『1.26 川越市長選挙』 所感 | 行政調査新聞

『1.26 川越市長選挙』 所感

『1.26 川越市長選挙』 所感

 令和7年(2025年)1月26日(日)投開票の『川越市長選挙』(投票率:33.63%)では、無所属新人で元裁判官の森田初恵氏(42)が、何れも無所属新人で前埼玉県議会議員の山根史子氏(40)=自民・立憲・国民推薦、前川越市議会議員の樋口直喜氏(41)、前川越市議会議員の小野澤康弘氏(70)の3氏を破り、初当選を果たした。1922年の市制施行以来、女性市長が誕生したのは初めて。今回の市長選は、4期(16年)に亘って市長を務めた川合善明氏(74)の引退に伴い、16年ぶりに新しい川越市の市長を選ぶ選挙となった。

 本紙の所感だが、今回は「川合市政の継承か、否か」を争点とし、各候補が市長選に立候補した決意と政策方針を有権者に訴えるという選挙戦だった。それは、我々有権者側にも「川合市政16年の是非を問う」意味合いを含んでいた。因みに、前回実施された『川越市長選挙』(2021年1月24日)の投票率は22.05%と、過去のデータを調べる限り最低であった。

 前回より投票率が11%UPした要因は、16年振りに新人同士4人による選挙となり、混戦模様の選挙戦が有権者の興味を引き、誰がこの混戦を制して「新しい川越市の顔」になるのか…といった話題性も加わり、投票所に足を運ぶ有権者が増えた。1990年代初頭のバブル崩壊後、「失われた30年」といわれるが、今日に至るも一向に景気は回復せず、時代に即して物価は上昇。しかし、庶民所得は2001年(平成13年)以降、ほぼ横ばい状態である。最近の統計では、県内主要都市の中(うち)川越市の平均所得は最低(県全体で23位)で、新市長の市政運営に期待したい。ただ数字で検証すると分かるが、当日の有権者数は290,543人(男性=143,462人/女性=147,081人)。うち投票数が97,799人(男性=48,851人/女性=48,948人)で、全有権者数から投票数を引くと192,744人が投票には行かず、これは有権者の3分の2に当たり、今回の投票率をもって民意を得たという見解に疑問を呈する。無論、世界中どこを見廻しても投票率100%は、独裁国家でもありえない。

 昭和40年~50年頃は、国政選挙(衆参)の投票率は60~73%で推移していた。要因は「高度経済成長」(昭和30年~昭和48年)によって貧富格差が縮小。庶民は「1億総中流」意識を持ち、更なる豊かさを政治に求め、選挙で社会が変わるとの期待感が庶民を投票所へ向かわせた。だがバブル崩壊以降、政治離れが進み投票率は低迷。一概に当時との比較は出来ないが、何時の時代も庶民が政治に望むのは「豊かさ」であり、それは決して金銭に限らず、心の平穏や健康。

 老後の暮らしといった社会環境や福祉と多岐にわたる。投票率の低迷を懸念した政府は、平成28年に選挙権年齢を「満18歳以上」に引き下げるも、相変わらず投票所に行かない有権者が多い。投票しない(棄権)のも権利の行使という人もいる。各候補者が「川合市政の継承と改革」「市民派による既成政党の相乗り推薦打破」「硬直した川越市の財政再建」「身近な福祉の充実」等、必死に政策を訴えても、投票に行かない人は「選挙に関心がない」「誰に投票しても同じ」「投票に行ったところで何も変わらない」といった意見が大多数であろう。

 人口352,532人(2月1日現在)。中核市である川越市の財政難は極めて深刻で、市の公共工事の入札でも市外の業者落札率が高く、市の税収も含め予算の確保と公共事業の見直し、市の行政改革ほか問題は山積みだ。
 「水は高きより低きに流れる」―公益と私益は一体であることを市民も知るべきである。今回、元裁判官の森田氏が当選したことで、舟橋功一氏(弁護士)―川合善明氏(弁護士)―森田初恵氏(裁判官)と、3代続けて法曹界出身者が市長を務めることになる。

 古代中国の思想『韓非子』を紐解くと、所謂「法家思想」とは現実主義に立って、厳格な「法」の適用と信賞必罰の「術」を用いることで政(まつりごと)を為す。韓非は「刑名一致」(実体が名目と一致するように責め立てること)をその思想理念においた。確かに「無法の世」は人心が乱れ、悪辣盗賊の類が蔓延るのは必定。しかし、韓非がいう「法治の世」は厳格なる法によって治安が護られているように見えるが、個の心中に国家への忠誠心は皆無で、自己保身のみで世間を渡る奴輩が大手を振って歩く世になる。

 首長という立場になれば色々と柵(しがらみ)が増え、たとえ君子であっても豹変する様を、本紙は多々見てきた。混沌とした時代だからこそ「何が正で、何が邪か」を見極める眼力と、「清濁併せ吞む」度量が為政者(政治家)には必要不可欠である。全国自治体の首長でも、若くて頭脳明晰なる森田初恵川越市長が、如何に市政と行政に向き合い、どう取り組むのか、引き続きその動向に注視していきたい。

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