獄中記 第十九回 | 行政調査新聞

獄中記 第十九回

福 山 辰 夫

獄  中  記

<福 山 辰 夫>

第 十九 回

 皇紀2655年 【平成7年・西暦1995年】

4月27日(木)

 此処数ケ月程、夜間独居全房にて行っていた『TVケーブル配線工事』が終了。
 全房に新品の『14型テレビ』が設置され、試験放送という事でチャンネル限定ではあるものの、19時から20時迄「テレビ視聴」有り。尚、20時以降は横臥して読書。因みに、夜間独居に於けるテレビ視聴日については、雑居房と同様に『舎房採点制』を採用。各自が1カ月単位で「舎房整頓状況・日常の生活態度・規律違反」等の項目で採点を行い、加点又は減点をトータルして舎房毎にランク付けをする。

 つまり、予め決められている基準点以上ならば『優良房』になり、幾ら舎房の整理整頓で加点されようと、減点の累積が多く基準点を満たさなければ『優良房以外』となる。そこで、『優良房』になると週3回(水・土・日)の視聴ができ、『優良房以外』となった場合は週1回(日)の視聴だけ。但し、視聴日が免業日(土・日・祝祭日)に限っては、「昼間(*13時から15時)と夜間(*19時から20時55分)の視聴ができる。尚、本格的なテレビ視聴の開始時期は、5月の連休に入ってからと『処遇部門』より達示有り。

 雑感だが、昨今の囚獄(*ひとや)も処遇(*行状)面に於いて少しずつだが変わってきている。然し、依然として明治時代に制定された『監獄法』を以て、時代錯誤な治安維持と運営を行っていては「更生への道」どころか、再犯率は上昇の一途である。懲役だからと「ムチ」ばかり与え、全然「アメ」がないとなれば、唯でさえ荒んだ心が尚更荒んでいくばかりでは、却って悪循環ではないだろうか。幾ら罰として強制労働に従事させたところで、心を糾さねば何も変わらない。だからこそ『情操教育』が必須なのである。

4月28日 (金) 

 12時20分から『古城漢字』(1舎3階教誨室)が有り、「14級テスト」を受ける。前13工場の面々も変わらず元気そうだった。還房後は「私本配布日」に付き、購入本1冊と領置本下付として『今君に牙はあるか』(野村秋介・二十一世紀書院)が手元に届く。

4月29日 (土) みどりの日 

 昭和天皇の御生誕日も『みどりの日』と変わり七年。GWに入り囚獄(*ひとや)とはいえ、余暇時間を無駄にせず有意義に過ごしたい。9時30分から10時30分、『花まつり』が講堂で実施され出席。曹洞宗の僧侶が『般若心経』を読経する中、職員代表の「教育主席」と受刑者代表の「1級者」が舞台上に設置した祭壇で甘茶をかけ、礼拝。その後、30分程の法話が有り拝聴する。

 「お釈迦様は仏像や寺院、葬式・彼岸会といった儀式を考えた訳ではない。2500年も前に縁(*えん)というものを人々に語り、命の尊さを教えらえた。その命の尊さとは、お釈迦様が母のマーヤの右脇から生まれ出て七歩あゆみ、右手を上に、左手を下に向けて『天上天下唯我独尊』と言ったとされるが、この世で己こそが一番の尊い存在である…という意。それは、現生とは唯々修行の身であり、仏になるとは人間が死ぬことではなく、悟りを開き魂が永遠になると説いた。お釈迦様(シッダールタ)は王族として生まれたのにも拘らず、人生の無常と苦を痛感し、人生の真実を追求すべく妻子を捨てて29歳で出家。その自らの人生は真理を求め続ける生涯であった」

 昼餉時、祝日菜として『大福(1ケ)の配給有り。午後は『臨地』に勤しみ、夕餉後は『論語』を独学。夜は早目に床に就き読書を行う。

4月30日 (日) 

 10時から11時迄、1舎3階教誨室に於いて『短歌会』があり初出席する。
 入所当初より短歌に興味はあったものの、今ひとつ踏み切れず躊躇していた小生に、同囚の桜きなこ氏(無期懲役+懲役13年)が「我々懲役は日々気の休まる処が皆無です。そんな特殊な環境にも拘らず、現代短歌界の第一人者である扇畑忠雄先生が月に一度、講師で教えにきてくれる。折角、福山さんがそう思っているのであれば、此れを機にどうですか?」と誘ってくれた。

 桜きなこ氏が言うように、彼是と考え迷っていたって答えは出ないし、「案ずるより産むが易し」という諺も在る。先ず、やってみない事には何も始まらない。そこで出席を願い出た次第。『短歌会』に出席する者は、毎月「自詠の歌」一首(未発表の作品)を必ず詠み、事前に教育課へ提出。歌会当日、先生と同人(*出席者)の前で発表して、互いに「感想・添削」を受けるという決まりになっている。 人生で初めて詠んだ一首が
「起き抜けの嚏(くさめ)止まらぬ花粉症春が来たりと大空仰ぐ」  である。
 午後は、臨地(『圖南書道』6月漢字規定課題)・に勤しみ、自主勉学として『論語』。夜は読書を行う。

