汚染水処理は日本の技術で行え! | 行政調査新聞

汚染水処理は日本の技術で行え!

米国押し付け路線からの脱却が急務

311東北大震災から2年半余が過ぎ、被災地の人々も多くは日常を取り戻しつつある。しかし福島原発周辺は、いまだ事故の後遺症を引きずり、多くの人が故郷に戻れない状態が続いている。事故後の原発は現在、コントロールされている状況にあると安倍首相は明言したが、除染、汚染水処理問題は日本人の深い傷となっている。この問題を何としても早急に片づけなければ、日本に未来はない。

福島はコントロールされているのか 

9月14日に国産新型ロケット「イプシロン」が打ち上げられ、日本中が沸いた。米国の技術に頼る液体燃料ロケットとは異なり、固体燃料ロケットは日本独自の技術。低コストで効率的なロケットの打ち上げ成功は日本の技術力を内外に強くアピールした。

イプシロンの技術は高く評価されたが、いっぽうで福島原発の汚染水問題は日本の評判を下げ続けている。2020年のオリンピック・パラリンピック東京招致を決めたIOC総会で安倍首相は「状況はコントロールされている」と胸を張り、また汚染水に関するIOC委員からの質問には、「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」と答えたが、これには日本国内の多くが首を傾げた。オリンピック招致のために首相は嘘をついているのでは――国民の多くがそんな疑念を抱いたに違いない。

案の定というか、IOC安倍発言から1週間後の9月14日に、東電は「タンク北側20メートルの観測用井戸で13日に採取した地下水から、トリチウムを1リットル当たり15万ベクレル検出した」と発表した。8日採取分と比べると濃度は5日間で36倍上昇。地下水のトリチウム濃度は日を追うごとに高まっていて、とてもではないが「状況はコントロールされている」とは考えられない。

じつはこの前日の13日に東電幹部の山下フェローが「今の状態は、申し訳ありません。コントロールできていないとわれわれは考えております」と、安倍首相とは食い違う発言をしている。しかし直後に菅官房長官が「放射性物質の影響は発電所の港湾内にとどまっていると認識している」と述べ、安倍首相の発言に誤りはないと強弁。官邸の強い発言を受けて、東電側は13日夕方になって改めて釈明。「汚染水の港湾内への流出や敷地内の貯水タンクからの漏えいなど、トラブルが発生しているという認識について言及したものであります」と述べ、安倍首相の発言と東電の認識に、違いはないと説明した。

いったい本当のところは、どうなのか。

マスコミの一部には「放射能の総計は2京7000兆ベクレルという天文学的な数値で、さらに漏れ出ないか心配」「緊急事態宣言を」(8月23日「東京新聞」)といった報道も見られる。この2京7000兆ベクレルという数字が事実なら、広島原爆の1100倍という莫大な数値で、人類の手には負えないレベル。もはや絶望的と考えた方がいい。米CNNも「非常に深刻」と報道。海外メディアの中には「福島は解決不能」といった表現も見られる。ネット上にはさらに衝撃的な数値が並べられることもあり、なかには「日本を捨てて海外に脱出するしかない」という主張もある。安倍首相がアジアや中東を歴訪した理由の一つは、脱出する日本人のための海外拠点探しにあったなどという話も飛び出している。かつて映画にもなった『日本沈没』(小松左京)が現実化するという話で、暗澹たる気分になってしまう。現実はいったいどうなのだろうか。

昨年(2012年)12月に福島原発の港で捕獲されたムラソイという魚は、放射性セシウム濃度が25万ベクレル(基準の2540倍=東電発表)という、人が食べたらすぐにでも死ぬ可能性があるような値だった。

自然環境調査の専門家集団、ASRは綿密な科学データに基づいた地図とシミュレーション動画を発表。日本列島から太平洋に汚染海域がどんどん広がっている状況を世界に発信している。

