ロシアのウクライナ侵攻で世界は混乱、破滅に向かう | 行政調査新聞

ロシアのウクライナ侵攻で世界は混乱、破滅に向かう

 2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻。首都キエフでは市街戦が展開されている。ウクライナ情勢、そして世界情勢はどう変化するのか。

ロシア軍ウクライナ侵攻の経緯

 ロシア軍がウクライナに侵攻することはないと考えていた本紙としては、2月24日のロシア軍侵攻は衝撃的だった。

 ロシアのウクライナ侵攻に至る流れを簡単に記すと以下の通りとなる。 

1月26日
北大西洋条約(NATO)の不拡大を要求するロシアに対し米バイデン政権はこれを拒否。ロシア軍がウクライナ国境付近に軍を集結させ、米ロの緊張が高まった。

2月1日
ロシアのプーチン政権は「米国(とNATO諸国)はロシアの懸念を無視した」と改めて強い不満を表明。

2月21日
ウクライナ東部で内戦を展開中のルガンスク州・ドネツク州の一部が独立を宣言。ロシアがこれを承認。ウクライナをはじめ欧米諸国が猛反発。

2月22日
ウクライナ東部で独立を宣言した地域に「平和維持」を目的とするロシア軍が派遣される。米国はこれを「軍事的侵攻」とはせず「強く非難」。

2月22日~23日
日本や米欧が「対ロ制裁」第一弾を発表。資産凍結・ビザ発給停止・天然ガス事業の凍結など。

2月23日
国連総会でロシアに非難集中。緊急開催の安保理でもロシアに非難が集中。
ゼレンスキー大統領、予備役(18歳~60歳)の招集を開始。23日夕方から24日未明にかけて、ウクライナ政府の内閣・外務省などいくつかのサイトがダウン。ロシアによるサイバー攻撃との観測が強まる。

2月24日
午前、ロシア軍が3方向からウクライナに侵攻。首都キエフをはじめウクライナ各地の軍事施設をミサイル攻撃。使用したミサイルは1,000発以上。
未明、ウクライナ全土に戒厳令発布。


 2月に入ってから、「ロシア軍がウクライナに侵攻し、親ロシア派のルガンスク州やドネツク州を併合する」という情報が強まった。だが併合は、ロシア経済に負担となる。
 それを考えると、ロシア軍のウクライナ侵攻はないだろうとの観測もあり、本紙もその説に同調していた。ところがプーチンは、この2州を「独立国家」と認定することで、ウクライナのNATO加盟を白紙撤回させようとした。当面ロシアが狙うのは、ウクライナを完全な「親ロシア」国家に塗り替えることだ。
 その思惑をもってロシアのウクライナ侵攻が始まった。24日に本格侵攻を開始したロシア軍は、当初、2日以内に首都キエフを制圧し、ゼレンスキー大統領に代わる親ロシア派の大統領を擁立すると考えられていた。しかし侵攻したロシア軍は、思ったほど強力ではなく、各所でウクライナ政府軍に苦しめられ、かなりの被害を出している模様だ。

苦戦するロシア軍、窮地に立たされたプーチン

 ロシア軍の兵士たちは、ウクライナ侵攻の目的も教えられず、命じられるままにウクライナ政府軍と戦闘状態に入っている。一方、ウクライナ政府軍は「国を守る!」という強烈な意思の下でロシアの精鋭部隊を相手に戦っている。
 今から86年前の昭和11年(1936年)2月26日、陸軍皇道派の青年将校たちが、大蔵大臣・高橋是清、内大臣・斎藤実など政府要人を殺害し、1,500名の兵士で都内の主要拠点を占拠する「2.26事件」を起こした。この反乱部隊の中に、徴兵されたばかりの21歳の二等兵・小林盛夫がいた。軍に入ったばかりの小林青年は、右も左も何もわからず、早朝から演習をやらされるとは軍隊もラクじゃねえなぁと思っていたら、反乱部隊の一員となっていたのだ。運が悪ければ戦死、あるいは処刑されたかもしれない。この二等兵が、後に人間国宝となった落語家の柳谷小さん(本名・小林盛夫)である。ウクライナで戦っているロシア兵の多くは、柳谷小さんと同じで、何が何だかわからないまま戦っている。士気など、初めからない。

