獄中記 第二十七回 | 行政調査新聞

獄中記 第二十七回

福 山 辰 夫

獄  中  記

<福 山 辰 夫>

第 二十七 回

皇紀2657年 【平成9年・西暦1997年】

4月1日 (火) 快晴 

 「今日から新年度となり、新たな気持ちでやる様に…」と、朝一番で成田副担当より訓示を受ける。確かに囚獄暮しの身では“盆も正月”も無きに等しく、一つの区切りとして耳を傾けり。
 運動(10時25分~)時に「避難訓練」を実施。其の後、3か月振りにソフトボールを行う。
 ソフトボール大会も間近いという事もあり、2チームに分かれて実戦形式で練習。小生はBチームで、センターの守備。グランドの土の柔らかさを確かめつつソフトボールに興じる。

3月ぶり外で運動柔らかき土の感触確かめ歩む

4月2日 (水) 晴天 

 相変わらず3班は、忙しく気を抜く隙も無いが、一日の終りが早いのも事実。
 今日は2番入浴(15時30~15時45分)。夕点検迄の間、官本で借りた漫画「男一匹ガキ大将一巻」(本宮ひろし画)を読む。作中、乞食の総大将のカスミの大三郎と主人公戸川万吉が街角で乞食をする場面が出て来る。そこでカスミの大三郎が万吉を諭す言葉が「人間誰でも上にたちたい、しかしほんとうに上に立てる人間は…、下のことを知っている人物じゃ。下の精神を知らん人間が上に立ったら何も見えなくなる。しかしだ…、万吉なにかやるときは他人の事をいっさい気にするな…。そんなことを気にする人間では大業はならん!」と。たかが漫画と云う勿れ。
 一寸した言葉の端にも光る何かが在り、教えられることも多い。特に、今の小生には囚獄に於いて泥だらけになって底辺を識り、這い蹲って低い見地から世界を見る必要有り。

4月3日 (木) 曇り時々雨 

 生憎の雨で、運動(13時35分~)は講堂で実施。S原さん、竹之内武男氏等とストレッチ運動を汗だくになり乍ら行う。夜は、「日刊スポーツ」「男一匹ガキ大将(二巻)」を読み、就寝。
 靖國参拝における“玉串料”の公費支出、「愛媛玉串料訴訟」は違憲という判断が、最高裁判決にて云い渡される。最高裁の判事15人中13人が違憲と判断したらしいが、米国に押し付けられし“盗用憲法”を、未だ世界に冠たる“平和憲法”等と思い込んでいる「戦後自虐史観」に毒された連中が判断しているに過ぎない。全く以って馬鹿馬鹿しい限りであり、理解に苦しむ。

4月7日 (月) 雨 

 今日は雨にて、運動(11時~)は講堂にて実施。竹之内武男氏に付き合い、時間一杯ストレッチを行う。『あをば3月号』に会計課長奥谷憲幸氏が一文を寄せているが、元清水寺貫主・大西良慶氏(故人)の「恩について」の言葉を取り上げている。「恩という言葉を嫌う人が多いが、人は、あらゆる人の恩恵なしに生きられない。このことは厳然たる事実であり恩を感じるとか、恩に思う以前の問題である。生み・育ててくれた親の恩・自分を支えてくれている社会の恩・全ての恩恵によって、自分達は生きているのである」(本文中から)確かに我々は、目に見えない所で多大なる恩を受けているのに、普段は全く気付く事も無く生活をしている。恩について日々、見失っている事をもう一度振り返る、そんな生活を心掛けねばならない。

4月11日 (金) 曇り一時雨 

 夕方のラジオニュース(お昼のNHKニュース・録音)で、「駐留軍用地特別措置法」の改正案が10日の日米安保土地使用特別委員会で、自民・新進・民主・太陽・21世紀の賛成多数で原案通り可決。本日衆院を通過し、参院に送付と報ず。
 小生としては、米軍に守って貰うといった定義の上に成り立つ「日米安保体制」は否定だが、有事に対する危機感すら無い国家に、自国の軍隊が必要であると知らしめす為には米軍の駐留はやむを得ない事かと思う。併し、何時も云っているが、21世紀は民族主義の時代と成る筈で、殊に、極東に於ける現況の軍事バランスが崩れる可能性は高い。

