小川町メガソーラー計画に経産大臣が「抜本的な見直し」を「勧告」 | 行政調査新聞

小川町メガソーラー計画に経産大臣が「抜本的な見直し」を「勧告」

環境省も疑問視していた事業の目的は「残土ビジネス」だったのか

小川町メガソーラー「抜本的見直し」勧告

「武蔵の小京都」として知られる比企郡小川町に激震が走った。2月22日に、かねてから問題視されていた「小川町メガソーラー(大規模太陽光発電所)開発プロジェクト」に対し、萩生田(はぎゅうだ)光一経済産業大臣が抜本的計画見直しを要請したのだ。昨年(令和3年)7月、静岡県熱海市で起きた土石流被害で26人が死亡、1人が行方不明となっているが、この災害で問題となったのは「盛り土」である。この事件を契機に、全国あちらこちらで「盛り土」に関して地域住民と事業者の対立が多発している。そうしたなか、埼玉県比企郡小川町のメガソーラー建設に、異例の勧告が出された。

 「小川町メガソーラー開発プロジェクト」とは官ノ倉山と石尊山を含む里山一帯の約86ヘクタールという広大な場所の開発計画である。起伏のある土地を、切り土、盛り土で整備し、出来上がった斜面に太陽光パネルを並べるというものだ。森林の伐採は全体の3分の1にあたる約30万ヘクタール。
 この地域には絶滅の恐れがある鳥、ミゾゴイやサシバの繁殖活動が確認されている(「比企の太陽光発電を考える会」の調査)。自然環境の破壊は、単に鳥や小動物の棲み場を奪うだけではない。小川町は「地質の博物館」と呼ばれるほど複雑で、全国から研究者が訪れるほど。
 2億年、3億年前の古生層の上に新しい地層が載っている。砂岩・泥岩さらには粘土質の地層が幾重にも重なり、モザイクのように複雑な地層が出来上がっている全国でも珍しい地域だ。このため、地盤調査をするのも難しい不安定な地質になっている。こうした地盤を安定させるためには、多数のボーリング調査が必要である。地盤調査も行わずに土を切り取り、あるいは盛り土を行うことは、地すべりの原因となる。正しく地質調査、地盤調査を行った上で適切な段階状の斜面を築き、適正な位置に排水路をつくる必要がある。
 メガソーラー開発計画書には、そうした地盤調査のことなど書かれていない。計画準備書を見る限り、そうした調査を行うことは考えていないように見受けられる。

地域住民は一貫して「盛り土」に反対してきた

 令和3年7月に熱海で起きた土石流被害の現場には、かなりの量の「盛り土」がなされていた。その量を静岡県は「5.4万立方メートル以上であることは確実で、実際には約7万立方メートルに達していた可能性がある」と推定した数字を公表している。今回、小川町メガソーラーの場合、盛り土の量は計画書によると「約72万立方メートル」。土石流で甚大な被害を起こした熱海の現場の10倍~13倍の量である。しかも、持ち込まれる残土は、計画書の倍以上の可能性があるというのだ。

 小川町メガソーラー建設にあたって、平成30年(2018年)年末から翌平成31年前半に、地域住民に対して4回の説明会が行われたが、そのときには「150万立方メートルの残土を運び込む予定」と説明されたという地元では「メガソーラー建設より残土処理が目的なのではないか」との疑念が広がった。またこの土地は、かつて「ゴルフ場造成」の目的で開発され、そのときにも大量の残土が持ち込まれた経緯があった。ゴルフ場計画は消えてなくなってしまったが、そこに登場したのが、さらに大規模な「メガソーラー計画」である。ゴルフ場もメガソーラーも、残土処理が本当の目的と疑われても不思議ではない。残土とは多くの場合、建設現場などで出る雑多な土を指す。
 その土には何が含まれているかわからない。リニア建設現場から出た残土のように、放射能が検出されたこともある(令和元年8月に、岐阜県瑞浪市の日吉トンネル建設工事の残土から放射性物質ウランが検出された)。残土に混じって人骨が出て来て問題になったこともあった。あちこちで見つかった人骨は古代のもので、ときには古墳を発掘してしまうこともある。熱海の土石流からはプラスチック片や廃棄された家電製品も見つかっている。
 平成15年(2003年)には国土交通省が「建設発生土行動計画」を策定し、「発注者(多くはゼネコンなど建設現場の作業責任者)が残土の行き先を把握すること」としたが、日本中で毎日のように出されている残土は、未だに正体不明、出どころ不明のものが多い。残土は法的には「廃棄物」ではなく「資源」とされ、取り締まりの対象外なのだ。残土を出す業者(ゼネコン)などは、ほとんどの場合、下請け業者(ときにはさらに下請け=孫請け業者)に丸投げする。

