福 山 辰 夫
獄 中 記
<福 山 辰 夫>
第 二十四 回
皇紀2656年 【平成8年・西暦1996年】
7月1日 (月)
起床時、看護師が舎房に来て肝機能検査の為、食器孔の所で採血をする。尚、夕方には結果が出てGPT 17のGOT 33と数値的に問題なし。亦、今月は『薬物乱用防止月間』になっており、薬物乱用防止意識を高めるといった点からも、標語の募集が有り提出。
標語は 一時(ひととき)の快楽欲しさが身の破滅 運動時に避難訓練を実施(10時25分~)
7月5日 (火)
平成8年度「安全標語」1点を提出する。
今回の標語は 作業事故ヒューマンエラーの原因は慣れたと思う油断から
毎年、此の時期(7月1日~7月31日迄)は『刑務作業安全月間』とし、標語の募集や労働基準監督所の職員に依る「作業安全講話」の実施と、作業安全に対する認識を深めると共に、日頃作業を行う上で危険等がないか再確認する。
当所に於ける今年のスローガンは
「危なかった」が赤信号 つみとろう職場に潜む危険の芽
既に1日から、看守と懲役が一丸となり「ゼロ災運動」に取り組んでいる。
還房後、父より来信有り。
7月8日 (月)
「人」紙に投稿する短歌作品の原稿を教育部に提出。
あと僅か先に出ますと云う友は頭を下げて気付かい去りぬ
日に萌ゆる堤の芝を眺めつつみちのくの寒き冬を忘れん 他八首を投稿。
7月15日 (月)
所内文芸誌「あをば」に川柳作品を投稿する。(教育部へ提出)
人間の社会の縮図を獄で観る
政宗の縁(よすが)の地にて吾れ磨く
夏の部屋隙間風も心地好い
真夏日は虫も這い出る隙間から の四句。
夕方、TBCラジオのニュースで東京地方が梅雨明けしたと報ず。
そろそろ、仙台の梅雨明けも間近い。
7月20日 (土) 海の日
今年から国民の祝日として「海の日」が施行される。
何度か日記に書いているが、免業日が増えるのは結構なこと。但し、今年は土曜日と重なった為、免業日を一日損した気分也。
昼餉時に、祝日菜として「バナナケーキ」(1ヶ)の給与有り。
7月25日 (木)
刑務作業安全月間の一環として、昼餉後に、仙台労働基準監督所の鈴木氏を招き「作業安全講話」を 講堂で実施。工場就業者全員が講堂に集まり聴講する。(12時30分~14時)
講話の内容は、各職場別に見る作業事故等の解説。夕方は、薬物防止VTR視聴有り。(18時20分~18時50分)
7月26日 (金)
両親が面会に来る。(11時~11時40分)例の如く「日刊スポーツ」(3ヶ月分)・本等を差し入れして貰う。誠に感謝。午后は『書道教室(3班)』に出席し、第二期昇位試験の漢字条幅課題を鈴木登郁先生に添削指導を受ける。夕方は私本の配布が有り、下附本として「竜馬がゆく(三)」「竜馬がゆく(四)」(司馬遼太郎著・文春文庫)2冊が手元に届く。
7月29日 (月)
橋本龍太郎首相が靖國神社に参拝。
早速、各方面で喧喧囂囂たる議論を呈している様子だが、祖国の礎となりし忠靈に対し、後世に生きる者が玉串を捧げる。その当り前の事を、知的文化人と称す「戦後の日本人悪者論」に毒された奴輩(しゃつばら)は、公人としての靖國参拝は「憲法違反だ!」と騒ぐ。そもそも玉串奉奠に公私の区別はなく、唯一人の日本人で在るのみ。こういった反日の先鋭分子が、國體を冒瀆し、民族の歴史を歪め、民族性を否定する。
神聖なる地 九段の靖国に永眠せし先達よ
貴方方が死守せんとした祖国の山河 民族精神は失せ
応急の秋(とき)来たりて 世上乱れん
嗚呼悲しい乎 英雄出でぬを
7月30日 (火)
先日18日に映像不良の為、視聴中止となった薬物防止VTR・第2回目「コカイン・大麻」を再視聴する。(18時20分~18時50分)
8月1日 (木)