4月21日 (月) 快晴 

 週明けで身体が怠い。午前9時30分の休息時、特別下附を願い出ていた眼鏡(LANVIN)が手元に届く。亦、現在使用中の眼鏡(HOYA)はフレームが破損したので、即領置手続をする。
 夕方のラジオ放送「小沢昭一的こころ」で、猫が取り上げられ「ねこ」という語源の由来は「ねるこ」から来ていて、関係が有るのかどうか判らぬが、昔は遊女の事も「ねこ」と呼んでいたという。長寿番組の当放送は、パーソナリティーの小沢昭一の下ネタ話が人気だが、蘊蓄を教えられる事も多い。過日放送された“達磨大師についてのこころだぁ~”の考察では、達磨が嵩山の少林寺で壁に面して9年間座り続けて一語も発しなかったという「面壁9年」の故事を、此の放送を聴いて知った。普段何気無い生活の中にも、一寸と耳目を傾ければ考えさせられる事が、何と多いか熟思う次第也。

4月22日 (火) 曇天 

 今日も終日(ひねもす)ミシン作業。夕方は1時間程、臨地(細字)勤しみ、其の後は就寝時迄「翔ぶが如く(二)」を心読。西郷南洲曰く、「自分を愛することが、善からぬことの第一である」亦、「命も要らず、名も要らず、官位も金も要らぬ人は始末にこまるものである。しかし、この始末にこまる人ならでは艱難を共にして国家の大業は成しえられぬものだ」と、真に其の通り也。

4月23 (水) 曇りのち晴れ 

 ペルーの日本大使公邸人質事件が解決する。
 日本時間の本日午前5時23分(ペルー時間22日、午後3時10分過ぎ)に、ペルーの日本大使公邸に特殊部隊が強行突入し、銃撃戦の後、人質71人(日本人24人)が6時過ぎに救出される。亦、テロ組織MRTA(トゥパク・アマル革命運動)側は、リーダーのネストル・ヤルパ以下14名全員が死亡し、突入した特別部隊軍人2名とペルー人人質(最高裁判事)1名が死亡。丁度昼餉時のテレビ報道にて、救出された青木盛久大使のインタビューが映し出され、126日間も人質生活を余儀無くされたにも拘らず穀然とした態度で質問に応じる姿は立派で、日本のサムライ其の物である。

 三島由紀夫が勇者の条件として、「危機に備えるのが男であり、常に危機というものを心の中に持ち、その危機の為に毎日々々の日常生活を律して、男の生活・男の肉体は、それに向かって絶えず振りしぼられた弓のように緊張していなければならない」と云っている。
 結局、フジモリ大統領は我国が望む“平和的解決”では無く、武力鎮圧への道を選択した訳だが、被害を必要最小限に留めた事は歴史に残る判断である。況して、何処かの国の様に何でも金で解決をする、といった単なる一国平和主義に陥らず、テロ行為にも屈しない態度を評価したい。
 一国平和主義に溺れる日本人よ、今日の現実に目を向け、口先だけの平和主義を今直ぐに捨てよ、我等は世界に冠たる民族である。今こそ大和魂を振武せよ。

4月24日 (木) 曇りのち晴れ 

 書道教室に出席。(12時20分~13時20分)
 今月から新たに班の編成があり、K林さん(10工)・T原君(11工)・S水さん(13工)、T田さん(13工)と一緒になる。只、教育の担当者だった嶺岸処遇官が上司の方針に楯突き、拘置区(分類舎)へと左遷されたとの由。入所以来、今日迄色々と御世話に成った身としては、全く以って寂しい限り。午后の休憩後、I藤(極東会・秋田市)君より「福山さん、怒らないで下さい」という事で話しをする。其の内容とは真に些細な事で、間に入っている者が小生の言動を勝手に解釈し、雑居房で話した事から問題が大きくなる。確に其の様に取られた小生も悪く、不徳の致すところ。
 然れど、一方的に小生の言動を悪し様に話すのは、些かどうかとも思う。
 小生も其の者に対し、日頃から十分に気遣いをしているにも拘らず、素知らぬ顔で話を捻じ曲げるのには困ったものだ。此れも己が試練と思いI藤君には素直に頭を下げる。心中悔しさで一杯だが、只管忍耐あるのみ。西郷南洲翁は「敬天愛人」を己の信条として、陰徳を積む事を心掛けたという。小生も南洲翁を倣って陰徳を積む様に心掛けたい。

