まもなく世界の景色が激変する!
――中東戦争が行き着く最終局面とは!――
日本から9000キロ以上離れた遠い中東の地の戦争は、はるか対岸の火事のように思える。だがいま中東でくり広げられている戦争は、決して他人事ではない。この戦火は、瞬くうちに拡大し、世界の景色を塗り替える。日本もその激動の渦に巻き込まれる。それは遠い未来の話ではない。
困難で長い戦争
「ガザ地区での戦闘は、困難で長いものになるだろう」。
イスラエルのネタニヤフ首相は、こう発言した(10月27日)。
この発言を多くの人々が聞き流した。だがこれは奇妙な話だ。ガザは、種子島ほどの小さな長方形の土地で、一方は海、残る三方は高い壁で囲まれている。
電気も水も食糧もイスラエルを経由して送られる。10月7日に戦闘がはじまってから、イスラエルは水も電気も食糧も遮断した。水も電気も食糧も来なくなったら、225万人のガザ市民は生きていけない。しかもイスラエル軍は世界有数の強力な軍隊である。普通に考えれば、戦闘は短時間でケリが着く。それなのにネタニヤフは「困難で長くなる」と発言した。そして現実に、ガザの人々は飢えに苦しんでいるが、ギリギリの食糧や水が確保されており、戦争は継続されている。どこかから、食糧などが送り込まれている。それは地下トンネルで運び込まれているらしい。あちこちから数多くのトンネルがガザに通じているという話は以前からあった。イスラエル軍はこの補給路を断つために、ガザ市の病院を攻撃し、病院の地下からトンネルを発見、破壊した。
11月15日のことだ。病院を攻撃したことで、新生児を含む多くの犠牲者が出て、世界中から非難が集中したが、イスラエル軍は気にしていない。
ガザ市の状況を隠すイスラエル
ガザ市の病院攻撃は非難されたが、イスラエル軍はCNNなどの取材陣を招き入れて、現実に病院の地下にハマスの司令部があったこと、そこには武器弾薬が隠されており、巨大なトンネルがあったことを世界に公開した。しかしイスラエル軍の一方的な報道には、疑問も残る。病人が犠牲になったことは事実なのに、イスラエル軍はそれを報道しない。実は10月28日に、ガザの通信網、インターネットなどが一斉に完全遮断された。それまでSNSなどを通してガザの状況が世界に発信され、世界中からイスラエル軍に対する批判が強まっていたのだが、インターネット通信網を遮断したことで、ガザの本当の状況が全くわからなくなってしまったのだ。
この状況に、米国で「スペースX社」を経営しているイーロン・マスクが「上空の人工衛星を通して、わが社のインターネットシステム『スターリンク』を無償提供する」と言い出した。イーロン・マスクの「スターリンク」は、ウクライナ戦争で通信網が遮断したときにも、人工衛星を飛ばして無償で通信網を提供した。
今回もこの方法でガザの現状がわかるだろうと思ったが、そうではなかった。イーロン・マスクの発言にイスラエル政府が猛反対したのだ。10月28日、イーロン・マスクの提案直後にイスラエルのシドル通信大臣は「イスラエル政府はあらゆる手段を用いてスターリンク社の通信提供を阻止する」といい切ったのだ。この発言に、さすがのイーロン・マスクもお手上げ。スターリンクの提供をあきらめることになった。ガザで起きている現実は、イスラエル政府の報道以外には知る方法はなくなってしまった。
戦争は拡大の一途をたどる
「ハマスとイスラエルの、どちらが正しいのか?」こんな質問を受けることがある。
答えは簡単だ。どちらにも正義などない。わかりやすくいえば、ムカデとサソリの戦いだ。ハブとマムシとか、イノシシと熊の争いみたいなものだ。
我が国は、どちらも味方する必要などない。勝手にやればいい。重要なことは中立を貫くことだ。米国はイスラエルを全面支援している。そんな米国の立場とは一線を画す必要がある。それでないと、戦火に巻き込まれる。我が国は現在、対米従属の姿勢をとっている。これは好ましい姿勢ではない。
そして同時に、米国から流されてくるイスラエル情報を鵜呑みすることも危険だ。11月1日にイエメンがイスラエルに対し宣戦を布告した。いよいよ中東の戦火が拡大されそうになったが、我が国のテレビ新聞などはこれを報道していない。この日、米空軍は53機の長距離輸送機C17グロープマスターⅢを東地中海イスラエル沖に派遣、あわせて世界最大といわれる大型輸送機C5Mスーパーギャラクシー7機も東地中海に向かった。米軍は中東での戦争が拡大されると判断している。11月2日にはアルジェリア議会が「イスラエルに対する宣戦布告」を承認した(承認しただけで、まだ正式な宣戦布告は行っていない)。
これは大変なことだ。アルジェリアは地中海の入口付近にある国だ。地中海の出入りを制限したり封鎖することもできる。パレスチナ沖に集まっている米艦隊の出入りは、アルジェリアの動き一つで難しいものになる。そんな状況下、レバノンの武装勢力ヒズボラを指揮するナスララ師は「11月3日午後3時」という時刻を全世界に報道した。その時刻が何を意味するかわからないが、世界は衝撃を受けていた。ヒズボラがとんでもないことをするのではないか――そんな雰囲気が世界中にあふれていた。