 ゼネコンなどはトラック1台分の残土に10,000円~15,000円を支払って引き取らせるが、残土処理業者はそれを1台3,000~4,000円程度で引き取る。トラック業者は差額(1台で数千円~1万円)を儲ける。残土受け入れ企業は、残土の廃棄場所を提供するだけで、トラック1台で3,000~4,000円が収入になる。小川町のメガソーラー現場では、1日に200台超のトラックが残土を持ち寄る予定だった。単純計算で1日60万円~80万円の収入となる。残土の中に有害物質が混入されていたら、地域一帯が汚染され、農業被害も甚大なものになる。小川町一帯の農家などが中心となって盛り土に反対してきたのは、当然と言えば当然の話なのだ。

残土受け入れ体制への「疑念」

 残土が盛られた地域から、排水路を通って川や農地が汚染される可能性が考えられ、地域住民の間に不安が広がっていた。そうした状況下、事業者である「小川エナジー合同会社」は昨年(令和3年)8月31日付けで残土について「意見の概要と当社の見解」を発表。ここで「外から持ち込まれる土についての不安」について、「安全性を確保します」と胸を張った。
 どうやって安全性を確保するというのか。
 小川エナジーは「UCRの土のみを利用するから安全である」と主張する。
 UCRとは「株式会社建設資源広域利用センター」のこと。首都圏の5自治体(東京都・埼玉県・神奈川県・横浜市・川崎市)と民間建設会社などが出資して平成3年(1991年)に作られた半官半民的な事業である。建設時に発生した残土のリサイクルを進めることで、自然環境への負荷を減らし、建設コスト削減を目的としている。小川エナジーが「UCRの土のみを利用」と言っているのだから問題ないと思いたくなるが、萩生田光一経済産業大臣の勧告では「土質・土壌などの受け入れ条件について準備書に記載されておらず、適切な検討がされているか確認できない」としている。

 実はUCRは、受け入れ地の場所と事業者をホームページ上に載せて公表しているのだが、小川町メガソーラーの場所も、小川エナジーの名前も、UCRホームページに掲載されていない。現在手続きの最中で将来記載されるのかもしれないが、小川エナジーが嘘をついていると疑われてもおかしくはない。
 本紙はこの件に関して、小川エナジーとUCRに直接取材をしていないが、専門誌が興味深い情報を載せていた。
 それによると―。

「UCRに聞いたところ、驚きの答えが返ってきた。
『小川エナジー合同会社から受け入れ希望の話があったかというと、まったくない。希望があれば、受け入れ地として登録するかどうかについて、場所や法令の適合性、現地の交通状況、近隣とのトラブル状況、事業者が公共事業の入札参加資格を持っているかなど内規に基づく審査を行う。簡単に受け入れ地になれるわけではない』(UCR総務課)」

                          (東洋経済 ON LINE 2021年5月30日)

「小川町メガソーラー開発プロジェクト」とは、
メガソーラー建設を口実にした残土ビジネスの匂いが強まってきている。

地域住民の「監視の目と県民の総意」が求められる

 残土処理が真の目的なのではないか。ウソを並べているだけなのではないか…そういった怪しい雰囲気にあふれているが、「小川町メガソーラー開発プロジェクト」が完全なデタラメという証拠はない。 
 実際、今後、山口壯(やまぐちつよし)環境大臣、萩生田光一(はぎゅうだこういち)経産大臣、そして大野元裕埼玉県知事の勧告に従って、小川エナジー合同会社が事業計画を抜本的に見直す可能性もある。
 世界的に「脱炭素」が求められている中、ソーラー発電(太陽光発電)が国の「環境アクセス制度」に繰り入れられたのは令和2年(2020年)4月のこと。
 「事業の抜本的見直し」が環境大臣、経産大臣から勧告されたのは、今回が初めての事例である。だがこの勧告は、法的な束縛力がない。

 勧告を受けた後、事業主が環境影響評価書を作成し公表することになっている。その評価書が不十分であれば、国は評価書の再作成(評価書のつくり直し)を命じることができるが、書類さえできれば事業主は工事の認可手続きを経て事業に取りかかることができる。あとは小川エナジー合同会社の良心に委ねるしかなくなる。
 繰り返しになるが、政府担当大臣から「事業の抜本的見直し」が勧告されたのは、今回が初めての事例である。事業主が勧告に正しく従い、事業の抜本的見直しを行うかどうか、日本中が注目している。日本の未来がかかっている。地域一帯の人々による監視の目が重要な意味を持つ。地域一体とは、単に小川町メガソーラー建設地域を指しているのではない。比企郡小川町を初めとする地域一帯、埼玉県全体が当事者である。小川エナジー合同会社がどのように事業を展開するか、注目をつづけようではないか。■

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