 4月25日 (金) 快晴 

 両親と姉が面会に来る。(13時30分頃)話しの内容は、御互いの近況だけが、特に父より実家の抵当権を解除する為、以前に小学校同級生のH野君が司法書士だと話した事があって、是非事務所の所在地を教えて欲しいと云われ委細に話す。亦、帰り際に「日刊スポーツ」(3ヶ月分)と本の差入れをして頂く。夕方は、月末の私本配付日にて下附を願い出ていた「翔ぶが如く(三)」「翔ぶが如く(四)」(司馬遼太郎著・文春文庫)、「三国志の知恵」(狩野直禎著・講談社現代新書)3冊と、購入した「百人一書・日本の書と中国の書」(鈴木史楼著・新潮選書)の計4冊が手元に届く。
 昨日の件だが、どうしても蟠りがあるらしく工場で再び揉める。全く人間関係とは斯様にも難しく、複雑なものなのか…。小生の気持ちが、全く別な意味に取られ話しは平行線を辿るのみ。最後は御互いに引いたので話しは済んだが、能く能く考えると小生が我慢をすれば済むのに、突っ張って事を荒立ててしまったのが失敗だった。己の器の小ささを露呈したと反省。
 今日の面会でも父が云っていたが、人間も或る程度年齢を重ね失敗を繰り返すことに拠って諸般万事に通ずることが出来るので、今は只管(ひたすら)経験を積み、苦労を重ねるのみ也。

辛きこと多い囚獄の日々なるも歌詠むことでこころ鎮めり

4月28 (月) 快晴 

 此処連日は、初夏を思はせる陽気であるが、今日から少し癇癪を起さぬ様に心掛けたい。
 作業中11時頃、分類の下調べという事で、分類の先生と面接を行う。(工場食堂にて)
 約一年振りの下調査と成るが、一応躰の事から近況を聞かれ、矢張り最後は組織脱退の話しとなる。昨年も監察官面接や、分類の下調べで「堅気になる気は無い」と再三断ったにも拘らず、分類の方では今年から従来の「脱退書」では偽装脱退者が多く、殆どの者は仮釈が切れると元組織に戻ることから「暴力団新法」に則って、本人が所属する組織に所轄の警察署を間に入れ、暴力団からの脱退を促すという。従って、小生にも其の様にしたらどうかと云われるも、再度辞退させて頂く。
 獄中記でも幾度と無く記しているが、堅気にならぬのに詭弁を弄し、信念を曲げて迄仮釈放を我は欲せず。只管、己の道を信じて邁進するのみ。

4月29日 (火) 快晴 緑の日 

 全国的に夏日となる。仙台でも26.8度と7月上旬の陽気。午前中は「翔ぶが如く(三)」を心読。午后から臨池に勤しみ、夕方は勉学(思想)、夜はテレビ視聴を行う。
 亦、昼餉時に祝日菜として“どら焼き(大)”1ケの給与有り。
 此の4月から生活習慣病(成人病)予防の為、昨年に引き続き主食(米飯)の量が減り、二十代の懲役は常に腹を空かしている。但し、祝祭日の副食は良くなりつつある。今日の“どら焼き”は今迄に出た物と比べても5倍位大きく、瑣末な事だが何か得をした気分になるのは懲役の性か…。

4月30日 (水) 曇天 

 今日は、13時35分より「ソフトボール大会予選リーグ」第一戦・対1工(木工)と試合を行う。先ず結果から記せば、9対0で小生(12工)の圧勝。13工を含め3年連続選手として出場しているが、今日の試合は圧巻であった。一回表の攻撃で3番のI藤君(秋田市)を3塁に置き、4番の小生が右中間へ柵越えの本塁打を放つ。自身でも驚いたが、同囚らの期待に答えることが出来たのが一番嬉しい。結局、第2打席はレフトフライで「2打数1安打1本塁打2打点」と、一応4番の仕事は何とか熟したと思う。
 特に投手のK和さん(住吉会住吉一家西海家早坂会・船岡市住人)が好いピッチングをし、1工(木工)相手に完封。監督の栗屋さん(五代目山口組光生会・山道抗争=懲役20年)が云う様に、今年の12工の選手は近年に無い面子が揃った。次は強敵2工(木工)と対戦だが、此の調子で行けば勝てる。夜は、夜間独居優良室テレビが有り「目撃!ドキュン」「X-ファイルⅡ(最終回)」を視聴する。

