今後4年間、解散総選挙のない日本は激動、激変が続く世界情勢とどう向き合うのか | 行政調査新聞

今後4年間、解散総選挙のない日本は激動、激変が続く世界情勢とどう向き合うのか

12月14日の総選挙で自民党が解散前より4議席減らして291議席(追加公認の井上貴博を含む)、公明党が4議席増やして35議席を獲得。自公与党は安定多数とされる3分の2(317議席)を9議席も越える326議席を確保した。野党は民主党が10議席増の73、共産党が13議席増の21と議席を増やしたが、第三極を担うと期待された維新は1議席減の41、次世代は17議席を減らして2議席に転落した。「アベノミクス解散」と首相が名づけた今回の選挙の意味は、集団的自衛権の今後の対応とその先にある憲法改正を睨んでのものと本紙は推測した。総選挙の位置付けについて、本紙の観測は選挙後も変わらないが、世界情勢を見据えながら今後の安倍政権の方向性を考えてみたい。

来年の景気は上昇するか

自公与党が3分の2以上の議席を確保した翌日、12月15日の東京株式市場日経平均は前週終値より272円安、翌16日にはさらに344円下げて、1万7000円を割ってしまった。原油価格の下落により産油国とくにロシア、ベネズエラなどの経済不安が市場を覆ったためと解説されている。自公与党の圧勝は織り込み済みで、市場関係者はむしろ「思ったほど自民の議席が伸びなかった」と、選挙結果には冷ややかだった。日本国内の選挙結果より国際情勢のほうが市場株価に強く影響することが、ここからも理解できる。

東京市場はその後、18日に+390円で1万7000円台を回復、19日にはさらに+411円と復活している。来春には日経平均が2万円を越す可能性が高いと見る分析家も多い。日経平均の上昇は日本の景気が好転する兆しであり、安倍政権のアベノミクスは成功していると見做す評論もある。だが通貨の増刷で財政赤字を支え、バブルを引き起こそうとするやり方は、決して健全ではない。カネ持ちの投資家や大企業の資金が株価を押し上げるのは短期的なことで、1990年代初頭のバブル崩壊の記憶がある以上、適当なところで投資家たちが市場から逃げ出すことは確実だ。そうなれば一気に不況に転じてしまう。日本の国内消費は依然として低迷しており、庶民大衆が好景気を感じられる状態が来る気配はまったくない。

アベノミクスが成功するか、失敗に終わるかは、まだ判断できる状況にない。成功に向かっていると強気の発言をする評論家もいるし、失敗と断定し安倍政権を批判する声もある。どちらかというと批判する声のほうが多い。

今回の選挙では、アベノミクスの悪口が野党候補から噴出していたが、どの野党もアベノミクスに代わる経済政策を出していない(共産党だけは出していた)。世界的に知られる英国の『フィナンシャル・タイムズ』紙も「日本経済を改善する方法はアベノミクス以外にいくつもあるはずなのに、自民党はアベノミクスしかないと言い張ってウソをついている。共産党以外の野党が対抗策を打ち出さないのも奇妙だ」と書いていた。『フィナンシャル・タイムズ』紙の指摘通り、明らかに野党勢力は怠慢だった。怠慢な野党など存在意義はない。怠慢ではなく、財務省に楯突くことが怖かったから対抗策を出さなかったのだとしたら、もはや野党には何の期待もできない。

安倍政権がいう経済成長戦略が成功するか否かは、来春3月末から4月には明確になってくるだろう。その時点でアベノミクスが成功しない雰囲気が生まれてきたら、夏前には日本経済に分厚い暗雲が垂れこめる。

世界が日本1国しかなければ、安倍政権の経済成長戦略「アベノミクス」は意味があるだろう。だが、米国に追従しているだけの金融緩和政策であるなら、そう遅くはない時期に日本経済は破綻を迎える。米国が、そして欧米が、あるいはBRICSがどう動くのか。日本経済の分析には世界情勢を見据える必要がある。これについては後に説明しよう。

集団的自衛権行使に向けて

今年(平成26年)7月1日に安倍政権は「集団的自衛権行使容認」を閣議決定した。このとき国内には反対論も強く、与党公明党からも異論が出ていた。審議に時間をかけるべきだとの声に対し、安倍政権は「日米防衛協定のための指針(ガイドライン)を年内に再改訂することが決まっており、それに間に合わせるためには7月1日閣議決定が必要だった」としていた。
ところが12月19日に、日米両政府は「日米防衛協定のための指針(ガイドライン)改訂の最終報告は来年前半に延期する」と発表したのだ。

この発表により、7月1日閣議決定の根拠はもろくも崩れてしまった。総選挙後に日米両政府が延期を発表することは、かなり以前から決まっていたものだろう。12月14日の総選挙日程には、そうした意味もあったことが理解できる。

