獄中記 第十七回 | 行政調査新聞

獄中記 第十七回

福山 辰夫

獄  中  記

<福 山 辰 夫>

第 十七 回

 皇紀2655年 【平成7年・西暦1995年】 

 2月7日 (火) 北方領土の日 

 ※『北方領土の日』に想う。
 第二次世界大戦後、米国を中心とする「資本主義陣営」(西側)とソ連を中心とする「共産・社会主義陣営」(東側)とで、様々な対立構造から世界的規模での緊張状態を生み出したのが、所謂『東西冷戦』である。だが、米国との長年に亘る覇権争いがソ連経済を逼迫させ、1987年にゴルバチョフ書記長(当時)によって『ペレストロイカ』(政治改革)が提唱される。

 1991年8月、守旧派によるクーデターは未遂に終わるも、ゴルバチョフ大統領(当時)と連邦に対するクーデターは『ペレストロイカ』を頓挫させ、国内急進派の台頭もあって「ソビエト連邦」は崩壊する。
 1991年12月26日、『連邦共和制国家』として「ロシア連邦」が成立。只、ソ連が崩壊しようとロシア人が「姑息で狡い」という本質に変わりはない。そもそも、終戦直前の1945年(昭和20年)8月8日、『日ソ不可侵条約』を一方的に破棄して「対日宣戦布告」。翌9日の午前0時を以って「対日参戦」。

 当時でも、国際的信義に悖る卑劣な行為と非難を受けているが、ソ連軍は同時に「満洲・朝鮮半島・樺太南部・千島列島」へと侵攻。各地で戦闘を行い、民間人を含む多くの日本人同胞が「虐殺・強姦」され、「シベリア抑留」では極寒の地での強制労働を強いた。また、我国固有の領土である『北方領土』を「火事場泥棒的」に不法占拠して、今日に至っている。
 ロシア人の姑息さとは、両国は互いの経済協力で同地域を『日露友好の証』とするべく、その世界に冠たる日本の技術と、資金援助によって開発を進めるのであれば二島(色丹島・歯舞群島)は、即時返還するといっては見返りを求めての「外交カード」としてチラつかせる。力が全ての正義であり、力で奪った領土は例え1㎜たりとも返すという概念は皆無で、領土拡張主義こそ「ロシア人がロシア人たる所以」なのだ。
 昼休憩後に会計課の職員が来て、工場の食堂へ呼び出される。
 要件は、『阪神淡路大震災』の「義援金」を願い出たことに対する「支払確認」が欲しいとの事で、認めの指印(左人差し指)を押す。たかだか1万円程度で恐縮だが、神戸市内はインフラが壊滅状態に陥り、少しでも現地の「復興支援」に役立てて貰えればと願う次第也。尚、今回の震災で亡くなられた方々に対して衷心より哀悼の意を表します。           合掌

2月9日 (木) 

 1月分の賞与金教示有り。
 「6等工1割増+夜間独居の配食扶分(19日)」=2,345円也。

2月11日 (土) 建国記念日 

 旧紀元節(神武大帝御即位の日)。
 昼餉時に『祝日菜』の副食として、「バームクーヘン」(1個)の給与有り。

2月12日 (火) 

 『バレンタインデー』にて、昼餉時に「明治・チョコレート」(1枚)が給与される。

2月16日 (木) 

 朝の出役時から、地元テレビ局の『東北放送』(TBC)が当刑務所内を取材撮影の為、ディレクター以下の取材撮影スタッフが来所。終日、工場の作業風景と日常を取材撮影。我が12工場では、昼餉と昼休憩の様子を撮られる。然し、一般社会で平凡に暮らす人々には、只でさえ刑務所といった所には縁がなく、況して凶悪犯罪者ばかりが務める「再犯長期(LB)刑務所」であれば余計だ。昨今では、テレビやら実話系の雑誌でも塀の中の実像を取り上げることが多くなったが、一般人が思っている程、社会的には解放されてはいない。まだまだ、相も変わらずの閉鎖社会である。