5月1日 (木) 快晴 

 「第68回メーデー」。各地で連合系・非連合系の集会が催されたと、夕方のラジオニュースで報ず。因みに「メーデー」の由来は、1886年の此の日、8時間労働制の確立を要求して米国で行われたゼネストに始まるものらしい。囹圄で労役に付く身に「メーデー」は一切関係無いものの、懲役も云われて見れば8時間以下の労働だ。夜の余暇時間は、「翔ぶが如く(三)」を心読し、ノート整理を行う。

5月2日 (金) 快晴 

 一昨日に続き「ソフトボール大会予選リーグ・第2戦」対2工(木工)戦を行う。(10時25分~)
 今日は2打数無安打も、3回表に右翼への犠牲フライで打点1。守備ではセンターフライを2本無難に処理するが、3回裏に2工のO田(稲川会岸本一家星川組・北見市)さんが打った左中間の飛球を捕ろうと追い掛け、レフトのS原さんと接触。球は後方へ転々と転がり、ランニングホームランに。結果は5対2で12工が勝利し、予選リーグ2勝。「決勝トーナメント」へ駒を進める。
 15時30分頃、S原さんと接触した件で大事を取って、一応診察を受ける様にとの指示が有り、木皿処遇官の連行で医務本所へ。医師の診断では「特に問題なし」だった。

5月3日 (土) 曇天 憲法記念日 

 今年で盗用憲法発布50年。併し、昨今はグローバル化に伴い、改憲を含めた憲法論議が真剣に語られる傾向にある。21世紀は民族主義の時代と囹圄の中(うち)で声高に叫ぶ小生だが、「東京裁判史観」に拠る「日本悪玉説」否定し、国益と民意に反映した「自主憲法」の制定と、戦後失った民族の誇りを取り戻す為の思想戦争を展開したい。此の機に憲法論議を尽くすことこそ、21世紀日本の国益に繋がる筈。
 午前中は、総集行事にてテレビVTR視聴 (9時30分~10時45分)が有り。「風のねがい」(主演・宇崎竜童・丘みつ子・風吹ジュン他)というNHK制作のテレビドラマを視聴。
 午后は、臨地に勤しみ「条幅作品」を揮毫。夕方は、自主勉学(思想)。夜は、通常のテレビ視聴を行う。昼餉時に、祝日菜として“ロールケーキ”1本の給与有り。

5月5日 (火) 快晴 子供の日 

 「子供の日」とは、戦後国民の祝日を判定する際に「次代を担う子供の為に」と、最初は5月3日に決定しょうとした。併し3日が「憲法記念日」故、5月5日に決まり、昭和24年に祝日となり現在に至る。ゴールデンウイークも後半の3連休最終日と成るが、午前中は読書を行い「翔ぶが如く(三)」を読了。而して、総集行事にてテレビVTR視聴(9時30分)「スーパーの女」を見る。伊丹十三監督による一連のシリーズ最新作で、主演は宮本信子・津川雅彦・松本明子他の娯楽作品。午后から夕方迄は臨地に勤しみ、夜はテレビ視聴が有るも、歌誌「群山2号」を耽読。昼餉時に、「子供の日」の祝日菜として“柏餅”一ケの給与有り。

5月6日 (火) 晴れ一時雨 

 日中は26度と、真夏並みの陽気になる。相変わらずミシン作業は忙しく、一日が早い。
 今朝方、仮釈放前指導等編入でS々木(五代目山口組三代目山健組内・盛岡市)さんが「黎明寮」へ。S々木さんとは、雑居房で数日だが同房(平成6年12月の総転房の際、2舎2階3室)になり、昨年夜間独居へ転房してきて、此処一年程は一緒に出役をしていた。親しかっただけに寂しさもあるが、社会での御活躍を心より祈りたい。夜は、刑務所機関誌「人4月号」を読む。

