火だるまの尖閣、分裂する中国 | 行政調査新聞

火だるまの尖閣、分裂する中国

火だるまの尖閣、分裂する中国
―極東に飛び火する世界同時戦乱の行方―

 昨年のロシア軍ウクライナ侵攻以降、世界のあちこちで戦乱の火がくすぶり始めた。バルカン半島や黒海周辺、そして中東――。
 さらにはイランやブラジルなどで起こされた反政府運動。その動乱の火の粉が、ついに極東に押し寄せてくる!

燃え広がった「白紙革命」の炎

 昨年11月26日を皮切りに、中国全土で奇妙な抗議活動が展開された。
 多くは、何も書かれていない紙を掲げて集団で立つ行動で、「白紙革命」と呼ばれている。新型コロナ拡大を恐れ、中国政府は「国内に新型コロナウイルスの存在を許さない(零容認=ゼロコロナ政策)」を採用した。
 このため多くの市、あるいは特定の地域や建物に「ロックダウン(外出禁止)令」が出され、失業者の拡大や企業倒産が相次いだ。このロックダウンに対する不満は、2021年にも既に表れていたが、大きな動きにはならなかった。

 だが2022年夏になると、あちこちで「封鎖は不要、自由がほしい」という声があがるようになっていった。秋に入り11月のサッカーW杯の際に、各地でファンが大騒ぎする中、北京・広州・重慶はロックダウンとなり、数千万人が家から外に出ることもできず、「ゼロコロナ政策」に反対する声が大きくあがり始めた。
 そんな11月の24日に、新疆ウイグル自治区のウルムチで、ロックダウン封鎖されたマンションで火災が起き、10人が死亡した。このマンションは外側からドアにカギがかけられ、非常扉も封鎖されていたため逃げ遅れたと報じられている。
 その火災から2日後の11月26日に、南京伝媒(なんきんでんばい)学院(18年前に新設された大学)の構内で、一人の女子学生が、何も書いていない白い紙をかざして立っていたが、その紙はただちに教師に奪われた。それでも女子学生は紙を持っていた姿勢を変えず、手をかざしたまま立ち続けた。その様子が他の学生によって撮影され、SNSで拡散された。
 ――なぜ白い紙を奪うのか。白い紙に政府を攻撃する力があると思うのだろうか――。その言葉が中国全土に広がっていった。その日の夜、南京伝媒学院でウルムチのマンション火災の追悼集会が行われたが、ここで学生たちが白い紙をかざしてローソクに火を灯した。教師が集まって学生たちを排除しようとしたが、学生たちは動かない。学院長がやってきて「君たちはこの代償を支払うことになるぞ」と脅したが、逆に学生たちから「あなたも代償を支払うことになる」と言い返されたのだ。白紙を掲げたこの夜の抗議活動は、SNSのライブ配信で中国全土に広まった。その結果、その日の夜から南京林業大学でも、同様に白紙を掲げる学生たちの集団が生まれた。それだけではない。

 名門大学として知られる北京の清華大学、広東省の中山大学、浙江省の浙江大学、四川省の四川外国語大学、さらには香港大学や西安交通大学など、中国全土の11の大学で、同じように白い紙をかざす学生の運動が展開された。その深夜、上海市内のウルムチ中路で学生や市民数百人が集まり、「PCR検査は不要、自由がほしい」の大合唱が叫ばれた。警察がこれを排除しようとしたが、群衆はさらに拡大。未明には「共産党は下がれ! 習近平は退陣せよ!」とのシュプレヒコールが巻き上がるようになった。
 27日の朝になると、湖北省武漢ではロックダウン中にもかかわらず数百人の群衆が街に出てバリケードや鉄製のゲートを引きずり倒した。

 ここでは警察の部隊と群衆との間に乱闘が起き、警察官が発砲したとも伝えられている(正確な情報は得られていない)。四川省の成都市でも群衆と警察との小競り合いがあった。広東省広州市でも群衆と警察隊との間で激しい激突があり、催涙弾が使用され、少なくとも数人は手錠をかけられて逮捕されたという。この他、北京、甘粛省蘭州、湖南省長沙、福建省厦門など8カ所の市で大規模な「白紙運動」が展開された。

