東アジアの枠組みを激変させる北の核ミサイル発射実験! | 行政調査新聞

東アジアの枠組みを激変させる北の核ミサイル発射実験!

――日本が核武装する日――

 今年(2016年)1月6日に北朝鮮は4度目となる核実験を行った。「地球観測衛星」という名目で長距離弾道ミサイルの発射実験を行うと通告しており、早ければ今日明日にでも発射実験が行われるかもしれない。国際世論に逆らう暴挙は、北朝鮮のますますの孤立化を招くと思われる。だがいっぽうでは、北朝鮮の「綱渡り外交」が着々と成果をあげているとの分析もある。この先、北朝鮮がさらに暴れ出せば、東アジアは激変する。それが禁断の「日本核武装論」に火をつける可能性がある。

「休戦協定」により休戦中の朝鮮戦争

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は国土面積約12万平方キロで日本の3分の1。ここに日本の5分の1以下の2450万人の人々が住む。建国は1948年(昭和23年)9月9日。(日本の敗戦後約3年間はソ連が占領していた。)

 建国2年後の1950年6月25日未明、北朝鮮軍は国境線を突破して大韓民国に侵攻。朝鮮戦争が勃発した。この戦争は「米軍・韓国軍を中心とする国連軍」と「北朝鮮・中国軍(ソ連が物資支援)」との戦争で、朝鮮半島全域が戦場となった。開戦1年後には38度線を挟んで膠着状態となり休戦が模索され始めた。1952年1月には実質的休戦となり、1953年7月に「休戦協定」が締結された。戦死者数は不明だが、一般的に双方の兵戦死者100万人以上、民間人犠牲者も100万人以上200万人に近いとされる。

 国連軍と北朝鮮、中国軍との間に交わされたのは「休戦協定」である。「停戦協定」ではない。協定に明白な違反があれば、通告不要で直ちに攻撃が可能となる。違反はすぐに出現した。協定では、両軍は「新たな武器兵器」を導入しないことになっていたが、米軍の説明によると北朝鮮がこれを破って新規の武器兵器を導入したという。これに対抗して米国は1957年に休戦協定の一部を一方的に破棄すると通告。1958年1月には核武装したロケット弾オネスト・ジョンを韓国に配備した。米軍はその後、ソ連や中国を射程に収める核弾頭ミサイルを配備している。

 当初、北朝鮮はこれに対抗して地下要塞の建設を進め、米軍による核攻撃の被害を最小限にとどめようと努めた。その後北朝鮮は、米韓軍事演習を「北朝鮮への侵攻を企図する大規模軍事演習」と断定し、「もはや休戦協定は機能していない」、「失効している」と主張。1994年以降2013年までの間に何度も「北朝鮮は休戦協定に束縛されない」と宣言している。
 北朝鮮は米韓連合軍(国連軍)の攻撃を非常に恐れている。
 「休戦協定」を破棄し、新たに「停戦協定」を結びたい。それが北朝鮮の本音である。「停戦協定」を結ぶためには、戦力対戦力、武力対武力で互角でなければ対等の条約を結べない。その怖れを北朝鮮は感じている。

北朝鮮の核は世界一流

 昨年(2015年)6月に米国大統領補佐官・国家安全保障担当のスーザン・ライスが極秘裏に韓国を訪問し、韓国軍と協議を行っている。その直後、米国DIA(国防情報局)が以下の情報を発信した。
 「北朝鮮の核は非常に高度で、北朝鮮が韓国に対し軍事行動を起こす『根拠ある判断』を所有している」
 米国の統合参謀本部偵察作戦を担当する部署の情報である。じつに衝撃的で、一般常識を覆す内容である。
 「北朝鮮の核は非常に高度」とはどういう意味か。そして「韓国に対し軍事行動を起こす根拠ある判断」とは何を意味するのか。

 大多数の国民が飢え、エネルギー不足、電力不足、灯油すら満足に求められず、科学技術も劣る最貧国が「高度な核技術」など持てる訳がない。これが多くの日本人の本音であり、世界中もそう考えていると勝手に推測している。しかし現実はそうではない。米DIAの分析によると、北朝鮮の核開発物資、開発作業員はソ連崩壊(1991年12月)直後にウクライナから持ち込まれたという。旧ソ連は米国と肩を並べる核大国だったが、ソ連の核兵器はウクライナで生産され貯蔵されていた。ウクライナはソ連の核開発、核技術の本拠地だった。それがソ連崩壊と同時に北朝鮮に流れたのだ。
 さらに北朝鮮にはヨーロッパの最先端核技術が導入されている。
 北朝鮮は現在世界の160カ国と国交を樹立しており、豊富な地下資源を輸出している。「貧困な北朝鮮」とは日本のマスコミが作ったイメージで、鉄鉱石、無煙炭、マグネサイトなどの輸出でかなり潤っているのだ。EU諸国では、アイスランドとフランス2国以外とは国交を持ち、イギリス、ドイツとの関係が深く、英・独とも平壌に大使館を置いている。ドイツは北朝鮮の羅先経済特区支援のために1兆9000億円投入を決定したばかり。第二次大戦以前から北朝鮮の医薬品、医療器具はドイツ製のものが使われ、両国の親密な関係が理解できる。そして北朝鮮の最先端核開発にはイギリスとドイツの科学者が深く入り込んでいる。