5月8日 (木) 曇りのち雨 

 出荷した「園児用ブルマ」に300枚程不良品があり返品される。官と業者の話し合いでは、不良品の全てを官で買い取る事で収まった様だ。今回の返品は、検査工である4班の班長だけのミスとは云えず、小生も3班の班長(ミシン工)として注意する可きだった。今野技官はブツブツ云っていたが、実際の所、班長だけに凭れ掛っている現状では、班長が仕様を間違えると商品全てが不良品になる。作業する側は、「班長に云われたとおりにやった…」と云うが、何も考えずに作業するのではなく、各自の工程に於いて「此れでいいのかな?」と疑問に思ったら、直ぐ技官なり工場担当なり班長(指導工)に聞いて欲しい。一人一人が責任感を持って作業に取り組まねば、今後も同じことを繰り返す羽目になる。
 昼前に、医務より「定期健診」で呼び出され、血圧・体重等を測定する。特に異常は見られず、血圧は平常で、体重は57瓩と2カ月前に比べ1瓩減であった。医務分室の待合室で、被服工場のY野澤さん(無期囚)・営繕の住之江君、13工で一緒だった前粟蔵(沖縄旭琉会功揚一家)氏と顔を合わす。夕方、還房すると刑務所機関紙「人5月号」が配付され、短歌・宮地伸一選にて小生の歌が秀作に入選。
 入選作は、 関東の獄より毛布は多いけれど冬のみちのく身にこたえたり   の1首也。

【「青森抗争」で、懲役15年を服役中のN海(五代目山口組芳菱会内盛道会・五所川原市)さんより、今後も御付き合いの程、宜しく御願い致しますと云われ、此方こそ宜しく御願い致しますと伝える。】

5月9日 (金) 晴れ 

 作業中、処遇部門に呼び出し有り。「人5月号」で短歌が秀作に入選した事で、教育部長より“所長賞”としてノート1冊を賜わる。今回の入選者は、小生の他に4工のT花和夫(竹中四代目事件=無期懲役)さん、桜きなこ氏の3人。

【一昨日、新進党の西村真悟衆議院議員が尖閣諸島最大の魚釣島に上陸した問題で、又候(またぞろ)台湾や香港の対日抗議運動家が騒ぎ、政治結社の日本青年社が設置した灯台の撤去、台湾旗や島の領有を示す標示を19日にも上陸をして立てると台湾側のリーダーである金介寿(台北県議)が、共同通信のインタビューで語った記事が『日刊スポーツ』の社会面に掲載されていたが、「平和解決ができなければ戦争も避けられない」という発言は、今後の日台関係に大きく皹(ひび)が入りかねない事態となりうる。
 現況では、日・台・中が夫々主張をしている尖閣諸島だが、領有権に関する主張は我が国が尤も早く、歴史的事実を見ても日本に帰属している。日本政府は毅然とした態度で接する可きであり、決して中途半端な政治的妥協はせず、筋を通して粘り強く交渉・主張をして頂きたい。】

5月10日 (土) 晴れ 

 「花まつり」が催され出席。(9時30分~10時30分・講堂)先ず、仙台仏教会長の門脇氏等僧侶6人に依る“般若心経”の読経。終了後は門脇氏の法話を謹聴致し、仙台聖和女子学園舞踊部によるタイ・インド舞踊、ジャズダンスが披露される。毎年出席して思うのは、舞踊・ダンスを行う女子高生達を邪な目で見る馬鹿が居る。所詮、懲役といえども情け無くなる。日頃、部活動で一所懸命習得に取り組み、其の成果を舞台上で披露する姿を見て、小声で下卑た言葉を交わす。全く女っ気がない環境とはいえ、慰問に来る色物芸人と一緒くたにするのはどうか?
 午后は、先代親分の月命日が15日の為、写経(般若心経)を行う。途中、理髪が有り出房。
 夕方は、「翔ぶが如く(四)」を心読。夜のテレビ視聴は「巨人対阪神」を視聴。

5月14日 (水) 曇り一時雨 

 新聞の報道に拠ると「ペルー日本大使公邸占拠事件」の責任問題が浮上し、青木盛久大使が解任されるらしいが、事件当初は英雄とされるも、事件が解決して帰国をすれば各メディアに拠る事件に対する責任の追及等のバッシングと、全く以て此の国はどうなっているのか不思議でならぬ。あれだけ長期間(126日)拘束をされ、且つ常人の行動を取れといわれても取れる筈は無い。青木大使個人に対するバッシングより、現在の日本人全体が平和に浸りきった上、全く危機管理意識がないことを問題提起するべきではないか。驕り昂った民族はやがて滅ぶ運命にあることを忘れるな!

