「節句」「節分」そして「暦」について | 行政調査新聞

「節句」「節分」そして「暦」について

「節句」「節分」そして「暦」について
伊上武夫

行事を行う節目の日

 2月に入ってすぐに節分、それが終わると店先は桃の節句関連商品が並びます。そしてその後には端午の節句が控えています。そもそも「節句」とは何でしょうか。またいつも節分は2月3日なのに、なぜ今年令和7年(2025年)の節分は2月2日なのでしょうか。なぜ日付を固定させないのでしょうか。
 今回は、節句、節分、そして暦にまつわる話を書いていきます。
 まず、「節句」の説明からはじめます。節句とは、伝統的な行事を行う節目の日を意味します。並べてみますとこのようになります。
 七草の節句:1月7日    桃の節句:3月3日    端午の節句:5月5日
 笹の節句(七夕):7月7日    菊の節句:9月9日

 1月から奇数月、それも月と日の数字が同じ日が節句になっています。七草の1月7日だけ月と日の数字が同じではありませんが、1月1日は元日という別格扱いなので仕方のないところ。面白いのは11月11日も何かあっていい気がするのですが、この日は外されています。たぶん、節句の数が6より5の方が、五大元素などの陰陽五行に当てはめやすいからかもしれません。
 この五節句、古代中国が発祥なのですが、江戸時代まで幕府の公的行事として行われていました。明治になってから廃止となりました。今では端午の節句だけが休日として残っています。

季節の分かれる日

 次に「節分」ですが、本来の意味は「季節の分かれる日」で、季節が始まる4つの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日の意味でした。正月の前日の大晦日みたいな形ですね。ですから昔は、節分は年に4回あったわけです。それがいつしか「立春の前日」だけを節分と呼ぶようになったわけです。
 ここで少し太陽の位置と季節の話をします。太陽が一番高くなる日が夏至、低くなる日は冬至です。夏至は太陽が出ている時間が一番長く、冬至は一番短い日です。太陽が移動する速度は変わらないので、夏に太陽が出ている時間が長いということは太陽が出てくる位置が真東より北寄りになっていることになります。反対に冬は太陽が出てくる位置が真東より南寄りになるわけです。

 太陽が昇る位置は、夏の北寄りと冬の南寄りの間を行き来することになります。となると、真東から太陽が昇る日が一年に二回あるわけです。これが春分の日と秋分の日です。こうして、「春分」「夏至」「秋分」「冬至」の4つの日が決まります。そしてこの4つ以外にも一年で季節の節目となる様々な日があります。
 季節が始まる日は、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」の4つがあると節句の説明の時に書きました。さらに「立春」から「立夏」の間に「春分」を含めて5つの季節の節目の日があります。

 「雨水」「啓蟄」「春分」「清明」「穀雨」の5つです。春という季節全体で見れば立春を含めて6つあることになります。これと同様に、他の季節も立夏・立秋・立冬を含めて6つずつの節目の日があります。一年365日が4つの季節に分かれ、さらに6つの節目の日があるわけです。これを「二十四節気」といい、古代中国で発明された季節の区分です。これが秦の始皇帝よりはるか昔に制定されていたらしいから中国は凄い。
 以下に、今年令和7年(2025年)の二十四節気の日を記していきます。

〈春〉
立春 2月3日  雨水 2月18日  啓蟄 3月5日  春分 3月20日  清明 4月4日  穀雨 4月20日

夏〉  
立夏 5月5日  小満 5月21日  芒種 6月5日  夏至 6月21日  小暑 7月7日  大暑 7月22日

〈秋〉
立秋 8月7日  処暑 8月23日  白露 9月7日  秋分 9月23日  寒露 10月8日  霜降 10月23日

〈冬〉  
立冬 11月7日  小雪 11月22日  大雪 12月7日  冬至 12月22日  小寒  1月5日  大寒  1月20日

 おおまかに15日おきに次の節目の日がくるのがわかると思います。15日かける24で360。ほぼ1年です。そしてこの日付は、実は微妙に移動するのです。

太陽の動き

 ここで、太陽の通り道である黄道を中心に考えてみます。一定の速度で走行している鉄道の窓から景色を見れば、景色の方が一定の速度で一方向に移動しています。線路沿いに立っている電信柱が600ヤードで立っている事を知っていれば、自分の脈拍を利用して鉄道の速度を計測するくらいホームズなら簡単にやってのけていました。

