揺れ動く世界<em>!</em> 政変も起こる地殻変動<em>!</em> | 行政調査新聞

揺れ動く世界 政変も起こる地殻変動

揺れ動く世界! 政変も起こる地殻変動!
―国際情勢を激変させる各国のウラ情勢を読み解く―

 2023年は激動の年になりそうだ。安定していると思われている大国の内部が、あちこちで軋み異音を発している。独裁政権のどこかで政変が起きれば、連鎖的にあちこちの国で政変が起きる可能性がある。各国のウラ状況を眺めてみたい。

北朝鮮ICBM発射と10歳娘の「降臨」

 北朝鮮によるミサイル発射実験が続いている。昨年の大晦日に3発を発射した後、元旦の午前3時前にも高度100キロ、距離350キロの弾道ミサイルを発射した。
 衝撃的だったのは2月18日夕方に発射されたICBM(大陸間弾道弾)「火星15号」だ。ロフテッド軌道という高高度で打ち上げられ、66分間の飛行を遂げたが、これは1万4,000キロを飛ぶ能力に匹敵する。平壌とニューヨークの直線距離は約1万1,000キロ。1万4,000キロといえば米国の東海岸がすべて射程に入る。

 北朝鮮は間違いなく米全土を標的にできる能力のミサイルを手にしているのだ。
 北朝鮮のミサイル発射は、その後も続いているが、米国はそれほど危機意識を持っていない。米国と北朝鮮の軍事力は、大人と子供以下。例えてみれば巨象とアリのようなもので、米国から見れば北朝鮮は遥か遠く離れた東洋の小国だ。

 今回の火星15号打ち上げでは、ミサイルの能力より、金正恩と一緒に登場した娘、キムジュエに話題が集中した。金正恩の娘とされるキムジュエの年齢は10歳前後だという。北朝鮮が公開した映像では、母の李雪主(リソルジュ)より「格上」の扱い。その称号も「尊敬するお子様」と、まるで金正恩の後継者のようだ。
 北朝鮮情勢に詳しい評論家たちは、一斉に「キムジュエが次期国家元首になる」と口にしはじめたが、その見方は間違っている。北朝鮮では2015年以降、金正恩の妹である金与正(キムヨジョン)が勢力を拡大しているように報じられてきた。とくに2019年の米朝会談(ベトナムで行われたトランプとの会談)に金正恩に同行したときには「次期国家元首か」との声があがったほどだ。
 世界中の動静をみれば、そんな声があがるのは不思議ではない。だが、こと北朝鮮に限っては、世界の常識など通用しない。北朝鮮では「白頭山の血統」こそが重視されるもので、女性の地位は他の国々とは比較にならないほど低い。北朝鮮で女性が国家のトップになることはありえない。妹の金与正が外交の舞台などで活躍し、発言力が高いのは、金正恩をカバーするためだけなのだ。ところが興味深いことに、北朝鮮では「金与正派」とみられる労働党幹部や軍幹部が出現している。

 金与正支持派とはすなわち金正恩に冷遇されてきた幹部である。キムジュエの登場は、金与正支持派に痛烈なパンチを食らわしたようなものだ。金正恩に冷遇されていた幹部は、妹の金与正をかつぎあげることで出世の望みをつないできた。
 ところがその道が閉ざされてしまったのだ。金正恩は意図して金与正を高い地位に引き上げ、自分に反旗をひるがえそうとしている幹部を選別したのだろう。
 今、北朝鮮による南進(韓国進撃)の可能性が噂されている。ロシアのウクライナ侵攻以降、明らかに世界は混乱、戦乱に向かっており、その脈絡の中で中国の台湾侵攻が話題に上っている。中国による台湾侵攻の可能性は、非常に少ない。だがゼロではない。もし中国軍が台湾に侵攻するようなことになれば、ほぼ同時に、北朝鮮は南進を開始するはずだ。

 北朝鮮は南進開始の前に、国家体制を盤石なものにしておきたい。今回のキムジュエ登場は、北朝鮮内部でまもなく過激な粛清劇が展開される予兆とみなすべきである。それは同時に、非常に近い将来、北朝鮮で大きな政争が起きる可能性を意味している。北朝鮮は緊張の中にあると考えられる。
 余談になるが、金正恩の後継者が10歳の女の子キムジュエになる可能性は、ほとんどない。ゼロと考えるべきだ。間違いなく金正恩の血を受け継いだ男の子が現存し、おそらく東欧かスイスあたりで帝王学を学んでいるはずだ。