5月1日 (月) 

 『憲法記念日に想う』
 1946年2月3日、マッカーサー連合国軍最高司令官はGHQ主導による『憲法改正』に取り組むべく、側近の民政局(GS)長のホイットニー陸軍准将に指示を出し、憲法改正の必須要件(*マッカーサー三原則)を示して民政局内に作業班を設置。翌日、ホイットニー自ら陣頭指揮を執り、民政局のメンバー25人を集め起草作業を開始。僅か一週間で作成された『GHQ草案』(所謂、マッカーサー草案)だが、起草にあたった作成スタッフ25人の内、ホイットニーを含む4人には弁護士経験があった。しかし、憲法学を専攻した者は1人もいない素人集団であり、構成メンバーも米国陸海軍の佐官・尉官クラスが中心だった。

 先の大戦での敗戦によって、戦後我が国は「自由と民主主義」を手にしたと言われるが、米国軍人が起草した『GHQ草案』に原則として沿う形で『日本国憲法』は作られた。爾来、我が国は自国領土を護れず、他国の常駐軍隊に国民の生命と財産を委ねているのに主権国家と宣う。
 その一方で『世界に冠たる平和憲法』などと言って憚らず、『GHQ(盗用)憲法』を有り難がって何時迄、記念日として祝い続けるのか? 
 民族自決の原則から言えば、戦後日本は米国の属国となる。それは、自ら日本民族が淘汰される運命を呼び込んでいるといえる。

【マッカーサー三原則】
1.天皇は、国家元首の地位にある
2.国家の主権的権利としての戦争を放棄する
3.日本の封建制度は廃止される

 9時30分から11時30分迄、テレビVTR視聴有り。
 VTRは『クリフハンガー』(製作:米国。1993年公開。出演:シルベスター・スタローン。監督:レニー・ハーリン)。ロッキー山脈で救助隊員を務めているクライマーのゲイブ(シルベスター・スタローン)はある日、遭難した同僚で親友のハルとその恋人・サラの救出に向かうが、ハルの目の前でサラの救出に失敗して死なせてしまう。以来、ハルはサラの死はゲイブの責任だと思い込み、ゲイブも自責に駈られて同僚の恋人であるジェシーとも別れ、山を下りる。
 やがて1年が経ち、国際犯罪組織が財務省の航空輸送機を乗っ取り、還流紙幣強奪を図った事で物語は急転直下する。
 昼餉時に、『祝日菜』として「シュークリーム(1ケ)の給与有り。亦、13時から15時30分迄は「臨地」に勤しみ、夜の余暇は床に伏して読書。

5月4日 (木) 国民の休日 

 『水道管破裂修理』の為、8時30分から14時30分迄「断水」となる。
 午後は「臨地」に勤しむも、途中『総入浴』(*15分間)に行く。19時から20時55分迄は、夜間個室テレビ視聴。21時、本就寝。

5月5日 (金) こどもの日 

 朝からテレビVTR視聴有り。『沈黙の戦艦』(製作:米国。1992年公開。出演:スティーブン・セガール、トミー・リー・ジョーンズほか。監督:アンドリュー・デイヴィス)。セガールが主人公を演じる「沈黙シリーズ」の第1作にあたる。
 但し、これは日本独自のものであって、タイトルに「沈黙」と付いているが本作は関係ない。唯、3日の『クリフハンガー』といい、今年のゴールデンウィークのVTR視聴は、アクションものばかりで見応えがあった。
 昼餉時は、『祝日菜』の副食として「柏餅(1ケ)の給与有り。午後は「臨地」に勤しみ、途中『総入浴』(*7番・10分間)で出房。夕方は、自主勉学として『論語』を学び、夜は読書を行う。

5月12日 (金) 

 4月分の賞与金教示有り。「6等工3割増+1割」=2,638円也。

5月13日 (土) 

 免業日にて、午前中は読書。午後は「臨地」に勤しむも、4舎3階は「理髪日」にて頭刈りが実施される。夕餉後は自主勉学で『論語』を学び、18時30分の「仮就寝チャイム」で床を敷き、横臥しながら読書。
 19時から20時55分迄、テレビ視聴を行う。

5月14日 (日) 母の日 

 朝から筆を執り「臨地」に勤しむ。午後は読書、自主勉学で『論語』を学び、19時からテレビ視聴。20時から同45分迄は、NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』を視聴。

5月18日 (木) 

 12時20分から13時20分迄、『書道教室(4班)が実施され出席する。『圖南書道會・理事』で、講師の鈴木登郁先生より「月例競書」の添削指導を受ける。

5月20日 (土) 