またグリーンピース・ジャパンなどもスーパーなどで抜き打ち検査を行い、魚介類の放射線量を公表したことがある。それによると「不検出」から最大「47.3ベクレル/kg」だった。こうした状況を受けてのものだろうか、韓国は今年(2013年)10月9日から太平洋側の8県(青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉・栃木・群馬)からの水産物輸入を規制すると発表している。海に面していない栃木や群馬の魚を規制するとは何だと、つい首を傾げてしまうが、福島に近い地域だから、湖沼の魚類も規制するということだろう。

東電発表の線量は「大本営発表」

放射線量に関してはネット上に山ほどデータが出ているので、すでに興味深い数値を入手されている方もいらっしゃるだろう。そうした数値のことはともかく、安倍首相のIOC発言以降の東電発表が、どこかおかしいと感じられた方もいるのではないだろうか。

これまで、「政府と東電がグルになって国民を騙している」という噂が強かった。多くの方々がこれに近い認識を持っていたのではないだろうか。そうした中、オリンピック・パラリンピック招致のために、安倍首相は「状況はコントロールされている」と大見栄を切った。首相がこう大見栄を切った以上、東電は「コントロールされている(嘘の)数値」を発表し続けるはずだ。それが、そうではなかった。政府と東電は、ピタリと密着しているわけではない。13日の山下フェローの「コントロールできていない」発言に菅官房長官が怒りを露わにしたことからも、政府と東電が一体化していないことが理解できる。

誤解されている方もいるだろうが、福島原発周辺の放射能線量に関しては、東電以外の発表はない。

東電以外に、たとえば東芝とか日立などが線量を計測しているだろうが、そうした数値は微塵も表には出てこない。発表はすべて東電発表の数値である。推測データが流されている場合もあるが、それは単なる推測。「近くまで出向いて極秘に計測した」とか、「緻密で完璧な計算からはじき出された」などというオバケ数字がネット上に流されることはあるが、それはあくまでも無責任な推測であり、信用できるものではない。

福島原発関連の放射線量は東電だけが数値を公表している。公表された数値は、大本営発表数値だ。もし東電が本気で嘘をついていれば、それを見破ることは至難の業だ。その東電が安倍首相の「コントロールされている」発言を、いったんは否定するコメントを発表した。これは政府と東電の間に不協和音があるということに他ならない。

すべては米国のため

原発開発と、原発の日本導入の経緯をひもといていくと、果てしのない物語になってしまう。誤解を覚悟で、思い切り簡単にこの経緯を述べておこう。

第二次大戦後の1950年代初頭、米国では原発開発競争が行われていた。その中心は、米国最大の重電機メーカーGE社と、米海軍と親しい関係にある総合電機メーカー・ウエスティングハウス社だった。結果としてウエスティングハウス社が勝利し、GE社は採用が見送られた。しかし莫大な開発研究費用を取り戻したいGE社は、出来損ないの原発を日本に売ろうと考えた。

もともとエネルギー不足に悩む日本には、原発を開発したいという意欲があった。

原子力委員に就任していた湯川秀樹博士は、昭和31年当時、日本の原発に関し、「すべて国産」を主張していた。いちばん初めの基礎部分から国産でやらなければ将来性もないし、危険だというのだ。

そしてこの当時、日本国内には密かに日本完全独立の強い意志が存在した。対ソ、対中という共産圏諸国を相手に、将来的には核武装も必要だとする認識があった。だからこそ、原発開発は自力で行うべきだとの主張があった。しかし米国にとって、日本が独自に核開発を行うことは絶対に許容できなかった。

日本の経済界もまた、ゼロから費用のかかる研究開発より、費用対効果の意味から米国製原発導入を求めた。さまざまな思いが交錯した末に、米CIAエージェントだった正力松太郎(コード名=ポダム)の活躍でGE社の原発が導入されることになった。こうして米国で採用されなかった出来損ないのGE社製原発の日本導入が決定した。この時点で日本が米国に隷属する形が決まった。

