岸田首相襲撃事件の深奥 | 行政調査新聞

岸田首相襲撃事件の深奥

 岸田首相が選挙応援演説に降り立った和歌山市の漁港で、円筒状の物体が投げ込まれ、破裂音とともに白煙が立ち上り、付近が騒然となった。4月15日のことだ。昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件から9カ月後のこと。政府中枢を狙うテロが起きたことに、日本中が震撼した。この事件の背景として何が存在するのか。

テロリストを評価するな

 安倍晋三襲撃事件のときにも心配されたことは、犯人を偶像化することだ。テロという犯罪に目を向けることは当然のことだが、テロリストとは犯罪人だ。テロリストにはもちろん過去があり、テロに走った理由・動機はある。それは後々、裁判で明らかにされる。テロリストの育った家庭環境などに目を向け、あるいは犯罪者の過去に同情する必要などない。テロの背景を考えることは重要だが、テロリスト個人の履歴に目を向ける必要はない。
 岸田首相が立ち寄った和歌山の漁港で、事件が起きた。心配していた通り、今回もまた犯人の家庭環境や父との関係、子供時代の言動などがテレビや週刊誌メディアなどに取り上げられている。それが模倣犯を増殖させている事実を週刊誌マスコミは理解しながら、それでも売り上げ増のために、犯人の人物像を大きく取り上げる。
 週刊誌マスコミは「読者がそれを求めている」というだろう。確かに大衆の中には、のぞき見趣味的な、出歯亀根性のような気持ちがある。

 だが政治家を狙ったテロ犯の身の上をのぞき見するなど、人間としての品性に欠ける。法律の問題ではない。日本人の感性として恥ずべき行為だ。日本人であるなら、犯罪に対して凛とした態度で臨むべきだ。
 テロリストの心情などには目を向けるな。犯人の家庭環境などを暴く週刊誌には目をむけるべきではない。そんな週刊誌が手元にあったら、躊躇(ちゅうちょ)なくゴミ箱に投げ捨ててほしい。犯人は24歳、無職の男。それ以上は知る必要などない。犯人を無視することが模倣犯をなくす唯一絶対の方法だ。

事件の背景の奥底

 今回の事件を安倍晋三元首相襲撃事件に重ね、巨大なプログラムが存在するなどと陰謀論を展開する人々もいる。首相を狙った事件だから、根も葉もないデタラメ陰謀論が飛び交っても不思議ではない。そんな陰謀論に目を奪われてはならない。デタラメな作り話は無視して、全体の流れを冷徹に眺めていく必要がある。

 岸田文雄首相の周辺は、いったいどんな状況にあったのか。
 岸田文雄は令和3年(2021年)9月に自民党総裁となり、10月4日の衆参本会議で首相に指名され、就任した。その後、衆院を解散し総選挙で圧勝(自民党の議席数は微減)、11月には英国で開催されたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)26バイデン米大統領と会談
 これが岸田首相としては初の首脳会談となった。

 首相就任後の岸田は、自民党内の融和をはかっていた。特に最大派閥清話会(安倍派)との関係を重視。令和4年(2022年)年初に行われた施政方針演説も、特に岸田色が強くにじみ出るようなことはなかった。 
 はっきりいえば、目立たない地味な首相だった。岸田首相の色が強く出るようになったのは、7月に安倍晋三元首相が狙撃されてからだ。岸田は安倍晋三の国葬を発表、なお清話会(安倍派)を大切に扱う姿勢を崩さなかった。しかしその一方で、統一教会糾弾が強まりはじめてから、岸田首相は安倍派を冷遇しはじめる。
 安倍派は統一教会との関係が強かったため、岸田の「安倍派いじめ」は国民も与党内も当然のことと受け止めた。統一教会とは関係の薄い高市早苗が叩かれはじめたところで、岸田による安倍派いじめの雰囲気が色濃く出るようになった。12月に入ると、岸田色はいっそう強まる。