 ウクライナ国防省の発表によると、戦闘が始まってからの3日間で13万人の志願兵が「ウクライナ領土防衛軍」に入隊。またウクライナ政府は「義勇軍」を募集しており3月1日時点で日本人70名(うち約50名は元自衛官)が応募している(ただし外務省は渡航中止を勧告している)。外国人部隊による義勇軍がどれほどの規模になっているか、発表はない。だが義勇兵たちは「ウクライナを守るためにロシア軍と戦う」という強い意志を持っている。初めから士気などないロシア兵とは、覚悟が違う。
 ウクライナ政府は火炎瓶の作り方まで指導し、女性たちが手作りした火炎瓶でロシアの装甲車や戦車に甚大な被害が出ている。

 西側諸国はウクライナに対する武器支援を次々と決定。英国・オランダ・フランス・チェコなどが大量の兵器をウクライナに移送中。これまで「殺傷能力を持つ武器は出さない」としていたドイツまで、ウクライナ支援に武器兵器を送り込んでいる。
 ウクライナ政府発表(27日午前11時30分)では、24日の開戦以来、ロシア軍軍人4,300人が戦死、航空機27機、ヘリコプター26機、戦車102台、装甲車両706台以上の損失が出ているという。

 この数字は次々と塗り替えられ、ロシア軍の被害が拡大している。未確認情報では3月1日までにロシア兵7,000人が戦死とも伝えられる。ロシア軍の予想外の苦戦と同様に、窮地に立たされているのがプーチン政権である。米軍やNATO軍をはじめとする外国の軍隊がウクライナ支援に兵力を送り込むことはない。
 圧倒的な軍事力を持つロシア軍と、ウクライナ政府軍との戦闘は、短期間で決着するとプーチンは考えていたはずだ。その思惑が大きく外れてしまった。
 時間が掛かれば、欧米諸国は経済的圧力によってロシアを締め上げる。それが発効するまでの数日間で首都キエフを陥落させ、ゼレンスキーに代わる「親ロシア派」の新大統領を据えなければ、プーチンの目論見が大きく狂う。現実に2月26日にはロシアはスイフト(SWIFT=国際間銀行通信協会)の決済網から排除されることが決まった。この影響は大きい。スイフト排除は「経済戦争の核兵器」と呼ばれるほど強力な経済措置だ。スイフト排除が完全に実施され、それが10日も続けば、ロシアは経済的に干上がってしまう。今年に入って、コロナの影響もあり世界的なインフレが続いていた。ロシアの今年1月のインフレ率は8.7%と高かったが、スイフト排除・通貨ルーブルの下落で、今後インフレ率は10%を超えることは確実。

 市民生活はかなり厳しくなる。ただしロシアをスイフトから排除したことは欧州経済にも多大な負担を負わせる。ロシア企業に融資している欧州の金融機関は利子さえ受け取ることができなくなる。特にドイツやイタリアはその被害が拡大しそうだ。
 そこでスイフト排除の規模が問題となる。実は3月1日時点で、スイフト排除の細部はまだ決まっていないのだ。大袈裟に発表された「ロシアをスイフトから排除」というニュースは、プーチン政権に対する圧力の一環と見ていいだろう。

 軍事、経済面でロシアは苦境に陥り始めたが、プーチンにとっての恐怖は、何より世界中から信頼が失われたことが大きい。日本でもこれまではプーチンに対する尊敬の念が強かったが、ロシア軍ウクライナ侵攻後にプーチン人気は一気に下落。これまでプーチンやロシアの代弁人のように思われていた鈴木宗男(参院議員)、佐藤優(作家)、本田圭佑(サッカー)なども発言内容を微妙に変化させ、立ち位置を変えざるを得ない状況に追い込まれている。

 それ以上にプーチンにとってより衝撃的なものは、ロシア国内の世論の変化だ。
 ロシア軍がウクライナに侵攻した2月24日に世界中で「反戦デモ」が繰り広げられた。世界各所で同時多発的に起きた運動だが、これは明らかに何者かが仕掛けた同時デモだった。そしてロシア国内でも反戦デモが行われたのだ。
 24日深夜から25日にかけて、ロシア国内の60カ所以上で繰り広げられたデモでは1,800人以上が拘束されたという。追い打ちをかけるように、ロシア実業界の超大物の2人(ミハイル・フリードマン氏とオレグ・デリパスカ氏)がウクライナ侵攻停止を公式に求めていることだ。この2人はロシアの産業界に絶大な権力を持つ。2人の背後にはロシア経済界全員がついていると言える。
 盤石と思われていたプーチン体制に揺らぎが見え始めたのだ。

