日本初!月面着陸に成功 | 行政調査新聞

日本初!月面着陸に成功

日本初!月面着陸に成功

1月20日未明、JAXAの無人探査機「SLIM」が、日本初の月面着陸に成功しました。有料会員の方に毎月発送していた令和5年9月号で記事にしたコラムを転載します。

「月」に思いを馳せる

伊  上  武  夫

中 秋 の 名 月

 九月になりました。いわゆる「中秋の名月」の季節です。
 今年、令和5年(2023年)の中秋の名月は9月29日金曜日になります。
 満月の位置が高すぎず低すぎず、そして晴れた日が多いのが9月の満月で、一番きれいに見える満月とされています。ところで「中秋」というのは文字通り「秋の真ん中」という意味なのですが、「中秋」と「満月」の組み合わせは太陽暦と太陰暦の組み合わせでもあるのです。太陰暦は月の満ち欠けに従った暦(こよみ)になります。
 カレンダーなど無い時代には夜空の月の形で今は何日か判断できたので、太陰暦はわかりやすく便利だったのです。たとえば三日月なら3日ですし、満月なら十五夜ですので15日ですよね。「時は元禄15年12月14日」の弁士の語りが今に伝わる忠臣蔵赤穂浪士の吉良邸討ち入りの夜は、ほぼ満月だとわかるわけです。
 月明かりがある方が夜中に行動しやすいですから。太陰暦を使っていた時代は日付けと月齢は連動していたという事を忘れてしまうと、時代劇作家でも討ち入りの夜を満月以外の描写にしてしまったりするので気をつけましょう。さて、太陰暦はあくまでも、29日または30日でひと回りする月の満ち欠けによるものです。これが、地球が太陽の周りを365日かけて回る太陽暦と比べると、1年間に11日のズレが発生してしまいます。このズレは農業には致命的です。種を撒いたり収穫したりする日が毎年ズレてしまいます。農業だけでなく狩猟にも影響が出ます。基本的に地球上の生物は太陽の動きに従っていて、月の満ち欠けに影響されているのは潮の満ち引きとサンゴの産卵とヒトの交通事故くらいです。 (実際、満月には交通事故が多くなります)
 そこで太陽の運行を正確に測定する必要が出てきます。太陽が最も高い位置にくる日、低い位置にくる日、真東と真西から昇ってくる日が記録にとられ、365日の周期で太陽と季節が巡る事が理解されます。太陽暦の始まりです。同時に影の動きから時間の概念も誕生します。

 古代中国では「陰陽思想」というものがあり、世界は陰陽の気によって作られていて、陰の大なるものが太陰(月)、陽の大なるものが太陽(日)となるわけです。
 陰と陽は対立する概念ではなく補完し合う概念です。ですので太陰暦と太陽暦は相反するものではありません。この陰陽から春夏秋冬や東西南北などの「四象」や五大元素「木火土金水」などの「五行」といった概念が生まれ、この思想が現代にもつながっているのはご存知の通りです。
 話を「中秋の名月」に戻しますが、中華圏では春節(旧暦の正月)、端午節(端午の節句)とならぶ「中秋節」と呼ばれる重要な行事の日になります。中国でも台湾でも休日になり、月を見ながら月餅やザボン(東アジアでの名前はブンタン)を食べたりします。
 これが日本だとお団子になるわけです。ここで気になるのがその日付けです。
 満月の日ですから太陽暦の現在では当然ですが「中秋の名月」になる日は毎年変化しています。逆に言えば太陰暦では明確に固定されているわけです。その日が「8月15日」なのです。もちろん旧暦の「8月15日」です。我々日本人にとって「8月15日」は特別な意味合いを持つ日付けとなりましたが、古来からの「8月15日」は中秋の名月の日なのです。

月とウサギ

 太陽が無ければ生命も存在できないので太陽が神聖視されるのは当然ですが、月も神聖視するのは地球上どの民族でも同じと思います。月は太陽と異なり満ち欠けをするので、必然的に「時間」や「生命(寿命や輪廻)」が意味づけされてきました。
 また農耕とも結びつけられたりしています。日本神話のツクヨミもその一つ。
 月にウサギがいるというのは、表面のクレーターの模様からの想像だというのは理解できます。古代中国の道教では、太陽には金烏(きんう)、月には玉兎(ぎょくと)と呼ばれる存在がいるとされてきました。こちらは太陽の黒点からの想像だと言われています。金烏は日本に伝わり八咫烏(やたがらす)となりました。
 玉兎の方はと言えば、仏教説話と結びつけられました。
 「山中で倒れている老人を見つけた猿、狐、ウサギの動物たちが、老人を助けようとする。魚や木の実をとってくる猿や狐と違って、非力なウサギは何もできない。それでも老人を助けようとしたウサギは、自分を食料とすべくみずから火の中に飛び込んでしまう。倒れていた老人は実は帝釈天で、ウサギの行為を世界に伝えるためウサギを月に昇らせた」という説話と融合していきました。日本の神仏習合と同様に、中国でも道教と仏教が融合していったようです。月の模様は国や民族ごとに解釈がいろいろ分かれています。

