トンガ噴火は激動への号砲 | 行政調査新聞

トンガ噴火は激動への号砲

― 2022年、世界は混乱の坩堝(るつぼ)にたたき込まれる ―

 おとそ気分もまだ冷めやらぬ1月15日に南太平洋のトンガで巨大な火山噴火が起きた。その日の深夜には日本全域に津波注意報(後に一部は警報)が出され、数カ所で1メートルを超える津波が観測された。噴煙は上空2万メートルに達し、半径260キロ周囲に広がった。
この噴火により地球が寒冷化し、世界中が食糧危機におちいるのではと危惧する人も多い。だが食糧危機よりもっと怖い現実が迫っている。世界は混乱、混沌の大渦に突入した。これから先に襲いかかってくる激動の嵐を冷静に受け止める心構えが必要だ。

トンガ噴火は寒冷化を招くか

 1991年(平成3年)にフィリピンのピナツボ火山が噴火した。この噴火は20世紀最大の噴火と呼ばれた。4月から小規模な噴火を繰り返し、6月には何度となく大噴火。噴煙が高度2万4千mに達した噴火が2回、最大の噴火では、噴煙が高度4万mに達した。フィリピン全域は火山灰の被害を受け、死者847人、行方不明23人、被害者総数は120万人に達した。
 噴火で吐き出された大量の微粒子(エアロゾル)は成層圏に達し、それが1、2年かけて、ゆっくり地表に落ちていった。このおかげで太陽光は最大で5%減少、北半球の年間平均気温が0.5度~0.6度低下、地球全体でも0.4度下がったという。
 平均気温が0.5度~0.6度下がったというと、大した話とは思えない。だが日本では、噴火の2年後となる平成5年(1993年)の夏の気温が平年より2度~3度下がってしまった。それによりコメが大凶作。コメ不足が深刻になり「平成のコメ騒動」が勃発。タイからコメを緊急輸入する羽目に陥った。コメに限らず、日照不足などの影響で、農作物の収穫量は激減した。

 今回のトンガ噴火で、30年前と同様に地球全体が寒冷化し、食糧危機に陥る危機が叫ばれている。だが実は、その可能性は少ないらしい。
 1991年のピナツボ火山噴火の際には、2千万トンの二酸化硫黄が噴き出され、千5百万トンが成層圏にばらまかれた。今回のトンガ噴火で噴出された二酸化硫黄の量は39万8千トン。ピナツボ火山噴火の3%以下だ。
 火山ガス研究の専門家・米国ミシガン工科大のサイモン・カーン教授は「これは地球の表面温度に影響を与えるほどの二酸化硫黄の量ではない。気候に影響を与えるには、最低でも5百万トンの量が必要だと考えられる。今回の噴火は、気候に影響を与えたピナツボ火山の噴火より、30~40倍ほど少ない」としている。(朝日新聞社『アエラ』より)

 今回のトンガ噴火で噴出された二酸化硫黄(約40万トン)のうち、どれくらいの量が成層圏にばらまかれるのかは、まだわからない。だがピナツボ火山噴火と比べると、非常にわずかな量なので、世界の気候に与える影響は少ない。ほとんどないと考えていい。ただし火山灰の被害は、トンガ及び周辺の島々、ニュージーランドをはじめとする近隣各国に影響を与える。
 日本ではトンガ産の農作物としてカボチャが知られているが、トンガでは今カボチャが全滅の危機にある。トンガからはカボチャの他ビンチョウマグロも輸出されているが、こちらの漁獲量も激減するだろう。

トンガに続いて富士山が噴火する?

 このところ環太平洋造山帯が活発に動いている。トンガも環太平洋造山帯の中にある。昨年3月に巨大地震(M8.1)を起こしたケルマディック諸島(ニュージーランド)も環太平洋造山帯だ。日本列島は環太平洋造山帯の最前線に位置している。なぜ今、環太平洋造山帯が活発化しているのか。
 理由はわからない。地球が周期的に地震・火山噴火を行うことは正常で、そこに理由を求める必要はないともいう。このところ静かだった太陽が、昨年10月の巨大フレア発生以降、地球に向けての動きを活発化させていることが、環太平洋造山帯の動きと関係があるとの説もある。
 我が国の総務省も昨年末に「太陽の異常活動【太陽フレア】による停電や通信障害に対して警報を出すシステムを2022年度中に導入することを目指す」と発表した。昨年から太陽が活発期に入り、令和7年に活発の最盛期を迎えると政府は予測している。太陽活動が地球に重大な影響を与えることは誰もが理解している。その太陽活動が昨年から活発化している。
 地球はこれから自然災害の時期を迎える。宇宙規模で自然界の動きが強まっている中で、環太平洋造山帯が活発化し、トンガの海底火山噴火が起きた。その延長で、富士山も噴火するのではないかという話が、まことしやかに語られ、不安が増大している。そんな心配は無用と断言はできないが、今すぐ富士山が噴火する可能性は極めて低い。

