川越市銘菓「くらづくり本舗」    | 行政調査新聞

川越市銘菓「くらづくり本舗」   

食品表示法改正後、2年間も対応せず!?

同社代表で自民党衆議院議員の中野英幸氏は
「忘れてました」との
軽薄な釈明で禊(みそぎ)を済ませたつもりか?

 去る3月30日、写真週刊誌「FRIDAY(フライデー)」 の電子版「FRIDAY DIGITAL(フライデー・デジタル。以下、フライデー)」は

自民党議員が経営のお菓子メーカーが他社製品を
【詰め替え販売】

元従業員が実態を告発!

 とのスクープを掲載した。この「お菓子メーカー」とは、従業員280人、埼玉県内に42店舗を展開する和菓子製造販売業者「くらづくり本舗」だ。
 川越市民であれば誰でも知っている有名店で、小江戸川越の観光客も土産として同店の和菓子を購入する。そして同社代表取締役社長・中野英幸氏は、昨年10月31日投開票の第49回衆議院議員総選挙で立憲民主党の小宮山泰子氏を破り初当選した代議士でもある。先代で英幸氏の父・中野清氏も衆議院議員を4期務めた。
 この有名和菓子店の「くらづくり本舗」元従業員が「他社の製品を詰め替え、自社製品として産地を偽装して販売している」と告発したというのだ。

『フライデー・デジタル』
 https://friday.kodansha.co.jp/article/236831

 「フライデー」によるスクープの後追いで、翌31日には讀賣新聞が、4月1日には共同通信の配信で全国に拡散された。
 マスコミの取材に対して中野氏は「改正食品表示法によって商品に貼るシールを変更しなければいけなかったところ失念していた」などと釈明。改正法以前には、仕入れ加工業者(法律上は、袋を詰めるだけの作業でも加工という)でも「製造者」として表示出来た。
 「くらづくり本舗」「製造者」とする表示シールが許容されていたため、いかにも「川越名産さつまいも」を原料に自社製造した菓子のように見えていた商品だったが、実態は市内の他業者や宮崎県から仕入れた、完成された菓子を「くらづくり本舗」の袋にリパック(詰め替え)していただけのものだった。
 「フライデー」の記事から、元従業員の内部告発をそのまま引用しよう。

 「この商品は宮崎県の菓子製造会社M社から仕入れています。
 M社では、これら二つの商品をローソンやセブン―イレブンなどにも卸していますが、その商品には、製造所としてM社の名前が記され、宮崎で製造されたことや、九州産の芋を使用していることが書かれています。
 ところが、くらづくり本舗の工場では、これと同じ商品を箱から出し、ゴム手袋をはめたスタッフが作業台に敷いた茶色い紙の上に商品をザーッとのせて、電子計量器で測った商品を乾燥剤とともに自社の袋に詰め替えるだけです。別の会社の通販サイトで297円(税込み)で売っている2商品は、くらづくり本舗の袋に詰め替えられると、95g少ないうえに515円(税込み)で販売されるのです」

 これが小江戸川越に名を馳せた和菓子屋の社長にして自民党代議士・中野英幸氏の指示のもとで行われてきたとすれば、なんとも浅ましいではないか。改正食品表示法では「製造者」「加工者」が違う場合には、それぞれの業者名を表記した表示シールを貼らなければならないところ、それを「忘れていた」というのが「くらづくり本舗」社長で自民党代議士・中野英幸氏の言い訳だ。だが改正食品表示法の完全施行は2年も前の2020年4月1日だ。
 しかも今回、不適切表示が指摘された「くらづくり本舗」商品は3種類。
 その他の商品はすべて2年前の時点で、改正法に準じた表示シールを付け替えている。3種類の菓子だけ「シールの変更を忘れていた」とはあまりにも不可解な説明だ。

消えたスクープ?

 さて「フライデー」のスクープから2日後の4月1日、共同通信は本件ニュースを次のように全国配信した。

 サツマイモの産地として知られる埼玉県川越市に本社を置く菓子製造販売会社「くらづくり本舗」が、宮崎県や川越市内の製造業者から仕入れたイモ菓子の製造者を自社と表示していたことが1日、分かった。
 川越市保健所は3月28日に食品表示法に基づいて改善指導した。
 同社などによると「芋せんべい」「芋あられ」など3商品で、加工の作業だけをしていたが、自社を「製造者」と記載していた。
 同社は「新型コロナへの対応に追われ、製造者と加工者をそれぞれ記載したシールを貼るのを失念してしまった」と説明している。くらづくり本舗は明治時代の創業で、自民党の中野英幸衆院議員が社長を務める。