 モンゴルでは犬、インドネシアでは編み物をする女性、インドではワニ、アラビアでは吠えるライオン、といった具合です。面白いのは中国の一部と東ヨーロッパで「カニ」と解釈している事です。ひょっとすると解釈が伝わったのかもしれません。
 地球が太陽の周りを回っているのと同じように、月も地球の周りを回っているわけですが、「地球の周りを回る」タイミングと「月が自分で回転する」タイミングがほぼ同じなので、月は地球に同じ側を何万年も見せている事になります。
 これを地球に置き換えると、地球が太陽の周りを一周する365日をかけて地球が一回転することになり、たとえばユーラシア大陸はずっと日中で南北アメリカ大陸はずっと夜間ということになります。かなり変な感じではありますが、ともかく人類は月の同じ模様を見続けながら成長していきました。

月世界旅行

 やがて科学が発達し、月の表面はデコボコしたニキビ顔のようだと気づいたりした人類は、月にも旅行ができるのではないかとまで想像するようになります。
 フランスの作家ジュール・ヴェルヌが小説「月世界旅行」を発表したのは1865年。
 アメリカでは南北戦争がようやく終わり、日本では年号が元治元年から慶応元年に慌ただしくかわる時代です。この作品は1902年に映画化されました。
 人の顔をした月に巨大な砲弾が突き刺さっている映像を見た人も多いと思います。
 この作品ではヒトが巨大な砲弾の中に入り、巨大な大砲で月にめがけて吹っ飛ばしてくれるのですが、まあ普通に考えても砲弾発射の衝撃に中のヒトは耐えられないなあと思うわけです。ところが頭の良いヒトがいまして、「地上に向けて大砲撃てば、反動で飛ぶんじゃないか?1発だけじゃなく2発3発と撃ち続ければ、やがて宇宙にまで行くんじゃないか?」と気がつきます。帝政ロシア生まれのツィオルコフスキーがその人です。
 彼は「噴射ガスの速度が大きくロケット点火時と燃料終了時の質量比が大きいほどより大きな速度を得られる」という「ツィオルコフスキーの法則」と、「反作用利用装置による宇宙探検」という論文を発表します。
 他にも現代では当たり前の金属製の飛行機や現代でも実現できていない宇宙エレベーターなどのアイデアも発表しますが、天才過ぎて長い間理解されませんでした。彼の才能はソビエトの時代になって認められ、ロケットの開発に取り組みます。
 アメリカより一歩先を進んでいたソビエトは、1957年(昭和32年)に人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに、1961年(昭和36年)にはガガーリンによる有人宇宙飛行を成功させます。「地球は青かった」はガガーリンが語った言葉です。
 これに対してアメリカも巻き返しを図りアポロ計画を発動、1969年(昭和44年)7月20日にアポロ11号が人類初の月面着陸を成功させました。月面への有人探査は1972年(昭和47年)のアポロ17号を最後に行われていませんが、その後も無人探査機による調査は続いています。

 中国は2020年に無人探査「嫦娥(じょうが)」の月面着陸と地球への帰還に成功させています。インドは今年8月23日に無人探査機「チャンドラヤーン3号」を月の南極付近に着陸させました。着陸一週間で硫黄を検出する成果を出しています。
 月面の無人探査機着陸は現在のところ、アメリカ・ソビエト・中国・インドの4カ国が成功させていますが、日本もついにこの中に加わろうとしています。
 先日の9月7日午前8時、種子島宇宙センターからH2Aロケットが発射されました。
 これには宇宙観測用衛星「XRISM」と、月面無人探査機「SLIM」が搭載されていて、それぞれ予定の軌道への投入が成功しました。日本初の月面無人探査機のデータは、アメリカNASAがすすめる有人月面探査「アルテミス計画」に提供されるでしょう。アルテミスとは月の女神であり、アポロとは双子の神です。
 アルテミス計画では来年に人類を月面に着陸させる予定となっています。アポロ17号以来54年ぶりになります。日本や中国、インドの無人探査機が歩き回る月面では、はたしてウサギが歓迎してくれるのでしょうか。
 おじいさんとおばあさんに不老不死の薬を渡したかぐや姫は、巨大な竹のような形のロケットが月に向かって飛んでくる世界をどのように見ているのでしょうか。 
 今年の中秋の名月は、少し騒がしくなりそうな予感がいたします。

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