本日付で、2級へ仮進級。今回は生みの苦しみを経ての進級であり、菅野看守部長にも「人よりも苦労して2級になったのだから、階級降下とならぬ様、今後は自重して生活をするように」と、訓示を受ける。運動時に避難訓練を実施。(10時25分~)夜間独居の液体洗剤、固型石鹼の交換有り。亦、本日より還房時に於ける「1分間のシャワー浴」が実施される。(*但し、入浴該当工場は含まれず。期間は別途指示が出る迄)
8月4日 (日) 晴れ
講堂にて「盂蘭盆法要」が催され出席。(9時30分~10時30分)
臨済宗僧侶に依る「般若心経」の読経の中、出席者各々が焼香。その後、30分間の法話を謹聴致す。「盂蘭盆」といわれるが、これはインドのサンスクリット(梵語:ullambana)を漢字に当て嵌めたもので、甚だしい苦を意味する。漢訳して「倒懸」(とうけん)といい、この逆さに吊るされるような苦を救うのが、盂蘭盆会の供養であるとされています。お釈迦様の弟子目連(もくれん・十大弟子の一人)は、仏に向かって「若し未来の世に一切の仏弟子にして孝順を行ぜん者も、亦まさに此の盂蘭盆を奉じて現在の父母を救度すべし」と発願し、7月15日(旧暦)をもって盂蘭盆を行う日と定められたといわれる。
つまり「おぼん」とは、日常我々は何かと忙しく世の中を逆吊りに生きているが、お盆には仕事も何もかも休んで、逆吊りになっている日常を省みて正常な目で考え、先祖だけではなく、両親にも心配を掛けていないかと考える日でもあるという。
午后は読書・臨池に勤しみ、19時から20時55分迄、テレビ視聴。
8月7日 (水) 立秋
会計課へ願箋で願い出ていた、領置金及び賞与金の教示有り。
1,049,863円(領)、120,998円(賞)
8月9日 (金) 長崎原爆忌
反ロシアデー。娑婆では民族派陣営が、全国各地に於いて「反ロシア」の街宣活動に挺身している事であろう。そういえば、平成6年に雑居房でお世話になり、昨年春に出所した石巻の安達さん(政治結社侠道塾々長)は、今どうしているのだろうか…。
官本交換と私本の期間延長が有り。
8月11日 (日)
2級集会に初出席。(9時30分~11時30分)
因みに、3級会は隔月(当所は奇数月)に実施され、ジュース&菓子の購入が合計300円。2級集会は毎月1回実施され、ジュース&菓子の購入も合計350円と、少しだけ処遇が良くなる。今月の集会VTRは「免許がない!」(製作:東宝。出演:舘ひろし・片岡鶴太郎・墨田ユキ等)を視聴。内容は、痛快コメディーとあるが今一つ也―。
午后は午睡時に読書、夕方は勉学に勤しむ。夜はNHK大河ドラマ「秀吉」を視聴。
8月19日 (月)
賞与金の教示有り、3等工5割増+1割6,106円となる。
8月25日 (日)
月例の「短歌会」を予定するも、扇畑忠雄先生のご都合に因り中止。
午前中は臨池に勤しみ、午后は「竜馬が行く」を心読する。
夜はNHK大河ドラマ「秀吉」他を視聴。21時、減灯・就寝。
9月1日 (日) 雨のち曇り
講堂にて「彼岸会」が催され出席。(9時30分~10時30分)
真宗大谷派僧侶に依る「仏説 阿弥陀経」を読経する中、出席者各々が焼香。
その後、僧侶(足利先生)に依る30分間の法話を謹聴致す。
法話は、「四苦」について。
「人生には、4種の苦痛(四苦)、即ち、生・老・病・死が在るとお釈迦様は悟った。尚、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦の四苦を合わせて“八苦”としている。兎角、人間は差別をして物事を見るが、例えば子供が通信簿で4が二つ在ったので父親に見せようと持って行ったものの、父親は仕事が忙しいからと云って机の上にその通信簿を置く。後で父親に通信簿を見たか?と問うと、何だ2が沢山在るじゃないかと逆に叱られた事で、子供は甚だしく傷付いたという話を聞く。薔薇は美しいが棘が有る―と云うのと、薔薇は棘が有るが美しい―と云った、二つの云い方を考えてみた時、仏教とは難しい経典を唱えることではなく、只管素直な心で物事を見るということだと思う」。「一如」(いちにょ)、「只管打坐」(しかんたざ)也。