2月18日 (土) 

 午前中は10時から11時30分迄、慰問演芸『第22回ふれあいの箱』が講堂にて催される。今回の同演芸は、総勢39名。歌有り、踊り有りのショーを熱演。特に、地元仙台の盲目演歌歌手である「佐藤正美(まさよし)」が魂の熱唱をし、女性演歌歌手の「秋山凉子(りょうこ)」が華を添えてくれる。
 午後は「臨地」に勤しみ、途中で「頭刈り」が有り出房する。
 夕方は『論語』を独学し、夜は読書。
(*一昨日も来所した『東北放送』が、慰問演芸と余暇時間の様子を撮影していく)

2月23日 (木) 皇太子殿下誕生日 

 徳仁殿下御誕生日。午前中は「ミシン作業」に集中。昼餉後、12時20分から『書道教室(1班)』が予定も、講師である「鈴木登郁先生」の都合により中止となる。先生も御高齢であり、此処の所体調が良くないと教育課の職員に聞いていたが、我々受刑者も楽しみにしているので1日も早い御快復をお祈りしております。

2月24日 (金) 

 朝の出役時に圖南書道會へ出品する、「漢字規定競書作品」(半紙1点)を工場担当経由で教育課に提出。また昼餉後、12時20分から『古城漢字』が実施され「16級」のテストを受ける。前工場で一緒だった13工場の4名は変わらず元気そうでなにより。
 還房後は、工場定期私本配布日にて自弁購入の週刊誌1冊。月末の領置下付本として『干支の活学・人間学講話』(安岡正篤・プレジデント社)、『行動右翼入門』(衛藤豊久、野村秋介、猪野健治・二十一世紀書院)の2冊が手元に届く。

3月1日 (水) 

 始業して直ぐに担当台へ呼ばれる。菅野のオヤジより「無事故6ヶ月」になったので、『無事故章』(一本線)の交付を受ける。
 実際は「無事故8ヶ月」になるのだが、昨年11月18日~12月1日迄の間、風邪で病舎に入病していた故、11月と12月の2カ月は無事故としてカウントはしない為、本日付での交付になったとの由。只、当所に3年も務めているのに「無事故6ヶ月」では却って恥ずかしい。
 月初めの「作業安全日」にて、運動時に『避難訓練』を実施する。

3月3日 (金) 雛祭り 

 上巳(桃の節句)。1月30日にY口と口論になり、受罰中だった小野寺勝則(北見抗争で16年)兄弟が、今日付で「第7工場」へ配役になる。折角、兄弟分の縁を持ったものの、矢張り他工場へ下されてしまった。
 終業後に還房すると、兄弟も『夜間独居』(5舎3階)で同じ階の並びになり、出役や行事出席の際には顔を合わせる機会もあるだろう。

3月4日 (土)

 朝餉後の9時から11時30分迄、恒例行事となる『囲碁・将棋大会』(*講堂)が、教育課職員の立会いの下で開催される。12工場の囲碁代表は「桜きなこ」氏(無期囚)で、将棋代表は「F田」さん(姫路市住人)だが、両者共に緊張で普段の力が出せなかったのか、1勝1敗で予選敗退。

3月5日 (日) 

 午前中は、『夜間個室優良室テレビ視聴』(*講堂)が実施される。VTR視聴は『ロス市警94,ゴールドコースト殺人事件』(主演:中村雅俊)を視聴。
 刑事ドラマも、特段といって心に残るシーンもなし。
 午後は臨地に勤しみ、夕方以降は読書。

3月8日 (水) 

 今日で丸4年を務め、残刑期7年となる。工場では、終日ミシン作業に従事し、還房後は就寝迄、日記と読書。

3月9日 (木) 