 共同通信による記事には「元従業員の内部告発」との記述は見当たらず、「フライデー」の報道よりトーンダウンした、中野英幸氏に忖度(そんたく)しているかのような印象さえ受ける。「フライデー」のスクープでは「くらづくり本舗」の元従業員により、このような食品偽装が長年にわたって行われていたとの証言が報じられた。その社長が自民党代議士だからこそメディアに大きく取り上げられたのであり「元従業員の内部告発」に端を発したことは本件報道の重要な点だ。
 ところが共同通信の配信記事では「製造者を自社と表示していたことが1日、わかった」と報じながら、その事実がいかなる経緯で露呈したのかという重要な説明は、あえて省かれているようにしか見えない。この種の記事であれば「製造者を自社と表示していたことが1日、“元従業員の内部告発で”わかった」など、「なぜ、わかったのか」の経緯を簡単であっても報じることが常識であり、報道の基本中の基本だ。だが「フライデー」以後に続いた各メディアでは、中野英幸社長の「シールを貼り忘れた」との共同配信の記事をそのまま転載し、「うっかりミスで、大した過失ではない」との印象を読者に付与しているようだ。いかに中野氏が衆議院議員で、地元では有名な和菓子業者の社長とはいえ、「うっかりミス」程度のことを報道する道理はない。
 本件のニュース・バリュー(報道価値)は、これが「元従業員の内部告発」だったからこそであり、メディアは本来この点を掘り下げて追及すべきではなかったのか?ちなみに、「フライデー」の翌日3月31日の讀賣新聞ネット版は次のように報じている。

 同社などによると、不適切な表示をしていたのは「芋せんべい」「芋あられ」「甘藷(かんしょ)先生」の名称で販売している同社の3商品で、市民や観光客に人気が高い。
 同社は、宮崎県川南町や同市内の別業者が製造した菓子を、自社で袋詰めし、包装に「自社製造」と記載して販売していた。

 同紙でも「元従業員」の存在は消されているものの「別業者が製造した菓子を、自社で袋詰めし」と、「くらづくり本舗」が人知れず行っていた作業工程について書いている。これだけでも、共同通信が「シールの貼り忘れ」としか報じなかった記事との温度差は明らかだ。


「くらづくり本舗」に直撃取材
「シールを貼り忘れたのではない。表示修正を忘れただけ」?

 当の「くらづくり本舗」はどう答えるのか?
 本紙は代表・中野英幸氏に取材を申し込んだが、同社は代理人の小川幸三弁護士(サン綜合法律事務所・東京都港区)が質問に応じるという。
 小川弁護士の回答書(FAX)では「まず、本件は、本件和菓子の原材料の産地偽装をしたという問題ではありません」と前置きし、次のように釈明した。

 「本件は、2020年4月1日完全施行の改正食品表示法の下では、当社を加工業者として表示し、製造所を「A(個人名)(芋せんべいの場合)」または「株式会社M(芋あられと甘藷先生の場合)」と表示しなければいけなかったところ、2020年4月1日以前の表示方法として許容されていた製造者を当社とする表示方法を、完全施行に合わせて修正すべきところを修正し忘れてしまったという問題です。」

 一見もっともらしい釈明だが、これでは「なぜ」表示シールを修正し忘れたかの回答になっていない。続けて小川弁護士は、中野英幸氏の主張をこう代弁した。

 そもそも「(産地偽装の)シールを貼ってしまった」という事実は存在しません。2020年4月1日完全施行の改正食品表示法に合わせて、当社は、本件商品については表示の修正をシールで行う予定であったところ(本件商品以外については、改正食品表示法施行期日前に表示の修正は完了済み)、直前に発生した新型コロナウイルスの感染拡大への対応に追われ、当社の担当者が2020年4月1日に行うべきであったシールによる表示修正をし忘れたため、改正前の表示が修正されずにそのまま残ったままであったというのが本件です。

 つまり「コロナ対策」に追われる中で、本件3商品に限って改正食品表示法に準じたシール表示を修正し忘れ、他の商品は2年前にすべて対応済みだったというのである。だから、この3商品だけの「うっかりミス」だと言いたいようだ。しかし「くらづくり本舗」の商品は、現在同社ホームページで判るだけで、およそ30種類の商品がある。その中で、今回問題とされた3商品だけが「表示修正をし忘れた」という説明は、むしろ不自然極まりない。
 同社代理人は「(産地偽装の)シールを貼ってしまった」のではなく「表示修正をし忘れた」とロジックを駆使してみせるが、要するに産地偽装、食品偽装の意図はなかったと強調したいのだろう。だが、一般消費者の普通の感覚からすれば、結果として産地を偽った状態で2年間も販売していたことは紛れもない事実である。 しかも該当商品の菓子を入れる外装のパッケージには「九里四里うまい 十三里半 本場川越芋の 甘藷先生」 と書かれている。 