プーチンが描く世界地図

 ウクライナに向けたロシアの行動について、国連安保理で米国のL・T・グリンフィールド国連大使は「プーチンはロシア帝国が支配していた時代に戻ることを望んでいる」と発言した。米国連大使は、プーチンはウクライナ東部だけの問題ではなく、フィンランド・ベラルーシ・ポーランドとトルコの一部を自国の領土に「取り戻す」ことを夢想しているというのだ。「ロシア帝国」と聞いてもピンとこない方が多いだろう。

 ロシア帝国とは日本の江戸時代中期、18世紀初頭から1917年(大正6年)まで存在した帝国である。ウクライナはもちろん、フィンランド・ポーランド・カザフスタン・トルコの北東部まで含む巨大な帝国だった。プーチンはそれを復活したいと考えているのだという。いくら何でも、それは考えすぎだ。プーチンはそれほど誇大妄想狂ではないだろうと思いたいが、プーチンが本当にロシア帝国復活を夢見ている可能性は十分ある。ロシア軍のウクライナ侵攻から3日目に、ロシアのRIAノーボスチ通信(リア・ノーボスチ通信社。正式名称は「ロシアの今日」)が間違えて配信した記事からも、プーチンの本心が理解できる。

 RIAノーボスチ通信は、ロシア軍がキエフ占領と同時に流す予定のニュースを、間違えてキエフが陥落していない2月27日に配信。すぐに間違いに気づいて削除した。ところが世界中の何人かがこの記事を写しとっていたようだ。本紙もネット上の記事を見つけたが、正確な複写かどうか判断がついていない。複数の証言から、かなり正確と判断してその記事の概要を以下にご紹介する。

☑ロシア軍のウクライナ作戦により、西側諸国のロシア討伐計画は失敗に終わった。
ロシアは歴史的な統一を取り戻しつつある。

☑プーチンは、今すぐにウクライナを取り戻さなければ永遠に失うことになると結論。
歴史的な責任を負うことでこの作戦に踏み切った。

☑英米のアングロサクソンと、ドイツ・フランスとは根本的に異なる。
ドイツとフランスが欧州統一計画を進めても、英米アングロサクソンの支配下にある限り、それは意 味を持たない。

☑ロシアは世界における歴史的空間と場所を回復する―。

 プーチンが「ロシア帝国」の復活を企画している可能性は高い。だが、米国の国連大使やノーボスチ通信が語っていない物語が存在する。「ロシアの領土をロシア帝国の時代に戻す」という話は、ヨーロッパだけの問題ではない。東アジアでもロシア帝国は領土を拡大していた。中国東北部やモンゴルなどだ。プーチンの夢想は、そこまで拡大している可能性もある。

プーチンは認知症に陥っているか

 ウクライナ情勢をめぐって、欧州とロシアの仲介役を買って出たフランスのマクロン大統領は、2月7日にモスクワを訪れ、プーチンと5時間以上の会談を行った。その内容は公表されていないが、カステックス首相(仏)は「成功を収められなかった」ことを認めている。さらにマクロン大統領は「(プーチンは)2019年12月の首脳会談で会った時より孤立し、よりかたくなになっている」「もはや別人のように変わってしまった」とも語っている。プーチンの健康状態、特に精神状態が以前とは違っているとの話は、他からも聞こえてくる。

 ブッシュ(息子)政権(2001年~2009年)で国務長官を務めたC・ライスは「プーチン氏とは何度も会ったが、最近のプーチン氏は以前と全く違う。不安定になっている」と語る。トランプ政権で大統領補佐官を務めたマクマスターは「テレビ映像で伝えられるプーチン氏がテーブルで落ち着きなく指を動かす仕草など苛立っている様子から、理性的な判断ができなくなっている可能性」を推測する(USAトゥデイ紙)。
 米国の情報機関はプーチンの心身の健康に関して、相当な情報を得ていると思われる。その報告を受けたと考えられる米上院特別情報委員会のマルコ・ルビオ上院議員は「本当はもっとお話ししたいが、今いえるのは誰もが分かる通り、プーチン氏は何かがおかしいということだ」と語る。
 プーチンの精神状態がおかしいという話は、他からも聞こえてくる。精神医学界の学者たちは、プーチンが「脱抑制」状態にある可能性が高いという。