これに関連して江渡防衛相は「集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制の整備と、防衛協定ガイドライン改訂は、できるだけ一緒にしたい」と説明している(12月19日)。この発言の意味するところは、「日米防衛協定ガイドライン改訂と集団的自衛権行使関連の安保法制整備は、4月の統一地方選終了後の話になる」ということである。

いずれにしても集団的自衛権行使容認に関しては、江渡防衛相が語るとおり、「安全保障法制の整備」が必要だ。しかし法令制定には与党内でもかなり紛糾する可能性が高い。すでに本紙は11月末に「解散総選挙の最大目的は「集団的自衛権」運用にある!」という解説記事を掲載しているが、公明党内にはなお集団的自衛権行使に疑問を持つ勢力も存在している。統一地方選後には集団的自衛権行使のための法案がいくつか審議されることになるが、政権側と与党内公明党との折衝は注目すべきところだ。

公明党の一部は、安保関連法案に反対するだろう。このとき、与党を割って出る覚悟が公明党にあるか否かが問題である。公明党が与党を離脱すれば自民党単独291議席で法案を通さなければならない。この場合、いわゆる「一本釣り」で無所属議員や野党の誰かが自民に同調する動きを見せるように働きかけるはずだ。しかし公明党が与党を割って出る可能性は極めて低い。公明党が与党から外れれば、創価学会の宗教法人としての疑念がいくつも表立って噴出するだろうし、自民党の中からは池田大作名誉会長の証人尋問を要求してくる可能性が高い。不確定ではあるが、集団的自衛権行使に関する細則は、揉めに揉めながら最終的には政府案で収拾するだろう。

憲法改正論議に向けて

12月14日の総選挙で与党が大勝利を果たしたことにより、憲法改正に向けた論議が活発になると、マスコミ各社は予想している。中国でも人民日報系の『環球時報』は、「自民党の圧勝は安倍政権のより一層の憲法改正への加速を意味する」と分析。北京の『京華時報』も「安倍首相は選挙では経済政策を焦点にしたが、今後は重点政策を安保や憲法改正に移すだろう」と分析している。本紙もこれらの分析と同様に、安倍政権が憲法改正に向けて大きく動き出すと確信している。ただしその時期は、4月の統一選よりずっと以降のこと。集団的自衛権行使に向けての法整備が優先され、改憲論議はその後、おそらく夏以降になると考える。

安倍首相は今年(平成26年)7月のテレビ番組(長崎国際テレビ)で憲法九条の改正に意欲を示している。すでに一昨年(平成24年)4月に自民党は憲法改正案を提示しているが、そこでは憲法九条改正案は以下のようになっている。

第二章 安全保障(平和主義)

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。

5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

【参考】現行憲法第9条 第二章「戦争の放棄」
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

安倍政権は以前から「広く国民の理解を得つつ、『憲法改正案』の国会提出を目指し、憲法改正に積極的に取り組んでいく」ことを公言していた。7月のテレビ番組で安倍首相は、憲法九条の改正により自衛隊の存在と役割を明記するとしたうえで、「改憲の基本は九条にある」と断言している。

来年後半以降は間違いなく憲法論議が巻き起こる。
そのとき、安倍首相の改正の狙いである九条が話題の中心になることも、おそらく間違いない。
しかし、もし九条だけ、自衛隊を国軍と規定するか否かだけが議論されるのだったら、それはあまりにもお粗末、あまりにも上っ面だけの、底の浅い論議で終わってしまう。
国民の多くが納得するためには、深い論議が必要であり、そのためには国民一人ひとりが憲法と正対すべきである。憲法について学ぶことは国民の義務と考えていいだろう。

憲法論議の素材として、本紙の「別館」で、本紙社主・松本州弘によるブログ版『国家と憲法』が掲載されている。憲法に関しては各々さまざまな形で学習され、またご意見もお持ちと思われるが、ぜひブログ版『国家と憲法』をご一読願いたい。

『考察 国家と憲法』(松本州弘)ブログ版 ⇒「行政調査新聞・別館」
httpssssss://blog.livedoor.jp/gyouseinews/
※本文は全3章から構成されている論文です。現在掲載中の本論外の補講も近々公表の予定。ぜひお立ち寄りください。

未曾有の金融危機が迫る

アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3本の矢から成り立つと、安倍首相は説明する。金融政策、財政政策は首相のいうとおり粛々と実現に向かっているが、最後の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」は未だ実像が見えてこない。そもそもすべての政策は国際情勢によって大きく変化するものであり、とくにアベノミクスでは米国の経済情勢を注視することが重要である。