 朝の出役後、『面接願』(第二統括第二主任宛)の願箋を提出。面接内容は、一昨日の作業中に指導の為、当日代務だった「阿部担当」に「作業交談許可」を願い出た所、余程虫の居所が悪かったのか「さっきからうるせぇんだよ!いいから黙って仕事をしていろ」と暴言を吐かれる。

 小生の場合、ミシンの班長(3班)として指導する為の『作業交談許可』を願い出ただけである。こうも一方的に暴言を吐かれては納得が行かず、昨日菅野のオヤジに話すと「俺から注意をしておく」というので、オヤジの顔を立てて大人しく収める。然し、阿部担当の返答は「至ってその様な言葉は言ってない。況してや、色んな人間が『作業交談許可』の挙手をしていたので覚えていない。忘れた…」との弁。

 懲役とはいえ余りにも人を食った返答に納得が行かず、事の真偽を糺すべく直属の上司(処遇部門第二統括第二主任)に面接を申し込んだ次第也。2月分の作業賞与金教示有り。「6等工1割増+1割」=2,213円也(*夜間独居配食扶の1日半を含む)。父からの文が有り。

3月10日 (金)

 陸軍記念日。還房後は工場の定期私本配布日に付き、自弁購入の週刊誌1冊が手元に届く。

3月11日 (土) 

 午前中は読書。午後は臨地に勤しむも、途中「頭刈り」を実施。夕餉後の余暇は『易経』を独学し、夜は読書。

3月13日 (月) 

 私費通信教育課程・圖南書道『平成7年度前期学習生』の受講許可が下り、受講料(6ケ月分)=3,600円を領置金で支払う為、『受講料支払願』(教育主席・会計課長宛)+『領置金支払願』願箋を日課台で記載して提出。
 昼の休憩後、処遇の呼び出しが有り「急遽申し訳ないが、転房」との告知を受ける。警備隊の若い看守が連行・立会いの下、4舎3階16室~4舎3階25室へと荷物を移動する。前の住人が全く掃除をしておらず、舎房内が非常に汚い。夕餉後の1時間程、大掃除をする羽目になる。

3月17日 (金) 

 担当台に呼ばれ、菅野のオヤジより『平成7年度』の副文化委員をやって欲しいと指名され承諾(*期間は、平成7年4月1日~平成8年3月31日迄の1年間)。正文化委員は、無期+懲役13年を務める「桜きなこ」氏。
 昨日、舎房の水道蛇口が老朽化して漏水が酷く「営繕班」に修理を願い出て、蛇口交換を行うが壁の中からも漏水。朝起きたら、流し台の下~畳の下迄びしょ濡れになっており、出役して直ぐ「営繕班」へと修理を願い出る。

 朝一番に営繕で修理に行ってくれたが、水道管自体鉄管で古く、腐食しているから壁のコンクリートを斫って、そっくり水道管ごと交換をしないと駄目となる。取り敢えず、空き部屋に移動してくれという処遇の指示で、4舎3階27室(*夜間独居)へ一時的措置として転房する。
 夕方のラジオ放送では、関東地方に「春一番が吹いた」と報ずる。

3月18日 (土) 

 9時30分から11時30分迄、『3級会』(*講堂)に出席。本日のVTR視聴は、『ハイネス・大空の誓い』(製作:米国。出演:千葉真一ほか)。予め、工場にて「缶ジュース」と「お菓子」を賞与金にて300円分を購入して喫食。
 昼餉後は「臨地」に勤しみ、夕方の余暇は『易経』を独学。19時以降は、床に就いて読書。

3月19 (日) 

 朝餉後の9時30分から10時30分迄、地元の『真宗大谷派』(*東本願寺)の僧侶による『彼岸会』(*講堂)が催される。読経(*仏説阿弥陀経)が講堂内に響く中、職員代表の「教育主席」と、受刑者代表で一類者の「Aさん」がステージに登壇。中央迄進み一礼をして、祭壇前に設置された「焼香台」で焼香して降壇。尚も読経が続く中、前に座る者から順次看守の指示で起立し、ステージ下に設置された「集団用焼香台」へ進み、各人が焼香を行う。
 出席者全員の焼香を終えると、僧侶の法話(*約20分)を拝聴。

