「グレート・リセット」後の世界 | 行政調査新聞

「グレート・リセット」後の世界

―新型コロナ、ウクライナ戦争を超えて、世界は激変する―

 2021年のダボス会議(世界経済フォーラム)は新型コロナのために中止となった。中止になったものの、会議のテーマ「グレート・リセット」を世界中が認識し、世界はその方向に動き始めた。ウクライナ戦争も「グレート・リセット」の認識から始まったと考えてよい。そのウクライナ戦争の行方は不透明で、影響を受けて、全世界的な食糧危機やエネルギー不足が危惧されている。
 世界はこの先、真っ暗闇になってしまうのだろうか。

すべては「グレート・リセット」から始まった

 新型コロナ対策もウクライナ戦争も、「ダボス会議のテーマ 『グレート・リセット』 に始まった」などといえば、怪しい陰謀論と思われるかもしれない。新型コロナは「グレート・リセット」が話題になる1年以上前に始まったからだ。だがこの陰謀論は、奇妙な整合性を持っている。新型コロナもウクライナ戦争も、世界を激変させ、新しいスタート地点を作り上げようとしている。「グレート・リセット」と呼ぶのに相応しい出来事なのだ。冷静に現状を眺めながら、「グレート・リセット」という大テーマを考えてみたい。その奥に、ウクライナ戦争の向こうにある「未来」が見えてくるはずだ。

 「グレート・リセット(すべてを初期状態に戻す)」は、2021年に開催される予定だった「ダボス会議(世界経済フォーラム)」のテーマだった。2021年の春に、世界の政財界人、知識人などが集まって「グレート・リセット」について討議することが決まっていた。
 ところが新型コロナの影響で会議が開かれず、延期され、結局2022年5月22日から26日までの期間に、オンライン形式で、全世界の人々が誰でも視聴できる形として開催された。「グレート・リセット」の先にある未来を見るためには、まず「ダボス会議とは何か」について考えてみる必要がある。ダボス会議とは1971年に始まったもので、毎年1回、世界を代表する100の企業がカネを出しあって、世界中の政財界のトップクラスを集めて「世界を良い方向に動かすにはどうすればいいか」を考えるための会議だった。つまり、良くも悪くも、1970年代、1980年代を通して、ダボス会議は「世界の支配者たちが秘密の協議をする会合」だったのだ。その秘密会合だったダボス会議は、今や世界中の誰もが見ることができるオープンな会議に変わってしまった。なぜ変わったのか。世界の政財界トップクラスだけの会合に疑念の目が向けられたためだ。

 2020年の米大統領選を揺るがした「Qアノン」が大きな契機になったとも指摘される。Qアノンについての説明は横道にそれるので、ここでは深く追及しない。ひとことでいえばQアノンとは、強烈な陰謀論を背景とする思想集団である。一般的な歴史認識から逸脱し、世界の政財界に君臨する者はすべて「悪」と規定、世界を裏から操る「ディープ・ステイト(DS=闇の世界政府)が存在すると主張する。天皇もその一員だともいう。もちろんこれは、単なる作り話であり、デタラメである。

 ご存知の通り、表の世界である世界各国の政府は、1つに纏まっていない。各国がそれぞれ主張しているから、纏まることがない。もし「裏の世界政府」などがあったとしても、そこは必然として、表の世界以上に纏まりにくい。イルミナティとかフリーメイソンとか中国発祥の秘密結社とか…。それらの奥の院を垣間見たことはあるが、彼らが1つに纏まることなどありえない。DS(闇の世界政府)の内部情報など、チラリとも流れ出てこない。そんなものが現実には存在しないことが、この状況からも理解できる。――そもそも常識的に考えて、漫画にも登場しないバカバカしい組織などあるわけがない。

世界はこの夏から衝撃的に動く!

 ダボス会議に出席する、世界を代表する政財界のリーダーたちは、本当に本気で「世界を良い方向に動かすにはどうすればいいか」を考えてきた。もちろん彼らの多くは、経済人としてカネ儲けを考え、あるいは政治家として自国の拡大拡張を考える人々だ。だがダボス会議の場では、自分のカネ儲け、自国の拡大という視点から外れて、世界人類の未来を考えてきた。それが陰謀論によって否定されてしまったのだ。
 そこでダボス会議はベールを捨て去り、誰もが視聴できる形へと変身しようとしている。ところがこの変身は、ダボス会議を政治宣伝の場、自己主張の場に作り変える可能性がある。「グレート・リセット」というテーマが初めて世に出た2021年1月のダボス会議(オンライン形式)で、プーチン大統領が自由主義諸国の構造的欠陥を指摘し、強力な国家体制による社会改革を主張したことからもそれが理解できる。