 9時30分から11時30分迄、慰問演芸『ハニーシックス・ショー』が講堂にて催される。此の慰問は、「抗争事件」でジギリを賭けた松葉会系某一家の人間に直属の親分が入れているもの。「大畑プロダクション」による、年一回恒例の慰問で、毎回「にわそうじ」が司会を担当。

 今回は「菊地秋香」「高田今日子」といった若手女性演歌歌手を前座に、メインで「ハニーシックス」が登場。往年のヒット曲『今夜はオールナイトで』『よせばいいのに』『しかたないさ』『三年目の浮気』『ふりむかないで』を熱唱。
 午後は慰問の余韻が残る中、「臨地」に勤しみ、自主勉学として『論語』
 19時から20時55分迄、床に就きテレビ視聴を行う。

5月21日 (日) 

 9時30分から11時30分迄、『3級会』が講堂にて実施され出席する。
 今日のVTRは『死へのカウントダウン』という題名の洋画だったが、内容はイマイチ。午後は「臨地」に勤しみ、自主勉学『論語』
 夜のテレビは、大河ドラマ『八代将軍吉宗』他を視聴する。

5月24日 (水) 

 圖南書道會に提出する「月例競書作品」等を教育課へ提出。尚、13時35分からの運動は『工場対抗ソフトボール大会・予選リーグ』(初戦)の試合が実施され、9工場と対戦。結果は、3対2で12工場が勝利。
 小生は中堅(センター)、2番打者で出場。

5月25日 (木) 

 12時20分から『古城漢字』(1舎3階・教誨室)が実施され、「13級」のテストを受ける。此処迄は順調だが、段々難易度も増してきている。不合格になったら恥ずかしいので、来月からテスト前日は予習をしよう。

5月26日 (金) 

 終日(ひねもす)ミシン作業に従事。還房後、私本配布日にて購入本1冊。領置本下付として『干支の活学・人間学講話』(安岡正篤著・プレジデント社)と、『美は一度限り』(野村秋介著・二十一世紀書院)の2冊が手元に届く。 

5月28日 (日) 

 本日は10時から『短歌会』が予定されていたが、講師である扇畑忠雄先生の都合に因り中止となり、午前中は『詠草ノート』を整理。午後は「臨地」に勤しみ、夜のテレビ視聴では、NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』他を見る。

6月1日 (木) 

 夜間独居の舎房用「タワシ・スポンジクリーナー・食器洗い洗剤」の一斉交換日に付き、3点を舎房食器口の上に出して出役。
 本日は、10時25分から『工場別対抗ソフトボール大会・予選リーグ』(2戦目)の試合が有り、6工場と対戦する。小生は中堅(センター)2番打者で出場。結果は、3対5で敗退。予選リーグは1勝1敗で、決勝リーグには行けず、早々と今年のソフトボール大会を終える。亦、午後は過日に『領置品下付』(教育主席・会計課長宛)として願い出た、「手漉き半紙(200枚)「墨(紅花墨・古梅園製)が手元に届く。

6月6日 (火) 

 本日は9時から夕方迄、『高圧変電設備検査』の為、全舎房で「停電」。朝からラジオ放送も入らないので読書、「臨地」に勤しむも、4舎3階は「理髪日」に付き、午後に頭刈りを実施。夕餉後は、自主勉学として『論語』
 19時から20時55分迄は、床に就き『夜間独居優良房テレビ視聴』を行う。

6月8日 (木) 

 7月の賞与金教示有り。「5等工3割+1割増」=2,737円也
 昼餉後、12時20分から13時20分迄『書道教室(4班)に出席。
 常に規律で縛られている中で、講師の鈴木登郁先生を囲み、皆が和気藹藹と緊張感無く過ごせる。そんなひと時があっても良いのでは。
 夕方のラジオ放送(TBCラジオ)で、「東北南部地方」『梅雨入り』したと「仙台管区気象台」の発表を報ずる。

6月12日 (月) 宮城県民防災の日 

 昭和53年6月12日に発生した「宮城県沖地震」に因み、宮城県民に防災意識を高める目的で制定される。当刑務所でも赤煉瓦塀が倒壊し被害甚大だった為、例年実施されている『総合避難訓練』を11時から11時35分迄、工場区で就業する全員が工場毎に担当職員の指示と、警備隊職員の誘導でグラウンドへ避難するといった一連の動作確認を行う。

6月17日 (土) 

 「総集行事」として10時から11時30分迄、慰問演芸『泉ちどりショー』が催される。平成4年春に当所へ移管されてきて、「泉ちどり」の慰問は二回目となる。今回の前座は「藤村れい子」という若手女性演歌歌手で、女っ気が無い懲役には好い目の保養。メインの「泉ちどり」は、特に言わずもがなである。
 午後は、「臨地」勤しみ、自主勉学として『論語』
 19時から20時55分迄、『夜間個室優良房テレビ視聴』を行う。

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