亡国に向かう韓国、建国に向かう台湾 | 行政調査新聞

亡国に向かう韓国、建国に向かう台湾

藤 井 厳 喜 (国際政治学者)

3月10日、韓国の憲法裁判所は、朴槿恵大統領の弾劾を決定した。大局的に見ると、韓国は確実に亡国の道を歩み始めたようである。北朝鮮と韓国との関係を見ると、北朝鮮の方が圧倒的に有利な立場にある。
韓国における朴槿恵大統領弾劾運動の背後に控えているのは、親北朝鮮の勢力である。背後に控えているというよりは、大統領弾劾運動の先頭に立ち、その中心となって進めてきたのが、親北朝鮮の政治勢力であったといえるだろう。日本のマスコミはそのことをハッキリと指摘しないが、韓国における所謂「革新勢力」とは即ち、親北朝鮮の政治勢力であり、彼らが反大統領の国民運動をここまで盛り上げてきたのである。韓国の大統領選挙は5月9日になりそうだが、この大統領選挙でトップを走っているのが文在寅氏であり、彼は「共に民主党」の元党代表である。文在寅氏は、自殺した廬武鉉元大統領の側近であった。彼の親北朝鮮の政治姿勢は、彼の師である廬武鉉元大統領の政策を継承するものである。
ハッキリ言えば、彼は韓国と北朝鮮との統一を志向している。しかもその統一は、北朝鮮側が提唱する「高麗民主連邦構想」にのるものである。廬武鉉、文在寅の路線は、反米であり、北朝鮮にこそ真の朝鮮ナショナリズムがあると考える路線である。つまり、大韓民国というものは、所詮、アメリカの作ったものであり、彼らは北朝鮮にこそ真の朝鮮のナショナリズムがあると考えているのだ。

THAADミサイルで分裂する韓国

ここ数年来、米韓関係で大きな頭痛の種となってきたのが、THAADミサイルの配備問題である。チャイナはこのTHAADミサイルはチャイナのもつミサイルに対するアメリカの防衛網の最前線をなすものであると考えている。韓国がTHAADミサイルを配備するとは、即ち、韓国が反チャイナの立場に立つものであるとするのが、中国共産党の考え方である。
朴槿恵政権は、親米路線と親中路線を同時に歩んできた。米中関係が良好だった時代はそれでよかったのだが、オバマ政権末期から米中が対立状況に入るに至って、朴槿恵大統領の外交路線は完全に分裂状態に陥ってしまった。米中のまた裂きにあったのである。つまり、アメリカ側につくのか、チャイナ側につくのか、米中の両大国からハッキリしろと迫られることになったのだ。
この問題を最も先鋭化したのがTHAADミサイル配備問題であった。THAADを配備すればアメリカ側につくことになる。THAADミサイルを拒否すればチャイナ側につくことになる。
もとより韓国とアメリカの間には、米韓軍事同盟が存在する。これを優先させればTHAADミサイルを配備せざるを得ない。しかし朴槿恵政権になってから、韓国財界はなだれをうってチャイナ市場に参入した。今や、韓国の最大の輸出市場はチャイナであり、最早、アメリカではないのだ。チャイナにそっぽを向かれてしまえば韓国経済は崩壊してしまう。
事実、昨年秋にTHAADミサイルの導入を決定してから、チャイナの韓国に対する経済制裁が徐々に発動されてきた。3月6日に在韓米軍がTHAADミサイルの配備を開始した。これを見て、チャイナは韓国製品不買運動を即座に開始した。又、チャイナから韓国への観光客の足も一斉にストップしてしまった。2016年、韓国を訪れた外国人観光客の数は、1700万人であったが、この内800万人はチャイナからの韓国客であった。これが一斉にストップしたのである。

次期大統領は、北朝鮮との統一の道を選ぶ

チャイナからの経済制裁に遭って、韓国経済は悲鳴を上げている。5月9日に選ばれる次期大統領は、例え文在寅氏でなくとも、間違いなく親北朝鮮で親チャイナの大統領であろう。彼はTHAADミサイルの配備を撤回するに違いない。韓国は確実に北朝鮮との統一の道に歩み出すだろう。最早、半島の国家は、2000年来の伝統的なポジションに戻ってゆかざるを得ないのだ。
半島の国家は、海洋国家になることは出来ず、大陸の中心に発生する大国の属国としての運命を甘受してゆくしかない。これはイデオロギーを超えた地政学上の必然であろう。北朝鮮とチャイナの文明圏に、韓国は吸収され、溶解してゆくのであろう。