 とにかく、地球から見れば太陽や他の星々の方が一方向に一定速度で動いているわけで、季節やカレンダーはこれに基づいて制定されます。太陽が真南にくる時を南中、南中の時の太陽の地面からの高さを南中高度と言います。そして南中高度が一番高くなる日は「夏至」、一番低くなる日が「冬至」です。

 また、星々は北極星を中心に回っているように見えます。自分が立っている場所を中心として、自分の足元から北極星に右手を伸ばし、左手を90度横に曲げて伸ばし、右手を軸にして左手をぐるっと360度回したとします。左手の指先は空と大地を貫いて円を描きます。これを地球規模でやったのが天の赤道で、地球の赤道が天に延長された線と同一になります。

 そして、天の球体には天の赤道の他に黄道というもう1つの円があります。黄道は太陽の通り道です。と言ってもピンときませんよね。星座で考えましょう。
 たとえば、さそり座生まれの人は10月24日から11月22日の間が誕生日です。でもその日の夜空にさそり座は見えません。さそり座が夜空に輝くのは夏です。10月24日から11月22日の間というのは太陽がさそり座の中にいる期間です。
 これもまたピンとこないと思いますが、ちょっと考えてみてください。

 昼間、太陽がある場所の周りにも星々はあるはずなのです。ただ太陽の光が強すぎて地球からだと「昼間」になってしまうので、星々は見えません。太陽が月と同じくらいに明るさを落としたなら、空は暗くなり星座の星々の中に太陽がいる事、星々と同じ速度で東から西へ動いている事がわかるはずです。

 太陽と星々は同じ速度で天球を一周します。つまり1時間に15度、24時間で360度移動します。ところが太陽と星々には微妙にズレが生じます。だいたい1日に約1度弱移動します。それにより太陽は10月24日から11月22日まではさそり座の中を毎日約1度弱ずつ移動し、11月23日から12月21日までは射手座の中を毎日約1度弱移動していきます。正確には0.986度で、1年間で約360度移動することになります。この太陽が移動する道筋が黄道で、その黄道上にある星座が黄道十二宮、いわゆる十二星座です。

 太陽が星座(=黄道)を移動するように見えるのは地球から見ているからで、実際には地球が毎日0.986度、1年間で約360度太陽の周りを回っていることにより、近くの太陽と遠くの星々との見え方にズレが生じるのが原因です。
 太陽が真東から昇る春分の日は、天の赤道と黄道が交わる日でもあります。
 ここを起点の黄道0度とすると、夏至は90度、秋分は180度、冬至は270度になります。90度ずつ分けられ一周回って360度です。これが二十四節気にも当てはめられます。「春分」は0度ですから次の「清明」は15度、その次の「穀雨」は30度の時の日になります。

 また逆に、「春分」の前の「啓蟄」は360度(=0度)から15度引いた345度、その前の「雨水」はさらに15度引いて330度、その前の「春分」はさらに15度引いた315度になった日になります。このように、実際の天体の位置、動きに合わせて、季節の節目の日を決定するようになったわけです。

 しかし地球は太陽の周りを365日と6時間かけて回っています。このため閏年が設けられ、4年に1度1年を366日にして調整します。
 このズレの調整が立春や立秋にも当てはめられるようになりました。太陽や月、そして各惑星との引力も計算した上で、春分点や秋分点を通過する日を割り出し、各暦の日が決定されるように調整が入ることになったのです。

 そして、これは占星術も同じです。11月22日はその年によってさそり座だったり射手座だったりします。これもその年の太陽の位置がズレることにより変動します。占星術は古代バビロニアで、二十四節気は古代中国で生まれました。
 現代の感覚では「古いならわし」に見えますが、本来は正確な観測の蓄積による先端科学であり、それに基づいた暦の作成でした。ですので21世紀の現在ではなおさら、暦が先端技術による調整を続けていくのは当然のことと思います。

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