午后の午睡は「竜馬が行く」を心読。
夕方は臨池に勤しみ、夜はNHK大河ドラマ「秀吉」他を視聴。
9月8日 (日)
本日で、今刑期の半分を務め折り返し。長かった様で短い、過ぎし日々に想いを馳せる。9時30分から10時30分迄、宗教教誨「神道」に出席。
今回は、坂本寿郎先生の教誨で「楠木正成について」謹聴致す。神社を参拝する際に「玉串奉奠」をするが、其の作法について先生よりご指導頂く。
・玉串奉奠の作法
「神官や禰宜等より玉串を受け取る場合、胸の高さで受けて左手の掌上に向け、右手掌は下へ向けて根元を右手側にして持つ(注:右手掌を下へ向けるのは、右手は色々と物を掴んだりするので穢れているから)。祭壇に向かい一揖(30度の礼)し、前に進み奉奠する台から小さく3歩位の距離を空けて立ち止まり一礼(60度の礼)。而して、小幅で3歩進み神殿に向かって一礼をし、玉串を①で自分の方へ縦に根本を向けて、②で右手を根元に下ろす。③で時計回りにして玉串の根元を神殿の方へ向け、④で其の儘、奉奠する。奉奠後は一例をし、小幅で其の儘3歩下がり神道形式(注意:二礼二泊手一礼)で拝し、一揖をしてから下がる。」
小生も幼少の砌より、只拍手を2回打って拝(おろが)むだけで良いと思っていた。「惟神(かむながら)の道」とは、即ち日本精神也。作法を重んずる事是道、と思い至る次第。午后は読書・臨池・勉学に勤しみ、夜はNHK大河ドラマ「秀吉」を視聴。
9月11日 (水)
「第22回管内矯正施設被収容者書画コンクール」に出展する作品を教育部に提出。今年は、硬筆部門一点、書道部門一点。作品の内訳は、書道部門が条幅半切(草書体)
朝辞白帝彩雲間 千里江陵一日還
両岸猿声啼不住 軽舟己過万重山 李白詩
と、硬筆部門が規定用紙(油性ボールペン使用)
月日は百代(はくたい)の過客にして、行かふ年もまた旅人なり。
船の上に生涯を浮かべ、馬の口をとらえて、老いを迎ふる物は、
日々旅にして、旅を栖(すみか)とす。故人も多く旅に死せるあり。
予もいづれの年よりか、片雲(へんうん)の風に誘はれて、
漂泊の思いやまず。 「奥の細道」 松尾芭蕉
硬筆部門では2年連続金賞を受賞。従って、今回は硬筆より書の方に力を注ぐ。
9月12日 (木)
賞与金教示。3等工5割増+2割 5,298円也。
9月19日 (木) 糸瓜忌
「圖南書道會」に平成8年度後期受講料(6カ月分)3,600円を領置金にて支払う為、教育首席及び会計課長宛の連名願箋を提出する。朝一番の運動では、明日開催される「運動会」の最終合同練習を8工場と行う。応援合戦及び行進、各自が競技種目別に調整を行う。 (8時40分~9時15分)
9月20日 (金)
朝は普段通りに出役す。7時50分から1時間程刑務作業を行う。
「宮城刑務所運動会」開催。(9時10分~12時10分)
小生の出場種目は、今年も「分区対抗リレー」で第2走者として出走する。結果は、予選1組で惜しくも3位。決勝進出(予選1,2組の1,2位=4枠)はならぬも、満足の走りが出来た事で良とする。今年も総合優勝は2分区(2エ)、準優勝が8分区(10・13工連合)となり昨年と同じ6分区(8・12工連合)は、総合6位と惨敗であった。閉会後、グラウンドにて参加者全員で昼餉。速やかに片付けをして、順次還工。舎房衣に着替え、5分間の洗身浴をして還房。房内のテレビで「作業安全VTR」を視聴して、その感想文を作成。夕餉時に特別菜として、正月以来となる「袋菓子」の給与有り。
9月25日 (水)
「平成8年度第2期かな等昇位試験」及び漢字部月例競書作品を教育部に提出。作品内訳は、漢字部競書、随意、条幅(半切)各一点ずつ。
細字部漢字 (第二部)……準段
仝 かな (第一部)……初段
硬筆部漢字 (第二部)……二段
仝 かな (第二部)……初段
かな部 (第三部)……二級 ※段級は現時点