 「日米同盟を基軸とし、積極的な外交をさらに強化する」(12月16日の記者会見)と述べ、対米従属の姿勢を内外に明らかにした。年が明けると「異次元の少子化対策」をぶちあげ、少子化政策の議論をあおりつつ、「防衛力の抜本的強化」をうたう。3月には電撃的にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領との会談に臨む。岸田がウクライナを訪問したのは、習近平の訪ロ、プーチンとの首脳会談と同じ日である。
 よくいわれる通り、政治の世界に偶然など絶対にない。岸田のウクライナ訪問は明らかに習近平プーチン会談に照準を合わせたものだ。

 「中国+ロシア」に対し、日本が親米派に立つことを世界に表明したのだ。岸田のウクライナ訪問を米国サリバン大統領補佐官は「すばらしいことだ。岸田首相はウクライナを支援する『世界のリーダー』だ」と持ち上げた。
 米国のマスコミも、岸田を「外交センスがある首相」と持ち上げている。国際情勢の推移と岸田の動向を冷静に見る必要がある。首相になった当初、岸田は「可もなく不可もない」地味な首相だった。

 安倍晋三狙撃事件以降、岸田は防衛費を増大させ、外交センスが誉められるほどに対米従属を鮮明に打ち出し、中国ロシアとの対決姿勢を内外に明らかにした。安倍狙撃事件の後から、岸田は完全に対米従属路線を邁進するようになっていった。岸田が何者かに、「安倍晋三の二の舞になるぞ」と脅されたとしたら、わかりやすい話だ。
 もっとも、岸田が脅されていたなどという情報は存在しない。だが、もし脅されていたとしたら――。脅している何者かは、「ほんとうに狙撃されるぞ」と、さらなる脅しを仕掛けるだろう。それが今回の和歌山市漁港事件だったのかもしれない。

原則論に立ち戻ろう

 ロシア軍のウクライナ侵攻以降、世界は混乱に向かった。ヨーロッパではロシア軍とNATO軍による全面戦争の可能性が出ている。
 一方、中東ではイスラエルを包囲するイスラム圏が、イランを筆頭に過激な動きを展開させている。サウジとイランの歴史的和解、シリアのアサド政権を支援する動き、そしてパレスチナ国を後押しするイスラム圏などを見る限り、中東大戦争(いわゆるハルマゲドン)が年内にもはじまりそうだ。
 ヨーロッパの戦争に米軍が乗り出す可能性は高い。そして、中東で戦争がはじまったら、米軍は間違いなくイスラエル支援に軍勢を派遣する。米国は年内にも、ヨーロッパと中東の二正面作戦を展開することになる。それは極東米軍が手薄になることを意味する。
 米国中堅銀行3行の破綻(シルバーゲート銀・シグネチャー銀・シリコンバレー銀)、さらにはクレディスイス銀行の身売りなど、世界の金融界が不安定になっている状況下、米国はさらに不安定だ。来年の大統領選を見すえ、共和党・民主党のかけひきが激しい。そんな状況下、テキサス州では米国からの分離独立の住民投票を実施しようという動きもある。

 来年の大統領選に、米国臨時政府を海外に作ろうという動きもある。
 NATOとロシアの本格対峙、そして中東大騒乱などが起これば、米国は一気に分裂の方向に向かう。分裂しないまでも、極東に目を配る余力はなくなる。日本は対米従属を続けられなくなる。米国は、日本のことなど構っていられなくなる。世界、特にアジア諸国が求めているのは、政治的に強い日本だ。対米従属路線を歩む日本ではない。
 アジア諸国は、米国から切り離された日本の登場を待っている。世界に平和をもたらすために必要なのは、日本の指導力だ。時間に余裕はない。日本は対米隷属から離れ、真の独立を手に入れなければならない。
 それは中国やロシアに頭を下げることではない。
 今の日本に必要なのは、日本の原点に立ち返る国民の総意だ。対米従属路線と訣別するという強い意志が、国民全員に求められている。■

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