特 集 第 3 弾  | 行政調査新聞

特 集 第 3 弾 

「川合善明 川越市長 VS 元愛媛県警 仙波敏郎氏」

異様な空気で幕を開けた第1回口頭弁論

 川越市長・川合善明氏の川越市民女性A氏に対する強制わいせつ容疑を川越警察署に刑事告発した仙波敏郎氏は、愛媛県警巡査部長だった現役時代の2005年に、警察裏金問題を実名告発し、「孤高の正義」として、一躍、世界的な注目を浴びることになった人物である。警察の組織的な裏金作りを告発した仙波氏は、県警による報復人事と闘いながら、警察官を定年まで勤め上げた。
 口封じするには仙波氏の存在が大きくなり過ぎたからでもあろうが、仙波氏の命がけの覚悟が警察上層部をも沈黙させたと言っても過言ではない。仙波氏を法的に守護した通称・仙波弁護団は総勢80名。同氏のために全国の弁護士がボランティアで結集、仙波氏は県警に名誉毀損で訴えられることもなく、自らが被った報復人事に対する民事訴訟で勝訴した。仙波氏の告発が事実だったからである。 つまり、仙波氏は原告席に座ったことはあっても、裁判の被告となったことはただの一度もなかったのである。常軌を逸した川越市長・川合善明氏に訴えられるまでは。

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事実は小説より奇なり!
仙波氏代理人弁護士は、川合善明氏の司法修習同期だった!

 2022年4月21日午前10時15分、さいたま地方裁判所・川越支部1号法廷。「原告川合善明」の裁判を辟易するほど傍聴してきた本紙記者には見慣れた風景だが、この日の廷内は異様な空気に包まれていた。
 9割を埋めた傍聴席は仙波氏支援者と週刊誌記者だけで、原告関係者の姿は見当たらず、川合氏は代理人弁護士も付けずに文字通りの「ひとりぼっち」で原告席に座している。対する被告席には川合氏を鋭い視線で見つめる仙波氏と、その代理人・清井礼司弁護士が座る。本紙読者であればご存知のとおり川越市長・川合善明氏は弁護士でもある。当然、司法試験合格後に修習生を経て法曹資格を取得したわけだが、実は川合氏は、本件裁判で仙波氏代理人を受任した清井弁護士と司法修習同期だったのである。おそらく今回、誰よりも驚いたのは川合市長ではないだろうか。 なにしろ仙波敏郎氏がどのような人物であるかも知らず「自分に逆らうやつは名誉毀損だ」と言わんばかりに訴えたら、半世紀も前の知人である清井弁護士の名が被告代理人として記された答弁書が返ってきたのだから。川合氏にしてみれば、愛媛在住の仙波氏の代理人を、なぜ若き日の修習同期でもある東京の清井礼司弁護士が受任したのか、その経緯が不可解だったに違いない。この謎について仙波氏は本紙にこう明かしてくれた。

 仙 波 敏 郎 氏

川合市長に訴えられた私は地元松山(愛媛県)に帰って、警察裏金告発のときからお世話になっている、弁護団(本紙註:通称 仙波弁護団)に相談したんです。
 今回は川越が舞台ですから、愛媛が本拠地の私の弁護団では負担が大きくなる。
 そこで数人の先生方から「自信を持って推薦できる東京の先生がおるけん」と紹介を受けたのが、清井弁護士とコンビを組んでいる内藤隆弁護士だったんです。
 それで初めて清井・内藤先生方の事務所でお会いした際、清井弁護士が川合市長と司法修習同期だと知りました。司法修習生といっても毎年数百人が合格しますから同期といえ普通は面識がないことがほとんどです。
 でも清井弁護士と川合市長は修習地が同じ長野だったことで互いを知っていたんですね。ただし清井先生は、今回の裁判の話を聞くまで「川合君」が川越市長になっていたことはご存知なかったようです。もちろん、清井先生と川合市長が同期だからといって裁判に影響することはあり得ませんけど、それにしても奇遇なことが起きるものです。

 まさに「事実は小説より奇なり」である。波乱万丈を地で行く仙波敏郎氏をして驚きを隠せないほどの、奇跡的としか言いようがない偶然の出会いだろう。本紙記者はこの経緯を聞いた時、これこそ「天網恢恢疎にして漏らさず」ではなかろうかと、ある種の高揚感を覚えた。邪推ではあるが川合氏が仙波氏を訴えた内心では、愛媛在住の仙波氏に交通費等の負担や長期にわたる時間的拘束を強いる報復の狙いもあったはずだ。だがそんな川合氏の目論見は裏目に出て、仙波氏と清井弁護士へと線がつながれた。
 もしも川合氏が仙波氏を標的に訴訟を提起しなければ、つまり、市長として自らが追及される疑惑について説明責任を果たしていれば、仙波氏が愛媛の弁護団に相談することもなく、清井・内藤弁護士を知ることもなかった。
 仙波氏を敵に回したことで、まさか50年前の同期生と法廷で対決することになるとは、川合氏とってこれ以上の皮肉はあるまい。仙波氏が続ける。