独立国家の道を歩み始めた台湾

台湾の蔡英文政権は、韓国とは対照的な道を歩み始めている。前・馬英九政権の時は、台湾は大陸との統一の道を歩むかに見えた。しかし、台湾で「ひまわり学生運動」なるものがおきて、台湾独自のアイデンティティの覚醒が一挙に進んだ。台湾人は台湾人であり、チャイニーズではないという自覚をもった人々が増えたのである。
国民党による数十年の教育は功を奏さなかったようである。そもそも台湾人の大部分は、原住民として存在したマレー系、ポリネシア系の人々と、大陸から渡ってきた人々の混血によって成立している。第二次大戦後、大陸の内戦に敗れた蒋介石・国民党の人々が台湾に渡ってきて、統治者階級となった。しかし、彼らと元々の台湾人の間には大きな文化的落差が存在したようだ。それは遺伝子レベルのものであると同時に、50年の日本統治が生み出した文化的落差でもあった。
台湾は、冷戦時代、強いアメリカの影響下にあった。それは韓国も同じである。しかし、日本文明の影響力とアメリカ流のデモクラシーは、台湾の土地の上に見事に花を咲かせつつある。台湾は、明確に海洋国家としての道を歩み始めている。そして、近代的な民主国家としての道を選択しつつある。
3月14日、台湾の検察当局は、機密漏洩などの罪で馬英九・前総統を起訴した。起訴された前総統は馬氏だけでないものの、このニュースは流石に驚きをもって台湾人に受け止められている。台湾が馬英九・前総統の国民党路線と明確に異なった独立の道を歩み始めた何よりの証拠であろう。
韓国は、チャイナからの政治的圧力のもとで、北朝鮮との統一の道を歩み始めている。即ち、大陸勢力への復帰である。
台湾は、大陸との統一の道を選ばず、海洋国家としての道を選択した。海洋勢力である日本やアメリカ、そして東南アジアの海洋国家と連携し、連帯する道を歩み始めたようである。即ち、大陸に成立している中国共産党政権とは、明確に一線を画し、独立した民主国家を志向する路線である。
米ソ冷戦時代、台湾と韓国の立場は極めて類似したものであった。しかし米ソ冷戦が終わり、四半世紀経った今、両国は完全に違った道を歩み始めたのである。それは、民主政治か独裁政治かという視野から考えることもできる。しかし、地政学的に言えば、大陸国家と海洋国家の対立という観点からいうと、この2国の異なった運命は、より明確な差異となって理解できるだろう。要は、南朝鮮に存在する韓国は、大陸国家としての道に復帰し、島国である台湾は海洋国家としての道を選択したのである。これは、そこに居住する人々の文明の問題であると同時に、地政学的なポジショニングが決定する必然でもあるだろう。
偶然ではあるが、台湾の総統も、3月10日まで韓国の大統領を務めていた人物も共に女性である。しかしこれら2つの国家は全く違った、そして実に対照的な道を歩み始めたのである。

日本が残した遺伝子はどうなったか

朝鮮半島も台湾も、かつて大日本帝国が統治した土地である。日本はその両方で、ほぼ同じような統治を行なった。台湾は50年、朝鮮半島は36年であったが、大日本帝国はどちらかと言えば、朝鮮半島の方を優遇した節がある。というのは、台湾は全くの未開の地であったが、朝鮮半島には王朝が存在し、この李王朝の末裔を、日本は厚遇したのである。両方の土地において日本は、民生の充実を図り、教育を普及し、近代化の基礎を作った。欧米の植民地統治とは全く逆で、近代化のインフラ投資に熱心であった。寧ろ、日本本土よりも力を入れて思い切った近代化のインフラ投資をしたといっても過言ではないだろう。
その結果はどうなったのだろうか。一時期、韓国では日本の残した遺伝子は見事に花開いたかのように見えた。朴正熙大統領のもとで韓国は高度成長を成し遂げ、産業的には日本のライバルになる企業群も出現した。
しかし、韓国における反日思想は強烈で、遂に両国に真の友好が育つことはなかった。経済も一時的には繁栄したが、財閥経済は極端な貧富の差を生み、遂に今やチャイナ経済に吸収されつつある。まさに一時の夢の繁栄であった。
一方、台湾に残した日本文明の種は、見事にすくすくと育っている。民主化は着実に進んでおり、何よりも台湾は世界一の親日国と呼ばれている。やはり海洋国家としての国民の同質性というものが最も大きな要素であったのだろう。
単純化していえば、日本が蒔いた種は、台湾ではすくすくと芽を出して立派に育ったが、大陸・半島の土壌には合わず、韓国では芽を出したかのように見えたが、若木の内に枯れて死んでしまった。今や南北朝鮮の共通した唯一の傾向は、反日思想なのではないだろうか。
日本の50年の統治を見事に生かし切って、それにアメリカ流のデモクラシーや合理主義を加味して、台湾は独自の近代国家として成長しつつある。
今、この両国は見事に、明暗を分けている。改めて、地政学という学問について、思いを致すべき時である。我田引水のようで恐縮だが、筆者には『最強兵器としての地政学』(ハート出版)という著作がある。地政学は文明論でもあるというのが、著者の見解である。是非、ご一読いただければ幸甚である。
ちなみに、シンガポールはこれは間違いなくチャイニーズの都市国家であるが、独特の文化をもつ金融都市として発展している。それは香港とも上海とも違う、一つのチャイニーズの文明の可能性を示しているように思える。これもまたシンガポールという街のもつ、地政学的な位置から、その発展形態を考えることが出来るだろう。