地震について考える | 行政調査新聞

地震について考える

「地震について考える」
伊上武夫

映画監督「新 海 誠」

 昨年の11月11日、映画「すずめの戸締まり」が公開されました。
 もうそろそろネットでの動画配信やDVDの販売、レンタルが開始されると思うので、また話題になると思います。なんといっても興行収入が147.9億円の作品です。
 海外でも北米で1,000万ドル(14億円)、中国で8億元(157億円)というとんでもない数字を叩き出しました。監督の新海誠さんは、大学を卒業後にゲーム業界に入り、ゲームのオープニングの動画などの作成を重ねた後、たった一人で製作した25分のフルデジタル短編アニメ「ほしのこえ」で監督としてデビューします。その後、新海誠監督は数々の作品を発表し世界的な知名度を得るまでになったのは皆様ご存知の通りです。

 新海誠監督の作品は基本的に「少年と少女の切ない出会い」なのですが、平成28年(2016年)に公開され大ヒットとなった「君の名は。」から、少し変わります。
 平成28年(2016年)「君の名は。」、令和元年(2019年)「天気の子」、令和4年(2022年)「すずめの戸締まり」、この3作に共通するのは「災害と巫女」がテーマに加わっていることです。思えば平成28年(2016年)は「君の名は。」の公開の一月前に、庵野秀明監督による「シン・ゴジラ」も公開されていました。
 この2つは特撮とアニメの形をした災害映画であり、如何に被害を食い止めるかを登場人物と観客が同時体験する構成となっています。そして、娯楽産業である映画の世界が、平成23年(2011年)に発生した東日本大震災の悲劇に正面から向かい合った記念碑的作品でもあります。また新海誠監督は令和4年(2022年)の「すずめの戸締まり」で、東日本大震災に向き合います。
 いや、向き合うなんて生ぬるいものではありません。批判を恐れず正面からぶつかっていきます。この作品の主人公である17歳の少女は、5歳にして親を亡くした東日本大震災の被災者なのです。

今回のこのコラムのテーマは「地震」です。なので映画の話はここまでにします。
 未見の方は是非お一人でご覧になってください。必ずみっともないくらいに泣くでしょうから。なぜ「地震」の話を書くのに「すずめの戸締まり」から始めたかというと、話題作だからというのもありますが、昨年公開されたこの作品の設定が今年だからなのです。
 今年、令和5年(2023年)は、東日本大震災から12年目で干支が一回りした年であり、また関東大震災からちょうど100年目の年になるのです。震災を真剣に考えるべき年ではないでしょうか。

プレートという薄い膜

 思えば東日本大震災の前年、平成22年(2010年)は、1月にハイチ、2月にチリで大地震が起きています。4月にはアイスランドの火山が大噴火して、噴煙の被害によりヨーロッパ全域で航空機の飛行が禁止になりました。そして平成23年(2011年)2月22日、ニュージーランドで日本人留学生28人が亡くなったカンタベリー地震が発生します。
 その悲劇からわずか2週間後の3月11日に、東日本大震災が発生しました。ニュージーランドの東側と日本列島の東側は、共に太平洋プレートの西の端にあたります。北半球と南半球、距離は遠く離れていますが、この二つの地震は連動していたと考えるべきなのです。ここで太平洋プレートについて説明すべきところですが、その前に「大陸移動説」について書きたいと思います。

 大陸移動説は、ドイツの気象学者のヴェーゲナーが1912年に提唱しました。
 アフリカ西海岸と南アメリカ東海岸の形状が一致すること、アフリカと南アメリカの地質構造が一致すること、海を超えて移動できない地中のミミズと淡水のザリガニに、両大陸で似た種が存在していること、などの調査結果を挙げて、かつてこの両大陸は一つであり分裂して移動したものであるという学説を発表しました。この年の日本は明治天皇が崩御し大正元年となる年で、孫文が中華民国成立を宣言し、タイタニック号が沈没した年でもあります。この学説そのものは比較的新しいものなのです。
 この大陸移動説を補強するような形で、マントル対流説が1928年に提唱されます。
 第二次世界大戦後には、海底の調査や古地磁気の研究が進みます。そして1960年代後半になり「海底を含めた地球の表面はいくつかのプレート(厚さ100キロメートルの岩盤)によって覆われていて、このプレートが互いに動く事で大陸移動が起きている」という「プレートテクトニクス理論」が登場します。このプレート同士の衝突により山地が形成されたりします。ヒマラヤ山脈は約5000万年前にユーラシアにインドが衝突して、箱根の山々は約700万年前に伊豆半島が本州に衝突してできているのです。気の遠くなるほどにスケールの大きな話です。なんせ700万年前というのがだいたい人類が誕生した頃らしいのですから。