米国では雇用統計や失業率、消費者物価指数などが米政府により粉飾されている。中国でも同様な操作は行われているが、この作為的粉飾を忘れてはならない。米国の実体経済は改善されていない。改善どころか、ますます悪化の一途をたどっている。為替や金利すら、政府当局と金融界が談合して動かしている状態にある。

米国では一時、「シェールガス革命」が叫ばれたことがあった。シェールガスがエネルギー状況を激変させるというので、あちこちにシェール井が掘られ、稼働を開始した。「シェールガス革命」の言葉に踊り、「シェールガス・バブル」が巻き起こった。この状況下、資金調達のために、担保が少量で利回りの良いコブライト債権が多用されている。しかしコブライト債権は以前のサブプライムローンと酷似したもので、シェールガス革命が成功しない場合には、リーマンショックを越える大金融危機を誘発する可能性がある。

そしていま、世界的な原油安が米国シェールガス業界に襲いかかっている。

原油価格はいま1バレル60ドルほどに下がっている。じっさいにはサウジなどOPEC諸国はこれより安く原油を売っており、1バレル50ドルを切り、さらに40ドルを切る日が間もなくやってくるだろう。

「サウジは非伝統的な石油産出勢力が潰れるまで原油安を続ける。彼らが潰れたら、サウジは原油安をやめて元の価格に戻す」(「ブルームバーグ通信」)という情報があるが、これは正しい観測だ。ここでいう「非伝統的な石油産出勢力」とは米国のシェールガスを指す。つまり、わかりやすくいえば、サウジだけではなくイラク、イラン、クウェートさらにはロシアまでが結託して米国のシェールガス業界を潰しにかかっているのだ。

もちろん原油安は産油国にとっても痛手となっている。とくにウクライナ問題で経済制裁を受けているロシア経済は非常に厳しい情勢に追い込まれている。普通に考えればプーチンはサウジを非難するはずなのに、そうはせず、先物売りを仕掛けてルーブルの下落を誘導する米欧に激しい怒りをぶつけている。ロシアとしては、この苦境を乗り越えれば米経済が潰れることは間違いないと確信している。
いっぽう米国は、シェールガス業界救済のために大手石油会社を合併させて体力をつけさせるとか、あるいはQE(金融緩和)を再開するとか、何らかの手を打ってくる可能性もある。そうなると株式市場は高騰し、産油国は青息吐息状態に陥る。米ロの経済戦争が長引けば、世界の金融市場はますます不透明なものになるだろう。

原油価格を巡って、いま、世界を舞台にした金融戦争が始まったところだ。この金融戦争はどちらに転んでも日本にとってはありがたい話ではない。

激動、激変が続く国際情勢

金融市場の状況を一見しただけで、世界がいま、不安定極まりない状況にあることが理解できる。この金融戦争状況を横目に見ながら、中東やウクライナだけではなく、世界全域で危ない興奮状態が続いている。米国の産軍複合体に見られるように、軍事衝突を絶好のカネ儲けの機会と考えている勢力もある。こうした勢力がイスラム過激派を支援したり少数民族自立運動を支援する。最近50年間で最も危ない状態に全世界が置かれている。

こうした状況を百も承知で安倍政権は総選挙を実施した。そして選挙が終わったいま、永田町界隈では「今回の衆院は任期満了まで解散はない」という見方が圧倒的だ。平成30年(2018年)年末まで安定多数の与党で政局を運営する――それは明確にいうなら、集団的自衛権行使に関わる安保細則から憲法改正まで、世論が騒ごうが支持率が落ち込もうが、今回の政権でこれを乗り切る覚悟だということだ。

改めていうまでもない。安定多数を獲得した政権与党が、向こう4年間の政治に自信を持ち責任を以て運営にあたるのは当然のことである。集団的自衛権にしても憲法改正にしても、安倍首相がずっといい続けてきたもので、この姿勢を貫くことで世論が騒ぐことはないし、支持率が急落することも考えにくい。向こう4年間、この政権を維持する安倍首相の覚悟は、そんな当然のところにあるのではない。

いま世界は稀にみる混乱期に差しかかっている。噂される金融ハルマゲドンが勃発する可能性は高いうえ、テロ、紛争、地域戦争は、いつどこで起きてもおかしくはない。朝鮮半島有事も考えられるし、隣国と思いがけない突発事件が発生するかもしれない。そうした緊急事態に備える政権と考えるべきだろう。

さらに自然災害の問題もある。ご存じのとおり現在太陽は活動期にあり、地球も活発な運動を展開している。大地震、火山噴火は、世界のどこで起きてもおかしくない。

ここから先の4年間の日本を、日本人は安倍政権に委ねたのだ。日本の未来のために死力を尽くしていただこうではないか。