 脱抑制とは、怒りや攻撃性を自分でコントロールできなくなる精神状態をいう。脱抑制の原因としては、アルコールの摂り過ぎ(酒の飲みすぎ)、薬物の影響などが考えられるが、プーチンの年齢(69歳)を考えると「認知症」の可能性が強まる。
 あるいはピック病(前頭側頭型認知症)もあり得る。いずれにしても認知症の一種だ。これらの認知症は、若ければ64歳くらい、多くは70歳前後に発症する。
 もっとも、米バイデン大統領にも認知症の疑いがもたれているので、米露2大国は認知症大統領が支配する国と言えるかもしれない。だが、これは笑い話ではない。
 プーチンもバイデンも、核ミサイルのボタンを手にしているのだ。怒りや攻撃性を抑えることができず、頭に血が上った瞬間に核のボタンに手を掛けたら…。その現実を認識しておく必要があるだろう。

ウクライナ混乱は世界激動の序章第1コマ 

 2月28日にロシア軍がウクライナでクラスター弾と燃料気化爆弾を使用したとの報道がある。クラスター弾とは「集束爆弾」「親子爆弾」とも呼ばれ、時に数百個の爆弾が空中で飛び散り、非常に広範囲に被害を及ぼす爆弾。燃料気化爆弾は周辺の酸素を使って高温の爆発を起こし、爆風が従来の爆弾に比べて遥かに長い間続く。ともにジュネーブ条約で禁止されている爆弾である。

 3月1日以降、キエフに対するロシア軍の攻撃は激しさを増している。キエフのテレビ塔が攻撃され、5人の市民が犠牲になった。通信網破壊が目的だったと思われる。日本に入ってくる情報のほとんどは米国経由で、米欧に都合のよい話しか入ってこないが、現実のウクライナ情勢は非常に複雑だ。軍事・経済以外の面でウクライナがどうなっているか、日本の報道だけでは理解しにくい。
 もともと欧州全域のエネルギーは、3分の1くらいがロシアから輸入していた。欧州、特にドイツ・フランスにとって、ロシアの天然ガスや石油は重要なものだった。
 ロシアから欧州に送られる天然ガスは、ベラルーシからポーランドを経て欧州各国に流されるルートと、ウクライナを経由してハンガリー・ルーマニア・ポーランドなどに流れ込むルートがあった。2014年のクリミア半島危機(ロシアがクリミア半島を併合)する頃から、ウクライナはロシアと対立を始め、その結果、ロシアはウクライナ経由の天然ガスを大幅に削減した。

 ところが2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻した直後から、ウクライナ経由のロシアの天然ガスの量が激増したのだ(従来の40%近く増量)。ロシア軍ウクライナ侵攻で欧州全域のガス価格は大幅に上昇(約60%の値上げ)したが、ロシアからのガス供給量が増えたため2月25日には30%も値下がりしている。ウクライナに侵攻したロシア軍は、ガスパイプラインや電力網を破壊したり傷つけたりしないよう、軍事関連施設だけを攻撃している。

 これは、頭に血が上り激怒して起こした計画ではないことを物語っている。ロシアは欧州をエネルギーで掌握しようとしている。欧州にはロシアのエネルギーが大切なことを教えようとしている。RIAノーボスチ通信が間違って配信してしまった情報の中に、英米(アングロサクソン)と欧州は「根本的に異なる」という文章があったが、これはロシア人全員が共有する認識と思われる。

 世界は今、大きく変わろうとしている。
 ウクライナ騒乱はその序章の一部に過ぎない。米国は、やがて必ずNATOから追い出される。米国と欧州が分断される日が来る。同時に中央アジアの地勢図が変化するだろう。
 ウクライナ情勢は今日、明日にも大きく変わるだろう。しかしそれは激動の1コマにすぎない。本紙は今後も、ウクライナ情勢の変化と、その奥に流れる世界規模の潮流を分析しお伝えするつもりです。
 続報にご期待ください。■

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