盤石のプーチンに落とし穴が待っている

 ロシア軍のウクライナ侵攻から1年たった2月23日、国連総会の緊急特別会合でロシア軍の侵攻を非難する決議案が、賛成141票(141カ国)、反対7票(7カ国)、棄権32票(中国、インドなど)で採択された。この決議案には強制力はないが、141票は重い。それでもロシアが撤退あるいは停戦を受け容れる可能性は低い。低いどころか、間違いなくゼロである。ロシアの独立系世論調査機関として西側諸国も評価している「レバダセンター」の調査では、プーチン大統領の支持率は2021年11月に61%だった。2022年にロシア軍がウクライナに侵攻し、その評価はどう変わったか。2022年12月にレバダセンターが行った世論調査では81%と、過去最高の支持率となっている。

 「多くの人々が心から前線の兵士を支援している。この強固な団結が我々の勝利を約束している」。2月23日に行ったビデオ演説で、プーチンは自信に満ちた表情でこう演説した。ロシアのプーチン体制は盤石のように思える。その一方で、年内にプーチンが引退するといった情報も密かに囁かれている。ロシア内部の過激派がプーチン体制に反対しているというのだ。1月11日に、ロシアのウクライナ侵攻作戦(特別軍事作戦)の司令官がゲラシモフ参謀総長に代わった。前任のスロビキン総司令官は副司令官に降格された。この人事にはドゥーギンが関与していると思われる。

 ドゥーギンとは「プーチンの頭脳」と呼ばれる地政学者だが、思想的にはロシア正教古儀式派(スタロベール)の信奉者。ロシア正教キリル1世総主教と強く結ばれ、旧約聖書の「リバイアサン(海の神獣)対ベヒーモス(陸の神獣)」の最終決戦の時が迫っていると確信している人物だ。「プーチンの頭脳」と呼ばれるほどだからプーチンの信頼は厚いと思われてきたが、どうやらドゥーギンはプーチンより過激な思想の持ち主のようだ。ドゥーギンはウクライナ戦争を拡大し、ヨーロッパを戦場に叩き込もうと考えている可能性が高い。
 「リバイアサンとベヒーモスの戦い」とはすなわち「大西洋勢力(米英連合軍)対ユーラシア勢力(ロシア)」を意味し、米英を相手にロシアが「最終戦争に臨む」ことを意味している。ドゥーギン側としては穏健派のプーチンを追い払い、全世界を巻き込んだ第三次世界大戦を企画している。
 プーチンが昨年6月に安倍晋三に連絡をとり、日本への亡命を打診したとの非公開情報がある。この情報の精度は不明だが、7月8日に安倍が襲撃された事件の背後に、ウクライナ戦争が関係していた可能性は否定できない。また、英紙『デイリーメール』1月13日付けの情報によると、プーチンは暗殺されることを危惧し、年内に引退するという。『デイリーメール』紙は英国でいちばん古いタブロイド紙で、日本でいえば『夕刊フジ』『日刊ゲンダイ』のような新聞だが、その情報の精度は定評がある。もしプーチンが引退(または暗殺死)するようなことがあれば、ウクライナ情勢どころか世界情勢が大きく変化する。その可能性は決して低くはない。

習近平体制に揺るぎはないか

 ロシアのウクライナ侵攻開始1年となる2月24日、中国外務省は12項目からなる和平提案を発表した。ロシアもウクライナも段階的に戦闘を縮小していくこと、そして核兵器の使用には警告を発するといった内容である。この中国案について米バイデン大統領は「ロシアが一方的な利益を得るもので、中国が仲裁交渉を行うのは合理的ではない」と言下に切り捨てた。
 NATO(北大西洋条約機構)のストルテンブルグ事務局長(ノルウェー)も「ロシアを明確に否定しない中国は、そもそも信用できない」とバサリと切り捨てる。

 だが当事国のウクライナ・ゼレンスキー大統領は「中国の提案は決して悪くはないが、実際に中国が行動するかが問題」としたうえで、和平はウクライナが主導するとしている。ゼレンスキーが中国の行動について口にしたのは、一部で「中国がロシア軍に中国製ドローン100機を提供する」といった情報が流されていることを指しているようだ。この情報はドイツが流した未確認情報で、気球問題で意見が食い違っている米国が意図的にドイツを使った偽情報との説が強い。
 ウクライナにとって中国は、最大の貿易相手国である。中国にとってもウクライナは、習近平が進める「一帯一路」の最重要国の一つだ。中国の和平提案を受けてゼレンスキーは「習近平国家主席との会談を予定している」とも述べている。しかしゼレンスキーの呼びかけに対し、中国は一切の反応をみせていない。
 習近平は「完全独裁体制」を手に入れたとの評価が高い。だが昨年10月26日の中国共産党大会で、前国家主席の胡錦涛が会議途中で強引に退席させられた一幕を見ても、習近平派と共青団(共産党青年団)との確執はかなり厳しいものと推測できる。党大会が始まる前に中国メディアは揃って、党規約に「習思想」など個人崇拝を強めるような文言が入るとか、鄧小平の改革開放路線を塗り替える新たな国家戦略が発表されると予測していたが、それは叶わなかった。習近平は鄧小平を超えることができなかった。
 昨年11月に中国各地で広がった白紙革命を受け、中国当局は手の平を返すように、ゼロコロナ政策を転換した。これもまた、習近平完全独裁に黄信号を灯すものとなった。中国経済は既に悪化しており、不動産市場は低迷、輸出も大幅な減少が目に見えている。右肩上がりの急成長を続けてきた中国だが、今や富裕層は「投資」をためらい「貯蓄」に回しているのが現状だ。中国の大衆自身が先行きに不安感を抱いている。数年前から「中国が分裂する」といった情報が囁かれるようになっていた。昨年末の白紙革命後に、その声は一段と大きくなっている。今年後半には中国政権内、中国共産党内で内部抗争が起きるとの予測も、事情通の間で普通に語られるようになってきている。中国が分裂する可能性は、確かに高まっている。