5月15日 (木) 雨 5・15事件勃発 

 書道教室(4班)に出席。(12時20分~13時20分)
 出席者は、T原君・T田さん・S水さん・K林さん等。鈴木登郁先生の体調が勝れぬらしく、来月18日から僅かな期間乍ら入院すると仰っていた。先生が来所しないと当教室も中止になり、唯一の憩いが無くなる。先生には早く元気になって頂き、御指導を仰ぎたいと切に願う。
 今日は「沖縄本土復帰25周年」。沖縄を始め各地で式典が催される。

5月21日 (水) 雨のち曇り 

 先の「2級者集会」VTR中止の件で、昼休憩後に菅野看守部長より6月8日(日)に再度実施と訓示有り。尚、当日は菓子等の喫食はなし。散々ドタバタした挙句の決定は後味が悪い。何でも彼でも「検討する、検討する」だけでは、誰一人として納得はしない。我々懲役側にも、しっかりと見える形で答えを出すのが筋というもの。
 夕方は、相撲テレビ視聴「大相撲夏場所11日目」(17時15分から18時迄)。夜は、夜間独居優良室テレビが有り、「目撃ドキュン!」「X―ファイルⅢ」(19時から20時55分迄)を視聴。

5月22日 (木) 曇りのち晴れ 

 昨日の午后、天皇陛下が皇居・生物学御研究所脇の水田で、恒例の田植えをなさる。
 特に我が国は“豊葦原の瑞穂の国”と呼ばれ、稲とは切っても切れない御国柄である。歴代天皇も古来より、自らが田植えを行い、秋の収穫・新嘗祭と祭事を行って天神地祗に感謝の意を表わして来た。「祭りの本義とは何か…」、今後の考察課題である。

 5月25日 (日) 雨 

 「短歌会」が催され出席する。(午前10時~11時30分)
 今月は特に、S原さんの歌が絶賛だったので記す。
   うら庭の桐の花咲く梢より雉鳴くが見ゆ朝霧の中
 他囚の歌も夫々に良いのだが、扇畑先生が甚(いた)く気に入った様子で、非常に良いと頻りと誉めていた。吾が歌は、 減灯後布団に臥して仰ぎみる格子の先のきらめく銀河
と詠むも、全くくすんでしまう。矢張り感性を磨くには、数多くの歌を詠む事が肝要也。
 午后は、13時より入浴(10分間)が有り、入浴後は臨地に勤しむ。夕方は、相撲テレビ視聴「大相撲夏場所千秋楽」。夜は、NHK大河ドラマ「毛利元就」を視聴。

【今日の千秋楽で、曙が本割で貴乃花を破り相星決戦に持ち込み、その上優勝決定戦も制して13場所振りに賜盃を抱く(成績は12勝3敗)。優勝インタビューで、今の気持ちと聞かれて「感無量」と答えていた。怪我だけで無く、身の回りの事で苦しみ抜いた結果の優勝だけに、其の言葉には重みがあった。ハワイ出身の外国人横綱というが、日本人として一所懸命に生きる姿に、不図(ふと)己を顧みる。】

5月29日 (木) 快晴 

 本日の『讀賣新聞』朝刊・「編集手帳」欄に、大和田建樹作の「散歩の唱歌」(明治43年)について記されていた。特に明治という時代背景からか、其の内容には昔日の日本を見る思いだ…。
 愉快に今日は遊びたり/明日は学科を怠るな/身を健康になる事も/国にむくいんためなるぞ…
 現在の我が国は「病める国ニッポン」として凋落の一途を辿るばかりで、世界から信を問われている。21世紀のニッポンを背負いし若きサムライを育み陶冶する事が最急務也。

6月3日 (火) 曇りのち晴れ 黒船、浦賀に来航(1853) 

 先日29日、領置物品の総量が多いという事で会計課より指導を受け、昨日面会宅下げの願箋を提出する。亦、その件で午前10時頃に会計課の鳴海主任が手続を行う為、工場に迎えに来る。今回、12工では小生と栗屋さんの2人が該当。領置倉庫へ行き、既に読み了えた本や未決時から最近迄の信書・書道(通信教育)の教材及び作品と、不要物品の宅下げに同意する。
 只、何故此の様な呼び出しを受け、指導をされるのか主任に問うた所、今年の10月1日から法務大臣達示により「被収容者の領置物管理に関する規則」が施行され、全国の刑務所で領置物品の総量が一定量以内に制限するとなったらしい。今後、領置物品の多い者はどんどん指導をして行くが、今迄宅下げが出来なかった来信書や使用済みノート・書道の作品等も宅下げを認めると謂う。確かに荷物が片付く半面、長期受刑者(特に無期囚)で身寄りが居ない者は廃棄処分では、誰も納得しないであろう。

