者専門の食事の宅配ドライバーをアルバイトでやっております。時間の有効利用として始めた仕事です。
この仕事を通して見た現在の高齢者の生活の一端が私にある種の衝撃を与えました。
この分野ではある程度の規模をほこる会社で、私の住む千葉県では、一番の食数となっている店舗に居るためかなりの人数に配達します。私の担当エリアは広域に跨がっています。住宅街 僻地と様々です。

ある日の勤務時の事です。山間部に位置する僻地に住む高齢者のお宅に配達にいった時のこと。いつもなら声を掛け、窓を叩けば返事をし、出てくるのですが返事もなく、窓のカギも閉まったまま。私は窓から中を覗いて確認しました。老婦人がマスクをしたまま布団からはみ出した状態で苦しそうに横たわっていたのです。私の問いかけに対して弱々しく手をあげているだけ。私は裏口から中に入り本人に語りかけながら状態を観察しました。
緊急連絡先のケアマネージャーに連絡をし、早急に対処してほしい旨を伝えました。
デイサービスとの連繋や、業務の中に安否確認などの細やかな動きもあるから出来た事でした。老婦人はインフルエンザで入院したのです。私はこの時、切なく、やりきれない思いをかんじました。「大丈夫ですか?」の問いかけに対して、「大丈夫」と気丈に答えたその眼には涙が浮かんでいたのです。せめてデイサービスの人が来るまで側にいてあげたかったのが私の心情でした。

私の業務は配達と安否確認などの補完的作業。何かあれば店舗に連絡をし、緊急連絡先に連絡をして状況を伝える。他の事はしてはいけないのです。そして配達途中でもあり、私が届けなければ食事を摂ることが出来ない高齢者もいるのです。
外の水道管が壊れていたから直してあげたのに店から注意をうけたりした事もあります。

店はフランチャイズの店舗。本部の意向に従いながら現場を回す立場の弱い会社です。
この企業の大株主は大手上場企業であり、此処から本部、フランチャイズ店舗と利益が抜かれて行きます。食材の原価は高く、末端の店舗の利益は雀の涙です。 雇い入れるスタッフは最低時給のパートタイマーばかり。しかしこの業種は競争が激しく、ドライバーの確保が厳しいためフランチャイズの経営者の負担は過酷を極めます。

こういった経済的な状況がシステム化していると言っても可笑しくないのが現状です。
企業の序列化が経済原理となってしまっている業種においては、余計な問題に首を突っ込んだりして責任を負いたくないという姿勢が当たり前なのです。
こういった問題には更なる社会問題が被さってきます。高齢者の貧困です。 格差社会は高齢者にも例外なく存在します。

宅配の食事はとても健康的であり、計算され病状に合わせて作る事もできるため、コンビニの弁当などより値段は高く設定されています。原価が高いからです。この高価な食事を頼む高齢者には幾つかのタイプに分ける事が出来ます。

比較的裕福であり、自分達で作るのが面倒だから健康的な食事を頼み、愉しむ高齢者。
お金は身内が払う場合もあり、様々に気に掛け面倒を見てもらっている人達です。
次のタイプは自分でお金を払いなんとかやっている人達です。
身内に面倒を見てもらっている訳ではないが、自分の生活を成り立たせて行く事が出来る経済的余裕のある人達。
身内に支援してもらっている人や経済的に余裕のある人達でも、僻地に住んでいる高齢者は常に不安に付きまとわれます。
身体に障害がなくとも、頑健な身体を誇っているわけでもなく、車がない人や近所に買い物をする店も無い地域に住んでいると尚更です。そして、経済的困窮者で身寄りの無い生活保護需給者や障害を抱えながら生きている独居老人。

様々なタイプの高齢者がいますが、中には金を払わないでいつの間にか行方を眩ます人や、金額を誤魔化そうと躍起になる者もいます。
長くこの仕事をしている職場のスタッフは「食い逃げ」と表現していました。笑うに笑えない悲しい現実です。
店舗も大きな痛手になります。利益が薄い商売だからです。
また、高齢者にある問題に痴呆症があります。痴呆気味のお客は徘徊をする為用事で外出しているのか、痴呆症で徘徊しているのか分からない事があります。自分が食べた事を忘れてしまいクレームに走る事もあります。安否確認は本人の行動パターンや習慣、曜日ごとのスケジュールを把握する事を要求されます。中には痴呆を装い金額を誤魔化そうとする老人もいるので見極めが必要性となります。

たかが数百円の食事と言っても積もれば経営を圧迫します。人の情が先に立てば会社の利益は上がらなくなる現実は、末端だからこそ見えるものです。
本当の意味での目先の金、目先の日銭が生活に直結しているからです。
地方行政、それも市町村レベルまで見ると様々な分野で危機的状況が見られます。
私は一分野の出来事から見た問題に付いての投稿をさせて頂きましたが、関連性のある問題は山程あります。

一人淋しく生活している老人も、お弁当を届けに来るドライバーとの短時間の会話を楽しみにしている人が多くいます。
しかし、余裕を持って会話の時間を作りながら配送を時間内に確実にやり、集金をしながら安否確認や引き継ぎ事項の事務処理を店舗責任者にしながらやるので、拘束時間も考えてしまうと報酬は合いません。その結果辞めて行くスタッフは後を断ちません。お客の増減は入院や死亡と言った理由も多く含まれています。

介護事業の現場でも問題だらけですが、高齢化社会に利益を求め参入する企業は後を断ちません。企業の利益追求主義と行政の対応。末端までくると目先の事で手一杯になり、問題の本質など考えている時間もありません。政治家が私利私欲に走れば役人は自分達の敷いたレールに無能議員を乗せるだけです。

介護報酬の引き下げで入居型の介護施設は加算されない為、現場では報酬の削減と人員不足、実質全採用化の為人材に難ある者ばかり。通所型のサービスに加算した所で人員不足は解消されるレベルではありません。
在宅介護を主流にして国が金を出す比率を下げたいのだろうと思いますが、在宅介護が主流になるかは疑問であり、其処に関連する食事の配送事業に携わる末端は更なる苦境にたたされます。

地方議員の大きな声は国会議員でも無視出来ません。選挙は結局地方で行われますから。地方議員が正しく国政議員を動かして地方の声を反映させながら、地方自治体の役人を導く事が地方行政の抱える問題解決に向けた足掛かりになると感じてます。
私は都合により退社する身ですが、地方行政を見つめ、正して行く為に発信している行政調査新聞社に、一民間人の声を聞いて頂きたく投稿させて頂きました。

千葉県在住  伊 藤