台湾海峡に火の手は上がらない! | 行政調査新聞

台湾海峡に火の手は上がらない!

台湾海峡に火の手は上がらない!
―「大東亜共栄圏」を再考する―

 戦火が世界で拡大している。火の粉はウクライナから中東へ、そして極東へと飛び火するのか。「台湾有事」が迫るいま、中国政権の深奥部に近い筋から「台湾有事」の可能性を聞き出す!

習近平政権は台湾を狙っているか

 本紙「行政調査新聞」の母体は昭和57年(1982年)4月に、社主・松本州弘師が刊行を開始した地方新聞である。松本師は日本では知名度は低いが、台湾をはじめ東南アジア諸国にその名を刻んだ人物であり、大アジア主義の継承者として知られる。松本師は台湾や中国に幅広い人脈を構築していた。
 松本師は昨年逝去されたが、師が築かれた太いパイプは今も生きている。
 今年(2024年)6月中旬に、松本師と親しかった中国政権の深奥部に近いとされる陶強氏(仮名)が来日され、本紙記者と長時間の話し合いをもった。内容は国際政治全般にわたるもので、すべてを書くには膨大な紙幅を要する。
 興味深い発言の一部をご紹介しよう。

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(問) 5年以上前の話になりますが、2020年台湾総統選の前に、あなたはこう発言されていた。「2020年台湾総統選で蔡英文が再選されたら、中国軍は台湾に侵攻。台北は火の海となり、蔡英文は処刑される」と。蔡英文は再選されたが、中国軍は台湾に侵攻しなかった。
(答) あれは、当時の国民党・韓国瑜応援のためのメッセージでした。

(問) 5月20日に頼清徳総統が就任演説を行いました。そのとき頼清徳は「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と、「中国2国論」を主張した。
(答) 中国が1つであることは国際社会が認めている。日本政府も「中国は1つ」という立場をとり続けています。

(問) 頼清徳の演説から3日後に、中国軍は台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を行いました。世界中が中国軍の台湾侵攻が間近に迫っていると感じました。
(答) 頼清徳の演説は国際社会の常識から逸脱している。中国軍が抗議行動を行うことは当然です。

(問) 習近平(国家主席)は「台湾統一」という悲願に異常な執念を燃やしているといわれます。「台湾を統一できるのは自分以外にはない」と口にしている。
3期目に突入した今、習近平が台湾を武力侵攻する可能性が高いのでは?
(答) 習近平政権は指導部を仲間で固めている。習派は政権を一つにまとめている。
しかし中国共産党員9,500万人すべてが習派に握られているわけではない。
胡錦涛、李克強に代表される共青団(共産党青年団)の人気は、底辺では非常に強い。現在、政府は国内にさまざまな問題を抱えています。それを無視して台湾に武力侵攻などをしたら、習近平にとって命とりになります。それは習近平自身がよくわかっている。台湾海峡に緊張を生み出しているのはアメリカです。

(問) 中国が3年前に公表した「国家総合立体整備計画」では、2035年までに中国大陸と台湾を鉄道で結ぶという計画がありました。
3年前には「2035年に台湾に行こう」という歌が流行ったとも聞いています。
(答) 中国は1つです。1つの中国の未来像を描くことは当然です。

(問) いますぐ武力侵攻することはないが、近い将来に中国軍が台湾侵攻を行うことはあり得ると思われますか。
(答) 台湾問題は国際政治の根源から考える必要がある。アジアをアジア人の世界に取り戻すことができるかどうかです。かつて日本は大東亜戦争を戦った。
その目的は何でしたか? アジアを欧米列強の支配下から解放することでした。
いま台湾問題を刺激しているのはアメリカです。

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大東亜共栄圏をめぐる動き

 中国の現政権に近いとされる陶強氏(仮名)との話し合いは、大東亜戦争に行き着き、そこにかなりの時間をかけることになった。その概略を以下にまとめてみる。1930年代に、日本はABCD包囲網で封鎖され、エネルギーや食糧の調達が苦しくなった。ABCD包囲網とはAアメリカ(America)、B英国(British)、C中国(China)、Dオランダ(Dutch)を指す。このときの中国は蒋介石政権で、英米仏蘭など西欧列強に全面的に支援されていた(欧米の中国支援は「援蒋(えんしょう)作戦」とよばれた)。
 日本は、欧米列強が支配する地域に取り囲まれ、身動きできなくなった。日本はこの包囲網を突破しようと東南アジアに活路を求めた。しかし当時、インドは英国領、インドネシアはオランダ領、インドシナ3国(ベトナム・ラオス・カンボジア)はフランス領、フィリピンはアメリカ領と、アジアのほとんどの国々は欧米列強の植民地だった。アジアを欧米列強の手から取りもどそう――。
 それが大東亜戦争の目的の一つだった。大東亜戦争の目的は2つあった。
 1つは日本国の防衛。もう1つがアジアの解放である。
 (当時の内閣は「自存自衛」と「大東亜の新秩序形成」を戦争目的と発表。)

 日本の敗戦が濃厚になったとき、政府は、日本は負けるが、戦争目的の一つ「東亜の新秩序形成」はほぼ達成されたと考えた。2つの目標の1つが達成されたのだから、敗戦を受けいれることもやむなしと考えた。負け惜しみというか、負け犬の遠吠えともいえるが、大東亜戦争の結果、アジア諸国が欧米列強の植民地支配から脱却できたことは間違いない。「大東亜戦争」という呼び名は閣議決定されたもので、その後修正されたことはない。しかし日本を占領したGHQは大東亜戦争という呼び名を否定。「太平洋戦争」と呼ぶように指導した。
 大東亜戦争というと、戦争が東アジア解放に寄与した面が浮き彫りになる。それを拒否するために太平洋戦争という名にしてしまったのだ。日本は東アジア(東亜)の新秩序形成を目指したが、その最終形が「大東亜共栄圏」の構築だった。