 現在の中国は、1950年代、1960年代の中国とは違う。国力も影響力もケタ違いに大きなものになっている。中国政権内で分派分裂騒動が起きれば、周辺諸国は大激震する。ロシアのドゥーギンは地政学上の観点から「新疆ウイグル自治区はロシアに編入されるべき」といっているほどで、中国が揺れればロシアがちょっかいを出すのは目に見えている。中国に遠慮して正体を隠し続けている北朝鮮も、一気に親ロ派に鞍替えするだろう。中国が揺れれば東アジア全域が激震する。それが夢幻ではなく、目の前に迫っている現実だと認識すべきだろう。

内戦に向かう米国、崩れ行く国際情勢

 「米国は内戦状態に突入している」――こんな話が語られるようになったのは、2020年の秋、米大統領選でバイデンとトランプの票が接近し、どちらが勝ってもおかしくない状態になったときだ。その後2021年1月初め、バイデンが正式に大統領になるための会議を開いていた連邦議会に、トランプ支持派がなだれ込み、議会はトランプ支持派に占拠されて3時間も会議が中断された。民主主義の実験国家とよばれる米国は、雑多な人種、様々な思想・宗教が混然と入り乱れた国で、対立の火ダネはそこら中に転がっている。1960年、米国の人口の約9割は白人だったが2020年には白人は57%台に落ち込んだ。米国総人口に対する黒人の比率は微増だが、ヒスパニック系(旧スペイン帝国系、メキシコを含む南米系)が激増している。あと20年もすると、白人より有色人種のほうが多数になる可能性がある。それを見越した対立・確執が各所で起きている。米国は間違いなく混沌状態に向かっている。
 2024年秋には米大統領選がある。共和党候補はトランプが勝ち取ると予想されるが、民主党はバイデンが続投するか不明だ。バイデン自身は2月24日のテレビインタビューで「健康には問題はない。選挙戦に入る前に、終わらせなければならないことがたくさんある」と語り、大統領選出馬を明言しなかった。来秋の米大統領選が、バイデン対トランプになるか、民主党がバイデン以外の候補を立てるかはわからないが、いずれにしても民主・共和のどちらが勝つかは微妙だ。
 そして何より、バイデンがインタビューで語った通り、米国は「片づけなければならない問題」を山ほど抱えている。ウクライナ支援をいつまで続けるのか、気球問題で対立している米中関係をどう修復するのか、イスラエルを中心とする中東問題、NATO問題、何より大きな問題は、国際連合の枠組をどう変えるかだ。

 ――そしておそらく、米国がそれら諸問題を解決するより前に、世界が激変するだろう。現在の米国は、激変していく世界情勢を自分の力で変えることはできない。そんな能力を持っていない。米国が無力だということが大っぴらになったとき、世界はどう動くだろうか。今、世界は大激動の直前状態にある。世界の枠組は、まもなく途轍もない大変動を起こす。戦時下にあるウクライナや、巨大地震の被害に喘いでいるトルコ、シリアだけではない。世界中の多くの人々が途轍もない大変動を予感し、怖れおののいている。コロナが終わった、さあ春だ!と浮かれているのは日本人くらいかもしれない。その日本の内閣総理大臣岸田文雄は、5月19日から地元広島ではじまるG7サミットに心を奪われ、無策無能ぶりが糾弾されている現実をまったく理解していない。もともと日本という国は、為政者が国民を引っ張ってきた国ではない。
 無能な政治家を国民大衆が助けてきた国である。中途半端な政治家が下手な策を講じるより、何もしないほうが結果的にいい方向に向かう可能性が高い。
 ――この先、日本を牽引していくのは、政治家でも官僚でもない。社長や重役でもない。未来を背負って立つのは市井の庶民、名もない大衆――私たちなのだ。■

(プリントアウトはこちらから)