311大震災が人工地震であるとか、意図的に福島原発が狙われたなどという物語がある。一部には頷ける主張もあるので、これを言下にSF的空想作り話と退けたりはしない。しかし、311巨大地震が人工か天災かの議論は別として、福島原発の事故は起こるべくして起きた必然だった。地震も津波も想定していない、出来損ない原発だったのだから。

311大震災でメルトダウンし、放射能をまき散らす原発を何とかしなければならない。

そこで、ストロンチウムとセシウムについてはゼオライト(沸石)という鉱物を使っての濾過が考案され、トリチウムに関しては汚染水をタンクに閉じ込める手法を採ることになった。ゼオライトは米国からの輸入に頼り、汚染水タンクは国産だが大元は米国製。極言すれば、福島の汚染水対策はすべて米国産業界の景気に役だったわけだ。それは今も米国を潤している。

ちなみにストロンチウムとセシウムについては、サンド濾過法が効果的だと早くからいわれていたし、他にもさまざまな除去法が考えられる。また日立は、吸着剤を使ってストロンチウムとセシウムを99%以上除去するシステムを開発し公表しているが、いまなおゼオライトに頼っている。トリチウムに関しては、希釈すれば(薄めれば)海に流せないわけではない。事故前には日本の原発は年間400兆ベクレルのトリチウムを海に流していたし、現在でも米国は年間1500兆ベクレルのトリチウムを海洋放出している。また、9月16日にも、放射性物質を外部に出さないために設置したせきの水位が、台風18号の影響で上昇したため、東電は排水を行っている。おそらく東電も経産省も、最終的にはトリチウム汚染水を海に放出するつもりなのだろう。

こうして眺めてみると、日本の原発は開発、導入当初から「米国のために」作られたものだった。そして事故後も「米国のために」処理が続けられている。この枠組みを作ったのは自民党でも民主党でもない。官庁と東電である。そもそも日本の政府とは、官僚たちにとっての飾り物であり、日本を動かしているのは官僚だ。この認識を全国民が持つべきだと思う。 

日本復活への序章

トリチウムに関して、希釈して海に流せばいいかのように書いたが、いくら薄めても海に流していいものではない。トリチウムは自然界に普通に100京ベクレルほど存在するものだが、だからといって安全だというものではない。とくにストロンチウムやセシウム等の放射線が重なると、免疫機能を奪い、心臓病や発ガンといったリスクを増大させる。だがこれまで各国がトリチウムを垂れ流してきたことも事実。トリチウムは分離、除去が不可能といわれているが、最近になっていくつかの除去法が考えられている。ストロンチウム、セシウムに関しては前述のように日立の吸着剤システムによる除去法が公表されているし、東芝は米国ショーグループの機器による汚染水処理システムに取り組んでいる。

除去法や処理システムは極めて専門的な分野なので、これ以上は立ち入らない。理解していただきたいのは、311大震災後2年半余も過ぎているのに、どう考えても政府はこれまで、放射能除去、除染に本気になっていなかった。東電からの情報が正確に伝わらないのか、それとも経産省、原子力安全保安院あたりで情報がストップしていたのかは不明だが、政府は除去、除染に本腰を入れてこなかった。

政府は放射能線量に対して、高を括っている様子がありありと見える。外野がやかましいが、放射線量はまだ大丈夫だという安心感をずっと持ち続けていた。

東京が五輪開催地として名乗りをあげ続け、対抗する候補地が東京の弱点として福島原発汚染問題を突きつけるという事態が起きた。これに対して安倍首相はIOC総会で「状況はコントロールされている」と発言し、それは世界を駆け巡った。こう見栄を切った以上、政府は責任をもって福島原発汚染水対策をやるべきだし、福島復興に本気になる必然が生まれた。安倍首相の面子を潰すななどといっているのではない。安倍の面子など、どうでもいいことだ。世界が不可能と思っている福島を完全復興させることができれば、日本の技術力は世界を驚嘆させるだろう。

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