 既にこの時、プーチンはダボス会議の変節を見抜いていたのだろう。プーチンは資本主義、自由主義という体制そのものを否定し、社会主義、共産主義に進むべき道筋を主張した。プーチンの主張が正しいか間違っているかが問題なのではない。ロシアの正当性を謳い、ロシアが自己主張することは、世界人類の未来を考えるというダボス会議の大テーマから外れてしまうのだ。世界は今、大きな分岐点に差しかかっている。それは世界中の誰もが理解している。プーチンは誰よりもそれを理解している。

 第二次世界大戦後から今日までの77年間で、世界は行き詰まり、人類だけでなく地球そのものまでが終焉に向かっている。人類も地球も、もう「待ったなし」のギリギリの局面に追い込まれている。そのギリギリの局面で、プーチンは動いた。ウクライナ侵攻である。ロシア軍によるウクライナ侵攻は、プーチンの独断である。プーチンの独断だが、それは人類史が生み出した必然でもあった。ロシア軍によるウクライナ侵攻は、まだ終わりを見せない。ウクライナがどうなるか、わからない。その不透明なウクライナ情勢を通して、その先の未来が漠然と姿を現している。
 明確な未来像ではないが、ぼんやりと姿を見せる未来像を見てみよう。

ウクライナ戦争長期化が中東を不安定にする

 ロシア軍がウクライナに侵攻を開始してから3カ月が過ぎた。当初は、ロシア軍の稚拙さとウクライナ軍の強靭さが目立ち、首都キーウ(キエフ)の攻防戦でもロシアは勝てなかった。ところがここにきて、南東部の要衝とされるマリウポリではロシア軍が「完全制圧」を宣言(5月20日夜)するなど、ロシアが攻勢を強めている。ロシアはクリミア半島につながる南東部全域を掌中に収め、なんとかロシアの面目が立つ状態となった。「ロシアがマリウポリを制圧したことで、ウクライナ戦争が(一時的に)休戦となる可能性が高い」との見方も一部では出ているが、現実にはその道は遠い。
 トルコのチャブシュオール外相が「NATOにはウクライナ戦争の長期化を望む勢力がいる」と発言した通り、ウクライナ戦争が休戦する可能性は低い。ちなみにトルコ外相が「ウクライナ長期化を望む勢力」と言っているのは米国のことだ。トルコが北欧二カ国(フィンランドとスウェーデン)のNATO加盟に了解していないのは、米国の戦闘機購入問題が絡んでいる。トルコの予想外のわがままは、中東におけるトルコの立場に関係している。つまり、ウクライナ戦争が終わりを見せない理由は、中東の勢力図と関係しているのだ。ウクライナ戦争で兵力を消耗させてしまったロシアは、ついに中東(シリア)から軍を撤退させ、その兵力をウクライナに回そうとしている。
 それは中東からロシアの勢力が消えることを意味している。中東からは既に米軍が撤退しているが、ロシアも撤退となると、中東の勢力図は大きく変化する。
 中東は遥か古代から、ペルシア(イラン)、アラビア(サウジアラビア)、トルコという3大勢力が激突する地域だった。それがヨーロッパ列強に支配され、第二次大戦後は米国そして近年ではロシアに支配されていた。中東を抑えていた米国とロシアが撤退すると、イラン・サウジ・トルコが覇権を争うことになる。そしてそこには中東諸国すべてが嫌っているイスラエルが存在する。ウクライナ戦争が思わぬ形で中東に暗い影を落としている。

原爆・食糧危機・エネルギー不足・新パンデミック襲来そして巨大地震!

 ウクライナ戦争の今後、さらには不安定な中東。だが不安定な世界情勢は、ウクライナ周辺や中東だけに限らない。戦争、内戦、テロだけではない。これから先、人類は食糧不足、エネルギー不足、そして新たなパンデミック(伝染病大流行)に直面する。我が国では、それ以上に怖いのが巨大地震や狂気の犯罪かもしれない。
 この夏以降、次々と人類を襲う恐怖のプログラムをザッと眺めてみよう。

●核兵器はいつ、どこで炸裂するか

 プーチンはウクライナの軍事作戦に関して「第三国が脅威を与えようとする場合には核兵器の使用も辞さない」と再三にわたって警告を発している。ロシアの軍事作戦展開に、ウクライナ以外の国が関与してくれば核兵器を使用するとの警告だ。
 現実に米英を初めとするNATO各国は、既にウクライナ戦争に関わってきている。かつて日中戦争の折り、中国国民党政府軍に対し、米英などは「援蒋ルート」という軍事支援作戦を展開したが、現在では米英NATO軍が中心となって、ポーランド経由で武器・弾薬・資金・人材を送り込んでいる。