 「現在の中国は、戦前に日本がABCD包囲網に苦しめられたように、中国包囲網に苦しめられている」と陶強氏は語る。「アメリカ・イギリス・オーストラリア3国が結んでいるオーカス(AUKUS)や日米豪印の4カ国が結ぶクアッド(QUAD)、さらには今年4月に開かれた日米比3カ国合同訓練など、すべてはアメリカが中国を閉じ込めようとするものだ」

 「第二次大戦後、アメリカは日本がアジアに進出することを怖れ、近隣諸国が日本に対して悪感情を持つように仕向けた。そのため中国では『反日感情』が、北朝鮮や韓国でも同様に『反日』の思想がつくられた。意図的につくられた反日感情に対し、日本は『反中』あるいは『反北朝鮮』『反韓』の姿勢を強めるようになった。これはアメリカが仕かけた対立の構図だ」

 「原点に立ち返りたい。日本はアジアの地から欧米列強を追い払おうと、大東亜戦争をはじめた。アジアの地は、アジアの人々の手で守るべきものだ。アメリカに守られるものではない」 「いま中国が求めているのは『大東亜共栄圏』の構築だ。アジアは、アジア人の手でまとめられるべきだ。孫中山(孫文)が、あるいは頭山満、宮崎滔天、そして松本州弘師が求めた大アジア主義がその根底にある」

アジアはアジア人が運営する

 世界を一極集中にまとめる――それを「グローバリズム」という。英米がつくろうとしている「グローバリズム」に対抗する考え方として「多極主義」がある。英米――イギリス・アメリカを中心とする勢力は、世界を一極支配しようとしてきた。価値観を全世界で統一しようとしてきた。思想的には「自由・平等」をふりかざし、宗教的には「キリスト教・ユダヤ教」を正義としてきた。そこに問題があると陶強氏は主張する。

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(問) 私たちが気にしているのは、中国には自由がないということです。天安門事件や香港の騒動を持ち出すまでもなく、中国の一般大衆は自由を求めている。
(答) 逆に質問をしましょう。日本には自由があるのですか? どの国にもどの民族にも固有の表現がある。日本人は気づいていないでしょうが、日本には口に出してはいけない言葉がある。あなただって「×××」とか「〇〇〇」という言葉を使わないでしょう。
(このとき陶強氏は身体的欠陥を表現する言葉や被差別的用語を口にしたが、伏せ字××で表現した。)
 他にも、特定の宗教組織や個人を誹謗中傷することができないなど、日本も自由は束縛されています。平等に対する認識もおかしい。1期目の習近平は「ハエもトラもたたく」といってワイロまみれの共産党幹部をたたいた。ここからもわかる通り、中国共産党幹部の中にワイロがまかり通っていたことは事実です。
 では自由主義をふりかざしている日本には、ワイロはないのですか?
 平等な社会といいますが、日本では一部の人は生まれながらにして大金持ちで将来も保証されている。一部の人は逆に、朝から晩まで働き続けても貧乏生活から抜け出せない。それなのに「オレたちは平等だ」と胸を張っている。本当に平等だと思っているのでしょうか。教育され、洗脳されているだけだ。

(問) 資本主義社会に矛盾があることは認めます。特に英米型の資本主義には問題がある。その本質論はさておき、中国型共産主義には根源的な問題があります。
 そもそも14億人を超える中国人を、わずか数%の共産党員が仕切るという政治形態が疑問です。
(答) 中国14億の民は、日本のような均質性を持っていない。教育も行きわたっていない。大衆の半分は、右を向けと命令されたら、ずっと右を向いたまま。自ら考えることをしない。大衆を良導するのは政府の責任です。

(問) 南シナ海のアユンギン礁で中国海警局の船とフィリピンの輸送船が衝突し、中国側が危険な行為を行い、フィリピン軍の中に負傷者が出た。中国の領土領海拡大に世界中が危機感を覚えています。
(答) 個別の小さな事件は、当事者同士で話し合う問題です。
 仁愛礁(アユンギン礁)で事件があったと聞いていますが、問題はその直後にアメリカの大統領補佐官(J・サリバン補佐官)がフィリピンの閣僚と電話協議したことです。
 中国とフィリピンの問題に、なぜアメリカが出てくるのか。アジアのことはアジアで考えるべきことです。アジアの地域にアメリカが口を挟むことが本質的に問題なのです。

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世界ブロック化構想―戦争のない世界を目指して

 第二次大戦以前から提唱されてきた「世界ブロック化構想」がある。世界を4つ、5つ、あるいは6つの大きなブロックに分け、一つのブロック内だけで食糧、エネルギーなどを管理するという構想だ。ブロック内の移動は自由だが、貿易はブロック内だけに限定する。芸術、学問は境界を超えるが、ブロック外に領土を拡張することは禁止する。これにより世界は一気に平和に向かう。
 この「多極化の最終形」こそ、人類に平和と繁栄をもたらす。グローバリズムは世界を混乱と戦闘に向かわせるだけだ。
 大東亜共栄圏とは、その理想形の一つを切り取ったものだった。
 「かつて孫中山(孫文)は東洋民族が一致団結して欧米と対抗することを呼びかけた。大アジア主義が目指すところは、大東亜共栄圏といってもいい。その中心となるのは、日本でも中国でもない。アジア人なのです」
 陶強氏の言葉の奥底に、本紙『行政調査新聞』が求める本筋がある。世界が混乱に向かっている今こそ、もう一度大東亜共栄圏構想を見直すべきなのではないだろうか。■

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