政治がつぶす市民生活
＜伊上武夫＞
身勝手な正義感
世界中、誰もが知っているハリウッド映画「スターウォーズ」。
この映画では昭和52年（1977年）の初公開の時から、金色のロボットＣ３-ＰＯと、小型のロボットＲ２-Ｄ２のコンビが活躍しています。当初、小型のＲ２-Ｄ２はリモコンで動かしていると言われていましたが、後に小人症の俳優ケニー・ベイカーが中に入って演じていた事が明らかになります。
ルーカス監督は他の作品でも小人症の俳優を使った事で、人権団体から「かわいそうな小人症の人を見せ物にしている」と非難を受けます。その批判に対し当のケニー・ベイカーは「彼は私を人間として扱い仕事もくれた」と擁護、反論します。
また「駅馬車」などで有名な西部劇映画の監督のジョン・フォードも、映画の中で繰り返しインディアン（今だとネイティブ・アメリカンですね）を悪役として出していた事で批判されました。しかし当のネイティブ・アメリカン側は、自分たちに仕事を与えてくれ、さらに迫力ある姿をスクリーンに残してくれてきたので、ジョン・フォード監督との関係は良好なものでした。全然関係ないところからいきなりやってきて、見当違いの批判を浴びせる連中は厄介です。連中の批判の内容は「差別」に対する抗議の形を取っているので反論がしにくいからなおさら厄介です。
連中の抗議の結果、「小人プロレス」の興行はなくなってしまいました。これにより小人症の人から仕事の場所を一つ消し去った事になります。見せ物にするなんて差別だ！ そう言った人たちは、仕事を奪われた小人症の人たちの生活に対して一切責任を負いません。それは私たちの責任ではない、というのでしょう。
まだ「あんなのをテレビに出すな！」と俳優の白木みのる氏に対して言った某公共放送のトップの方が正直かもしれません。白木みのる氏はその発言を聞き、知り合いの電気店に依頼して自宅のテレビを某公共放送だけ映らないように改造しました。集金人にもテレビを見せて追い返していたそうで痛快です。
政治権力の文化活動への介入
ところで、平成22年の石原慎太郎が都知事だった時代を覚えていますでしょうか。どこにも被害者がいないはずのマンガやアニメ、ゲームなどの性表現の内容に対して、東京都の条例を改正して規制しようとしていました。「マンガに描かれる過激な性表現を規制する」というやり方は、これも表立って反対を言いにくい方向からの攻撃です。そんなにエロ本が読みたいのか、と言われておしまいになるからです。しかしよく考えるとわかりますが、成人向けのマンガもアニメも既にゾーニングされています。売り場も分けていますし18歳以下への販売を禁止しています。
ですから18歳以外の子どもへの悪影響があるわけがありません。酒やタバコと同じです。石原慎太郎都知事がやろうとした事は、表現の自由に真っ向から対決するものでした。法律が作品の表現を規制できる前例を作れば、次に何が規制される事になるかを考えればわかります。ナチスドイツは「健全な社会」を目指して不健全なもの、表現、そして人間を抹殺してきました。
このような、ナチスドイツや石原慎太郎都知事がやった「文化の検閲」が、今まさに埼玉県で行われています。埼玉県の複数の県議会議員団が、しらこばと水上公園で今月24日から25日に開催されるはずだった水着撮影会を中止に追い込みました。そして、それに関連して６月10日に行われるはずだった水着撮影会も、開催２日前に急遽中止にさせられました。抗議した側の言い分では、水着の女の子のワイセツなポーズを撮影させるイベントに公共の施設を使わせるのはけしからんというわけです。まるで戦時中の大政翼賛会のような言いがかりを、県議会議員団という権力者たちが行ったわけで、これはまさに「検閲」です。開催２日前にいきなりイベントがキャンセルとなり、現実問題として様々な実害が出ています。
たとえば、夏の高校野球の大会直前に、「熱中症の危険があるのに高校生に野球をさせるなどけしからん！」と政治家が文句つけてきて大会が中止になったら、どれだけ損害が出ることでしょうか。また、大会目指して長い間頑張ってきた選手たちの無念さはいかばかりでしょうか。女性のグラビアモデルさんたちの水着撮影会もまったく同じです。みな切磋琢磨してイベントに向けて頑張ってきたのです。
撮影会から新しいアイドルや女優が登場する可能性もあるわけで、それが第三者の訳の分からないクレームで簡単に潰されてしまっては、モデルさんたちや主催者などイベントの関係者は悔しくて仕方がないと思います。
市民の生活や希望を権力者が潰す、あってはならない事態が今目の前で進行しています。この政治的圧力をかけたのが、事もあろうに日本共産党なのです。
女性の活躍できる場を潰しておいて、「党県委員会と党県議団の県への申し入れで、中止となりました。」と、成果を宣言しています。身勝手な正義感で市民の生活を台無しにすることで、どんな政治的成果があるのか知りたくもありませんが、この行動は埼玉県だけでなく日本中の反感を買ったと思います。現在事態は尚も進行中です。大野県知事は、イベント中止は施設管理者の判断であり、特定の政治団体の意見に左右されたわけではないと、急遽ツイッターで発表しました。
しかし日本共産党埼玉県議会議員団は「党県委員会と党県議団の県への申し入れで、中止となりました。」とツイッターで発表しています。
共産党を含めた野党４党の支援で当選した大野県知事に、どのような事情があるのかは知りません。知りたくもありません。ただ、今年８月６日の埼玉県知事選挙は、かつてない盛り上がりを見せる事になるでしょう。そこだけは断言できます。