 昭和48年(1973年)に発表された小松左京の小説「日本沈没」は、プレートテクトニクス理論を真っ先に取り入れた作品でした。小松左京は「日本沈没」の中盤で、プレートを「薄膜」と表現し、地球の核とマントルの構造を解説します。その上で地質学的変動による文明と生命の終焉を、おそろしくマクロな視点で描写しました。
 堅牢な大地を膜と表現するのはどうかと思う人もいると思います。しかし地球の直径は1万2700キロメートルなので、厚さ100キロメートルのプレートの岩盤は、直径13センチのリンゴの1ミリの皮と同じ、まさに膜のようなものなのです。

今からできる対策

 人類の歴史はたかだか数千年で、100万年単位の地質学の世界ではほんの一瞬でしかないでしょう。とはいえ、能動的に行動し思索を繰り返し、地質学や天文学的領域まで理解しようとする我々人類は、そうそう捨てたものではないはずなので、しっかりと地震被害に対策をして、次代に繋げて行くべきです。
簡単にできて効果的な対策としては、家具の配置の見直しがあります。タンスや本棚が布団やベッドに倒れない位置に変更する。変更が無理なら転倒防止の突っ張り棒を天井との間に設置する。これだけで夜間に発生した地震からの被害はかなり減少します。
 子供部屋では特に気をつけるようにお願いします。また、倒れた家具がドアをふさぐと、部屋から逃げる事も救助に入る事もできなくなるので、向きの変更や転倒防止対策は必要です。保存できる非常食と水は用意しておいた方がいいです。
 日本はどれほど広範囲な災害がおきても、だいたい3日後には救助隊の方々は到着します。ですから3日分だけはとりあえず備蓄しておいてください。またご存じ無い方もいらっしゃるようですが、カップ麺はお湯がなくても水さえ入れておけば食べられるようになっています。
 3分以上は必要ですし当然熱くはないですが、問題なく食べられます。職場や学校で被災された場合、その場に留まっていた方が安全ではありますが、火災や津波の発生の可能性もありますので、近辺での避難先を日頃から確認しておくと良いと思います。
 非常時の際は電話がお互いつながりにくくなったり、スマホのバッテリーが切れて充電もできなくなる可能性もあります。万が一の時の連絡先を、家族間であらかじめ決めておくのもいいでしょう。

火山帯の上に暮らす我々

 日本列島には地球上の7%の活火山が集中しています。日本に近いのにもかかわらず、朝鮮半島や中国には火山はありません。隋書「倭国伝」にも「阿蘇山あり、その石は故無く火柱を昇らせ天に接し」という記述があるほどです。
 火山帯であるが故に日本各地に温泉があり、日本人はそれを不思議に思っていませんが、これは地球規模で考えたら地雷原の上で毎日宴会やってるようなものかもしれません。しかし、地震が起きるたびに、我が国の耐震技術は進歩していきました。地震の無い地域では建物の耐震性など考慮していないものが多いので、マグニチュード5くらいの地震でも建物が倒壊して亡くなる人が多いのです。

 地球上での地震多発地帯である日本。そこで培われた経験は世界で多くの命を救えるはずです。それは建物の耐震技術だけに限ったものではないはずです。
 日本に限らず世界のどこにいても、突発的な災害に遭遇した場合、まず自分たちの安全を確保し、自分が無事なら他者を助け、多くの命をしっかりと次につなぐ行動ができるよう、日頃から備えていきたいものです。
 それが、犠牲に遭われた方々への供養にもなると思いますから。

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