 「援ゼレンスキー・ルート」が確立されている。そのお陰でロシアは苦境に立たされており、ウクライナで核兵器を使用する可能性が高まっている。最悪の場合、この夏にも小型核が炸裂するかもしれない。核兵器の使用が起こり得るのはウクライナだけではない。既に述べてきた通り、中東全域は危険な状況に陥っている。シリアやイランがイスラエルに向けて核兵器を使用する可能性もある。より可能性が高いのは、イスラエルがシリアやイランに対して核を使用することだ。
 どこで、誰が、どんな形で核兵器を使用するかはわからないが、もはや核は飾り物ではなくなっている。使用されるのが超小型核であっても、核兵器の使用は連鎖反応を生む。脅しているわけではない。非常に近い将来、地球で核兵器が炸裂する可能性があることを認識しておく必要がある。もし核が使用されれば、いま全世界を襲いつつある食糧危機、エネルギー危機、金融崩壊などを一気に加速させるだろう。

●襲い来る食糧危機と金融崩壊

 「ヨーロッパのパン籠(かご)」と呼ばれる穀物の供給国であるウクライナが戦争状態になった結果、黒海経由で運ばれる食糧が止まり、穀物不足は全世界に及び始めた。
 国連のグテレス事務総長は「数カ月以内に全世界で数千万人の栄養失調者や餓死者を出すことになる」と警告を発している(5月18日)。ウクライナ戦争だけが原因ではない。新型コロナや気候変動も食糧危機の大きな要因となっているが、既に今年5月時点で全世界の2億7,600万人が食糧不足に悩み始めている。

 この数字は2年前の倍以上だ。我が国の状況は一段と厳しい。餓死に至るほどではないが、なにしろ食糧自給率が極端に低い日本にとって、世界的な食糧不足は家庭を直撃することになっている。日本の食料自給率は、令和2年(2020年)に「統計以来最低」となる37.1%(カロリーベース)を記録したが、その後この数字はさらに悪化している。それなら自前で食糧を増産すればいいではないかと思われるだろうが、化学肥料のほとんどを輸入に頼っている日本では、それもままならない。
 化学肥料といえばリンとカリウムがその大半だが、リンもカリウムも100%輸入だ。そして円安ドル高の現在、輸入価格はうなぎ上りとなっている。ちなみにリンの生産国は1位が中国、2位米国、3位モロッコ、4位ロシアカリウムは1位カナダ、2位ロシア、3位ベラルーシ、4位中国である。食糧そのものである小麦の輸出国は1位が圧倒的にロシア。2位米国、3位EU(欧州)、カナダ、そしてウクライナと続く。
 家畜飼料となる大豆は、日本の場合、全消費量の94%となる339万トンを輸入に頼っているが、大豆最大の輸入国である中国は1億300万トンを輸入しており、その輸入量を増やそうと必死になっている。大豆価格は高騰する可能性があり、円安の日本にとって、海外市場で勝ち抜くことはかなり厳しい。

 食糧問題を1つ1つ分析することは意味がないのでこれくらいにしておく。重要なことは、食糧危機を目の前に控えた状態の現在、なお日本政府は、コメや生乳の減産調整政策をとっていることだ。一方、「食べたくても食べられない人」がいるのに減産調整を要請するなど愚策も愚策。不足している人々に回せば、供給者(生産農家など)も助かるし、何より生産意欲が向上するのに、政府はそれすら理解していない。
 我が国政府に期待してもバカを見るだけだ。政府の方針に従うだけでは、バラ色の未来はない。自力で生き残る覚悟を持つことが肝要だ。食糧問題だけではない。

 エネルギー危機も必ずやってくる。日本のエネルギー自給率は11.8%。世界的には韓国より下位となる34位。それでいて電力消費量は、1位中国、2位米国、3位インドに続く世界第4位である。総人口を考えた場合、日本がどれほど電力に頼っている国なのか理解できる。その状況下、世界的なエネルギー価格高騰は、まだ続くと考えられる。ここでも円安は日本を揺るがすことになる。

 第二次大戦後の世界は、米ドルを基軸通貨として動いてきた。いまプーチンのロシアは、「米ドル基軸通貨体制」に異議を唱えている。プーチンが成功する可能性は低いだろうが、いずれ世界は「米ドル基軸通貨体制」を放棄する。一時的には、米ドルだけでなくユーロや人民元、ルーブル(?)などが国際通貨として流通し、やがて新たな金融体制が構築されるだろう。米ドルと一蓮托生となった日本円で生きる日本国は、最悪の場合(あくまで最悪の場合だが)国家デフォルト(債務不履行)に陥る可能性すらある。流通貨幣の価値が大暴落するかもしれない。
 令和6年(2024年)上半期には、新札が登場する。1万円札が渋沢栄一になり、津田梅子が5,000円札、北里柴三郎が1,000円札になる。既に造幣局は新札印刷を開始したと伝えられるが、状況によるとこのときにデノミ(通貨単位変更)が行われる可能性もある。100万円が新1万円になるといった具合だ。せっせとタンスにため込んだ100万円が1万円の価値になってしまうかもしれない。いずれにしても世界的な金融崩壊は間違いなくやってくる。生きる者にとって何が重要なのか、価値観が問われる時代がくるだろう。