このとき米国のワシントンDC(ホワイトハウスがある場所)から8機の政府専用機が飛び立った。向かった先はコロラド州エルパソの米航空宇宙軍基地(NORAD=ノラド)。米国最大の地下要塞がある場所で、核攻撃を受けてもビクともしない基地だ。もしかしたら大統領など主要閣僚が核戦争を怖れて避難したのかもしれない。世界は緊張の最中にあった。その緊張感は、日本では全く感じられなかった。ナスララ師が指定した11月3日午後3時には、ヒズボラはイスラエルに対する全面戦争を開始と宣言しただけで、予想された範囲内の話だったが、米国がヒズボラ(その背後にいるイラン)を異常なまでに警戒していることは明らかだ。
11月23日にはヒズボラはイスラエルの歩兵部隊をロケット弾48発で攻撃、さらに戦車部隊にもミサイルを撃ち込んでいる。11月11日にはサウジアラビアの首都リヤドでイスラム協議機構に所属している57カ国のトップが集結した。
イスラム協議機構とは、サウジ・イラン・トルコ・エジプト・パキスタン・インドネシアなどイスラム教圏国家の連合体だ。この日、57カ国の元首すべてが一堂に会する会議が行われた。ここで決議されたのは「1967年に承認されたパレスチナ・イスラエルの国境線を厳守すること」「現在イスラエルが占領しているパレスチナの地について、イスラエルは自衛権を保有していない」だった。1967年に決められた国境線に反して、イスラエルはどんどん占領地を増やしていった。イスラム協議機構は、拡大されたイスラエルを認めないと決議したのだ。
最大の問題はエルサレム「第三神殿」建立
我が国メディアが無視している重要な問題がある。エルサレムに建設されることになっている第三神殿の問題だ。古代にイスラエル王国のソロモン王が建てた第一神殿(ソロモン神殿)、それが破壊された後、新たに作られた第二神殿の跡地に、神殿を建立しようという動きがある。旧約聖書の中に、第三神殿が建立され、そこで生贄(いけにえ)の儀式が行われると預言されているという話に基づいている。イスラエルには約半分(49%)の「世俗派」とよばれる人がいる。
この世俗派の人々は、原則的に第三神殿の建立には賛成ではない。だが残りの半数、51%が神殿を建立させるべきだと主張している。エルサレムにある神殿研究所という組織では、すでに着々と準備が進んでいる。神殿に置かれる純金の燭台(しょくだい=メノーラ)も準備され、その他無数の器物が古式にのっとって手造りで製造され、その映像も公開されている。儀式を行う神官の衣服は、手造りで糸からつむがれ、古代そのままの衣服が完成している。
来年4月の祭典の日(過越の祭り)には、第三神殿で赤い雌牛(めうし)を神に捧げることになっている。期日は迫っている。あと5カ月もない。第三神殿を建てる場所は「神殿の丘」。ここには現在、イスラム教の聖なるモスク(礼拝堂)がいくつか建っている。これを破壊しないと第三神殿を建てる事ができない。
イスラム教徒はその事情を理解している。だから自分たちのモスクを必死に守ろうとしている。10月7日にハマスが仕掛けた戦争には「アル・アクサ洪水作戦」という名だった。アル・アクサとはイスラムの世界では「神殿の丘」を指す。「洪水作戦」というと、川の堤防を切って洪水を起こすように感じるかもしれないが、中東の世界で「洪水」といえば、「ノアの大洪水」を意味する。汚れた全てを洗い流すという意味だ。イスラム教徒は汚れたユダヤ教徒を洗い流すという意味を込めて「洪水作戦」を仕かけたのだ。彼らイスラム教徒は、イスラム協力機構57カ国全部が一丸となってアル・アクサ(神殿の丘)を守ろうとしている。
戦火は全世界に広がる
第三神殿を建てようとする動き、それに反発する動き。こうした宗教的な動きを利用するかのように、スエズ運河に代わるベングリオン運河計画や、ガザ沖海底油田の開発も進められている。宗教的な動き、カネや資源の争奪戦を横目でながめながら、大きな政治的な駆け引きがくり広げられている。欧米・旧自由主義の政治勢力と、ロシア・中国などが中心となる新興勢力勢の戦いだ。この大きな政治的潮流は、海洋勢力と大陸勢力の争闘と見ることもできる。中東ではじまった戦争は、必ず全世界に波及する。中東はこの年末に大危機を迎えるだろうが、決着はつかないだろう。
中東混乱のあおりを喰らって、ウクライナの戦争が話題から消えたようにも思えるが、まだ戦争は継続中だ。戦争は確実に拡大される。それは必然的に、極東に飛び火する。ロシアの支援を受けて、北朝鮮の活動が活発化している。あと1カ月余で台湾は総統選を迎える。中国が圧力を高めることは当然だ。そんな緊張感の中で、イスラエルとウクライナに戦力を奪われている米国は、極東が手薄になる。半島や台湾で有事となれば、わが国に大量の難民が押し寄せてくるだろう。それどころではない。わが国そのものが戦火を浴びる可能性もある。冷静に世界情勢に目を配る必要がある。■