 さらに「くらづくり本舗」の本店外観を版画風に描いたイラストがデザインされており、消費者の目には、どう見ても川越産さつま芋を使用した「くらづくり本舗」の自社製品だと映る。そのうえ、袋の表示シールに自社製造との記載があれば、なおのこと川越の「ご当地菓子」だと信じて当然だ。
 言い方を変えれば、これらの商品は購買者をミスリード(誤誘導)するパッケージだとも言える。もしも、これが「くらづくり本舗」代表・中野英幸氏による「意図したミスリード」だと仮定すれば、なぜ30種ある同社販売食品の中で、この3商品だけが表示修正されないままだったのか辻褄が合う。

 川越産だと思った客がシールを確認したときに製造者名が他の業者で表示されていれば「くらづくり本舗」の自社製造商品ではないことは一目瞭然となり、客が買わなくなるからではないのか?それを抑止するために、改正食品表示法が完全施行された後も「バレるまでは、そのまま売ろう」と中野氏が企んだとしたら?
 もしそうだとすれば、これを「食品偽装」と言わずになんと言うのか。

川越市保健所の見解と、小江戸の「ウワサ」

 「くらづくり本舗」が不作為、過失を問わず「不適切表示」による販売を2年にわたって行っていたことは間違いのない事実である。
 これは食品表示法第5条「食品関連事業者等は、食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をしてはならない。」に抵触する。不法行為であることに相違はないので、罰則等について川越市保健所の担当課に尋ねると、「罰則はあるにはあるが、今回は厳しい罰則には当たらない」という。
 「厳しい罰則」とは、アレルギー表示など健康被害を及ぼす恐れのある違反を指し、それらについて消費者庁に報告することになっている。
 本件「くらづくり本舗」のケースは、健康被害に直接つながるものではないため、保健所からの改善指導で終わったとのことであった。
 本紙の「しかし2年間も放置していた事実は悪質ではないのか」との問いに担当課長は困った表情を覗かせながら「保健所としては改善指導を行うだけ」であり、本件ではすでに指導済みだとの見解を示した。だが保健所のコメントを知って額面通りに受け取る市民はいまい。中野英幸氏は少なくとも役職上は川越市の名士のひとりにして自民党代議士である。
 役人が甘い対応で済ませ、言葉を濁したとしても何も不思議ではない。

 中野家をよく知る川越市内の人物は、「あくまでも印象だけど」と前置きしてから「(先代の)清さんが引退し、ヒデちゃん(英幸氏)が議員になってからは弟の正剛君が会社を切り盛りしていると聞いているけど、正剛君はこういうこと(修正表示の放置、他社より少ない内容量にして価格は倍額近くも上げる等)ができるような人ではないと思う。もしやるとしたらヒデちゃん(英幸氏)のほうじゃないかねえ」と苦笑を漏らした。

 中野英幸氏は、川越商工会議所の「常議員」として役員にも名を連ねている。 商工会議所の職員に話を聞くと、常議員は40人で3年に1回の選挙で選ばれるという。選出されるには、地元での信頼と信用が求められ、中野氏のような無責任な対応が露呈した人物が続投するべきでないことは自明の理というものだ。今のところ、商工会へのクレームや問い合わせはないものの、職員は「今までに前例がないことで、とてもショックです」と語った。
 商工会議所の総会は年2回開催され、2回目の総会は6月に開かれる。
 この総会で「くらづくり本舗」の本件問題が議題に上がる可能性があると同職員はいう。また常議員の3年に1度の選挙も10月に行われる。6月の総会や10月の選挙を待たずしても、中野英幸氏は商工会議所の役員を自ら辞すべきだろう。

本紙の推理は飛躍に過ぎるか?

 今回、不適切表示が指摘された3商品「芋せんべい」「芋あられ」「甘藷(かんしょ)先生」は、現在「くらづくり本舗」ホームページからは削除されている。2年も遅れて改正食品表示法に則した表示に修正したはずだが、商品ごと引っ込めるというのも不可解だ。本来ならば、修正すればこそ襟を正して再発売して然るべきだとも思えるが、代表・中野氏は修正表示を済ませ、「お詫び」を同社ホームページに掲載しながら今回の騒動を、なかったことにするかのように問題の3商品を棚から下げた。

 本件発覚の発端となった「フライデー」が報じた「元従業員の内部告発」が事実であれば、この3商品に限ってなんらかの「事情」があるのではないかと考えるのは、本紙の飛躍に過ぎるだろうか?
 「表示シールの修正を忘れただけ」との無責任な釈明に終始した代表・中野英幸氏は、仮にも国会という立法府の議席に座る自民党衆議院議員であり、いずれにしても「くらづくり本舗」は、結果的に2年間も消費者を裏切っていたことは事実だ。
 それだけではない。中野氏は「川越市食品衛生協会常任理事」「埼玉県菓子工業組合理事長」という要職にも就いているのだ。いかなる理由であれ改正法後の対応を2年も「忘れていた」などという有権者をナメきった釈明は、国民への裏切りに等しい。本紙は引き続き「くらづくり本舗」と中野英幸氏ついての情報を求めながら、本件の真相を追跡調査する所存だ。

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