6月4日 (水) 雨 中国で天安門事件(1989) 

 夕方のラジオ放送で、九州と四国地方が梅雨入りしたと報ず。
 “梅雨・黴雨”という言葉は中国から伝わったもので、語源は「揚水江流域で梅の実が熟さる時期に降る雨」とも「じめじめして物に黴が生じやすいから」とも謂う。
 他にも「露」等の外に、黴で物が損なわれるから「潰ゆ」との説があり、“入梅”と書いて「つゆり、ついり」とも読む。夜は、夜間独居優良室テレビが有り「目撃!ドキュン」「X-ファイルⅢ」を視聴する。

【1879年の今日、東京の招魂社を靖國神社と改名する。名称の由来は、明治天皇が宣(の)せられ給うた「安國」の聖旨に基き「靖國」と名付けられる。】

6月5日 (木) 快晴 ミッドウェー海戦で日本惨敗(1942) 
 新選組・池田屋襲撃(1864) 

 4舎3階の布団乾燥を実施。亦、先月30日に若い二人が喧嘩を起こした件で、両名と同房の者が昨夕取調べに行った儘、入独となる。全く刑務所という塀に囲まれた小さな社会では、皆自分に都合良く、欲得で動く輩が多い。
 況してや自分では手を下さず、普段から若い衆の如く手懐けている者に空気を入れて飛ばすといった汚い輩も居る。此度の件もどうやら其の線で若い者が飛んだらしいが、両者共に3班のミシン工だったので作業は忙しくなり、同房の者も全員入独と、後味の悪い一件となってしまった。

6月11日 (水) 曇天 

 賞与金の教示が有り、1等工2割増+2割の7,799円也。
 罰明けで12工に下りて丸3年、漸く1等工に辿り着く。夜の余暇は「翔ぶが如く(五)」を心読。大久保利通が征台に於ける清国との談判で日本側に有利な調印をさせ、北京を発った明治7年11月1日の日記の一行に「…往事ヲ思、将来ヲ考、潜(ひそか)ニ心事ノ期スルアリ」と書いているのだが、大久保にとって征台という一つの問題が解決をしても、新国家建設という志がある以上、「潜ニ心事、期スルアリ」という文句が出て来るのだろう。
 今の小生も、大久保とは思考回路が全く異なるものの「……往事ヲ思、将来ヲ考、潜ニ心事ノ期スルアリ」という志に沿って、已むこと無く邁進するのみ。

6月12日 (木) 晴天 

 今日12日は、「宮城県沖地震」(昭和53年)が発生した日に因み「みやぎ県民防災の日」と条例で定められた。当所でも毎年、工場区に於いて「総合避難訓練」を実施。(13時~)
 小生も今回で5度目(平成4年は入病中にて欠)ということで、粛々と行う。併し、実際に大災害が起きた時は訓練の様にはいかぬと思うが、いつ何時なにが有るか分からぬ故、日々心構えだけは持って訓練と雖も真摯な態度で取り組まねば、畢竟、己が身に災が降り掛かって来る事となる。

一日を無事に過す事こそ最大の至福也    蛟龍

6月15日 (日) 晴天 

 起床後、「翔ぶが如く(五)」を読了。亦、「第41回宮城刑務所物故者慰霊祭・安全祈願及び大祓式」が執り行われ出席。(9時30分~11時迄 講堂) 
 式典は、
一、大祓式――祭主に合わせて「大祓詞」を全員で唱和し、拝礼。
二、安全祈願・物故者慰霊祭(祭主:坂本寿郎氏による玉串奉奠)
三、VTR視聴―日本の祭「梵天(ぼんてん)祭(秋田県横手市)
 神社本庁制作

【最後のVTR視聴を終えて感じたのは、「祭りの本義とは」-古来より神々に対して五穀豊穣を祈願し、その年の豊年を感謝するといった行事である。而して、日本人の社会を形成する要因は「和」に拠るもので、その小さい和の集合体として「大和」という国家を成すところにある。つまり祭りという催しに拠って人々の心が一つになり、皆が平等で無に帰することこそ祭りの意義なのではないか…。】

 午后は臨地(細字)に勤しみ、東北アララギ会発行の歌誌「群山 3月号」を耽読。
 夜のテレビは、NHK大河ドラマ「毛利元就」を視聴する。

6月18日 (水) 晴れ 沖縄ひめゆり部隊集団自決(1945) 