「核抑止論」から「実戦核兵器」へ

 これまで核兵器は「使用されない兵器」と考えられてきた。対立する国が核兵器を使用すれば相手も報復攻撃を行い、両者が国土、国民すべてを失う大ダメージを受けるばかりか、全世界が放射能汚染され、地球そのものが破壊されると考えられてきた。だから核兵器とは、「実戦に使用されることのない『抑止兵器』」とされてきた。しかし……。

 第二次大戦から70年の歳月が過ぎた。その間、科学は途轍もなく進歩した。第二次大戦時最速の戦闘機は時速700km程度。現在の最速は約5倍のマッハ2.5超。時速3500km近くになる。ビル1棟分も必要だったコンピュータは机の片隅に置けるようになった。科学技術の進歩は想像を絶している。では広島・長崎に落とされた原爆は70年前からどれほど進歩したのか。

 軍事兵器に関して正確なことはわからない。かつて戦略核、戦術核と分類されていたが、1961年に旧ソ連が行った「世界最大の核実験」以降、米ソを含め核保有国は核の小型化を目指した。小型化、超小型化、超々小型化……。それが意味するところは何か。「実戦核兵器」である。北朝鮮が核兵器の小型化に挑戦していることは2006年の最初の核実験から一貫している。米DIA(国防情報局)は2013年4月に「北朝鮮は弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭を開発した」とのコメントを発表。その後核の小型化はさらに進化し、実戦配備可能な状態になっていると思われるのだ。また、科学者には、作った武器兵器を試してみたくなる心情が存在する。ヨーロッパの科学者にとって極東で超々小型核を実験することを期待する気持ちが働いていることも事実だ。さらに超々小型核による放射能汚染をどうすれば除去できるのか……。

 昨年6月、米DIAは「北朝鮮が韓国に対し軍事行動を起こす『根拠ある判断』を所有している」と発信している。その直前にライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が韓国軍中枢と秘密裏に会談した理由は、北が単なる南進(韓国への侵攻)だけでなく、実戦核を使用する可能性に踏み込んだものと推測できる。

米国の「核の傘」が期待できない韓国

 北朝鮮は2月8日から25日までの間に「地球観測衛星を打ち上げる」と公表している。金正日総書記の誕生日である2月16日直前の発射実験との見通しが強かったが、2月5日には燃料注入を開始した模様で、天候次第では8日、9日にも打ち上げるかもしれない。場合によると不具合の調整などで、実験が月末になる可能性もある。

 北朝鮮が超々小型核兵器の開発に成功し、攻撃力をバックに南進を開始したら韓国はひとたまりもない。頼りは米国の「核の傘」だが、今回の北朝鮮の実験で使用されるミサイルは明らかに米本土到達能力を持っている。米国の「核の傘」には頼れない。韓国内では以前から核武装論がくすぶっていたが、今年1月の北朝鮮の核実験以降、与党セヌリ党の元裕哲(ウォン・ユチョル)院内代表や金乙東(キム・ウルドン)最高委員が「核兵器独自開発」を口にするなど、その声が一気に高まってきている。ミサイル発射実験が行われれば、その声はさらに高まるだろう。

 韓国が核武装の検討を真剣に始めれば台湾も動くと考えられる。かつて中国の核実験(1964年)以降、蒋介石が核開発を開始し、米国がこれを制止したという経緯がある。1980年代には蔣経國政権下で本格的な核開発が進み、1987年にプルトニウム抽出まで行っている。この計画は李登輝政権時代に米政府の圧力で施設を閉鎖したが、蔡英文政権下で復活する可能性はある。韓国が核開発をすればその可能性は一気に高まる。そしてそれは中国との激しい摩擦を生む。

 韓国、台湾で核武装論、核開発が進めば、当然ながら日本にも影響が出てくる。米国にも日本の核武装を求める声があり、とくにネオコンは日本にNPT(核不拡散条約)からの脱退を奨励している。この場合の日本の核とは、「米国製の核を日本が預かる」というものではあるが。

 2016年、東アジアは大暴風雨を迎えようとしている。予想をはるかに超えた事件が勃発する可能性がある。政治的、経済的、軍事的なすべての面が凋落し、大統領選を迎えて国内論議に終始している米国は頼れる状況にない。安倍晋三政権の改憲議論も念頭に、本気で10年先、20年先の日本を見つめていく時が来た。

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