 仙 波 敏 郎 氏

 詳しくは言えませんが、今回、川合市長が出した準備書面には、そもそも愛媛在住の私がなぜ川越の事件に首をつっこんだのかを説明しろというような内容が書かれていました。これには思わず失笑しました。
 よほど何かのウラがあると妄想したのかもしれませんが、こっちは正しい道を進んだら天の導きのようにこんな展開になっただけですからね。

飽くことなきスラップ訴訟を繰り返す川合市長の真意は?

 本紙既報のとおり、仙波氏が市民女性A氏の刑事告訴の後見人となり、次いで川越市長・川合善明氏を川越警察署に刑事告発し、川越市議会に請願書を提出した理由はただひとつ、市民女性A氏が川合市長から受けた性被害を告発し、川合氏の法的かつ社会的責任を追及するためである。しかも本件は、予てから本紙愛読者でもある仙波氏からの「川越ではこんなとんでもない市長が許されているのか?」という義憤のメッセージが本紙社主・松本に届けられたことから始まった。
 なぜ愛媛の仙波氏が川越の事件に介入するのかなどと、川合市長が本気で思っているなら、それこそが川合氏の唯我独尊というものである。
 仙波氏の元には、ほぼ毎日のように全国から相談の電話や手紙が寄せられている。現時点でも本件川合訴訟と重なって、沖縄県名護(辺野古)市長の問題を追及する市民運動に協力するため沖縄に飛び、東京では「和歌山カレー事件」の林眞須美死刑囚再審請求を支持する市民集会にも呼ばれ、全国を飛び回る幕間に帰郷する地元愛媛では、あらゆるトラブルの相談を受ける。
 これが元警察官の人脈で現地警察との調整役をボランティアで行っている「警察見張り番」仙波敏郎氏の日常である。なぜ愛媛の人間がわざわざ川越市に来るのだ?などという間抜けな疑問は、正義のためには自己犠牲も厭わない仙波氏のような人間を、まったく理解できないであろう川合市長ならではと言える。

 一方、なんの落ち度もない市民女性A氏に何度でもスラップ訴訟を繰り返す川合善明氏の真意はどこにあるのだろうか?それは言うまでもなく川合市長にかけられた「強制わいせつ容疑」の被害者であり証言者である市民女性A氏の主張を叩き潰すためだろう。川越警察署が捜査に着手したが公訴時効の壁に阻まれ事件にならなかった「強制わいせつ容疑」は、川越市長・川合善明氏の説明責任としての時効はないと言うべきだ。本紙で何度も言及するように、仮にも自治体首長がこのような重大な疑いを追及されたなら、記者会見や議会で釈明するなり公式声明を出すなりの説明責任を果たすことが常識であり社会的な義務だ。

 市民女性A氏が虚偽の被害を主張しているというならば、川合氏はA氏を一連の裁判で訴えていることを市長声明として発表するべきではないか。人知れず名誉毀損を訴える裁判を起こすことは、いわゆる「訴えの利益」にも矛盾するはずだ。自身の社会的信用と名誉の回復が目的ならば、それが知らされなければ勝訴したところで意味がないからである。
 だが川合氏は市民に知られないように、こっそりと、しかし執拗に市民女性A氏を標的として立て続けに裁判で訴えている。しかも現在3件もの原告川合氏・被告A氏の裁判は、7年前にA氏が川合氏から性被害を受けたという一点の事実だけが核心部分となっている事件で、川合氏は1件提訴すれば済む話である。
 川合市長がそうせず、市民に見えないところで市民女性A氏を何度も訴える真意は、A氏に対する憎悪と敵愾心でしかあるまい。一般市民であるA氏には、裁判ごとに強いられる弁護士料や精神的な負担が重くのしかかっている。
 また川合氏にとって重複する裁判は、およそ1億円ともなる退職金を手に市長室から引き上げる日までの絶好の「時間稼ぎ」にもなる一石二鳥、いや、「川合市長に楯突けば訴えられる」という市議会議員らへの「警告」も兼ねる一石三鳥となっているのかもしれない。

「清井さん、お久しぶりです」

 4月21日午前10時前、さいたま地方裁判所・川越支部に場面を戻そう。まだ開廷前の裁判所玄関ロビーに、仙波氏の応援傍聴人が集まり、清井弁護士も到着して活気を帯びてきた時だった。いつの間にロビーをすり抜けたのか、川合市長はロビーを見下ろす2階の渡り廊下から階下の清井弁護士に「清井さん」と声をかけたのである。一同、声の主を探して目を泳がせると、川合市長はさらに「清井さん、お久しぶりです」と、満面の笑みを浮かべて清井弁護士に手を振った。
 清井弁護士が短く「よお」とだけ応じると、川合市長は無表情に弁護士控室へと消えた。そこにいた仙波氏陣営の誰もが、川合氏に対して一種の不気味さを感じたに違いない。それは、代理人を付けずに単身で第1回口頭弁論に臨んだ川合氏の、かつての修習同期生・清井弁護士への挑発的な態度にしか見えなかったからである。