反政府活動を支援する者は誰か

 1960年(昭和35年)、日米安全保障条約改定に反対する左翼系学生、労働者などが大規模な反対闘争を繰り返した。5月19日に衆院特別委で強行採決が行われ、翌5月20日には、国会で座り込みをする社会党代議士を、警察隊と右翼が力づくで排除して採決。これにより6月19日には改定安保が自然成立することとなった。これに怒った学生、労働者などによる抗議活動は異常なまでに盛りあがった。アイゼンハワー米大統領の訪日が6月19日に予定され、その打ち合わせのために6月10日に来日したハガチ―大統領補佐官が羽田空港を出たところでデモ隊に取り囲まれ、米軍海兵隊によるヘリコプター救出事件(ハガチー事件)も起きている。

 さらに6月15日には東大大学生の樺(かんば)美智子さんがデモ隊と警察隊の衝突の中で圧死する事件(樺美智子圧死事件)も発生した。
 この6月15日の国会周辺デモを本紙記者は目撃している。デモを支援したり、デモ反対派だったわけではない。野次馬としてデモ見物に出かけたのだが、その熱気は半端なものではなく、すさまじい限りだった。国会周辺を取り囲むデモ隊の写真は、今でも見ることができる。主催者側発表33万人、警視庁発表13万人という人数が国会周辺を取り囲み、赤坂や永田町周辺の道路は、アリ一匹も立ち入ることができないような状態だった。街全体に熱気がこもり、ラッシュアワーの通勤電車状態になっていた。

 当時のソ連の国際副部長で、日本工作を担当していたコワレンコが著書(『対日工作の回想』)の中で語っている通り、ソ連は日本のデモ隊に莫大な資金提供を行っていた。10万人超、30万人ともいわれる安保反対闘争は、裏にソ連の資金提供があったものだった。安保反対闘争だけではない。歴史に残る反政府活動には、必ず、資金提供者がいる。プラカードを掲げ、反政府のシュプレヒコールをあげる学生や労働者のほとんどは、熱意に動かされて現地に集まる人々だ。だがその背後には、彼らを扇動する組織がある。

 プラカード作製の費用を調達し、全国あちこちから集まる労働者の交通費や食事代、ときに宿泊費まで提供する者がいる。昨年の「安倍晋三国葬反対デモ」に、シルバー人材センターから時間給をもらって派遣されたお年寄りが多数いたことが明らかにされたが、こうした反対運動に組織的な勢力がいることは確かだ。1989年6月には北京で、10万人以上が参加したといわれる「天安門事件」が起きたが、このとき噂では米国CIAが資金提供を行ったという。最近では、中東イランで、ヒジャブ(スカーフのような布)着用をめぐって大規模な抗議デモが起きているが、ここにも間違いなく資金提供者がいるはずだ。
 イランの反政府デモを背後から支えているのは、米CIAと英MI6だとの噂が強いが、それが真実かどうかはわからない。
 中国全土で11月26日から27日に展開された反政府活動「白紙革命」もまた、確実に何者かが組織的に動いたものだ。それでなければ、広大な中国で同時多発的に抗議活動が展開することなど考えられない。
 北京、上海、新疆ウイグルから四川省、甘粛省、湖南省、広東省…と、中国全土に反政府活動を展開させたのだから、大きな組織が大がかりな工作活動を展開したことは間違いない。それが何者かは、定かではない。中国の習近平体制を陰で批判する人々や勢力は多い。米英などの民主主義勢力だけではない。

 昨年11月の中国共産党大会で、前国家主席の胡錦涛が強制的に退場させられたシーンが世界中に流されたが、この映像からもわかる通り、習近平体制に不満を持つ勢力は確実に存在する。もともと中国では、上海と北京(南と北)の対立は根深い。日本の関西と関東の対立などとは比べものにならないほど、激しく対立している。その上に「共青団と太子党」の対立がかぶさっているから、一つでもボタンのかけ違いが起これば、溝は一気に拡大する。巨大国家・中国は、そんな脆(もろ)さを併せ持っている。