 法話の中で、「仏教での理想の境地とされているのが、煩悩を断ち涅槃へ到るである。そして、彼岸(ひがん)とは御願(ごがん)であり、私たち自身が沢山の煩悩(欲望)を断ち、生きている中で涅槃(極楽)に到達すること。亦、こうした法事に進んで参加し、拝むことによって己を知る機会にしたい。そういう意味での彼岸である」と話されていた。午後は、臨地に勤しみ。夕餉後の余暇は『論語』を独学し、夜は床に就き読書。

3月20日 (月) 

 本日の午前8時頃、東京都内を走る『帝都高速度交通営団』(*営団地下鉄)の丸ノ内線、日比谷線、千代田線の地下鉄車内で、化学兵器として使用される毒性の強い「神経ガス・サリン」が散布され、『同時多発テロ事件』(*地下鉄サリン事件)が発生。戦後、GHQによる「日本人弱体化政策」の一環として『民主・自由主義』を与えられたが、それは「家族」から「個人」への転換であった。
 だが、本来の『個人主義』とは「自立独行・私生活の保全・相互尊重・法の下の平等・自由意志・自由貿易等に価値を置いている」のに対し、今日の我国に於いては「自由=個人の尊重」と間違った捉え方をしてしまい、只管「自己の利益追求・他人軽視・身勝手」といった『利己主義』が蔓延ってしまった。それは家族制度の崩壊を招き、日本精神と伝統文化を否定する『戦後自虐史観』に陥り、「戦前の日本は悪=反日主義」へとなるのである。

 「教え子を再び戦場に送るな、青年よ再び銃を取るな」(*非武装中立)を提唱し、国旗掲揚と国歌斉唱の強制に反対。反日・容共の巣窟たる『日本教職員組合』(*日教組)は、教師は聖職者ではなく労働者であると言って「労働争議と政治活動」に明け暮れる。このような教職組合員らの怠慢こそが、学歴主義・偏差値教育社会を生む。

 日教組によって偏差値教育を施され、学歴競争に勝ち抜いた者らは一見して頭脳明晰なるも、人としての義心を何処かへ置き去りにした儘、社会人となる。だから『オウム真理教』のような偽善者面をした、詐欺師集団で独り善がりな悪魔を、この国に誕生させる結果となったのだ。死者14人、負傷者多数。これは罪のない一般人を巻き込んだ、正に『無差別テロ』である。

3月21日 (火) 春分の日 

 免業日。9時30分から11時30分迄、講堂内で映画上映会(*総集行事)を実施。邦画の『釣りバカ日誌7』(製作:櫻井洋三。配給:松竹。1994年公開。出演:西田敏行、三國連太郎、浅田美代子、名取裕子、寺尾聰ほか。監督:栗山富夫)を観賞。小学館発行の『ビックコミックオリジナル』に連載中の漫画を映画化した作品で、「鈴木建設営業三課」のハマちゃん(西田敏行)と、「鈴木建設社長」のスーさん(三國連太郎)コンビが織りなすドタバタ喜劇。
 今回ロケ地は、福井県の東尋坊でハマちゃんは「クロダイ」を狙い、見事なカタを釣り上げる。新春公開もの故、所々に挟む笑いに一同大爆笑。心が和むひと時であった。昼餉時に『祝日菜』として、「シュークリーム」(1ケ)の給与有り。

3月22日 (水) 

 朝の出役後、父宛に『面会宅下げ願』(会計課長宛)の願箋を提出。宅下げ品目は読み終えた私本で、来月予定している面会に合わせて願い出る。

第十七回 「獄中記」