 10時35分からの運動は、順延となっていた「ソフトボール大会・決勝リーグ」対7工戦を行う。小生は予選からセンターで4番だが、ファーストで3番のI藤(極東会・秋田市)君が、昨日朝に仮釈放編入で上った為、セカンドのM(仙台市住人)君がファーストで3番に入り、空いたセカンドにW辺さんが就く。戦力的には可成り落ちたが、試合は3対1で辛勝する。 
 今日の成績は2打席とも四球を選び、一つが押し出しとなる。只、守備の方でセンターフライの目測を誤って3塁打にしてしまい、罰金もののお粗末さに猛省する。尚、久し振りに赤石茂のおじさんと会い挨拶をする。おじさんも変わらず元気そうだったが、目測ミスエラーという場面を御見せして恥ずかしい。次は準決勝で、相手は優勝候補筆頭の10工。総力戦で以て戦わねば必勝は期せず。夜は、夜間独居優良室優テレビにて「目撃ドキュン!」「X-ファイルⅢ」を視聴する。

6月23日 (月) 曇りのち晴れ 「沖縄戦慰霊の日」 

 昨晩のNHK大河ドラマ「毛利元就」―尼子経久死す―で、尼子経久(緒形拳)が毛利元就(中村橋之助)に向かい「計り事多きは勝ち、少なきは負ける」と云う件があり、今の混沌とした世にも当て嵌まる言葉であると思う。

【米国のデンバーで行われた「主要国首脳会議(G8)」の日程が終了。今回の“デンバーサミット”では、新たに露西亜の加盟が認められ、日露首脳会談では、「日露東京宣言」に於ける北方領土問題の進捗が見込まれるも、橋本・エリツィン会談は平行線の儘、互いに「日露東京宣言」を尊重するに留まる。而して、古の帝政露西亜からソ連、現在の露西亜へと国名及び国家体制は変ろうと、露西亜人の狡猾さは全く変わっておらず、日本国民は納得しない。日本の政治家よ、今こそ惰眠を貪らず、祖国の為に孜々と働かん。】

6月26日 (木) 小雨 

 アイロンのK和さん(住吉会住吉一家西海家早坂会)が、肝機能の数値が上がり入病となる。
 残念なのは、今迄12工のエースとして「ソフトボール大会」の予選から先の7工戦迄の3試合を投げ、K和さんの力で勝ち上がって来たといっていい。最後迄一緒に戦いたかったが、次の準決勝(対10工)は全員一丸となって必ずや勝利して、決勝でK和さんに投げさせたい。

6月29日 (日) 曇りのち晴れ 

 台風一過で抜ける様な青空が広がる。
 午前中は、「短歌会」が開催され出席する。(9時30分~11時教誨室)
 今月の詠草は、 穢れたるわが身祓ひぬ榊葉に祈りをこめる夏越の祓  と、先に執り行われた「大祓式」を詠む。亦、出席者全員に扇畑先生より作歌を行う心掛けとして、歌は作りっぱなしにすること無く、何度も推敲をして、誰にでも分かる様な歌にすることと教えを受ける。 
 午后はノート整理を行い、14時から「衝撃!香港割譲・サムライ時代のアヘン戦争情報もう一つの香港返還とは!」と題す、テレビ番組を15時25分迄視聴。夕方は読書を行い、「翔ぶが如く(六)」を読了。夜のテレビは、NHK大河ドラマ「毛利元就」を視聴。

【『日刊スポーツ』では、神戸で起きた「神戸小6男子殺害事件」の詳細が報じられ、何と犯人は14歳の中学3年生で、殺害された土師(はせ)淳君の兄と同じクラブの一年先輩だった。今の所の供述では、「相手が弱ければ誰でも良かった」と無差別殺人の様だが、矢張り病巣は、現状の教育行政に問題が在ると云える。特に昨今は全国的に弱者を狙った通り魔的犯罪が多く、倫理感の欠如が若い者の犯罪として反映しているのではないかと思う。】

(云い訳になるが、筆者も殺人罪で服役中である。確かにヤクザ同士の喧嘩と、今回の様な事件を一様に語ることは出来ない。併し、被害者側の遺族感情としては、事由の如何に係わらず身内の者が、突然生命を奪われたという事に変わりはない。逆に、罪を犯した側はその重き十字架を一生背負って生きて行くことになる。)

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