仙波氏とは「目を合わせない」川合市長
「姑息極まる」川合善明氏の準備書面

 前述のとおり20人弱の傍聴人は全員、被告・仙波氏側の人間で、川合氏は代理人弁護士もなく、ひとり原告席に座る。裁判官が入廷するまで川合氏は、いつものように傍聴席の顔ぶれを何度も確認していたが、清井弁護士と共に被告席に座った仙波氏とだけは決して視線を合わすことはなかった。
 飯塚圭一裁判長(陪席判事・飯塚素直、吉永大介の3名による合議制裁判)らが法廷に入り「原告・川合善明 被告・仙波敏郎 外1名 令和4年(ワ)第126号 損害賠償請求事件」の裁判が幕を開けた。
 ちなみに被告の仙波氏と並んで「外1名」とある被告氏名は「市民女性A氏」のことである。当初、川合氏は裁判所に提出する準備書面に「被告 市民女性A氏」の実名を記載し、仙波敏郎氏の方を「外1名」としていた。
 川合氏の訴えではA氏と連帯しての300万円に加えて450万円(計750万円)の損害賠償を仙波氏に請求している。訴訟の内容としても仙波氏による刑事告発と議会への請願を不法行為とした、明らかに仙波氏が「主役」の裁判である。
 しかし川合氏は、あえて市民女性A氏の名が表に出るように被告氏名の順番を変えていたのである。裁判所の事務処理上の慣例として、被告が複数の場合には、筆頭に記載される氏名だけを表記し、その外(ほか)は記名されない。この慣例を逆手にとれば、複数の被告の中で目立たせたい氏名を一番上に書いて裁判所に提出すれば、「主役」の名前を変えることが出来る。

 弁護士としてその知識がある川合善明氏は、意図して市民女性A氏の実名が、裁判所の公文書に記載されるよう筆頭に置いたに違いない。A氏に対する川合市長の徹底した憎悪が顕現しているようだ。仙波氏は、川合氏による最初の準備書面を目にした時点で、それを見抜き、裁判所書記官に「被告 仙波敏郎 外1名」に変更するよう申し入れを行っていた。単に仙波氏が主要な被告であるというだけではなく、市民女性A氏は強制わいせつの被害に遭った一般市民であり、A氏は一連の裁判に巻き込まれていることを家族にも言えない状況にあるとの仙波氏の説明に裁判所書記官は即座に対応した。これによって裁判所が作成する本事件の書類の表題部分では、A氏の実名が隠れることになった。
 無論、書面の本文にはA氏の名が出ているが、当事者以外が目にすることはないためA氏の個人情報は守られることになる。それでも川合市長は、自分から提出する書面では「被告 市民女性A氏(実名)外1名」と故意に記載している。

次回は非公開の「弁論準備手続」

 この日の第1回口頭弁論は、飯塚裁判長から原告・被告双方の準備書面を確認し、次回期日は非公開裁判となる「弁論準備手続」に付すと告げられた。
 川合裁判に限らず、これまで多様な裁判を傍聴してきた本紙記者の経験では、争点が整理できていない裁判(原告あるいは被告の主張が混乱している)時、弁論準備手続に入ることが多い。要するに「何が言いたいんだ?」と双方の言い分を突き合わせるような作業で、法廷ではなく傍聴人を排した会議室で裁判官と原告・被告の当事者だけで行われる手続きだ。法律の素人である一般国民からすれば、川合市長のような権力者が市民を標的にスラップ訴訟を打ったとき、果たして裁判所が権力への忖度なしに訴訟指揮を執るのかどうかを知りたい。本来、この国の主権者たる国民にはそれを知る権利があり、また裁判所を監視する権利と義務があるはずだ。
 その意味でも、本件事件は極力公開裁判に戻されるべきではなかろうか。

 次回期日は、さいたま地裁 川越支部で6月9日(木)午後2時30分からの非公開裁判だが、終了後には、仙波氏が支援者に向けて説明を行うという。
 6月9日は、川越市議会の会期中となる。関係者のもっぱらの関心は川合善明市長が次回も「ひとりぼっち」で裁判所に出て来るのかどうかにある。議会の進行によっては、職責上、市長の欠席が認められない日程もあるため、そうなれば川合氏は何としても代理人弁護士に委任しなければならない。川合氏が市長職の責任を優先し、「同期弁護士」との直接対決に執着しているのでなければ。

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