「反共産党」を打ち消す「台湾侵攻」

 中国全土のあちこちで白い紙をかざし、「共産党は下がれ! 習近平は退陣せよ!」とのシュプレヒコールが巻き起こったことで、中国政府内に衝撃が走ったと思われる。世界一の監視社会と言われるほど、中国は監視カメラが発達している。また、SNSなどインターネットを通しての情報も、完全にコントロールされているはずだった。政府を批判する情報が出回ることはほとんどない。

 にもかかわらず、全国規模で共産党・習近平を批判する声があがり、その映像が中国全土に流されたことは、背後に巨大な勢力が存在することを意味する。
 中国共産党指導部と中国政府は、その巨大な反政府勢力を黙らせなければならない。中国は共産党一党独裁の国家である(複数の政党が存在するが、全て「衛星政党」と呼ばれ、基本の部分は共産党と同一姿勢)。
 その中国共産党の党員は9600万人。30年前と比べると、ちょうど倍の数だ。猛烈な勢いで党員数を増やしているが、それでも共産党員が総人口に占める割合は1割以下(7%程度)。人口の9割以上は共産党員ではない。
 しかも共産党員の中に、党中央・習近平と対立する共青団(全共産党員の3割ともいわれる)がいる。共産党中央、習近平の権威を誇示するために必要なことは、中国が一つにまとまる姿勢を内外に見せることだ。それができる唯一の方法は、台湾侵攻である。
 内外の圧力をはね返すために、共産党中央が「台湾侵攻」をかかげるのは当然の流れだ。だが現実に中国軍が台湾に侵攻する可能性は少ない。ゼロといってもいいだろう。中国政府が睨んでいるのは、来年(2024年)1月に行われる台湾総統選だ。現職の蔡英文(民進党)総統は、規定により次期総統選に立候補できない。昨年11月に行われた統一地方選挙で民進党は惨敗し、蔡英文は民進党主席の座を降りた(台湾総統の座は降りていない)。

 来年の総統選の民進党候補者としては、鄭文燦(ていぶんさん)桃園市長(55歳)、頼清徳(らいせいとく)副総統(63歳)らが有力候補だ。一方、対立する最大野党・国民党からは趙少康(ちょうしょうこう)議員(72歳)、朱立倫(しゅりつりん)新北市長(61歳)、韓国瑜(かんこくゆ)高雄市長(65歳)らの名が並ぶ。強力2大政党の狭間をくぐって、民衆党の柯文哲(かぶんてつ)台北市長(63歳)が飛び出す可能性も残る。
 来年の総統選で民進党が敗れ、国民党政権が復活すれば、大陸と台湾の緊張は弱まり、将来的な融合を視野に入れた政策が採られるだろう。
 中国政府はそれを目標とし、国民党を背後支援するために、台湾侵攻の圧力を高めていると考えられる。来年の総統選で、またも民進党が勝利すれば、中国は本気で台湾侵攻を考えざるを得ない。それまでは行動を起こさないと考えていい。現実に米国も、「中国軍による台湾侵攻があるとすれば2026年以降」と予測している。台湾には「中華の至宝」あるいは「人類の至宝」と呼ばれる故宮博物院の68万点におよぶ宝物がある。この68万点の宝物は、日中戦争、国共内戦の戦乱の中、まったく完全に無傷で台北に渡ったものだ。

 故宮博物院の宝物は、蒋介石と毛沢東の密約によって、戦時中も守られた(毛蒋密約)。この宝物を戦火にさらすことは、中国軍にはできない。習近平にもできない。故宮博物院の宝物が疎開するようなことがあれば、中国軍の台湾侵攻が近いと判断すべきだろう。中国共産党そして習近平の権威を守るためには、台湾侵攻が必要だが、現実にはできない。それではどうするか。「台湾侵攻」の代替案として浮上するのが「尖閣侵攻」だ。