●新たなパンデミックが世界を恐怖におとしいれる

 今年(令和4年/2022年)4月、英国などで原因不明の急性肝炎が確認された。その後、欧州各国や米国など12カ国でこの原因不明の肝炎が観測されている。5月中旬には、英国、米国、カナダ、フランスでサル痘(とう)の患者が確認された。
 サル痘は1958年にアフリカで発見されたウイルス性の病気で、致死率はそれほど高くはない(3~6%)が、集団感染するのが特徴である。
 新型コロナの世界的な拡大で、世界中が公衆衛生に気を使うようになった。その結果、これまで地球上のあらゆるところに潜んでいた雑菌などが繁殖しにくくなり、ウイルスなどにとって環境が激変した。また北半球を中心とする温暖化現象も、新たなウイルス蔓延の引き金となっている可能性もある。

 地球上には未発見、未解析のウイルスが170万種も存在しているとの説もある。(米「ナショナル・ジオグラフィック」誌によると170万種のうち約85万種が人間に感染する恐れがあるという。)地球環境の変化が、これまで表に出てこなかった猛毒のウイルスを拡大させる可能性は高い。WHOを初め、多くの学者たちは、近い将来に新たなパンデミックが発生すると警告している。一説には2023年から2024年にかけて、胃腸または血液に関係する恐怖のパンデミックが襲来するともいわれている。

●巨大地震、自然災害を乗り越えて日本が輝く日

 激動する世界にあって、我が国では地面そのものまでが激動している。地震や噴火だ。特に地震は、今年に入ってから5月27日までに震度4以上が25回も起きている。それも北海道、東北、関東、中部、近畿、九州、沖縄と、日本中が激しく揺れている。日本列島が活動期に入っている。
 巨大地震に対する忠告、警告は割愛する。地震大国・日本に生きている以上、日頃から覚悟はできているはずだ。地震直撃で運よく死ねばそれまで。問題は生き残った後にどう生き延びるかだ。今現在から今年いっぱい、来年、再来年くらいまでは、地震と自然災害は必然と考えていい。どこで何が起きるかは、神のみぞ知る話。賢明なる読者諸氏が大災害を無事にやり過ごし、目の底に明るい光を取り戻されることを切に祈りたい。
 食糧危機やエネルギー危機、パンデミックを乗り越えて、日本が輝く日が、まもなくやってくる。根拠もなく口にしているわけではない。日本は近い将来、驚くほどの復活を遂げる。日本交通公社と日本政策投資銀行が共同で行った調査では、アジア各国。欧米豪州各国の海外旅行希望者の「旅行したい国」第一位が日本だった。
 それも第二位ハワイ(米国)、続く韓国・台湾などと比べて圧倒的な第一位だった。
 世界中の人々は、なぜ日本に来たがるのか。清潔だから、本場の日本食を食べたいからなどがその理由としてあげられているが、本当の理由はもっと深いところにあるはずだ。バイデン米大統領が5月22日に来日した。翌23日にはインドのモディ首相が、そして24日には就任直後のアルバニージー豪首相も来日した。

 モディ首相とアルバニージー首相は「クアッド(日米豪印戦略対話)」に出席する目的での来日だが、今年に入ってからの外国人要人の来日は驚くほどの勢いだ。4月にはスイスのカシス大統領(兼外相)、ニュージーランドのアーダン首相、ドイツのシュルツ首相も来日している。なぜこれほど外国人要人が日本を目指すのだろうか。
 グレート・リセットで世界が激変した後を考えているからだ。第二次大戦後の77年間、世界はずっと混乱を続けてきた。新型コロナやウクライナ戦争、そしてその後に起こるであろう金融崩壊、世界秩序崩壊の後に、荒波を超えて日本が世界に輝くことを、彼らは知っているのだ。日本は、またこれから荒波に揉まれるだろう。

 円安はさらに進み、株価も暴落し、巨大地震や自然災害など、幾多の災害も体験するはずだ。それでも日本は、早ければ今秋、たぶん年末、どんなに遅くなっても来春には力強く羽ばたく。その力強さは想像を絶するものになる。失われた30年をわずか1、2年で取り戻し、その先は笑いが止まらないほどに輝く国になる。
 その途轍もなく明るい未来を、ぜひ見届けて頂きたい。■

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