 フィリピンのルソン島にあるピナツボ火山が噴火(1991年6月)したときには、噴火前年の1990年にルソン島でM7.9の巨大地震が起きている。1991年3月には地震が続発し、それがどんどん強くなっていった。4月には火口に亀裂が走り、水蒸気爆発が起きる。火山活動はさらに活発化し、二酸化硫黄を激しく噴出。4月上旬にはピナツボ山近くの村人たちの多くが自主的に避難を開始。火山活動が強まるにつれ、避難先は火山からどんどん遠ざかる。
 そして6月に入ってまもなく、政府の命令で、火山から30km以内の住民はすべて避難することになった。大噴火は6月15日に起きている。
 今回のトンガ噴火も前兆はあった。トンガ周辺では2014年~15年にかけて噴火が続き、新しい島がつくられた。昨年(2021年)12月初めから火山性微動が頻発し、12月19日には大きな噴火が起きた。そして翌20日から21日にかけて、かなり巨大な噴火が起き、噴煙は1万8千mに達した。
 噴火の爆音は170キロ離れた島でも聞こえたという。そして今年…大噴火の起きる前日、1月14日午前4時に大きな噴火が起き、噴煙は1万7千mに達した。この時点でトンガ政府は住民に津波警報を出している。
 それから37時間後の15日午後5時に、大噴火が起きたのだ。

 前兆がない噴火もあるといわれる。たとえば御嶽山の噴火だ。
 御嶽山は平成26年(2014年)9月に噴火し、登山客など58人が死亡する大惨事となった。では、御嶽山では本当に前兆がなかったのだろうか。
 実際には、噴火の2週間前から火山性地震が頻発していた。御嶽山に地震計を設置して観測を続けていた名古屋大学は、火山性の地震が頻発していることを確認した。だが、阿蘇山などの火山では、噴火前に長周期振動が観測されるが、御嶽山にはその兆候はみられなかったとしている。
 御嶽山が噴火したのは9月27日の昼前だが、実は9月10日の52回の地震を皮切りに、毎日、地震が頻発していたのだ。噴火当日も1日に313回もの地震が起きたのだから、前兆がなかったわけではない。

 富士山は今から315年前の江戸時代に大噴火を起こした。宝永大噴火だ。
 このときには江戸の街中に火山灰が5センチ以上(場所によっては10センチ)も積もり、昼間でも灯りをともしたと記録されている。
 この宝永大噴火にも前兆はあった。噴火1カ月半前に、日本史上最大ともいわれる「宝永地震」が起きたのだ。宝永地震はM8.6~M9.0とされる超巨大地震だった。死者2万人以上、津波による流失家屋が2万戸というから、その激しさは推測できる。さらに宝永噴火の13日前からは地響きが何度も起きて近隣住民たちが不安を感じていたことが記録されている。
 そして大噴火の36時間前には、かなり強めの地震(M4~M5)が数十回も続いた。富士山の噴火にも前兆はあったのだ。
 まもなく富士山が噴火して東京が壊滅するとか、天皇陛下が京都に移られるとか、恐怖を煽るデマ情報が流されているようだが、今すぐ富士山に異変が起きる可能性はゼロに近い。富士山が噴火するとしたら、おそらく太陽の活動が最も大きくなる令和7年(2025年)あたりの話だろう(その可能性も低いが)。そんなデマ情報より怖いのが、ウクライナやカザフスタン、あるいは中東情勢だ。

ウクライナにロシア軍が侵攻する?

 1月20日に米財務省がウクライナの国会議員ら4人を制裁対象に指定した。同時に、ロシアの工作機関がウクライナの奥深くに入り込み、ウクライナの不安定化を狙っていると、ロシア政府を批判している。バイデン大統領も「もしロシア軍がウクライナに侵攻すれば、強い経済制裁を課す」と厳しい口調で警告。我が国のテレビ、新聞などを見ても、ロシア軍がウクライナに侵攻する可能性が高いように思える。だが冷静にこの地域を眺めると、ロシアがウクライナに侵攻する可能性が低いことがわかる。ウクライナ危機を煽っているのは、米国の軍産複合体を中心とした勢力だ。軍産複合体は危機を演出して武器兵器市場をにぎわせたいだけなのだ。

 ウクライナという国は、もともとはソ連の地方国家だった。ソ連が崩壊して独立し、米国やEUに接近し、それでいてロシアとも友好関係を崩さなかった。親ロシア派と親欧米派が交代で大統領になるなど、バランス感覚がいい国だった。だがウクライナ国内は、本当はバラバラなのだ。
 ロシアは2014年3月に、ウクライナの一部だったクリミア半島を併合した(西側諸国はこれを承認していない)。クリミア半島の住民の6割以上、7割近くがロシア人またはロシア系で、クリミア人は3割もいない。しかもクリミアの人々の半数は親ロシア派だから、ロシアに併合されることを望んでいたのだ。ウクライナの南東部にルガンスクとドネツクという地域がある。