尖閣は火の海になる

 沖縄県の石垣島の北に尖閣諸島がある。
 久場島、大正島、魚釣島、北小島、南小島、西小島などの島と岩礁、飛瀬などからなる島々だ。ここには昭和15年以降82年以上にわたって、居住民はいない。中国や台湾では尖閣諸島とはいわず「釣魚島」とか「釣魚群島」といい、中国も台湾も自国領だと主張している。

 終戦直後に日本が「古来より無人島で、明治以降に日本が領有した諸島」として領有していた島々だが、昭和43年(1968年)に尖閣諸島から海底資源が見つかったとたんに、台湾と中国が領有権を主張しはじめた。実はその背後に米国の暗躍がある。米国資本は、尖閣諸島の海底資源を日本と共同で掘削しようと提案してきたが、日本側がこれを拒否。そこで米国は台湾と組んでこれを掘削しようと、台湾に領有権を主張させたのだ。

 現在、大正島と久場島は米軍の射撃訓練場として使用されているが、人は住んでいない。もし尖閣諸島、特に中国では尖閣の代名詞ともなっている釣魚島に中国軍が上陸し、あるいは占有を宣言したら、どうなるか。おそらく日中の関係は過去最悪になるだろうし、日本側は外交の場の国際圧力でこれに猛抗議するだろう。ここに中国共産党を倒そうとするプログラムが加わったら、どうなるか。
 ――人類史上最大ともよばれる転換期を迎えた今だからこそ、そんな悪意が成功する可能性がある。ここに注意を向ける必要がある。

 今年1月9日に、米国「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、中国軍が台湾に侵攻した場合にどうなるかのシミュレーション(模擬再現)結果を発表した。それによると、米側は2隻の空母が撃沈させられる他、7艦~20艦の艦艇を喪失、航空機も168機~372機を失う。中国側は26艦を失い122機の航空機を喪失。台湾側にも3500人の死者が出るが、多くのシミュレーションで中国軍の台湾侵攻は成功しなかったという。

 これは2026年以降に中国軍が台湾に侵攻した場合のシミュレーションで、尖閣諸島に進軍するシミュレーションではない。尖閣に攻め込んだときには、普通に考えると、中国軍は簡単に侵入できる。だが、中国軍の尖閣侵入のときに米空母艦隊がその近くにいたら、どうなるだろうか。
 正確にいえば、米空母軍が尖閣近くにいるときを狙って中国軍が尖閣に攻め込んだらどうなるか。緊張状態あるいは戦闘状態というものは、意図的に作り上げられるものだ。

 米軍あるいは中国軍、または米中両陣営が尖閣諸島周辺で小規模戦闘を行う可能性は高い。米軍シミュレーションからもわかるが、中近距離ミサイルを所有している中国軍は、地対艦ミサイルで米空母群を狙い撃ちできる(中国軍は中距離ミサイルを278基持っているが、米軍は中距離ミサイルを持っていない)。
 尖閣諸島近海で中国軍がその強さを見せつければ、来年の台湾総統選に対する力強い圧力になる。中国軍としては、米空母群に対する攻撃力を見せることが重要で、勝ち負けは二の次の話となる。

 一方米国としては、中国の現体制を揺さぶるには、中国が武力を優先させる無法者国家だということを国際的にアピールしたいから、尖閣諸島近海での戦闘を歓迎したい。中国の体制内にヒビが入れば、中国共産党は分裂する可能性を秘めている。本当に分裂するかどうかは別として、米国は近年、中国が分裂することを視野に入れている。本紙自身も、そう遠くない将来、中国が分裂する可能性は高いと判断している。

 1月21日の土曜日午前10時。沖縄県の那覇市に「外国からのミサイルが飛来」というアナウンスが流された。ミサイル避難訓練である。この訓練からもわかるとおり、国も県も、ミサイルが飛んでくる可能性を理解しているのだ。
 尖閣諸島が戦場になることは、誰も望んでいない。しかし、奇妙な国際圧力が思いがけない形で噴き出すとしたら、住民がいない尖閣諸島は、実に都合がいい空間なのだ。そしてもし本当に尖閣近海で戦闘が開始されたら、それは中国分裂のはじまり、東アジア大動乱のはじまりになる可能性が高い。緊張感をもってこの界隈の動静を見守りたい。■

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