 クリミア半島がロシアに併合された2014年に、ルガンスクとドネツクは共和国として独立を宣言した。だがウクライナはこの独立を認めなかった。
 そこでこの2つの共和国がウクライナからの独立を求めて内戦状態になっている。ルガンスクもドネツクも、住民の過半数がロシア系だ。
 クリミアがロシアに併合され、クリミアにロシアのカネが流れ込んだ。それまでクリミアは貧しく、年金もほとんど支払われなかった。クリミアを併合したロシアが年金を払うようになった。それを見たルガンスクやドネツクは、自分たちもロシア領になってロシアから年金をもらいたいと考えたのだ。だがロシアは経済的苦境にあり、この地域を併合して年金を支払うことになると、国家財政が危機に瀕する。プーチン大統領としては、ルガンスクやドネツクを併合しようとは考えていない。それが現実だ。
 ロシア軍がウクライナに侵攻するという情報に、世界中がふり回されている。ロシア軍がウクライナに侵攻すれば、米国とロシアが本格戦争に突入するという情報も流されている。本当は、その可能性は低い。危機を煽って、軍事予算を膨らませたい軍産複合体が工作しているだけなのだ。

カザフスタン危機の本質を見抜く

 新年早々の1月2日から11日まで、カザフスタンで暴動が起こり、死者164人、6千人が逮捕されるという事態になった。前大統領のナザルバエフ勢力と、新大統領のトカエフとの権力闘争と分析されているが、その裏側には、米CIAなどの軍産複合体勢力、さらにはロシアのプーチン大統領の勢力が暗躍しているとの情報がある。
 前大統領のナザルバエフはカネ持ちを優遇。国民の貧富の差を拡大。そのため人気がガタ落ちし、大統領を辞めることになった。だがナザルバエフの仲間たちが政権中枢に居座り、たぶん甘い汁を吸い続けていたらしい。
 新大統領のトカエフも、元はナザルバエフの配下である。だがトカエフは大ナタを振るってナザルバエフ勢力を追い出そうと画策した。この裏にはプーチン(ロシア大統領)の支援があったと推測されている(証拠はない)。

 こうした状況下に、1月2日に南西部の小都市でLNG(液化天然ガス)値上げに反対する市民のデモがあった。それが翌日、大都市のアルマイトに飛び火。アルマイトでは激しい反政府デモとなり銃撃戦が展開された。この際に、小銃を市民に配布した男たちの映像が撮影され、世界中に流出している。アルマイトのデモが暴動となった直後に、カザフスタンの携帯電話は通話不能となり、インターネットも停止した。ところが暴動の中心部では多くの男たちが、あらかじめ用意していた無線機で連絡を取りあって銃撃戦を指導していた。すべてが仕組まれたデモであり反政府暴動だった。

 トカエフ新大統領はこの暴動の責任をとらせて、諜報庁長官のマシモフを更迭した。マシモフはナザルバエフ前大統領の側近中の側近で、しかも米国バイデン大統領の息子(ハンター・バイデン)と親しい関係にあった。
 アルマイトの暴動にアルカイダやIS(イスラム国)が関わっているとの情報もあるが、信頼できる情報ではない。だがこの暴動は明らかに「プロの戦争屋」の仕事だ。米CIA系の勢力が動いたとしたら、アルカイダやISを使う可能性は高い。ナザルバエフ勢力の一掃を狙った暴動で、背後にはロシアの諜報機関が動いたとの読みも可能だ。
 カザフスタンはロシアと国境を接する国だが、同時に中国の新疆ウイグル自治区ともつながっており、中国政府は密入国者に手を焼いている。イスラム主義を掲げるテロ集団アルカイダやISが中国に流入してくることを、中国政府は危惧している。今回の暴動を一気に鎮静化させ、6千人を逮捕・拘束した裏には、中国の圧力があったとの分析もある。

 カザフスタンの現状を正確に読み取ることは、かなり困難な話だ。単なる権力闘争の裏に、米国・ロシア・中国さらにはイスラム過激派テロ集団の影がちらついている。太陽活動が活発化し、火山噴火、地震だけではなく、自然が猛威を振るいはじめた今年、世界の各所で対立が表面化しつつある。
 1月20日にはシリア北部にある捕虜収容所が襲撃され、IS戦闘員が解放された。シリアにはクルド人が管理する数カ所の収容所に、IS戦闘員1万5千人が収容されていたが、今回の襲撃で何人が解放されたかは公表されていない。いずれにしても、大量のテロリストが娑婆(しゃば)に出てしまったのだ。彼らテロリストが直ちに任務につくことは当然の話である。

 北朝鮮は今年に入って4度のミサイル発射実験を行っている(2回の極超音速ミサイル、2回の短距離弾道ミサイル)。しかも19日には金正恩は「すべての活動の再稼働を指示した」と、核実験再開の準備とも思える発言を行っている。一般的には、米国が相手をしてくれないから焦っていると分析されるが、果たしてそうだろうか。米国の気を引くためではなく、世界の軍事バランスが崩れはじめていることを察知したからこそ、北朝鮮は焦っているのではないだろうか。政治…経済…そして自然界の混乱、混迷…今年はこれからも激動が続くだろう。心静かに、冷静に全体像を見つめていきたい。■

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